虹彩後癒着 手術
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虹彩後癒着 手術の適応と病態(ぶどう膜炎・外傷・術後)
虹彩後癒着は、瞳孔縁の虹彩が後方(多くは水晶体前面)へ癒着する状態で、背景に虹彩炎や外傷などの炎症が存在することが多いです。白内障術後では、水晶体が眼内レンズや水晶体嚢、前硝子体膜などに置き換わっているため、癒着相手もそれらに変化します。これにより「散瞳しにくい」「瞳孔変形」「眼底観察や治療が困難」といった実務上の問題が前景に出ます。
虹彩後癒着が全周性(360°)に近づくと、房水が後房から前房へ通過しにくくなり、房水が行き場を失って虹彩が前方へ膨隆する“虹彩ボンベ(iris bombé)”を呈し、眼圧上昇(続発閉塞隅角緑内障)に直結します。ガイドラインでも、ぶどう膜炎に伴う続発緑内障の原因として「虹彩後癒着による瞳孔ブロック」や「周辺虹彩前癒着による隅角閉塞」が挙げられています。つまり虹彩後癒着は「見えにくい」「やりにくい」だけでなく、病態が進むと視神経障害へ波及し得るため、手術適応の判断は“視機能”と“眼圧・隅角”の両輪で行う必要があります。
また臨床で見落としやすいのは、「痛みが強くないまま」眼圧が上がっていくパターンです。虹彩後癒着による閉塞隅角は徐々に進行することが多く、急性発作のような激痛がないため発見が遅れ得る、と解説されています。医療従事者側は、視力や自覚症状だけでなく、散瞳不良・瞳孔変形・前房深度変化・隅角所見(PAS)を“セットで”追う設計が重要です。
虹彩後癒着 手術の基本手技(癒着剥離・粘弾性・フック)
虹彩後癒着に対する手術の中心概念は「癒着を安全に解除し、必要な術野を確保する」ことです。特に白内障手術においては、連続円形切嚢(CCC)や核の乳化吸引を安全に行うために、十分な瞳孔径と安定した前房が必要です。日本眼科学会のぶどう膜炎診療ガイドラインでも、併発白内障手術での留意点として「虹彩後癒着はサイドポートからフック等を用いて丁寧に剝離」「瞳孔拡張には粘度順応性の粘弾性物質、虹彩リトラクター、あるいは括約筋の放射状切開」を挙げています。
実際のオペでは、以下の“順序立て”が安全性を上げます(症例により調整)。
- 👁️前房維持:粘弾性物質で前房を深く保ち、虹彩と水晶体前嚢の境界を作る。
- 🧩癒着剥離(synechiolysis):フックやスパチュラで癒着を少しずつ外す。力任せに引くと出血や虹彩欠損のリスクが上がる。
- 🪝瞳孔拡張補助:粘弾性で拡張が足りなければ虹彩リトラクター等で“操作できる瞳孔”を作る。
- 🧼皮質除去の確認:小瞳孔例では虹彩裏の残留皮質が炎症の燃料になりやすいので、フックで確認しバイマニュアルIA等で確実に除去する(ガイドラインで言及)。
ここで意外に重要なのが「癒着剥離=終わり」ではない点です。ぶどう膜炎背景では術後に炎症が再燃しやすく、再癒着の温床になり得ます。したがって術中の丁寧さに加え、術前からの炎症コントロール、術後の散瞳管理、眼圧管理を一連の“手術パッケージ”として捉える方が、結果的に合併症と再手術を減らせます。
虹彩後癒着 手術と緑内障(瞳孔ブロック・虹彩ボンベ)
虹彩後癒着が引き金になる最も危険なシナリオが、瞳孔ブロックを介した虹彩ボンベと眼圧上昇です。ガイドラインでは、虹彩後癒着により虹彩ボンベと眼圧上昇を来した場合、炎症が鎮静化していればレーザー虹彩切開術が有効とされています。一方で活動性炎症がある場合、レーザー後に線維素析出を伴う炎症増悪や穿孔部の再閉塞で眼圧下降が得られず、観血的な周辺虹彩切除術が適応になることがある、と明記されています。
この“レーザーか観血か”の分岐は、現場ではしばしば「手技の好み」ではなく「炎症と再閉塞リスク」の評価です。活動性が強いほど、開けた穴(PI)が塞がりやすく、結果として治療が長引きます。したがって、虹彩後癒着を見たら以下を同時に確認する設計が合理的です。
- 🔥炎症の活動性:前房細胞・フレア、線維素、虹彩結節など。
