網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫
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網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫の病態とVEGF
網膜静脈閉塞症は、網膜静脈の閉塞により血流が滞り、血液や水分が血管外へ漏れやすくなって網膜浮腫を来し、見えにくさの原因になる疾患です。
黄斑(視力に直結する中心部)に出血や浮腫が及ぶと、視力低下だけでなく変視(歪んで見える)など、生活機能に直結する症状が出やすくなります。
静脈閉塞後にはVEGF(血管内皮増殖因子)が産生され、血管透過性を高めて黄斑浮腫の一因になるため、VEGFの作用を抑える治療が理にかないます。
臨床では「中心静脈閉塞(CRVO)か、分枝閉塞(BRVO)か」と「虚血型か非虚血型か」を早めに意識すると、説明の軸がぶれにくくなります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/aee117fa00f38e716d1692ccd706a9cc40c33458
CRVOは網膜全体に出血・浮腫が及び得て、虚血型では高度視力障害や血管新生緑内障など重篤な転帰リスクが高い点が重要です。
BRVOは閉塞部位より末梢側に扇状の出血が出るのが典型で、虚血が長引けば硝子体出血や網膜剥離などの合併症も起こり得ます。
鑑別で意外に落とし穴になるのが「黄斑浮腫が落ち着いても視力が戻らない」ケースで、浮腫の慢性化が視細胞障害につながり不可逆的な視力障害に至ることがある、と説明されます。
そのため“浮腫がある=すぐ注射”という単純化ではなく、発症からの期間、OCTの形態、虚血所見、患者背景(脳梗塞既往など)を合わせて治療の強度を設計する必要があります。semanticscholar+1
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫のOCTと蛍光眼底造影(FA)
画像評価の中心はOCTで、CRVOでは網膜の膨化や嚢胞様黄斑浮腫を伴い、漿液性網膜剥離を合併することもあるとされています。
BRVOでは黄斑中心を境に上下いずれかに浮腫が偏ることがあり、垂直方向に撮影して正常側と比較する、という実践的なコツが述べられています。
OCTで黄斑浮腫の存在を押さえることは、治療適応だけでなく、経過観察での“再燃の早期検出”にも直結します。
FAは、無灌流領域の特定と浮腫の広がり把握のために有用で、診断に必須な検査として位置づけられています。
ただし発症早期は厚い網膜出血で造影がうまく映らないことが多く、出血がある程度吸収するまで待つ必要がある、というタイミングの注意点があります。
造影後期に血管から蛍光色素が漏れて写る所見や、嚢胞様黄斑浮腫で嚢胞内に蛍光色素が溜まる所見は、患者説明でも理解されやすい“視覚的根拠”になります。
CRVOで無灌流領域が広い場合は虚血型と定義し、血管新生緑内障に至るリスクが高いとされるため、黄斑浮腫だけを追っていると危険です。
BRVOでも虚血領域周囲に網膜新生血管がみられることがあり、硝子体出血などの原因になり得るため、慢性期ほどFAの意味が増します。
この“黄斑(視力)”と“無灌流(失明リスク)”の二階建てで考えると、治療継続の必要性をチームで共有しやすくなります。
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫の抗VEGF治療と硝子体内注射
日本網膜硝子体学会の「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」では、網膜中心静脈閉塞症・網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対し、ラニビズマブとアフリベルセプトが国内承認薬として記載されています。
同ガイドラインは、硝子体内注射が侵襲的手技で合併症リスクがあるため、十分なインフォームドコンセントと、薬剤特性を理解した計画的投与レジメン検討が必要だと述べています。
また、無菌操作の遵守、十分な経験のある眼科医が投与すること、添付文書の参照など、実施側の基本要件が明確に示されています。
患者向けの解説資料でも、網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫は抗VEGF薬の硝子体内注射が早期改善に寄与し得る一方、永続的効果がないため再発が多く、状況により数年にわたり追加投与が必要になることがある、と整理されています。
ここは現場で最も誤解が生じやすいポイントで、「良くなったから終了」ではなく「良くなったから間隔を調整して維持へ」という説明設計が重要です。
言い換えると、治療は“視力回復”だけでなく“再燃を早く拾うフォロー体制”までセットで品質が決まります。semanticscholar+1
