眼球共同運動障害と複視と核間麻痺

眼球共同運動障害

眼球共同運動障害の診療で最初に押さえる3点
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単眼か両眼か(複視の切り分け)

片眼を閉じて消えるなら両眼性複視で、共同運動の破綻(脳神経・脳幹・眼窩・神経筋接合部)を疑います。

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脳幹回路(MLF・PPRF)を意識した所見読解

水平注視で「内転障害+健眼外転時眼振+輻輳保たれる」は核間麻痺(MLF病変)の典型です。

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画像は万能ではない(偽陰性の前提で動く)

脳幹梗塞では初回MRIで見落としがあり得るため、所見が強ければ撮像条件や断面の工夫を含め再評価します。


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眼球共同運動障害の複視と問診

 

眼球共同運動障害の入口は「複視」です。両眼性複視は片眼を閉じると消失し、両眼の眼位ずれ(共同運動の破綻)を示唆します。これは脳神経III・IV・VI麻痺、脳幹病変、眼窩病変、神経筋接合部疾患など幅広い病因につながります。

問診では、急性発症か(脳卒中を強く示唆)、痛みの有無(圧迫性病変や炎症性疾患を示唆)、像のずれの方向(水平・垂直・混合)を最優先で確認します。

併存症として高血圧糖尿病などの血管リスクは、孤立性の眼球運動障害が微小血管障害として経過観察可能か、あるいは中枢疾患を強く疑うべきかの判断材料になります。

また、間欠性の複視は重症筋無力症のように増悪・軽快を繰り返す病態を示唆し、単純な「脳幹の固定病変」だけで説明しない姿勢が重要です。

医療従事者向けの実務ポイントとして、患者の主訴が「めまい」「焦点が合わない」など非典型でも、眼位や眼球運動の観察で初めて複視・共同運動障害が顕在化することがあります。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a9bc98c10f34b74c955796d8c0778f6f63938255

参考:複視の病因・レッドフラグ・診察(眼位、眼球運動、遮閉試験など)の実践的な整理

MSDマニュアル プロフェッショナル版「複視」

眼球共同運動障害の核間麻痺(MLF症候群)

眼球共同運動障害を「回路」で捉えると、核間麻痺(internuclear ophthalmoplegia: INO)は代表的です。脳幹の内側縦束(MLF)病変により、水平注視で患眼の内転制限(正中を越えにくい)と健眼の眼振がみられ、しかし輻輳は保たれる、という組み合わせが重要所見です。

この「輻輳が保たれる」は、輻輳のシグナルが水平注視中枢からの経路を要しないため、MLFが障害されても別経路で内直筋が動員され得る、という神経生理の理解に基づきます。

現場では「内転できない=動眼神経麻痺」と短絡しがちですが、瞳孔異常や眼瞼下垂が乏しく、水平注視で特徴的パターンを示す場合はMLF病変を優先して考えます。msdmanuals+1​

さらに、核間麻痺は多発性硬化症などの脱髄性疾患で重要所見になり得るため、若年者・再発寛解性・他の神経症状(感覚障害や排尿障害など)と組み合わさると鑑別の重みが変わります。

一方で高齢者では脳血管障害(脳幹梗塞)が現実的で、急性発症の核間麻痺は「まず脳卒中」として動くのが安全側です。

参考:核間性眼筋麻痺とOne-and-a-half症候群の要点(輻輳が保たれる理由を含む)

MSDマニュアル プロフェッショナル版「核間性眼筋麻痺」

眼球共同運動障害のPPRFとone-and-a-half症候群

水平の眼球共同運動障害をもう一段具体化するキーワードがPPRF(傍正中橋網様体)です。PPRF(あるいは外転神経核)とMLFが同側で同時に障害されると、one-and-a-half症候群(1眼が水平に全く動かず、反対眼は外転のみ可能)が出現します。

この症候群は「眼球運動のパターンだけで病変局在にかなり迫れる」一方、一般外来では見逃されやすく、めまい・嘔気などで受診し眼位異常が後から目立つ経過もあり得ます。

医療現場の実務として、眼球運動の所見を“文章”で残すと曖昧になりやすいので、右方視・左方視・上方視・下方視・輻輳を系統立てて記載し、どの方向が「できない」かを固定化して共有するのが有用です。

