眼窩内疾患 症状 診断 治療
眼窩内疾患 症状と診察のコツ
眼窩内疾患を疑うきっかけとなるのは、眼球突出、複視、視力低下、眼痛、眼瞼腫脹などの症状であり、発症様式と進行速度の把握が初期鑑別に極めて重要です。
特に、緩徐進行する片側性の眼球突出は眼窩内腫瘍や悪性リンパ腫、転移性腫瘍を、急性の疼痛を伴う眼瞼腫脹や発赤は眼窩蜂窩織炎や特発性眼窩炎症を示唆します。
診察では、視力・視野検査、眼球運動、瞳孔径と対光反射、眼球突出度、眼瞼位置、眼窩周囲の圧痛・発赤を系統的に評価し、眼窩尖端症候群の有無や視神経障害の兆候を逃さないことが求められます。
眼球突出は、前方への変位だけでなく、上下・左右方向の偏位も観察し、筋円錐内か外かを推定することで病変部位の推定に役立ちます。
参考)https://trc-rad.jp/case/337/s7/337_7_2.html
眼痛を伴う眼球運動障害では炎症性病変や海綿静脈洞血栓症も念頭に置き、発熱や全身炎症所見の有無、耳鼻咽喉科領域の感染症状との関連もあわせて確認します。
また、高齢者の非特異的な眼瞼腫脹や軽度突出の背後に悪性リンパ腫やIgG4関連眼窩疾患が潜むこともあり、経過観察のみとせず適切な画像検査につなげる判断力が重要です。
眼窩内疾患 代表的疾患と特徴
眼窩内疾患の代表として、眼窩内腫瘍(良性血管腫、涙腺多形腺腫、悪性リンパ腫など)、甲状腺眼症、眼窩蜂窩織炎、IgG4関連眼窩疾患、眼窩内転移などが挙げられます。
良性眼窩内腫瘍は緩徐な進行と無痛性の眼球突出を来すことが多い一方、悪性リンパ腫や転移性腫瘍では比較的短期間での変化や高齢発症、全身悪性腫瘍の既往が手がかりになります。
甲状腺眼症はバセドウ病に伴う自己免疫性炎症で、眼球突出、眼瞼後退、複視を特徴とし、重症例では視神経圧迫による視力障害を生じ得るため早期の評価が不可欠です。
IgG4関連眼窩疾患は、涙腺腫大や眼窩内軟部組織の腫脹を呈し、ステロイド反応性が高い一方で再燃も多く、全身のIgG4関連疾患の一部としてとらえる視点が必要です。
眼窩蜂窩織炎は副鼻腔炎などから波及する細菌感染で、急性発熱、強い眼痛、眼瞼腫脹、視力低下を伴い、頭蓋内合併症に進展しうるため、早期の画像評価と広域抗菌薬投与・外科的ドレナージの判断が生命予後に直結します。
参考)https://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou03_2023.pdf
眼窩内転移は乳癌や肺癌などを原発とすることが多く、乳癌患者では眼窩内転移症例の約半数が乳癌由来とされ、複視や眼痛、急速な視力低下などで発見されることが知られています。
眼窩内疾患 画像診断 CTとMRIの要点
眼窩内疾患の評価には、CTとMRIの併用が標準であり、骨構造、石灰化、脂肪組織の評価にはCT、軟部組織や神経・筋の性状評価にはMRIが極めて有用です。
視機能障害をきたす眼窩内腫瘍では、MRIの造影T1強調像とT2強調像を組み合わせ、腫瘍の境界、内部均一性、眼窩尖端や視神経との関係を読み取ることが治療戦略の前提となります。
筋円錐内に境界明瞭な卵円形腫瘤を形成する海綿状血管腫は、造影で徐々に濃染し、視神経腫瘍や炎症性偽腫瘍との鑑別において特徴的な所見を示します。
甲状腺眼症では、外眼筋腹部の紡錘状肥厚と腱部の保たれた形態、T2強調像での信号変化が活動性評価に役立ち、T2緩和時間延長は炎症活動の指標とされています。
眼窩内転移では、眼窩内脂肪の浸潤や外眼筋肥厚、腫瘤形成などがみられ、片側性の外眼筋肥厚は原発性甲状腺眼症と異なるパターンとして注意が必要です。
また、眼窩蜂窩織炎では副鼻腔病変の併存、眼窩脂肪の濃度上昇、造影効果のある膿瘍形成などを確認し、頭蓋内への波及の有無を評価することが治療方針決定に直結します。
参考)https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/kansen-manual_2018.files/general_remarks.pdf
眼窩内腫瘍 – MRIやCTによる診断と代表的所見の詳細解説です(画像診断の項目の参考に)。
眼窩内疾患 甲状腺眼症と免疫学的背景
