瞳孔動揺と原因と意義
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瞳孔動揺の原因と意義の定義
瞳孔動揺は、縮瞳と散瞳を一定の照明条件下でも自発的に繰り返す現象で、hippus(physiologic pupillary unrest と同義に扱われることもある)として記載されます。
医療者が最初に押さえるべき点は、「瞳孔動揺=即病気」ではないことです(生理的に観察され、病的意義が低いとされる場面もある)。
一方で、瞳孔は虹彩筋を介して交感神経系と副交感神経系の影響を強く受けるため、瞳孔動揺を“自律神経バランスの揺らぎ”の窓として扱える可能性があります。
つまり臨床的意義は二層で、①よくある生理現象としての瞳孔動揺、②覚醒・情動・薬剤・疾患に伴う「目立つ瞳孔動揺」を拾い上げる、という見方になります。
次に重要なのは、用語の混線を避けることです。瞳孔動揺は「対光反射がない」「近見反応が保たれる」といった反射の解離そのものではなく、一定条件下での自発的変動です。nanzando+1
よって、Argyll Robertson瞳孔やAdie瞳孔など“反射異常を主徴とする瞳孔異常”と、瞳孔動揺を同列に並べてしまうと、診察の目的が曖昧になります。
参考)ベッドサイドの神経の診かた 改訂18版 page 9/10
現場では「いま見えている揺れは、反射異常の一部か、基礎径の変動(hippus)か」を言語化してから記載すると、引き継ぎの質が上がります。tsunepi.hatenablog+1
瞳孔動揺と自律神経と副交感神経
瞳孔動揺が自律神経と結びつけて語られる根拠として、虹彩筋を支配する交感神経系と副交感神経系の“動揺”で生じる、という説明があります。
日本眼科学会誌の報告では、眼科的不定愁訴が持続する群で、平均瞳孔面積が小さく(縮瞳傾向)、瞳孔面積変動係数が大きい=瞳孔動揺が大きいことが示され、副交感神経優位の示唆として議論されています。
この報告では、振幅が大きく持続の長い波(例:1秒を超える波)が見られる点も特徴として扱われています。
臨床の読み替えとしては、「瞳孔径そのもの」だけでなく、「ゆらぎの大きさ・持続」を見ることで、自律神経バランスの偏りを推測しやすい、という発想です。
さらに、瞳孔の変動は中枢の影響も受けやすいとされます。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/98_648.pdf
同じ報告の考察では、瞳孔動揺は中脳の縮瞳中枢(Edinger–Westphal核)への核上性支配を強く受け、覚醒レベルや情動刺激で変動しやすいという趣旨が述べられています。
つまり「末梢の副交感優位」だけでなく、「中枢性の抑制低下(相対的副交感優位)」という見方が入り、症状(疲労・訴えの強さ)と所見が一致しやすい場面がある、という整理が可能です。
このあたりは、単に“眼の所見”として閉じず、神経内科・救急での全身評価にもつながるポイントです。
瞳孔動揺と診察と鑑別
ベッドサイドでの実務としては、まず環境を整えます(照明、注視、可能なら左右同条件)。
次に、瞳孔径・左右差に加えて、対光反射、近見反応、眼球運動、眼瞼下垂などの“セット所見”を確認し、瞳孔動揺単独か、他の神経眼科所見の一部かを切り分けます。
対光反射と近見反応の関係で混同しやすい代表として、Argyll Robertson瞳孔(対光反射消失+輻輳・調節反応保持、縮瞳を伴うことが多い)と、Adie症候群(強直性瞳孔)があります。
瞳孔動揺が見える場面でも、実は「反射異常の評価が主課題」になっていることがあるため、“瞳孔動揺がある”と書くだけで終えず、反射所見まで記録するほうが安全です。
鑑別のコツは、「左右差」と「時間経過」です。
瞳孔動揺は両眼性・対称性に観察されることが多いとされ、明確な左右差がある場合は、視神経障害や動眼神経麻痺、交感神経障害など別ルートの評価を優先しやすくなります。pmc.ncbi.nlm.nih+1
