敗血症性関節炎とは原因と症状と治療

敗血症性関節炎とは

敗血症性関節炎の要点
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最優先は時間

急速に関節破壊が進み得るため、疑った時点で関節穿刺→培養提出→治療開始の導線を止めない。

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確定に近づく検査

診断の中核は関節液の採取と原因菌同定。血液培養も重要で、敗血症が疑わしければセットで進める。

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治療は抗菌薬+ドレナージ

抗菌薬だけでなく、洗浄・排膿(穿刺反復や関節鏡など)で菌量と内圧を下げ、機能予後を守る。

敗血症性関節炎とは概念と原因

敗血症性関節炎とは、血行性(血液を介した)に病原体が関節内へ到達し、急性の関節内感染として発症する病態を指す場面で用いられます。臨床の実務上は「化膿性関節炎」と重なる領域が大きく、血行性か直接侵入(外傷・術後・関節内注射など)かを整理しつつ、いずれも“緊急度の高い関節感染”として扱うのが安全です。

原因菌としては黄色ブドウ球菌が多く、次いで連鎖球菌、肺炎球菌、MRSAなどが挙げられます(地域や患者背景で変動)。「昔は淋菌が多かったが近年減少」という疫学の流れも押さえておくと、性感染症背景の問診・検体設計の優先度が調整しやすくなります。

感染の入り口は多彩です。尿路感染症、肺炎、扁桃炎などの遠隔感染巣から血行性に播種するルートもあれば、周囲組織(皮膚・筋肉・骨)の感染が関節へ波及するケースもあり、さらに穿刺・注射・手術など医療介入がトリガーとなることもあります。これらは「関節に菌が来るまでの道筋が複数ある」という意味で、単に関節だけを見ていると見落としやすいポイントです。

意外に重要なのが「関節液中の結晶があっても感染を否定できない」点です。痛風・偽痛風の臨床像は敗血症性関節炎と酷似し得ますが、結晶が見つかったからといって感染が同時に起きていない保証にはなりません。SANJOガイドラインでも、結晶の存在は敗血症性関節炎を除外しないと明記されています。

また、すでに抗菌薬が入っている患者では培養陰性になり得ます。抗菌薬先行で診断が難化したときは、関節液PCRなど“培養以外の同定手段”も選択肢に入れて設計すると、説明責任(なぜ原因菌が出ないのか)にも対応しやすくなります。

敗血症性関節炎とは症状と関節

症状の基本は、単関節の急性発症としての「疼痛・圧痛・腫脹・熱感・可動域制限」です。関節内に膿が貯留し、動かすと痛むため、患者は“動かさない姿勢”を強く選びます。症状は時間単位〜日単位で急激に進むことがあり、「昨日から急に歩けない」「急に腕が上がらない」のような訴えは典型的です。

全身症状として発熱、倦怠感、悪寒などを伴うことがありますが、発熱がないからといって否定はできません。SANJOガイドラインも、発熱の有無にかかわらず疼痛・炎症関節では本症を疑い続ける必要がある、というスタンスを取っています。

好発関節としては膝が多いとされ、日常臨床でも膝の急性腫脹は遭遇頻度が高いです。一方で股関節、肩関節、肘など大関節に起こり得るほか、仙腸関節など“そもそも診察と穿刺が難しい関節”で疑う必要がある状況もあります。こうした部位では、画像誘導下穿刺の可否が診断スピードを左右します。

リスクファクターとして、免疫力が低下した高齢者や小児に好発し得る点が示されています。さらに臨床では糖尿病、関節リウマチ、人工関節、関節手術・注射歴、アルコール多飲なども背景として重要です。つまり「関節が痛い」だけでなく「宿主の条件」を同時に評価し、疑いの閾値を下げる設計が求められます。

見落としやすいポイントとして、皮膚所見が乏しい段階でも関節内では急速に破壊が進み得る点が挙げられます。いわゆる蜂窩織炎のような外観変化が目立たず、関節可動痛だけが前景に立つことがあるため、痛みの質(他動運動で強い痛み、深部痛、関節内圧を示唆する張り)を丁寧に拾うことが重要です。

また“多関節だから感染ではない”とも言い切れません。多関節病変は頻度としては低くても、菌血症背景(例えば感染性心内膜炎や静注薬物使用など)では起こり得ます。多関節=膠原病、という短絡を避け、血培と関節液の動線を早期に確保することが安全です。