安全面では、ガイドラインはVEGF阻害薬が一部全身血流に移行し、動脈血栓塞栓に関連する事象(心筋梗塞、虚血性脳卒中など)が発現する可能性に触れ、脳卒中既往などの危険因子がある患者では慎重投与と添付文書に記載がある、としています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a43fb4c7a68846ec6a3e79243901c6f8d49a3bd9
同ガイドラインは術後指導として、眼痛・充血悪化・羞明・飛蚊や見え方変化など、眼内炎や感染徴候があれば直ちに連絡するよう患者教育を行うことを推奨しています。
「注射後1週間程度は症状に注意」と具体的な時間軸で伝えると、受診遅れを減らしやすい運用になります。
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫のステロイド注射とレーザー光凝固
副腎皮質ステロイド薬(トリアムシノロン)の注射は、抗VEGF薬に比べ頻用されにくいものの、薬価が安いことや、抗VEGF薬に反応しない黄斑浮腫の代替治療として行われる、と説明されています。
一方で緑内障・白内障になりやすくなる副作用があるため、患者背景(既存の緑内障・高眼圧や白内障など)を踏まえて選択する必要があります。
ガイドラインでも、トリアムシノロンは眼圧上昇が高率になり得ること、ステロイド緑内障を発症することがある点に言及し、緑内障・高眼圧患者には慎重投与としています。
レーザー光凝固は、抗VEGF登場以前は黄斑浮腫治療の標準でしたが、照射部位の視細胞障害により暗点が生じ得ることが欠点として挙げられ、単独での出番は減った一方、薬物治療と併用して行うことがあるとされています。
慢性期は「黄斑浮腫が落ち着いても終わりではない」点が重要で、FAで無灌流領域が広いと確認できた場合、レーザーで虚血網膜を凝固して酸素需要を減らし、VEGF放出を抑える考え方が説明されています。
つまりレーザーは“浮腫を引かせる手段”というより、“虚血に伴う新生血管合併症を防ぐ手段”としての役割が再評価されます。
硝子体手術は、薬物治療に反応しない場合や浮腫を繰り返すケースで適応になり得る治療として挙げられています。
また、硝子体出血や裂孔原性網膜剥離が起きた場合には硝子体手術で対応する、と合併症対応の位置づけも示されています。
外来の黄斑浮腫診療でも、将来の手術介入を想定して“いつ紹介するか”の目線合わせを先に作っておくと、急変時に強い運用になります。
網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫の再発と生活指導(独自視点)
網膜静脈閉塞症は高血圧や高脂血症、糖尿病など動脈硬化リスクと関連し、全身管理が重要だとされています。
発症早期の治療としても、高血圧が指摘された場合は内科医による血圧管理が必要で、糖尿病などの合併症を調べ必要に応じて治療する、という“眼科だけで完結しない設計”が書かれています。
さらに、原因が全身疾患であることが多く反対眼にも起こる可能性があるため、血圧管理など早期発見・早期治療を心掛けるよう促されています。
ここから一歩踏み込んだ臨床の工夫として、再発しやすい疾患である点を踏まえ「患者の自己観察を“症状”だけに依存させない」ことが役に立ちます。
なぜなら、症状は強い浮腫で顕在化しますが、再燃初期は自覚が曖昧なことがあり、結局はOCTでの早期検出が治療負荷(注射回数)や視機能の天井を左右し得るからです。
そこで、説明用に次の“再受診トリガー”を短文化して渡すと、夜間・休日の判断が改善しやすくなります。
✅ 再受診トリガー(例)
・急な視力低下、中心が暗い、歪みの急増(変視の悪化)
・眼痛、充血の悪化、羞明、飛蚊の急増、見え方の急変(眼内炎/感染の疑い)
・片眼の原因不明の硝子体出血を指摘された(BRVOの可能性も考慮)
また、治療継続の離脱を防ぐには、抗VEGF注射を「治す注射」ではなく「波を小さくする注射」として説明するほうが、再発前提の疾患理解と整合します。
患者説明の最後に“次回OCTで何を見るか(浮腫の再燃、無灌流疑いの変化、合併症兆候)”を一言添えると、通院目的が明確になりやすいです。
医療者側にとっても、視力・OCT・FA(必要時)・全身リスクの4点セットで記録が揃い、監査や引き継ぎが強くなります。
【参考リンク:硝子体内注射の適応疾患、薬剤、手技、合併症など(ガイドライン全体)】
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/macular_disease.pdf
【参考リンク:網膜静脈閉塞症の病態、OCT/FA所見、抗VEGFやステロイド、レーザー治療、慢性期合併症(総説)】
https://j-eyebank.or.jp/doc/class/class_22-2_04.pdf

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