涙液分泌不全 ドライアイ 病態と診断と治療戦略

涙液分泌不全 ドライアイ 病態診断治療

涙液分泌不全ドライアイの全体像
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病態を一枚絵で整理

涙腺機能低下・自己免疫疾患・薬剤性などが涙液分泌不全を介して角結膜障害へ至る流れを俯瞰し、蒸発亢進型との違いを押さえます。

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診断と重症度評価

シルマーテスト、BUT、フルオレセイン・ローズベンガル染色などを組み合わせた評価と、涙液層安定性という近年の概念を整理します。

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治療と患者教育

人工涙液やムチン分泌促進薬、涙点プラグ、生活指導まで、サブタイプ別TFOTを意識した治療戦略と現場での運用の工夫を解説します。

涙液分泌不全 ドライアイの病態生理とサブタイプ

涙液分泌不全ドライアイは、涙腺から分泌される水層成分が量的に不足するタイプのドライアイで、涙液減少型ドライアイの主要なサブタイプに位置づけられます。

一方、現代のドライアイ概念では、涙液層の「量」だけでなく「安定性低下」が本質的異常とされており、涙液分泌不全も涙液層破綻の一表現として捉える必要があります。

ドライアイは大きく「涙液分泌減少型」と「涙液蒸発亢進型」に分類され、前者の代表が涙液分泌不全ドライアイ、後者の代表がマイボーム腺機能不全(MGD)に伴う蒸発亢進型です。

参考)マイボーム腺機能不全診療ガイドライン

同一患者内で両者がオーバーラップしていることも少なくなく、涙腺障害とマイボーム腺障害が併存する混合型では、治療の優先順位付けが臨床的な課題となります。

涙液はムチン層・水層・油層の三層構造で角結膜表面を被覆しており、いずれかの層の機能不全が持続すると、涙液量が正常範囲でも自覚的な「ドライ感」が出現し得る点は、患者説明時の重要なポイントです。

参考)涙は十分あるのにドライアイ?

特に「涙は十分あるのにドライアイ」と訴える症例では、分泌不全よりも質的異常・分布異常・まばたき異常が関与している可能性が高く、純粋な涙液分泌不全と安易に判断しない姿勢が求められます。

参考)ドライアイの原因は?眼科専門医が解説する予防と改善策

涙液分泌不全 ドライアイの原因疾患とリスク因子

涙液分泌不全の中核にあるのは涙腺実質の障害であり、その代表がシェーグレン症候群をはじめとする自己免疫疾患による涙腺炎・破壊です。

他にも、高齢化に伴う涙腺萎縮、糖尿病やサルコイドーシスなどの全身疾患、顔面神経麻痺や三叉神経障害に伴う反射性涙液分泌低下など、全身背景を含めた評価が必須です。

薬剤性ドライアイとして、抗コリン薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、利尿薬などが涙液分泌を抑制しうることはよく知られており、ポリファーマシー高齢者では複数薬剤の相加効果に留意する必要があります。

意外に見落とされやすいのが、保存剤(特にベンザルコニウム塩化物)を含む点眼薬の多剤・長期使用で、緑内障点眼などの慢性連用により角結膜上皮障害と涙液層不安定化を介して二次的な涙液分泌不全様の所見を呈することがあります。

環境因子として、空調の効いたオフィス環境、長時間のVDT作業、コンタクトレンズ装用などは、まばたき低下や蒸発亢進を通じてドライアイを悪化させますが、涙液分泌不全を背景に持つ症例では症状増悪のトリガーとなりやすい点に注意が必要です。

参考)ドライアイ外来 基本情報|北里大学北里研究所病院(東京都港区…

また、ドライアイと睡眠障害や慢性痛、うつ病などの中枢感作関連疾患との関連が指摘されており、涙液分泌不全の程度と自覚症状の乖離が大きい症例では、全身のQOL評価や心理社会的背景の把握も重要になります。

参考)ドライアイの定義と診断基準 – ドライアイ研究会

涙液分泌不全 ドライアイの診断アルゴリズムと検査

涙液分泌不全ドライアイの診断では、問診・自覚症状評価に加え、シルマーテストによる涙液分泌能評価が古典的指標として用いられており、5mm/5分未満を顕著な分泌低下の目安とすることが一般的です。

ただし、シルマーテストは刺激性が高く再現性に限界があるため、近年はBUT(tear film breakup time)や角結膜染色スコアと組み合わせた総合的評価が推奨され、涙液層安定性を重視する診断基準へとシフトしています。

眼表面観察では、フルオレセインやローズベンガル、リスアミングリーン等を用いた角結膜上皮障害の評価が行われ、点状表層角膜症の分布パターンや重症度スコアがサブタイプ推定の一助となります。

