炎症性腸疾患関連関節炎と診断と治療
炎症性腸疾患関連関節炎の病型と末梢関節炎Type1とType2
炎症性腸疾患関連関節炎(IBD関連関節炎、enteropathic arthritis)は、潰瘍性大腸炎・クローン病に合併する脊椎関節炎(SpA)の一型として扱われ、臨床では大きく「末梢関節炎」と「体軸性関節炎(脊椎・仙腸関節)」に分けて考えるのが実用的です。
末梢優位型(pSpA)は、さらにType1(少関節・下肢優位・急性・非対称・移動性)とType2(多関節・上肢や手指を含む・左右対称・慢性化しやすい)に分類され、Type1はIBD活動性と相関しやすい一方、Type2はIBD活動性と相関しにくい点が重要です。
Type1は関節破壊を残しにくく自然軽快しやすい一方、Type2は関節破壊や変形を伴い得て、関節リウマチ(RA)との鑑別が問題になるケースがあるため、「関節症状が前景で腸症状が乏しい」患者ほど診断の視野を広げる必要があります。
臨床の落とし穴として、患者が訴える「関節痛」は必ずしも関節炎ではなく、腸管外合併症としての炎症性病変(関節炎・付着部炎・指趾炎)と、機械性疼痛(変形性関節症など)をまず分けることが、フローチャート上も強調されています。
炎症性腸疾患関連関節炎の体軸性関節炎と炎症性腰背部痛IBP
体軸優位型(axSpA)は、仙腸関節炎や脊椎炎を中心とし、炎症性腰背部痛(Inflammatory Back Pain: IBP)が診断の入口になります。
IBPは「40歳未満発症」「潜在性(緩徐)発症」「運動で軽快」「安静で軽快しない」「夜間痛(起き上がると改善)」の5項目中4項目で疑う、という形で整理されており、問診の質が画像オーダーの適否を左右します。
単純X線で明らかな変化が出ない段階でも、MRIで仙腸関節や椎体の骨髄浮腫など活動性炎症所見を捉え得るため、「X線が正常=否定」にならない点は、IBD診療側が特に意識しておきたいポイントです。
重症化すると強直性脊椎炎に類似して可動域制限が進み、靭帯骨化(Bamboo sign)に至り得るため、体軸優位が疑わしい時点でリウマチ専門医と共同管理する必要性が明記されています。
炎症性腸疾患関連関節炎の診断と鑑別と画像検査
診断は「IBDが確定している患者に起こるSpA(IBD-related SpA)」として整理しつつ、末梢優位型・体軸優位型に分け、身体所見(腫脹・圧痛)→必要時に画像、という流れで組み立てると迷いにくくなります。
血液検査では白血球増加やCRP上昇、赤沈亢進がみられ得ますが、これらはIBDそのものでも上がり得るため、関節炎の活動性評価を血液だけに依存しない、という注意点が明確に述べられています。
鑑別で特に重要なのは、(1)感染性関節炎などの「非無菌性」、(2)薬剤有害事象(例:ステロイド関連の骨壊死、抗TNF製剤関連の皮膚病変や感染症など)を常に候補に入れることです。
またIBD患者では「無症候性に仙腸関節破壊が進行する例がある」とされ、腹部CTなどが偶然の手掛かりになることもあるため、読影レポートの“ついで所見”の拾い上げが地味に効きます。
炎症性腸疾患関連関節炎の治療とNSAIDsと抗TNF-α抗体製剤
治療目標は炎症を抑えて機能障害を防ぐことで、腸管病変と関節病変が同時に動く患者もいれば、体軸病変のようにIBD活動性と独立して経過する患者もいるため、治療戦略は病型で分けて考えます。
体軸優位では、運動療法(理学療法)+NSAIDsが基本として挙げられる一方、NSAIDsの「漫然投与」はIBD増悪リスクが示唆され、短期使用に留めるべきとされています。
末梢優位Type1は「根本である腸炎の治療が末梢関節炎にも有用」という整理がされており、腸管コントロールが関節の鎮静化につながる“わかりやすい”タイプです。
一方でType2は腸炎の治療だけでは関節炎が残ることが多く、スルファサラジンやメトトレキサートの可能性、さらに治療抵抗性では抗TNF-α抗体製剤が有効となり得る、という現実的な道筋が示されています。
抗TNF-α抗体製剤などの生物学的製剤はIBD・関節症状双方に治療の重なりがある一方、感染症や逆説的乾癬様皮疹などの有害事象も問題になり得るため、投与中の皮膚症状や発熱は「よくある副作用」扱いせず、早めに評価する姿勢が安全です。
炎症性腸疾患関連関節炎の独自視点:腸管外合併症とチーム医療の設計
検索上位の多くは「症状・検査・治療」の説明に集約されがちですが、実臨床で差がつくのは“運用設計”で、特にIBD関連SpAは消化器内科とリウマチ・整形、時に皮膚科・眼科まで巻き込む必要がある、と国の研究班の指針でも繰り返し強調されています。
実はIBD患者の腸管外徴候(EIM)は筋骨格系だけでなく、皮膚(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)や眼(虹彩炎・ぶどう膜炎)など多彩で、約40%で複数の腸管外徴候を有する、さらに約25%はIBD発症に先行し得る、という“時系列のズレ”が診療を難しくします。
この「先行し得る」という事実は、関節炎側からみると“原因不明の脊椎関節炎として経過し、後からIBDが見つかる”経路を意味するため、問診テンプレに下痢・腹痛・血便だけでなく、家族歴や皮膚・眼症状も入れておくと、見逃しが減ります。
さらにIBD治療薬そのものが皮膚病変(抗TNF関連乾癬様皮疹)や帯状疱疹(JAK阻害薬)などの合併症プロファイルを変えるため、「腸管外合併症が増えた」のか「薬剤関連性病変が出た」のかを、タイムラインで整理してチームで共有するだけで判断が早くなります。
厚労研究班の治療指針(関節痛・脊椎関節炎の診断フローチャート、IBP定義、分類と治療の注意点がまとまっている)。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202111044A-buntan20_0.pdf
日本リウマチ学会:脊椎関節炎(SpA)の基礎(体軸・末梢、関節外病変の整理に有用)。
論文(IBD関連関節症の治療戦略を俯瞰、NSAIDsや生物学的製剤の位置づけの整理に有用)。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4331233/

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