真菌性関節炎の診断と治療
真菌性関節炎の原因とリスク(糖尿病・ステロイド・人工関節)
真菌性関節炎は、本来は無菌である関節内に真菌が侵入して炎症を起こす感染性関節炎で、健常者に起きることはまれとされています。関節は血流が豊富な滑膜を介して微生物が定着しうる一方、真菌は細菌に比べて「疑われにくい」ため、背景因子を拾うことが最初の分岐点になります。臨床では「なぜこの患者が感染性関節炎になるのか」を言語化できるかが重要です。
発症リスクを上げる背景として、人工関節、糖尿病、肝硬変、HIV/エイズ、結核、悪性腫瘍、化学療法、そしてステロイド使用などの免疫機能低下が挙げられます。これらは「真菌暴露」自体を増やすというより、暴露が日常的にある環境下で“関節に定着して成立する”ハードルを下げる因子です。特に人工物(人工関節)や関節への医療行為が絡む場合は、局所でのバイオフィルム形成や感染制御の難しさが別次元になります。
感染経路は大きく3つに整理すると理解が進みます。
- 血行性播種:他部位(肺など)から血流に乗って関節へ到達する経路。
- 直接侵入:外傷や手術、穿刺などを契機に関節内へ入り込む経路。
- 連続波及:近接部位の感染巣(骨・軟部組織)から波及する経路。
真菌種としてはカンジダ、アスペルギルス、クリプトコックス、ヒストプラズマ、コクシディオイデス、ブラストミセスなどが原因となりえます。地理的真菌症(ヒストプラズマ、コクシディオイデス等)は渡航歴・居住歴が鍵になり、問診で抜けやすい点が落とし穴です。日本国内の臨床ではカンジダ等の日和見感染が目に入りやすい一方で、「渡航歴がある免疫抑制患者の慢性単関節炎」を見たときに鑑別へ上げられるかが差になります。
また、意外に見落とされやすいのが「関節への医療行為そのものが、非常にまれながら真菌性関節炎の契機になり得る」という点です。関節液採取や関節内ステロイド注射などの既往がある場合、実施時期・手技・その後の経過(痛みの質の変化、再燃パターン)まで確認すると、診断の糸口になります。
真菌性関節炎の症状(膝関節・単関節・潜在性)
症状は「痛み・腫脹・発赤・熱感・可動域制限」という感染性関節炎の王道を踏みますが、真菌性では細菌性より緩徐に潜在性に進行することがある点が特徴です。つまり、患者の訴えが“激烈な痛み”ではなく、「なんとなく腫れて治らない」「波がある」「抗菌薬で切れない」といった形を取り得ます。ここを「炎症性関節疾患の遷延」と誤認すると時間が失われ、関節破壊という不可逆に近いアウトカムへつながります。
好発部位として膝関節が多く、通常は単関節性に発症しやすいとされます。単関節であること自体は細菌性にも共通しますが、真菌性は“慢性化しやすい単関節炎”という顔になりやすい点が臨床的に厄介です。外来でよくあるのは「変形性膝関節症の増悪」「結晶誘発性関節炎の反復」「関節リウマチの局所活動性」として処理され、関節穿刺のタイミングが遅れるパターンです。
全身症状は必ずしも強くありませんが、血行性播種や原発巣を伴う場合には、咳・呼吸器症状(真菌性肺炎など)、発熱、全身倦怠感、敗血症様の所見を併発し得ます。免疫抑制患者では発熱が乏しいこともあり、「全身症状が軽い=感染ではない」と短絡しない視点が必要です。
臨床で役立つ“疑いスイッチ”を明確にしておくと、チームでの行動が速くなります。
- 免疫抑制(ステロイド/化学療法/生物学的製剤等)+単関節炎が遷延
- 抗菌薬で反応が悪い感染性関節炎
- 人工関節・関節手術・関節穿刺の既往がある
- 画像で骨破壊が進むのに炎症の勢いが読みにくい(慢性の感染を示唆)
- 渡航歴/動物・土壌曝露の情報がある
「慢性に進む感染性関節炎」の代表は抗酸菌や真菌であり、この視点は鑑別診断の整理に直結します。慢性経過の単関節炎は、感染を否定するのではなく、むしろ“特殊病原体の可能性が上がる”と考える方が安全です。
真菌性関節炎の検査(関節液・培養・生検・MRI)
