結節性多発動脈炎と診断基準と血管造影所見

結節性多発動脈炎の診断基準

結節性多発動脈炎 診断基準:臨床で最短理解
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まずは「Definite / Probable」の枠組み

主要症候を拾い、組織所見 or 血管造影所見で裏付けるのが基本。臓器虚血を疑う時点で検査計画を組み立てる。

🩻

画像と生検の役割分担

生検は「中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎」を狙う。画像は「多発小動脈瘤+狭窄・閉塞」を押さえる。

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よくある落とし穴(独自視点)

PANは毛細血管病変が原則なく、糸球体腎炎像が強いならMPAなどを再検討。鑑別の起点を「どの血管径が主座か」に置く。

結節性多発動脈炎の診断基準:主要症候の拾い方

 

結節性多発動脈炎(PAN)の診断は、まず「主要症候」を系統的に拾い上げ、臓器虚血の“組み合わせ”として理解するのがコツです。難病情報センターの診断基準(指定難病42)では、主要症候として①発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6か月以内に6kg以上)、②高血圧、③急速に進行する腎不全・腎梗塞、④脳出血・脳梗塞、⑤心筋梗塞虚血性心疾患心膜炎・心不全、⑥胸膜炎、⑦消化管出血・腸閉塞、⑧多発性単神経炎、⑨皮下結節皮膚潰瘍・壊疽・紫斑、⑩多関節痛(炎)・筋痛(炎)・筋力低下が列挙されています。

難病情報センター:結節性多発動脈炎(指定難病42)診断基準

臨床現場では、これらを「発熱+体重減少」などの全身炎症サインと、「神経・腎・消化管・皮膚」など虚血で説明できる臓器症候に分けて問診・診察を組み立てると漏れが減ります。例えば、食後に増悪する臍周囲痛(腸管アンギーナ)→進行で穿孔・出血、という流れはPANの消化管病変を疑う重要な導線になります(ただし他疾患でも起こり得るため、後述の裏付けが必須)。

慶應義塾大学病院KOMPAS:結節性多発動脈炎(症状・診断)

また、主要症候の“重みづけ”としては、救急・入院導入が必要になりやすいのは消化管出血や腸閉塞、急速に進行する腎不全、脳血管イベント、心筋虚血、重い多発単神経炎です。逆に、関節痛・筋痛は頻度が高い一方で特異度は高くないため、単独では診断に寄せすぎない姿勢が安全です。

難病情報センター:主要症候

結節性多発動脈炎の診断基準:組織所見と生検の要点

診断基準の「組織所見」は、中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在とされています。つまり、“どこを採るか”が診断の成否を左右し、皮膚・筋・末梢神経など障害部位に近い組織を狙って生検することが理にかないます。

難病情報センター:組織所見

ただし、PANは血管病変が斑状で、同じ臓器でも病変血管が当たらないことがあります。臨床的に疑いが強いのに生検が陰性だった場合、「PANではない」と即断せず、画像所見(次項)や別部位の生検可能性、鑑別疾患(特にANCA関連血管炎など)を同時に再評価するのが現実的です。

KOMPAS:診断(生検・画像の位置づけ)

意外に見落とされやすいのが「病期の混在」です。難病情報センターの参考事項には、組織学的にI期変性期、II期急性炎症期、III期肉芽期、IV期瘢痕期の4病期に分類され、臨床的にI・II病期は炎症所見を、III・IV病期は虚血症状を反映しやすいと整理されています。つまり、同じ患者でも“炎症が強い時期”と“虚血が前景に出る時期”があり、採取時期・部位によって病理像が変わり得る点が、診断の難しさそのものです。

難病情報センター:参考事項(病期)

結節性多発動脈炎の診断基準:血管造影所見と画像検査の選び方

血管造影所見は、腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞がポイントです。生検が難しい、あるいは病変部位が深部臓器で侵襲が大きい場合、画像所見が診断の支柱になり得ます。

難病情報センター:血管造影所見

KOMPASでも、診断の要として血管炎を証明するために生検を行い、生検が困難な場合には血管造影X線検査、造影CT、MRIなどの画像検査が助けになる、と整理されています。画像は「多発小動脈瘤」や「狭窄・閉塞」を探す一方、臓器虚血(腎梗塞や腸管虚血など)を“結果としての所見”から捉え直すのにも有効です。

KOMPAS:診断(画像検査)

