セクキヌマブと乾癬
セクキヌマブ 乾癬の効果とPASI
乾癬診療では「どこまで良くなれば治療成功か」を共有することが重要で、従来はPASI75が標準指標として使われてきましたが、近年はPASI90やPASI100(いわゆるクリア)を目標とする考え方が一般化しています。日本皮膚科学会の「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)」でも、治療ゴールとしてPASI90やDLQI 0/1(寛解)を目標とすべきという流れが明記されています。
同ガイダンスの比較表では、尋常性乾癬に対するセクキヌマブの主要評価時期(12週)でのPASI75が77~83%、PASI90が54~62%、PASI100が24~29%として整理され、52週時点ではPASI75が84~89%、PASI90が65~70%、PASI100が41~42%とされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8183798/
もちろん臨床試験条件や患者背景が異なるため、数値の単純比較は禁物ですが、患者説明の「現実的な期待値」を作る材料としては有用です。
実臨床では、同じ薬剤でも「生物学的製剤未使用(bionaive)」かどうか、肥満、喫煙、合併症、治療歴(過去の二次無効)などで到達点が変わります。乾癬は皮疹だけでなく、頭頸部・掌蹠・爪などの難治部位がQOLを強く下げるため、「PASIは改善したが患者満足が低い」というズレが起きがちです(医療者側は皮疹面積、患者側は見える部位や痒み・痛み・睡眠を重視しやすい)。
【現場で使える一言】
「PASIが良くても“困っている部位”が残ると治療満足は上がりません。見える部位、爪、痒み、関節症状も一緒に目標に入れましょう。」
セクキヌマブ 乾癬の用法用量と投与設計
乾癬(尋常性乾癬・関節症性乾癬・膿疱性乾癬)に対するセクキヌマブは、成人では通常1回300mgを初回から1週ごとに計5回(0、1、2、3、4週)負荷投与し、その後4週間隔で維持投与する設計が基本です。
体重などにより1回150mg投与も可能とされ、ガイダンスでは「標準用量は300mg」である一方、体重による減量も考慮すると記載されています。
実務上、300mg投与は150mg製剤を2本使用する必要がある点は、オーダー・在庫・指導でつまずきやすいポイントです(患者側は「1回の注射で終わる」と思い込みがちです)。
自己注射が可能な薬剤に位置づけられており、導入時は教育訓練・理解確認・有害事象時の受診指示まで含めた運用が求められます。
治療反応の評価タイミングとして、ガイダンスではセクキヌマブは「16週以内に治療反応が得られない場合は継続を慎重に再考」とされており、評価の節目を事前に患者と合意しておくと、中途半端な漫然継続を防げます。
また、維持期に「患者都合で注射が遅れる→じわっと再燃→患者は“効かなくなった”と判断」という流れもよくあるため、アドヒアランスを崩しやすい職業・生活背景(出張、介護、夜勤など)を最初に確認しておくと安全です。
【投与設計チェック(箇条書き)】
- ✅ 負荷投与(0~4週)と維持(以降4週ごと)を、カレンダー化して渡す。
- ✅ 300mg=150mg×2本、注射部位ローテーション(皮疹部位は避ける)を具体的に説明。
- ✅ 16週評価(PASI、絶対PASI、DLQI、痒み、難治部位)を事前に宣言。
セクキヌマブ 乾癬の安全性と感染症
セクキヌマブは感染症リスクを増大させる可能性があり、臨床試験ではプラセボより感染症発現率が高かったことが示されています(例:鼻咽頭炎、上気道感染、皮膚粘膜カンジダ症など)。
また、感染症が疑われる症状が出た際に受診するよう患者へ指導し、重篤な感染症が発現した場合は感染が消失するまで投与しない、といった基本方針が記載されています。
IL-17阻害薬に特徴的な論点として、真菌感染症、とくにカンジダ症があります。ガイダンスでは、IL-17阻害薬使用中の乾癬患者では口腔カンジダ症など皮膚・粘膜や食道など消化管に出現する表在性カンジダ症が多いこと、定期的な問診(口腔周囲の痛み・違和感など)や必要に応じた真菌検査、口腔衛生指導が推奨されることが明記されています。
さらに、カンジダ感染が遷延する場合には、β-Dグルカン測定によるモニタリングも望ましい、という踏み込んだ記載があります。
「意外と見落とされる」実務ポイントは、患者が口腔症状を“口内炎”と自己判断し、市販薬で様子を見てしまうことです。とくに義歯使用者や口腔乾燥が強い患者では、症状が曖昧になりやすく、聞き取り方を工夫しないと拾えません。
問診例としては「食事のとき“しみる”感じはありますか?」「舌や口の中がヒリヒリしますか?」「白い苔のようなものは?」など、患者が回答しやすい言葉に落とすのが有効です。
【感染症対応の実務メモ】
- 🧪 開始前:結核評価(IGRA等)を含むスクリーニングが推奨されます。
- 👄 維持期:口腔・外陰部の自覚症状を毎回確認(“違和感”レベルで拾う)。
- 🔥 発熱・咳・呼吸困難:一旦中止し、原因検索(画像、培養、β-Dグルカン等)を組み込んだフローがガイダンスに提示されています。
セクキヌマブ 乾癬と炎症性腸疾患とワクチン(独自視点)
IL-17阻害薬では、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)の新規発症や増悪が少数ながら報告されており、セクキヌマブ投与患者で炎症性腸疾患の増悪・新規発症がみられたこと、活動性クローン病患者で悪化傾向がみられたことが添付文書相当資料に記載されています。
ガイダンスでも、IL-17阻害薬使用中は腹痛・下痢・下血などの消化器症状に注意し、必要時は消化器内科へコンサルトすることが推奨されています。
ここでの独自視点は、「皮膚科外来で消化器症状をどこまで“副作用疑い”として拾うか」を、問診設計のレベルまで落とすことです。乾癬患者はもともと炎症性腸疾患合併リスクが背景としてあり得るため、「新規に出た下痢=すべて薬剤性」と短絡もしない一方、「いつもの便通変化」として流されると診断が遅れます。
実務的には、問診を“頻度・期間・血便・体重減少・夜間症状・発熱”に分解し、少なくとも「2週間以上続く」「血便」「腹痛が強い」「夜間に起きる下痢」のいずれかがあれば、早めに連携する運用が安全です(病名の断定ではなく、リスクトリアージとして)。
さらにワクチンは、セクキヌマブ投与患者に生ワクチンを投与しないことが明記され、投与開始前に年齢相当の予防接種が最新か検討することが推奨されています。
現場では「帯状疱疹ワクチン=生ワクチン」と誤解されやすい一方、ガイダンスには成分ワクチン(不活化/組換え)という選択肢に触れた記載もあり、免疫抑制治療中は生ワクチンを避け、成分ワクチンを選ぶ考え方が示されています。
【このセクションの使えるフレーズ】
- 「下痢が続くときは“薬のせいかも”だけでなく、炎症性腸疾患の可能性もあるので早めに相談してください。」
- 「治療中は生ワクチンは避けます。接種予定があれば必ず事前に教えてください。」
権威性のある日本語の参考リンク(生物学的製剤の選択基準・用法用量・感染症/結核/HBV対策・IL-17阻害薬のカンジダ症/炎症性腸疾患注意など)。
日本皮膚科学会:乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)PDF
権威性のある参考リンク(用法用量、感染症、炎症性腸疾患、ワクチン等の重要な注意点の根拠となる資料)。