敗血症性関節炎とは検査と診断

診断の中核は関節穿刺です。関節液を採取し、原因菌同定(培養)を最優先に、白血球数(分画)や結晶の有無などを同時に評価します。SANJOガイドラインでも、関節液は細菌同定を最重要として提出し、量が限られる場合の優先順位まで示されています。

血液検査CRP、白血球など)は補助にはなりますが、正常だからといって除外はできません。SANJOガイドラインは、血液検査単独では確定も除外もできないとしつつ、CRPの推移(kinetics)が診断補助と治療反応の評価に有用であると述べています。臨床では「1回のCRP値」よりも「上がっているのか下がっているのか」「治療介入後に下がるのか」を重視する方が事故が少ない印象です。

関節液の白血球数は実務上の判断材料ですが、カットオフは万能ではありません。SANJOでは、関節液WBC>50,000/µLは示唆的としつつ、それだけで診断はできない、また<25,000/µLでも否定はできないとしています。免疫抑制患者ではこの閾値が当てはまりにくい可能性がある点も同ガイドラインで注意されています。

グラム染色は感度に限界があっても、特異度が高く、早期に“感染の証拠”を得る手段として価値があります。SANJOガイドラインでも、感度が限定的であることを踏まえた上で、経験的治療の方向付けに役立つため実施を推奨しています。

血液培養は、発熱がある場合や菌血症・敗血症が疑われる場合に特に重要です。SANJOガイドラインでは、そうした状況では少なくとも2セットの血液培養採取を推奨しており、関節液培養が陰性でも血培が起因菌同定につながる可能性を考慮します。

画像は「穿刺できる状態か」「隣接膿瘍や骨髄炎がないか」を見に行く役割が大きいです。単純X線は既存疾患の評価とフォロー比較に有用で、超音波やCT/MRIは関節液貯留や周囲膿瘍の検出、そして穿刺困難部位の誘導に有用とされています。MRIはアクセスの問題はあるものの、特定関節(例:仙腸関節)や隣接骨髄炎の評価に必要になる場合がある、とSANJOは位置付けています。

培養陰性で疑いが強い場合の“次の一手”も重要です。SANJOガイドラインでは、7日で陰性でも疑いが強ければ10〜14日まで培養延長を考慮すること、さらに抗菌薬内服中や難培養菌が疑われる場合・高疑いで培養陰性の場合に関節液PCRを推奨することが述べられています。ここは現場で「陰性=安心」と誤解されやすい落とし穴なので、検査室とすり合わせて運用する価値があります。

敗血症性関節炎とは治療と抗菌薬

治療は、抗菌薬投与に加えて、関節内の排膿・洗浄(ドレナージ)を組み合わせるのが基本です。関節内は閉鎖空間で内圧が上がり、菌量と炎症性メディエーターが局所破壊を加速し得るため、薬だけでなく“場をきれいにする”発想が重要になります。みんなの家庭の医学WEB版でも、抗菌薬(初期は点滴、その後内服)、手術による関節内洗浄、リハビリテーションが基本と記載されています。

抗菌薬開始のタイミングは、原則として「培養などの検体採取後」です。SANJOガイドラインでも、敗血症の兆候がない患者では培養陰性化を避けるため、経験的抗菌薬は関節液採取まで待つべき、という立場が示されています。一方で、敗血症や敗血症性ショックが疑われる場合は例外で、施設の敗血症プロトコルに従ってできる限り早く経験的治療を開始する、とSANJOは明確に述べています。

経験的抗菌薬の選択は、黄色ブドウ球菌を必ず意識しつつ、患者背景(MRSAリスク、グラム陰性桿菌リスク、緑膿菌リスク)とグラム染色所見、地域の耐性率で調整します。SANJOガイドラインでは、耐性菌リスクがなくグラム染色陰性の場合の一案として、抗ブドウ球菌薬(例:クロキサシリン/セファゾリン相当)+セフトリアキソンの併用、またはアモキシシリン・クラブラン酸の単剤などが提案されています(各国で薬剤事情が異なるため、概念として理解しローカルレジメンに落とすのが現実的です)。

治療期間と投与経路は、症例の重症度、菌種、手術の内容、合併症で変わります。SANJOは成人に関して、静注を1〜2週継続し、臨床症状と炎症反応が改善してきたら内服へ切り替え、内服をさらに2〜4週行う提案をしています。ここでのポイントは「内服へ早期切替が可能か」ではなく、「切替条件(症状・CRPの下降など)が満たされているか」をチームで共有することです。