- 📈眼圧と前房形態:急性上昇か、浅前房か、虹彩の前方膨隆があるか。
- 🧭隅角所見:周辺虹彩前癒着(PAS)がどの程度進んでいるか。
また、PASがすでに成立している場合は「瞳孔ブロックを解除しただけ」では隅角が元に戻らないことがあり得ます。これは続発閉塞隅角緑内障の難しさで、癒着が固定化すると“排水路の構造”そのものが失われるためです。よって、虹彩後癒着は早期の段階で拾い、瞳孔ブロック化する前に炎症を抑え、癒着の進展を止めることが、長期の視機能に直結します。
虹彩後癒着 手術の術後合併症(再癒着・眼圧・炎症)
術後の主要課題は、再癒着と炎症、そして眼圧です。ぶどう膜炎診療ガイドラインでも、併発白内障手術の術後合併症として「眼圧上昇」「虹彩後癒着」「後発白内障」「囊胞様黄斑浮腫」などが列挙されています。つまり、虹彩後癒着を剥離しても、術後に同じ問題が“別の形”で戻ってくる可能性があるため、術後戦略が重要になります。
再癒着対策として現実的に効くのは、(1)炎症の沈静化を確認してから侵襲的手技に入る、(2)術後早期の散瞳・抗炎症管理で虹彩の動きを確保する、(3)残留皮質や瞳孔膜など炎症を持続させる因子を減らす、の3点です(具体的手技の方向性はガイドラインの留意点が示唆)。ただし、ステロイドは炎症制御に有用である一方、ステロイド反応で眼圧が上がるケースがあるため、眼圧フォローは必須です(続発緑内障の鑑別の文脈として解説あり)。
術後の観察項目は、医師だけでなくコメディカルにも共有しやすいように“ルーチン化”すると事故が減ります。
- 📅眼圧:術後早期(特に1週まで)+炎症が残る間は頻回。
- 🔦前房炎症:細胞・フレア、線維素、角膜後面沈着物。
- 🧿瞳孔:形、散瞳の効き、偏位、再癒着のサイン。
- 👁️眼底評価:黄斑浮腫や視神経変化(可能ならOCT/視野を計画)。
また“意外に差が出る”のが、患者指導の質です。炎症性疾患では点眼中断や自己判断が再燃を招きやすいので、点眼の意義(再癒着予防も含む)を短い言葉で繰り返し伝えるだけでも、再手術率が下がる可能性があります。これは論文的な派手さはない一方、現場のアウトカムに直結する独自視点として重要です。
虹彩後癒着 手術の独自視点(チーム医療・術前設計・説明)
検索上位の解説は「病態→手術名→合併症」を中心にまとまりがちですが、医療従事者向けには“オペが決まる前”の設計が価値になります。虹彩後癒着は、ぶどう膜炎や外傷、術後炎症など背景が多様で、同じ「癒着剥離」でも難易度とリスクが大きく変わります。そこで、術前設計をチームで共有するためのチェック項目(テンプレ化)が実務上とても有用です。
例えば、外来段階で以下を埋めるだけでも、当日の手術準備(器械・補助具・人員)が変わります。
- 🧾背景:ぶどう膜炎の活動性、既往手術、外傷歴、ステロイド使用歴。
- 🧿瞳孔:散瞳反応、癒着範囲(時計表記)、瞳孔膜の有無。
- 🧭隅角:PASの範囲、眼圧推移、瞳孔ブロックの兆候。
- 🧰準備:粘弾性の種類、虹彩リトラクター、剪刀、追加の止血手段。
- 🗣️説明:再癒着・眼圧上昇・追加治療(レーザー/再手術)の可能性。
加えて、患者説明の“言い換え”も重要です。虹彩後癒着は患者から見ると「瞳孔が開きにくい」程度に見えることがあり、重症度を理解されにくいです。そこで「房水の通り道が詰まると眼圧が上がって視神経に影響する可能性がある」という筋道で説明すると、治療継続の納得度が上がりやすい(特に長期フォローが必要なケース)と考えられます。加藤眼科の解説でも、虹彩後癒着による続発閉塞隅角緑内障は徐々に進行し、痛みがないため発見が遅れることがあると述べられており、説明の必要性を裏付けます。
(参考リンク:ぶどう膜炎に伴う白内障手術での「虹彩後癒着と小瞳孔への対応」、続発緑内障の原因としての「虹彩後癒着による瞳孔ブロック」など)
日本眼科学会系:ぶどう膜炎診療ガイドライン(虹彩後癒着、小瞳孔対応、続発緑内障の記載)
(参考リンク:虹彩後癒着による続発閉塞隅角緑内障の病態説明(痛みがないまま進行し得る点など))