また、one-and-a-half症候群の原因として脳幹梗塞が多い一方、多発性硬化症、橋出血、腫瘍なども報告されており、「脳幹」という部位同定後に原因の時間軸(急性・亜急性・慢性)を合わせる思考が必要です。

“意外に使える”臨床の小技として、核間麻痺やone-and-a-halfが疑わしいのにMRIが陰性でも、所見が強ければ「診察所見を優先し、再撮像・追加断面を相談する」という運用が患者安全に直結します。

参考:one-and-a-half症候群の典型例、MRIの偽陰性への注意、撮像断面(coronal追加)という現場的対策

「複視、眼球運動障害をどう診るか」(市立福知山市民病院 総合内科資料)

眼球共同運動障害の脳幹梗塞とMRI

眼球共同運動障害を脳幹病変として疑う場合、画像診断は重要ですが「初回MRIで異常なし=否定」とはなりません。臨床例として、眼球運動所見からone-and-a-half症候群を疑い、当初「所見なし」と読まれたMRIでも、断面(coronal)を含めた見直しで脳幹梗塞が確認された報告があります。

この点は、救急や当直帯の判断に直結します。急性発症の複視・眼球運動障害では、所見と病歴を優先し、必要なら再評価・再撮像を前提に動くことが実務的です。

MSDマニュアルでも、橋や中脳の脳血管疾患は両眼複視の原因となり得て、MRIが診断アプローチとして挙げられています。

さらに、レッドフラグ(複数脳神経障害、瞳孔異常、複視以外の神経症状、疼痛、眼球突出など)がある場合は、より緊急性の高い画像評価が必要になります。

一方、孤立性で瞳孔異常のない単一脳神経麻痺で他の症候がなく、経過観察が選択される状況もあるため、「脳幹病変の疑い」なのか「末梢の単独麻痺」なのかを診察で分ける力が求められます。

眼球共同運動障害の独自視点:ベッドサイド所見の再現性

眼球共同運動障害は、検査機器よりも「所見の取り方」で診断精度が大きく変わる領域です。MSDマニュアルでも、追視で最大注視方向まで動かす基本手順、最後に鼻へ寄せる輻輳の確認、眼振や非共同性の観察など、診察の型が具体的に示されています。

現場で見落としを減らすコツは、所見を“現象”ではなく“条件付き”で記録することです。例えば「右眼内転障害」だけでなく、「水平注視で内転制限、輻輳で内転可能、対側外転眼に眼振」まで書くと、MLF病変の再現性が上がり、引き継ぎの質も上がります。msdmanuals+1​

また、軽度の不全麻痺は通常の追視だけでは検出できないことがあるため、症状の訴えが強いのに所見が曖昧なときは、遮閉試験や条件を変えた観察で“ずれ”を顕在化させる発想が有効です。

医師・看護師・救急スタッフのチームで動く場合、患者が「疲れると悪化する」「夕方に強い」と訴えるときは、神経筋接合部疾患(重症筋無力症など)も並走して疑うべきで、単回診察の“瞬間所見”に依存しすぎない姿勢が重要です。

最後に、眼球共同運動障害は患者の転倒や運転リスクにも直結します。診断名が確定する前でも、複視の出現状況(常時か、注視方向で誘発か)を踏まえた生活指導や安全配慮を同時に進めると、医療安全の質が上がります。

  • ✅ まず「片眼を閉じて消えるか」で両眼性複視を確認する。
  • ✅ 水平注視と輻輳の組み合わせで、MLF(核間麻痺)を見抜く。
  • ✅ one-and-a-half症候群のパターンを知り、脳幹梗塞を最優先で疑う。
  • ✅ MRIが陰性でも、所見が強ければ再評価・追加断面を検討する。
所見パターン 示唆 押さえる一言
水平注視で内転障害+健眼外転時眼振+輻輳保たれる 核間麻痺(MLF病変) 「動眼神経麻痺」に見えても回路はMLFかもしれない。
1眼が水平に全く動かない+対側眼は外転のみ可能 one-and-a-half症候群(PPRF+MLF) 脳幹梗塞を一想起し、画像陰性でも所見を重視する。
両眼性複視+痛み/眼球突出 炎症・眼窩病変など CT/MRIで眼窩〜頭蓋内を評価し、緊急性を判断する。


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