潜伏散瞳と検査
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潜伏散瞳の定義と散瞳
潜伏散瞳という言い方は、患者が自覚しにくい・診察側も「偶然の散瞳」「暗所だから散瞳しているだけ」と見なして通り過ぎやすい散瞳を、臨床上の注意喚起としてまとめた概念として扱うと実務に役立ちます。
散瞳そのものは、虹彩の筋(瞳孔括約筋と瞳孔散大筋)と、それを支配する副交感・交感神経のバランスで生じ、薬物・外傷・神経障害など複数の経路で起こり得ます。
「潜伏」になりやすい条件は、(1)軽い霧視や羞明など非特異的で受診が遅れる、(2)片眼性で本人が気づかない、(3)点眼や貼付薬など医原性/薬剤性が混ざる、(4)症状が波打つ、の4つが典型です。
散瞳を“症状”として拾ったら、最初に「対光反射が保たれているか」を確認します。
MSDマニュアルの整理では、両側散瞳でも対光反射が保たれる場合は高アドレナリン状態(交感神経刺激など)を、対光反射障害を伴う場合は散瞳点眼薬(シクロペントラート、トロピカミド、アトロピン等)や脳ヘルニアなどを鑑別に挙げています。
この枠組みを使うと、潜伏散瞳を「危険な散瞳(中枢・動眼神経・急性緑内障発作など)」と「紛らわしい散瞳(薬剤・検査・一過性)」にまず仕分けできます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/b1ca12ddfc64a5ced70ae198ea9b27a50c9fe065
潜伏散瞳と散瞳薬
散瞳薬は、抗コリン作用(副交感神経遮断)またはアドレナリン作用(交感神経刺激)で散瞳を起こし得ると整理されています。
厚労省の安全性資料では、散瞳薬としてアトロピン、シクロペントラート、トロピカミド、フェニレフリンなどが列挙され、これらが散瞳誘発の原因薬になり得ることが示されています。
「潜伏」になりやすいのは、患者が“薬”を内服薬だけだと思い込んでいて、点眼薬・貼付薬・検査時投与を申告しないケースです。
さらに、散瞳に続く問題として重要なのが、散瞳状態で眼圧上昇が起き得る点で、狭隅角眼では相対的瞳孔ブロックやプラトー虹彩機序が関与しうると説明されています。
つまり「散瞳薬で散瞳しただけ」では終わらず、背景に狭隅角があると、散瞳は緑内障発作のトリガーになり得るため、潜伏散瞳の段階でリスク評価が必要です。
意外に盲点になりやすいのは、散瞳薬の“使用目的”が眼科以外にも存在することです。
厚労省資料の典型例として、消化管内視鏡で投与された臭化ブチルスコポラミン後に眼痛・視力低下を来し、眼圧58mmHgの急性発作として経過した症例が提示されています。
このように、眼科受診前に他科介入があると「散瞳=眼科の検査の名残」と誤解され、潜伏散瞳として見逃されるリスクが上がります。
潜伏散瞳と緑内障発作
急性原発閉塞隅角緑内障(いわゆる緑内障発作)の初発症状として、眼痛、頭痛、吐き気、嘔吐、充血、視力低下などが挙げられています。
また、角膜浮腫による「かすみ目」「霧視」や、光源の周りに輪が見える虹視、迷走神経反射による悪心・嘔吐・発汗などが起こり得るとされ、眼症状と全身症状が混在します。
この“混ざり方”が、救急外来や一般外来で潜伏散瞳が見逃されやすい理由で、頭痛・消化器症状で他科受診して眼科処置が遅れることがある、と注意喚起されています。
他覚所見としては、毛様充血、角膜混濁、中等度散瞳、対光反射の消失などが記載されています。
眼圧は正常値20mmHg超の上昇を示し、時に40~80mmHgに及ぶことがあるとされています。
潜伏散瞳の文脈では、患者が「まぶしい」「少しかすむ」程度で来院しても、背景で眼圧上昇が始まっている可能性があるため、“散瞳+痛み/頭痛/悪心”の組み合わせは強い警戒サインになります。