甲状腺眼症は、バセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患に伴う眼窩組織の自己免疫性炎症であり、眼窩線維芽細胞がターゲットとなってグルコサミノグリカン産生や脂肪組織増生、外眼筋腫大を来します。
眼窩線維芽細胞には甲状腺刺激ホルモン受容体などの自己抗原が発現し、自己抗体との相互作用により炎症性サイトカイン産生が亢進し、眼瞼腫脹、眼球突出、複視、角膜障害、視神経症など多彩な眼症状を引き起こします。
発症時期は甲状腺機能亢進症とほぼ同時期であることが多いものの、甲状腺機能異常を伴わずに先行・遅発する症例もあるため、甲状腺ホルモン値のみをもって除外できない点は現場で誤解されやすいポイントです。
臨床的には、活動期と不活動期の区別が治療選択に重要で、眼瞼腫脹や結膜充血など炎症徴候が強い活動期にはステロイドパルス療法や放射線療法が考慮されます。
難治例では、ステロイド内服の増量やパルス療法の追加に加え、放射線外照射、眼窩内局所ステロイド注射、ボツリヌス毒素注射などの選択肢があり、視神経症を伴う例では早期の減圧術も検討されます。
一方、喫煙は甲状腺眼症の発症と重症化に強く関連することが示されており、患者指導において禁煙支援を組み込むことが再燃予防の観点からも重要な介入となります。
日本甲状腺学会の診断基準と治療指針を含む詳細なレビューです(甲状腺眼症の項目の参考に)。
眼窩内疾患 眼窩内転移と全身管理の視点
眼窩内転移は乳癌、肺癌、前立腺癌、悪性黒色腫などを原発とすることが多く、乳癌患者では眼窩内転移症例の約半数が乳癌由来と報告されており、既知の悪性腫瘍患者の眼症状では常に念頭に置く必要があります。
症状としては複視、眼痛、視力低下、眼瞼下垂、眼球突出や陥凹などが挙げられ、緩徐進行の腫瘍性病変と比較すると発症から受診までの期間が短い傾向が指摘されています。
画像上は、眼窩脂肪の浸潤、外眼筋の肥厚、びまん性の軟部組織増生などを呈し、原発性の眼窩腫瘍や甲状腺眼症との鑑別には、全身の腫瘍歴と併せた読影が欠かせません。
眼窩内転移が疑われる症例では、眼窩局所の治療だけでなく、原発巣および他臓器転移の評価を含めた全身検索が必要であり、腫瘍内科・放射線治療科との連携が前提になります。
局所症状の軽減目的に放射線治療が行われることが多く、疼痛や複視、眼球突出の改善が得られる一方、視神経への線量や角膜障害のリスクにも配慮した計画が求められます。
また、眼窩内転移が診断の契機となり、潜在していた原発癌が発見される症例も存在するため、原因不明の眼窩内疾患では年齢やリスク背景に応じた悪性腫瘍スクリーニングを検討すべきです。
眼窩内転移の原発巣頻度や画像診断のチェックポイントの解説です(眼窩内転移の項目の参考に)。
眼窩内疾患 多職種連携と診療体制づくり
眼窩内疾患は、眼科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、内分泌内科、腫瘍内科、放射線科など複数診療科をまたぐことが多く、診断から治療までのプロセスを共通言語で共有する体制が重要です。
例えば、眼窩内腫瘍では、眼科・脳神経外科が外科的アプローチを検討し、放射線科がCT・MRIの読影と術前シミュレーションを担い、病理医が摘出標本の診断を行うことで、良悪性と亜型に応じた最適治療を選択できます。
甲状腺眼症では、内分泌内科が甲状腺機能の是正を、眼科が視機能評価と局所治療を、放射線科が眼窩放射線療法を担当し、重症例では早期からカンファレンスを開催して治療時期のタイミングを調整することが望まれます。
また、眼窩蜂窩織炎や頭蓋内波及が疑われる感染性眼窩内疾患では、耳鼻咽喉科による副鼻腔病変の評価とドレナージ、感染症科による抗菌薬選択、脳神経外科による頭蓋内合併症の監視が連携して初めて予後改善が期待できます。
IgG4関連眼窩疾患や悪性リンパ腫など全身疾患の局所表現型としての眼窩内疾患では、血液内科やリウマチ・膠原病内科との連携が重要であり、眼窩の所見だけで完結しない診療設計が求められます。
参考)https://web.sapmed.ac.jp/prs/eyelid/orbittumor.html
院内では、眼窩内疾患を含む「眼窩・眼窩周囲疾患カンファレンス」のような定期的な場を設け、症例の共有と読影教育、治療成績の振り返りを行うことで、見落とし防止と診療レベルの均てん化が期待できます。