ここで実務的な注意点として、画像で“それっぽい”所見が出たときほど鑑別が重要になります。動脈瘤様変化や狭窄は動脈硬化、塞栓、感染性動脈瘤、線維筋性異形成などでも起こり得るため、主要症候の組み合わせと、後述する除外診断(鑑別除外診断)をセットで確認して初めて「Probable」に寄せられます。

難病情報センター:鑑別診断

結節性多発動脈炎の診断基準:DefiniteとProbableの判定フロー

難病情報センターの診断カテゴリーでは、Definiteは「主要症候のうち2項目以上」かつ「組織所見」を満たす例です。Probableは(a)主要症候2項目以上かつ血管造影所見、または(b)主要症候のうち①(発熱+体重減少)を含む6項目以上、という構造になっています。

難病情報センター:診断のカテゴリー

この枠組みは、臨床医にとって「病理で押さえるPAN」と「画像で押さえるPAN」を分けて考える助けになります。たとえば、末梢神経障害が目立つ例では神経・筋生検を検討しつつ、腎血管性高血圧や腎梗塞が疑われる場合は腎動脈系の評価(造影CTや血管造影など)へ速やかに舵を切る、といった“臓器別の戦略”に落とし込めます。

KOMPAS:症状(神経・腎)と診断

補助的な検査所見として、白血球増加(10,000/µL以上)、血小板増加(400,000/µL以上)、赤沈亢進、CRP強陽性が「参考となる検査所見」として挙げられています。これらは疾患特異性は高くないものの、炎症の勢いの把握や、治療反応性のモニタリングの“共通言語”として臨床上は極めて実用的です。

難病情報センター:参考となる検査所見

結節性多発動脈炎の診断基準:鑑別診断と意外な落とし穴(独自視点)

鑑別診断として、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、川崎病膠原病(SLE、関節リウマチなど)、IgA血管炎に加えて、ADA2欠損症が明記されています。特にADA2欠損症が鑑別に入っている点は、成人内科でも“意外に見落としやすい”ポイントで、PAN様の血管炎像を呈することがあるため注意が必要です。

難病情報センター:鑑別診断(ADA2欠損症を含む)

独自視点として強調したいのは、「腎の見え方」で鑑別が一気に進むことです。KOMPASではPANは毛細血管に炎症がないため糸球体腎炎は生じず、検尿の蛋白尿・血尿は軽度で赤血球円柱はほとんどみられない、と整理されています。逆に、顕著な血尿・蛋白尿、赤血球円柱、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を疑う所見が前面に出るなら、PANよりもANCA関連血管炎やSLEなどを優先して疑うべき、という“実務の分岐点”になります。

KOMPAS:腎(糸球体腎炎は生じない)

もう一つの落とし穴は「PAN=必ずANCA陰性」という短絡です。難病情報センターには「PAN患者血清中にはANCAは検出されず、特異性の高い診断マーカーは存在しない」と明記されており、診断はあくまで臨床像+病理/画像の総合判断になります。したがって、ANCA陰性を“決め手”にするのではなく、血管径(中型血管主体か、毛細血管~細小血管主体か)と臓器病変のパターンで、診断基準に沿って積み上げる姿勢が安全です。

難病情報センター:ANCAと特異的マーカー

最後に、臨床で有用な“意外な補助線”として、国内データベース解析・疫学調査が公開情報として難病情報センター本文中に挙げられています。全国データベースに基づく臨床像の整理(Mod Rheumatol 2022)や、2020年の全国疫学調査(Mod Rheumatol 2024)の記載があるため、「日本のPANはB型肝炎関連が相対的にまれ」など、地域性・時代性を念頭に置いた解釈がしやすくなります。

難病情報センター:国内解析・疫学調査の記載

表:診断基準の最短チェック(実務用)

項目 チェック内容 臨床のポイント
主要症候 10項目から拾い上げ 全身炎症+臓器虚血の組み合わせで疑う(神経・腎・消化管は優先度高)
組織所見 中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎 病変は斑状。陰性でも再評価(部位・時期・画像)
血管造影所見 腎内小動脈などの多発小動脈瘤+狭窄・閉塞 生検困難例の柱。鑑別(動脈硬化・塞栓など)も同時に詰める
判定 Definite / Probable Definiteは「主要2+組織」。Probableは「主要2+造影」or「①含む主要6」

参考リンク(診断基準の原文・病期・鑑別の一覧)。

難病情報センター:結節性多発動脈炎(指定難病42)

参考リンク(臨床像・生検と画像の実務的整理)。

慶應義塾大学病院KOMPAS:結節性多発動脈炎(PAN)

抗リン脂質抗体症候群・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・結節性多発動脈炎・リウマトイド血管炎の治療の手引き 2020