特に医療従事者向けの実務ポイントは、眼科医がいない場面のスクリーニングです。
厚労省資料では、救急外来などで眼科医以外が診察する際、触診による眼球の硬さ、視診で角膜周囲の結膜充血や角膜混濁を確認し、眼圧上昇を予測する、と書かれています。
「潜伏散瞳」を拾ったら、ここまでを最低限の“場当たりではない評価”としてセット化すると、見逃しが減ります。
潜伏散瞳と検査
検査としての基本は、(1)対光反射(直接・間接)、(2)左右差(瞳孔不同)、(3)眼痛や霧視など随伴症状、(4)薬剤歴(散瞳点眼薬、抗コリン薬、交感神経刺激薬など)を同時に取りにいくことです。
MSDマニュアルでは、片側散瞳の原因として、動眼神経麻痺(圧迫性:後交通動脈瘤やテント切痕ヘルニアなど)、虹彩外傷、散瞳点眼薬などを挙げています。
つまり潜伏散瞳でも、片側で対光反射が落ちているなら「局所の薬剤」だけでなく、中枢や動眼神経の緊急疾患も同列で疑う設計が必要です。
現場で使いやすい「検査の型」を、あえて短くまとめます。
- 問診:発症時刻、片眼/両眼、眼痛・頭痛・悪心の有無、散瞳薬や検査歴(眼科以外も含む)
- 視診:結膜毛様充血、角膜混濁、瞳孔の大きさ、対光反射
- 触診:眼球硬度(硬い=高眼圧を疑う)
加えて、潜伏散瞳が「薬剤性っぽい」と見えても、眼圧測定なしでは軽度の眼圧上昇が見逃されることがある、と厚労省資料は述べています(開放隅角でも散瞳で眼圧上昇が生じうるが自覚症状が軽い場合がある)。
この点は意外性があり、散瞳=閉塞隅角だけを連想して評価が止まると、潜伏散瞳の裏にある眼圧上昇を拾い損ねます。
潜伏散瞳と独自視点
検索上位で語られがちな「原因・鑑別」だけでなく、チーム医療の運用として“潜伏散瞳を引き起こす導線”を潰す視点が実務的です。
厚労省資料が示すように、散瞳を誘発し得る薬剤は散瞳薬に限らず、抗不安薬、三環系抗うつ薬、昇圧薬、麻酔薬、ベラドンナアルカロイド、睡眠薬など多岐に渡ります。
この広さが、「薬剤性=眼科点眼」という固定観念を破り、潜伏散瞳が“薬剤サイドから入り込む”現実的な理由になります。
そこで独自視点として、医療安全・手順設計で効くのは「散瞳トリガー問診の定型文」を、眼科以外のオーダー前後に埋め込むことです。
例えば内視鏡前・鎮静前・救急外来のトリアージで、(1)過去の緑内障発作、(2)狭隅角の指摘、(3)遠視・高齢・女性(発症しやすい背景として提示)を確認し、該当すれば「目の痛み・見えにくさが出たら即受診」の説明を付けます。
厚労省資料には、狭隅角眼/原発閉塞隅角緑内障眼で発症しやすく、高齢・遠視に多く女性に多い傾向、というリスク因子がまとめられています。
もう一つ、地味に効くのが“他科で散瞳を見つけたときの言語化”です。
「瞳孔が大きい」ではなく、「中等度散瞳+対光反射低下/消失」「角膜混濁」「悪心」など、厚労省資料にある発作の要素を、申し送りにそのまま乗せると緊急度が伝わります。
潜伏散瞳は、所見を“単語”ではなく“組”で扱った瞬間に、見逃しから管理対象へ変わります。
(散瞳薬・緑内障発作の初発症状、リスク因子、機序、治療の原則がまとまっている:薬剤性眼圧上昇の安全性情報)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1o07.pdf
(瞳孔異常の所見パターンから原因を整理でき、対光反射の有無で鑑別が進めやすい:一般的な瞳孔異常の表)
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/multimedia/table/%E4%B8%80%E8%88%AC%E7%9A%84%E3%81%AA%E7%9E%B3%E5%AD%94%E7%95%B0%E5%B8%B8