確定診断の軸は関節液で、関節液中に真菌が存在することを顕微鏡的確認や培養で証明し、可能なら真菌種を特定します。さらに生検や外科的検体で真菌の確認と病理評価を行うことも重要とされています。医療従事者向けに強調したいのは、診断は「血液検査よりも関節液が主戦場」という点で、採取・提出・検査オーダーの質がそのまま診断率になります。
検査を組み立てる際は、次の“3レイヤー”で考えると漏れが減ります。
- レイヤー1(必須):関節穿刺→関節液の肉眼所見、細胞数/分画、Gram染色(※真菌疑いでも実施)、培養(細菌・真菌)。
- レイヤー2(追加):真菌を見に行く染色や、真菌培養の条件最適化(培養期間などは施設の運用に依存)。
- レイヤー3(最終手段に近い):関節鏡/手術での検体採取、生検、デブリドマンを兼ねた診断。
画像評価としては、X線、CT、MRIで関節および周囲組織の病変を確認し、破壊の程度を評価することが重要です。MRIは滑膜肥厚、骨髄浮腫、膿瘍形成、周囲軟部の波及など“感染の広がり”を捉えやすく、穿刺の難しい部位(股関節など)や深部病変の評価で特に有用です。感染性関節炎全般のレビューでも、超音波で関節液貯留を確認し穿刺をガイドする有用性、MRIの詳細評価の価値が整理されています。
ここで、現場で起きがちな“検査の落とし穴”を挙げます(意味のない注意喚起ではなく、実務に落ちる形で)。
- 「培養提出したつもり」が危ない:細菌培養のみで真菌培養が出ていない(依頼忘れ)と、後から挽回しにくい。
- 抗菌薬先行の影響:細菌は陰性になっても、臨床像は感染性関節炎のまま、というときに真菌・抗酸菌へ広げられるか。
- 穿刺量が少ない:検査が分散してすべて中途半端になるより、目的(培養最優先など)を決めて動く方が診断率が上がる。
- 深部関節の穿刺:画像ガイド(超音波等)で安全に、かつ確実に採取する運用が重要。
あまり知られていない(が臨床で効く)視点として、「関節液培養の出し方」を標準化するだけで診断スピードが上がることがあります。例えば感染性関節炎の文脈では、関節液を血液培養ボトルで培養する方法が感度や同定範囲、結果までの速さの面で利点がある可能性が示されています(コストや偽陽性には注意)。真菌性関節炎そのものの話題でも、“採取した検体をどう扱うか”が診断の成否に直結するため、施設内の検査室との擦り合わせは軽視できません。
真菌性関節炎の治療(抗真菌薬・関節洗浄・手術・期間)
治療の基本は、罹患関節の安静と、原因真菌に有効な抗真菌薬を長期間使用することです。代表的な薬剤としてアムホテリシンB、フルコナゾールなどが挙げられ、経過中は副作用にも注意が必要とされています。ポイントは「薬だけでは終わらないことが多い」という現実で、関節内の感染性デブリや膿、壊死組織、場合によっては人工物が、薬効を阻害する“場”を作ってしまう点です。
外科的治療としては、排膿を促す処置、持続的な関節洗浄、人工関節の除去などが選択肢になります。どのタイミングで整形外科と連携し、穿刺→洗浄→デブリドマンへ進むかは、病原体同定の前後で揺れやすい部分ですが、「関節の局所コントロールが遅れるほど機能予後が悪くなる」という大枠は変わりません。感染性関節炎の総説でも、迅速な診断と積極的治療で永続的な関節障害や全身合併症を防ぐ重要性が強調されています。
抗真菌薬治療の期間は症例・病原体・背景(免疫抑制、人工関節の有無、播種の有無)で大きく変わり、細菌性より長期化しやすいのが実務上のつらさです。感染性関節炎(ネイティブ関節)一般論としても、治療期間は個別化され、真菌感染ではより長い期間が必要になり得るとされています。したがって、治療を始める時点で「いつまで点滴か」「いつ経口へ切り替えるか」「いつまで継続するか」の見通しを患者・チームで共有し、腎機能・肝機能・電解質など副作用モニタリング計画まで先に置くと、途中で破綻しにくくなります。