また、持続する強い頭痛、意識状態の変化、眼球運動障害、外傷など“赤旗”があるときは、瞳孔動揺の説明だけで帰結させず、原因検索の優先度を上げるべきです。chugaiigaku+1
病棟や救急では「患者の全体像の中での瞳孔動揺」を徹底し、単独所見に意味を乗せすぎない姿勢が結果的に見逃しを減らします。chugaiigaku+1
瞳孔動揺と薬剤と抗コリン作用
薬剤性の瞳孔変化は頻度が高く、瞳孔動揺の解釈を大きく狂わせます。
抗コリン作用薬(副交感神経遮断薬)は、ムスカリン受容体(M3)遮断により瞳孔括約筋が弛緩し、散瞳を生じることが知られています。
この「散瞳している理由」が薬剤で説明できると、瞳孔動揺の“振れ幅”や見え方も変わるため、瞳孔動揺を議論する前提条件として薬剤歴(点眼・内服・貼付・吸入を含む)を確認する価値があります。
また厚労省資料でも、抗コリン薬による散瞳が相対的瞳孔ブロックを介して隅角閉塞を引き起こし得る、という注意喚起が示されています。
現場でありがちな落とし穴は、「抗コリン=内服のみ」と思い込むことです。
実際には、感冒薬、抗アレルギー薬、過活動膀胱治療薬、抗精神病薬の一部など“抗コリン負荷”は多経路で入り得るため、患者が申告しやすい形(商品名、いつから、眠気や口渇の有無)で聞き取ると見落としが減ります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000529725.pdf
さらに、交感神経刺激薬や鎮静薬、オピオイドなども瞳孔径・反射・覚醒度に影響し得るため、瞳孔動揺を「眼だけの問題」と切り離さず、薬剤と全身状態をセットで観察するのが実践的です。pmc.ncbi.nlm.nih+1
“瞳孔動揺があるから自律神経が乱れている”ではなく、“薬剤と状態を踏まえると、いま見えている揺らぎはどの程度意味があるか”へ視点を切り替えると、記録が臨床判断に直結します。fpa+1
瞳孔動揺と覚醒と独自視点
検索上位では「瞳孔動揺=生理」「ストレスや外傷でも起こる」程度で止まりがちですが、現場で役に立つ独自視点として「覚醒度の評価と組み合わせる」観点があります。
技術レビューの解説では、瞳孔は自律神経支配を受け、眠気を自覚しているときに瞳孔サイズが低周波ゆらぎ(LLFF)を呈する、という記述があります。
ここで重要なのは、患者が「眠くない」と言っていても、瞳孔のゆらぎが“覚醒低下の前兆”として先に出る可能性がある点で、看護・運転適性・作業安全などの文脈でも応用が示唆されます。
つまり瞳孔動揺は、神経学的局在診断の決め手にならない場面でも、「疲労・眠気・中枢の覚醒変動」を拾う補助線として価値が出る、という位置づけができます。
もう一段踏み込むなら、「観察条件の標準化」が独自性と再現性を高めます。
前述の日本眼科学会誌の報告では、暗視野では散瞳で測定誤差が出やすいことや、調節状態が症例で異なることから、調節遠点注視時(一定の視標条件)で瞳孔動揺を評価する工夫が述べられています。
この発想を病棟に翻訳すると、「同じ照明」「同じ距離・注視」「同じタイミング(眠前後、鎮静導入後など)」で観察・動画化し、記録を比較可能にする、という運用が可能です。pmc.ncbi.nlm.nih+1
瞳孔動揺を“気になる所見”で終わらせず、覚醒度・薬剤・痛み・不安などの因子と一緒に時系列で並べると、チーム内での共有価値が上がり、検査の適応(追加で神経学的評価が必要か)も判断しやすくなります。pmc.ncbi.nlm.nih+1
参考:眼科的不定愁訴群での瞳孔面積変動係数・波形の特徴(副交感神経優位の示唆、測定条件の工夫)がまとまっています。
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/98_648.pdf
参考:抗コリン薬による散瞳(M3遮断→瞳孔括約筋弛緩)と、散瞳が隅角閉塞を起こし得る点(禁忌見直しの背景)が整理されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000529725.pdf

ユニバーサル瞳孔計 /0-9709-01