涙液分泌不全では、特に下方や露出部の角結膜障害が目立つことが多く、MGD主体の蒸発亢進型でみられる涙液油層異常や線状の破壊パターンとは異なる所見を示すことがあります。

近年の特徴的な取り組みとして、涙液油層観察装置を用いた層別診断(Tear Film Oriented Diagnosis)が普及しつつあり、涙液分泌不全・蒸発亢進型・混合型を視覚的に把握して治療を層別化する試みが行われています。

また、専門施設では、シェーグレン症候群が疑われる症例に対して、血清自己抗体検査、唾液腺機能検査、小唾液腺生検などが行われ、涙液分泌不全ドライアイが全身疾患の初期徴候となるケースも報告されています。

涙液分泌不全 ドライアイの治療戦略とTFOT

治療の基本は、TFOT(Tear Film Oriented Therapy)の概念に沿って、どの層(ムチン・水層・油層)の障害が主かを見極めたうえで、適切な点眼薬やデバイスを選択することです。

涙液分泌不全では、水層補充を目的とした人工涙液やヒアルロン酸製剤に加え、ムチンや水分の分泌を促進するジクアホソルナトリウム、レバミピドなどの点眼が重要な役割を果たします。

症状が強い症例や点眼治療で不十分な場合には、涙点プラグ挿入や涙点閉鎖術により涙の排出を抑制し、残存涙液を保持する戦略が有効とされ、ドライアイ専門外来では積極的に用いられています。

さらに重症例では、自己血清点眼や特殊製剤の使用が検討され、上皮障害の修復促進と症状緩和を図るアプローチが行われている点は、一般外来との大きな違いとして押さえておきたいところです。

意外に重要なポイントとして、涙液分泌不全ドライアイにおいても、MGDが併存している場合には温罨法や眼瞼清拭、meibum圧出などMGD治療を併用することで、治療全体の効果が増強されることが報告されています。

また、オメガ3脂肪酸内服やアジスロマイシン点眼、ステロイド点眼、IPLやthermal pulsationといったMGD向け治療が、涙液分泌不全単独ではなく混合型ドライアイのアウトカムを改善する可能性も示されており、個々の症例での適応判断が求められます。

涙液分泌不全 ドライアイ専門外来での実践と医療者の独自視点

ドライアイ専門外来では、角結膜観察と涙液分泌機能検査に加えて、涙液油層観察装置や非接触BUT測定装置を用いて涙液層の状態を多角的に評価し、その結果に基づいて個別化治療を行う運用が一般化しつつあります。

点眼治療だけでなく、血清点眼や涙点プラグ、涙点閉鎖術、さらには患者ごとの生活環境や仕事様式を踏まえたセルフケア指導まで含め、涙液分泌不全ドライアイを「慢性疾患」としてマネジメントする姿勢が重要です。

現場での独自の工夫として、VDT作業者に対しては「時間」でなく「視距離とまばたき行動」でセルフモニタリングさせる指導が有用で、画面の隅に付箋を貼り「1スクロールごとに2回まばたき」のような具体的ルールを提案すると遵守率が上がります。

さらに、保存剤を含む点眼を複数使用している患者では、同成分濃度の低い製剤やユニットドーズ製剤への切り替え、投与回数の適正化により、角結膜表面のストレスを減らす「デコンタミネーション」が涙液分泌不全の症状軽減につながることがあります。

もう一つの視点は、「視機能への影響」を患者と共有することです。ドライアイでは瞬目のたびに視力が揺らぐ機能的視力低下が起こり、運転や精密作業への影響が大きいにもかかわらず、患者自身がそれを「疲れ目」としか認識していないことが少なくありません。

医療従事者が涙液分泌不全ドライアイを単なる「乾きの病気」としてではなく、「視機能と日常生活パフォーマンスに影響する慢性疾患」として捉え直し、検査結果と生活上の具体的困りごとを結びつけて説明することで、アドヒアランスやセルフケアの実行率が大きく変わってきます。

ドライアイの定義や診断基準、涙液層安定性に関する最新の考え方の整理に有用な専門サイトです(病態生理・診断パートの参考)。

ドライアイ研究会:ドライアイの定義と診断基準

涙液分泌不全を含むドライアイの原因・タイプ別解説と、セルフケア・生活指導の実例がまとまっており、患者説明用資料作成にも参考になります(原因・予防パートの参考)。

松山城南眼科:ドライアイの原因は?眼科専門医が解説する予防と改善策

MGDを中心に、蒸発亢進型ドライアイと涙液層破壊パターン、治療推奨(温罨法・眼瞼清拭など)が詳述されており、混合型ドライアイの治療戦略を考える際に有用です(TFOTパートの参考)。

日本角膜学会:マイボーム腺機能不全診療ガイドライン