限局性虹彩萎縮とヘルペス性虹彩毛様体炎と緑内障

限局性虹彩萎縮と鑑別と検査

限局性虹彩萎縮の臨床整理
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最初に見るべき所見

細隙灯で虹彩の萎縮パターン(小円形/扇形/びまん)と瞳孔異常を確認し、原因疾患の見当を付けます。

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ヘルペスを疑う条件

片眼性の急性前部ぶどう膜炎、高眼圧、角膜後面沈着物、虹彩萎縮や麻痺性散瞳が揃うとウイルス性を優先します。

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確定に近づく検査

前房水PCRや特異抗体測定で病因ウイルス同定を狙い、緑内障合併リスクも含めてフォロー計画を立てます。


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限局性虹彩萎縮の所見と麻痺性散瞳

限局性虹彩萎縮は「虹彩の一部が薄くなり、紋理が途切れる/色素が抜ける」ことで気づかれる所見で、前眼部炎症が収束した後にも残ることがあります。

医療従事者が実務で押さえるべきは、萎縮の“形”と“付随所見”です。とくに、瞳孔が開大して戻りにくい麻痺性散瞳が同時にみられる場合は、単なる陳旧性所見ではなく、ウイルス性虹彩毛様体炎の文脈で理解するほうが診断の筋が通ります。

観察のポイントを箇条書きで整理します。

・虹彩萎縮の分布:小円形(点状)か、分節状(扇形)か、びまん性か。

・瞳孔所見:不整形瞳孔、麻痺性散瞳、対光反射の左右差。

・角膜後面沈着物:豚脂様か、色素を伴うか、分布はびまん性か。

・眼圧:急性期の高眼圧の既往や現在の変動。

・癒着:虹彩後癒着が乏しいタイプか、強い炎症で癒着を作りやすいタイプか。

ここで重要な“落とし穴”があります。虹彩萎縮は、患者が自覚しないまま進むこともあり、本人の主訴は「霧視」「充血」よりも、実は“急な眼圧上昇に伴う見えにくさ”であることもあります。ぶどう膜炎診療では眼圧と視神経の評価を外さない、という基本動作が、限局性虹彩萎縮の背景疾患の見逃しを減らします。

限局性虹彩萎縮とヘルペス性虹彩毛様体炎

限局性虹彩萎縮を見たとき、まず現場で優先度が上がるのはヘルペス性虹彩毛様体炎(HSV/VZV/CMVを含む“ヘルペスウイルス関連”前部ぶどう膜炎)です。日本眼科学会系のガイドラインでも、ヘルペス性前部ぶどう膜炎では豚脂様角膜後面沈着物、高眼圧、角膜浮腫、虹彩萎縮などが、基本的に片眼性に急性に認められることが多いと整理されています。

さらに、鑑別に効く“時間軸”として、VZVでは晩期に虹彩萎縮が多く、斑状または分節状(分節状=扇形のイメージ)の萎縮巣に伴って麻痺性散瞳がみられることがある、と記載されています。

つまり「限局性虹彩萎縮+散瞳」は、“炎症が落ち着いた後に残る神経・虹彩実質の後遺所見”として、VZV寄りに傾く情報になり得ます。

また、ベーチェット病眼病変の鑑別診断の章でも、HSVやVZVによるヘルペス性虹彩毛様体炎について、鎮静期に“小円形または限局性の扇形の虹彩萎縮を残すことがある”と明記され、臨床像として定着していることが分かります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8807726/

この「小円形/扇形」というパターンは、単なる形態学ではなく、原因推定(HSV寄り/VZV寄り)の会話をチームで共有する“共通言語”として便利です。

実務での初期対応の考え方(一般論)は次の通りです。

・片眼性の急性前部ぶどう膜炎+高眼圧+角膜後面沈着物:まずヘルペスを念頭に置く。

・ステロイド点眼単独で反応が乏しい/再燃を繰り返す:ウイルス性をさらに疑い、原因同定へ進む。

・虹彩萎縮や麻痺性散瞳が経過中に出現:ヘルペス性の特徴所見として重みが増す。

限局性虹彩萎縮とPCRと前房水

原因の同定は、治療の納得感と再燃対策に直結します。ガイドラインでは、ヘルペスウイルス関連前部ぶどう膜炎の診断目的に通常前房水が用いられ、PCRによるDNA検出や特異抗体測定が有用とされています。

