crps 診断基準 厚生 労働省
crps 厚生 労働省 研究班 判定指標の全体像
CRPSは外傷や神経損傷後に痛みが遷延し、感覚・自律神経・運動・栄養(trophic)にまたがる多彩な症状が出現し得る症候群で、評価時点で症状が変動し、相反する所見(皮膚温が高い/低い、発汗過剰/過少など)も同一患者で起こり得ます。こうした「多彩さ」そのものが、呼称・定義・診断の混乱を招いてきた背景です。
この混乱に対して、厚生労働省CRPS研究班(2005〜2007年)は、従来広く使われてきたIASP(1994)の基準が「感度は高いが特異度が低い」という問題を踏まえ、日本人集団データを用いて“本邦版CRPS判定指標”を作成しました。作成手法として、症状・徴候チェックリストのデータに対する因子分析・判別分析を用い、臨床現場での使い勝手を意識して「臨床用」と「研究用」を分けた点が特徴です。
ポイントは、厚生労働省研究班の文書・解説では、これをあえて「診断基準」とは呼ばず「判定指標」として提示していることです。判定指標には但し書きが付されており、治療方針決定や専門施設紹介など“診療上の意思決定”に資する一方、補償・訴訟などの場面での使用や、重症度・後遺障害の有無の判定に用いるべきではない、と明確に注意されています(臨床で誤用が起こりやすい最大のポイントです)。
- なぜ「判定指標」なのか:多彩で変動する症状を、一定のルールで“同じ土俵”に載せるため。
- 何を助けるのか:診断名の整理、紹介の判断、治療計画の共有(チーム医療で特に有用)。
- 何を助けないのか:CRPSの特異的確定、後遺障害・重症度の決定。
参考:厚生労働省CRPS研究班の判定指標(臨床用・研究用)と但し書き、感度・特異度がまとまっている部分
crps 診断基準:臨床用 判定指標(自覚症状・他覚所見)
厚生労働省CRPS研究班の「臨床用CRPS判定指標」は、(A)自覚症状と(B)他覚所見の二段構えで、いずれも5項目から構成されます。臨床用では、Aは「病期のいずれかの時期に自覚症状2項目以上」、Bは「診察時に他覚所見2項目以上」を満たすことが求められます。さらに、項目ごとに「項目内のいずれかの症状を満たせばよい」という書き方になっており、現場の記録は“項目”と“具体症状”を分けて残すと監査・紹介状で伝わりやすくなります。
臨床用の5項目は以下です(AとBで同じ枠組みを使う点が実務的に重要です)。
| 項目 | 内容(厚労省研究班の枠組み) | 診察での実装のコツ |
|---|---|---|
| 萎縮性変化 | 皮膚・爪・毛のいずれかの萎縮性変化 | “左右差”を写真や計測で残す(爪の脆弱化、皮膚の光沢など)。 |
| 関節可動域制限 | ROM制限 | ゴニオで数値化できると、経過と治療反応が説明しやすい。 |
| 痛み・感覚 | 持続性ないし不釣合いな痛み、針で刺すような痛み、知覚過敏(※Bではアロディニア/痛覚過敏) | “不釣合い”は出来事(骨折・手術・捻挫等)との対比で具体化する。 |
| 発汗 | 発汗の亢進ないし低下 | 問診だけでなく、診察室での触診(湿り、左右差)を短時間でも確認。 |
| 浮腫 | 周径計測(手背・前腕・下腿など)で客観化しやすい。 |
この臨床用指標は、研究班の報告では感度82.6%、特異度78.8%とされています(研究目的の均一集団を作る設計ではない点も含め、数字の解釈は「現場での実用性」を優先したものと捉えるのが安全です)。
- 実務の注意:A(病期のいずれかの時期)とB(診察時)が混在するため、「いつ・どれが出たか」を時系列で記載すると再現性が上がります。
- 見落としやすい所見:爪・毛などの“萎縮性変化”は疼痛に比べて問診に上がりにくく、こちらから拾いにいく必要があります。
- 紹介状の書き方:Aは患者申告の引用(「◯◯と訴える」)を残し、Bは“観察された徴候”として分けて書くと、受け手が判定指標に当てはめやすくなります。
crps 診断基準:研究用 判定指標と感度・特異度の意味
同じ厚生労働省CRPS研究班の枠組みでも「研究用CRPS判定指標」は、より均一な患者群を得ることを目的に閾値を厳しくしています。具体的には、Aは自覚症状「3項目以上」、Bは他覚所見「3項目以上」を求めます。研究班の報告では、研究用は感度59%・特異度91.8%とされ、見逃し(偽陰性)をある程度許容してでも、混入(偽陽性)を減らす設計です。
臨床で重要なのは、「研究用が優れている」ではなく「用途が違う」という整理です。たとえば、研究論文の組み入れでは研究用が有利ですが、外来で“疑った段階”の紹介判断には臨床用の方が現実的です。また、研究班の但し書きには「補償や訴訟などの状況で使用するべきではない」と明記され、判定指標が“医療の意思決定”のために設計されている点が強調されています。