外科的介入は、関節鏡視下洗浄(必要に応じ滑膜切除)を大関節で推奨し、癒着や軟骨/骨損傷がある場合は関節切開を考慮する、という方向性がSANJOで示されています。また、手術の遅れ(24〜48時間超)で再デブリードマンが増える可能性があるという指摘もあり、ロジスティクス(夜間帯の可否、整形のオンコール体制、麻酔可否)が予後に直結します。

治療中の評価(治療失敗のサイン)も最初から設計しておくべきです。SANJOでは、痛み・局所炎症・全身感染徴候の遷延、関節機能の悪化、CRPや白血球の低下不良/上昇、再穿刺関節液のWBC高値や培養陽性持続などを治療失敗のサインとして挙げています。これらを“いつ誰がどの頻度で評価するか”まで落とすと、見逃しが減ります。

感染が落ち着いた後のリハビリも軽視できません。SANJOは、感染コントロール後・ドレーン抜去後に、拘縮予防のため早期可動を開始する提案をしています。みんなの家庭の医学WEB版でもリハビリが基本治療に含まれ、可動域訓練や筋力訓練が行われると説明されています。

敗血症性関節炎とは独自視点: 培養陰性と院内導線

敗血症性関節炎の“落とし穴”は、疾患そのものよりも、診療プロセスの途中で起きることが多い印象があります。例えば、救急外来でNSAIDsだけ処方され帰宅→翌日再受診、あるいは「痛風っぽい」でステロイドが先行、といった導線のズレが関節破壊を早めることがあります。ここでは、検索上位の一般的解説ではあまり強調されない“院内導線設計”を、臨床品質の観点で整理します。

まず、採血よりも先に「穿刺が今日できるか」を判断します。SANJOが強調するように、疑えば速やかに関節液を採取することが原則で、検体採取前の抗菌薬投与は培養陰性化のリスクになります。つまり、関節穿刺を“明日整形外来で”に回す運用は、疑いが強い症例では避けたい設計です。

次に、培養陰性への備えを事前に持ちます。SANJOは、7日で陰性でも疑いが強ければ培養延長(10〜14日)を考慮すること、抗菌薬内服中や難培養菌が疑われる状況、また高疑いで培養陰性の場合に関節液PCRを推奨しています。これを現場運用に落とすには、提出時点で「抗菌薬の有無」「必要なら延長培養」「PCRをどの検査会社に依頼できるか」をチェックリスト化しておくと、後追い対応が減ります。

また、血液培養の位置付けも“院内で軽視されやすい”ポイントです。SANJOは、発熱や菌血症/敗血症疑いがある場合、少なくとも2セットの血培採取を推奨しています。関節液の採取量が少ない、すでに抗菌薬が入っている、穿刺が困難で採取できない、といった状況では血培が唯一の同定手段になる可能性があるため、関節だけに閉じない発想が重要です。

さらに、画像の使い方にも導線上の工夫があります。SANJOが述べる通り、超音波・CT・MRIは関節液貯留や周囲膿瘍の確認だけでなく、穿刺が難しい部位での誘導にも使えます。整形・放射線科・救急が「どの関節なら誰が穿刺するのか」「誘導は誰が担当するのか」を合意している施設ほど、抗菌薬開始までの時間が短くなり、結果として機能予後が守られやすいです。

最後に、患者説明の観点でも“培養陰性”への言語化は重要です。関節感染を強く疑うのに菌が出ない場合、患者は「感染じゃないのでは?」と感じやすく、治療継続やリハビリへの納得が落ちます。SANJOの延長培養やPCRの考え方を踏まえ、「抗菌薬の影響や難培養菌で陰性になり得る」「疑いが強いので追加検査と治療を継続する」という説明を、診療録と口頭の両方で残すことが、チーム医療と医療安全の両面で効きます。

原因・症状・診断・治療(抗菌薬と洗浄/排膿)を一気通貫で回すには、個々の知識よりも“疑ったら穿刺と培養を最優先に進める”という行動設計が最も効きます。特に、結晶があっても除外できない、血液検査は補助に過ぎない、培養陰性でも延長培養やPCRがある、という3点は、現場での意思決定をブレさせないためのコアになります。

診断と治療方針(関節穿刺・培養・血液培養・抗菌薬開始のタイミング、手術、培養陰性時の延長培養/PCRなど)の参考。

Guideline for management of septic arthritis in native joints (SANJO)

日本語で、原因菌・症状・検査(穿刺/MRI)・治療(点滴→内服、洗浄、リハビリ)を概説。

みんなの家庭の医学 WEB版:化膿性関節炎/敗血症性関節炎