人工関節関連(いわゆる真菌性PJI)ではさらに難易度が上がり、バイオフィルムが関与するため、手術戦略(一期/二期、スペーサー、局所投与など)まで含めた議論になります。近年は局所に高濃度の抗真菌薬を届ける試み(持続局所灌流など)も報告されており、難治例での“打ち手”として知っておく価値があります(標準治療としての位置づけは施設差・エビデンス差があるため、導入には感染症科・整形外科・薬剤部の合意が前提です)。
実務的な治療の流れ(チーム運用の雛形)を示します。
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- まず穿刺:培養・染色・細胞数/分画を提出し、血液培養も同時に検討(全身症状や菌血症リスクが高い場合)。
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- 早期に局所コントロール:関節洗浄やドレナージが必要かを整形外科と即日相談。
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- 抗真菌薬は同定後に最適化:ただし重症例・播種が疑わしい例では“待ちすぎない”判断も必要。
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- 長期フォロー:炎症反応だけでなく、疼痛・可動域・画像所見、薬剤副作用を並行モニタ。
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- 再燃を想定:免疫抑制の調整、原発巣の精査(肺、皮膚、カテーテルなど)を詰める。
真菌性関節炎の独自視点:関節内ステロイド注射後の「長引く痛み」をどう読むか
検索上位でよく語られるのは「糖尿病や免疫抑制がリスク」「関節液培養で診断」「抗真菌薬+手術」ですが、臨床の盲点になりやすいのが“関節内注射後の経過”です。関節内ステロイド注射は疼痛コントロールに有用な一方、非常にまれに医療行為を契機として真菌が関節に入り込み、真菌性関節炎が起こり得ることが指摘されています。頻度が低いからこそ、発生したときに見逃されやすく、しかも「注射後に一度は楽になった」などの経過が診断を遅らせることがあります。
現場で問題になるのは、「注射後の痛み=よくある副反応(フレア)」と片づけること自体ではなく、“時間軸”の評価が曖昧になることです。注射後の一過性疼痛は通常短期間で軽快しますが、真菌性関節炎のような感染が成立すると、痛みや腫脹が遷延し、可動域制限がじわじわ進む形をとり得ます。ここで「CRPがそこまで高くない」「発熱がない」「画像が決め手に欠ける」といった要素が重なると、変形性関節症や炎症性疾患として経過観察され、穿刺の再検討が後回しになります。
したがって、注射歴がある患者で次の所見が揃う場合は、たとえ頻度が低くても感染(真菌を含む)へ舵を切るのが安全です。
- 注射後に症状が遷延(週単位〜月単位)または増悪している
- 腫脹が持続し、穿刺で関節液が再貯留する
- 抗菌薬や消炎鎮痛薬で説明しにくい経過
- 免疫抑制・糖尿病・人工物などの背景がある
この視点は、誰かを責めるためではなく、患者の機能予後を守るための“早期の再評価ルール”としてチームで共有することに意味があります。穿刺のハードルを下げ、検体提出のセット(細菌+真菌培養まで含む)を定型化できると、レア疾患でも拾える確率が上がります。
また、意外な情報として覚えておきたいのは「真菌性関節炎は“遅い”がゆえに、関節が壊れてから見つかることがある」という点です。つまり、診断がついた時点で既に整形外科的介入が必要な局面に入っていることがあり、感染症科単独では完結しません。最初から整形外科・感染症科・検査部・薬剤部が同じ地図を見て動くほど、治療成績と再燃率、そして患者のADLに効いてきます。
参考リンク(病態・原因・検査・治療の全体像の確認に有用)。

論文(感染性関節炎の診断・画像・治療の考え方の補強に有用)。