さらに意外に見落とされがちなのが、「本邦版判定指標はIASP(1994)基準を満たし、複数専門医がCRPSと分類することを妥当と判断した群」と「四肢痛を有する非CRPS群」を弁別するための指標、という前提です。つまり、一般集団スクリーニングではなく、ある程度“CRPSが俎上に上がる集団”での弁別に最適化されている可能性があり、ここを理解せずに数字だけを独り歩きさせると誤解が生まれます。
- 臨床用:疑い例を拾う(治療・紹介の判断に寄与)。
- 研究用:均質な群を作る(介入研究・アウトカム研究に寄与)。
- 誤用しやすい場面:後遺障害の等級、賠償、訴訟など(但し書きで明確に否定)。
crps 診断基準とブダペスト基準(Budapest)・IASPの位置づけ
CRPSの判定においては、国際疼痛学会(IASP)が1994年に提唱した基準が歴史的に広く用いられてきましたが、その曖昧さから「感度が高い一方、特異度が低い」という問題が指摘されてきました。実際に研究班の解説でも、IASP(1994)基準は感度98%・特異度36%という課題が示され、ここが“改良の動機”になっています。
その後、臨床現場ではBudapest基準が国際的に引用されることが増えていますが、日本の文脈では「厚生労働省研究班の判定指標」と「Budapest基準」が混在しやすく、現場の混乱ポイントになりがちです。医療従事者向けの実務では、以下のように整理すると説明可能性が上がります。
- 厚生労働省研究班(本邦版):日本人データで“弁別性能”を上げることを目的に統計手法で作られた判定指標。臨床用と研究用がある。
- IASP(1994):歴史的基準だが、特異度が低いことが知られ、単独運用は誤診リスクが増える。
- Budapest:国際的に通用する共通言語になりやすく、学会発表や多施設連携で便利だが、国内の運用では“厚労省判定指標”との整合を意識する必要がある。
ここでの独自視点として、診療科間連携の観点を強調します。整形外科・麻酔科(ペイン)・リハ科で同じ患者を扱うとき、診断ラベルの不一致(「CRPSっぽい」「RSD」「肩手症候群」など)は、治療方針の遅れだけでなく、患者教育の失敗(患者が“何が起きているか”を理解できず不安が増幅)にも直結します。研究班の論考は、まさにその臨床的混乱を収束させる意図があり、「病名を付けることに執心するのではなく、教育を通じて自己管理能力を高める重要性」まで言及しています。
crps 診断基準:検査(MRI・骨シンチ・QST)と鑑別の実務
CRPS診断の現場で最も誤解されやすい点は、「決め手になる検査があるはず」という期待です。しかし、厚生労働省研究班の解説では、CRPSに特異的な検査法はないと明確に述べられています。外傷性変化、炎症、不動化に随伴する変化を拾う検査はあっても、それがCRPS“だけ”を意味しない、という立場です。
研究班の整理では、骨単純X線は慢性期で感度が上がるが特異度は限定的、骨シンチは急性期で感度が高い一方で時期依存性があり、MRIは感度が高くても特異度が低い、といった「使いどころの癖」が示されています。また、QST(quantitative sensory testing)のような網羅的感覚機能評価も、異常を拾いやすい反面、CRPSに特異的とは言いにくいという扱いです。
臨床の実務としては、検査を「CRPSを確定する道具」ではなく、次の2目的に切り分けるとブレにくくなります。
- 鑑別の除外:感染、血栓、末梢神経障害、関節炎、骨折の遷延治癒など、他の原因を除外する。
- 併存病態の把握:廃用、拘縮、骨粗鬆の程度、疼痛で動かせない範囲など、治療計画(リハ・鎮痛・心理支援)の材料を得る。
さらに、研究班の記載には研究段階の検査として、fMRIによる脳機能再構築の検出、患肢の運動解析、全身温冷刺激下での温度変化の評価、微量透析による炎症機転解析などが挙げられています。ここが「あまり知られていないが意外に重要」な点で、CRPSが“末梢だけの問題”として説明しきれない可能性(中枢の可塑性や身体表象の変化が関与し得る)を示唆します。ただし、これらは診断の決め手として日常診療にそのまま持ち込める段階ではなく、「研究知見として患者説明に慎重に活かす」位置づけが現実的です。
参考:厚生労働省研究班の判定指標、検査の位置づけ、特異的検査がないこと、但し書き、感度・特異度がまとまっている(医療従事者向けに引用しやすい)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/073131/200730017A/200730017A0003.pdf

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