また鑑別診断の文脈でも、ヘルペス性虹彩毛様体炎の確定診断に前房水(または硝子体液)のウイルス学的検査が用いられることが述べられています。

検査設計は「何を知りたいか」を先に固定すると整理しやすくなります。

・知りたいことA:HSV/VZV/CMVのどれか(あるいは別疾患か)。

・知りたいことB:現在もウイルス活動性があるのか(治療強度・期間の判断材料)。

・知りたいことC:眼圧上昇が炎症由来か、ステロイド反応か、房水流出路障害が進んでいるか。

そのうえで、前房水PCRはAの解像度を上げる強いカードで、特にCMVではPosner-Schlossman症候群と所見が似て区別困難な場合にPCRでの同定が必要になる、という記載があり、臨床的な位置づけが明確です。

一方で、PCRは万能ではありません。採取タイミング、前治療(抗ウイルス薬の使用)、炎症の活動性で検出感度が変動し得ます。したがって「陰性=否定」と短絡せず、所見(角膜後面沈着物の性状、虹彩萎縮、麻痺性散瞳、高眼圧)と合わせて総合判断し、必要なら再検や別手段(特異抗体など)も検討する、という運用が安全です。

参考:前房水PCRなど、ぶどう膜炎の診断と治療の標準的な考え方(ヘルペス性前部ぶどう膜炎の特徴所見、診断、治療の概要)がまとまっています。

日本眼炎症学会 ぶどう膜炎診療ガイドライン(PDF)

限局性虹彩萎縮と続発緑内障

限局性虹彩萎縮は“原因疾患の名札”になるだけでなく、合併症リスクのサインにもなります。ヘルペス性虹彩毛様体炎では、特徴的な眼合併症として続発緑内障、虹彩萎縮、麻痺性散瞳が挙げられており、緑内障は経過管理の中心課題になり得ます。

続発緑内障の管理では、眼圧値だけでなく視神経障害の評価と進行速度を見ながら治療強度を決める必要があり、ぶどう膜炎診療の総論でも、視神経障害の程度や進行具合を評価しながら時期を逃さず最も望ましい眼圧下降法を模索する、とされています。

つまり、限局性虹彩萎縮を見つけた時点で、すでに“前眼部炎症+房水流出路への影響”という複合問題が走っている前提で、フォロー設計を組むのが現実的です。

実務でのチェック項目を、チーム共有しやすい形で置いておきます。

・眼圧:来院時だけでなく、治療導入後の変動とピーク。

・隅角:色素脱失、周辺虹彩前癒着の有無(閉塞要素の評価)。

・視神経・視野:視神経乳頭所見と視野をベースライン化し、再燃時に比較できるようにする。

・薬剤:ステロイド点眼の必要性と副作用(ステロイド緑内障)を分けて考える。

限局性虹彩萎縮と独自視点の診療録

限局性虹彩萎縮は、紹介状や診療録で“書き方”が診療品質に直結しやすい所見です。なぜなら、患者が再燃したときに別の医療者が見るのは「現在の写真」ではなく「過去の言語化」だからです。ぶどう膜炎領域では所見記載の標準化(用語・報告基準)が重要であるという問題意識がガイドライン内でも強調されており、臨床情報の共有が診断・治療の再現性を上げる方向に働きます。

そこで、検索上位の一般的な説明だけでは出てきにくい“現場で役に立つ独自視点”として、限局性虹彩萎縮を「形態+機能+推定病因」の3点セットで毎回残す方法を提案します。

・形態(Morphology):小円形/扇形/分節状/びまん、時計方向、虹彩紋理の左右差。

・機能(Function):対光反射、麻痺性散瞳の有無、羞明の訴え、視力変動。

・推定病因(Etiology):ヘルペス疑いの根拠(KPsの性状、高眼圧、片眼性、角膜所見)、検査計画(前房水PCRなど)。

この書き方の利点は、再診時に「萎縮が増えたのか/同じなのか」「散瞳が固定化しているのか/可逆性があるのか」を追える点にあります。さらに、眼圧管理の文脈(続発緑内障のリスク説明とフォロー頻度)も、患者説明と医療安全の両面で筋が通りやすくなります。

参考:ヘルペス性虹彩毛様体炎の鑑別(限局性・扇形の虹彩萎縮など)を含め、ぶどう膜炎の鑑別診断の流れがまとまっています。

ベーチェット病眼病変の診断・鑑別診断(PDF)