眼窩内異物残留 CT診断と手術適応判断

眼窩内異物残留の診断と治療の要点

眼窩内異物残留の全体像
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CT診断と画像評価

眼窩内異物残留を疑う受傷機転と症候から、CTを中心にした画像戦略と材質推定のポイントを整理します。

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手術適応とタイミング

感染リスクや視機能障害、眼窩底骨折の合併などから摘出の適応とタイミングを検討する実践的な判断軸を示します。

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見逃し・長期残留のリスク

木片などの低吸収異物がCTで描出困難となる時期的変化や、長期残留による肉芽腫・遅発感染の症例から学ぶ注意点をまとめます。

眼窩内異物残留を疑う受傷機転と初期評価

眼窩内異物残留は「小さな傷だから大丈夫」と判断されやすい外傷でも、受傷機転次で高頻度に潜んでいる点が臨床上の落とし穴になります。特に木片や金属片が高速で飛来する草刈機事故、工場でのグラインダー作業、転倒時に木の枝や棒が眼周囲に刺入した症例では、外表からの創が小さくても眼窩深部への刺入が起こり得ます。

初期診察では、視力・対光反射、眼球運動障害、複視、眼窩部痛や眼瞼腫脹に加え、鼻出血や頬部の知覚鈍麻など眼窩底骨折を示唆する症状を系統的に確認することが重要です。眼瞼や眉毛外側などに小さな裂創がある場合、創の位置と受傷方向から刺入経路を推定し、眼窩内異物残留の可能性を常に念頭に置く必要があります。

救急外来では眼表面異物や角結膜異物の除去だけで終わらせず、「深部に貫通していないか」を必ずチェックリスト的に確認する運用が安全です。外表創を縫合する前に、眼窩内異物の有無を評価する方針をチームで共有しておくと、後日の発見遅れによる訴訟リスク低減にもつながります。

参考)もう迷わない!救急外来の初期対応 ~角結膜異物、化学外傷、熱…

眼窩内異物残留のCT所見と材質別の落とし穴

眼窩内異物残留の画像診断ではCTが第一選択であり、金属や骨片は高吸収域として比較的容易に描出されますが、植物性異物やプラスチック片では検出が難しい点に注意が必要です。木片異物は受傷直後から約10日までは低吸収域を示すことが多いものの、その後周囲の炎症や肉芽形成に伴ってCT値が変化し、時期によっては周囲組織と等吸収となり見逃されることがあります。

報告例では、木片が外直筋付着部近傍に残留し、初回CTでは血腫様の淡い腫瘤陰影としてしか認識されず、眼窩底骨折の整復術中に偶然発見された症例もあります。このように「血腫と思い込んでしまう」バイアスが働きやすいため、受傷機転が木片刺入である場合には、微妙な低吸収域や線状陰影も異物として疑う姿勢が重要になります。

参考)http://www.jsomt.jp/journal/pdf/060020104.pdf

一方、金属片はCT上metal densityとして強いアーチファクトを伴って描出されるため、位置同定にはthin slice撮影や多断面再構成(MPR)を併用し、視神経管や外眼筋との位置関係を丁寧に確認する必要があります。MRIは金属異物が予想される場合には禁忌であるため、検査オーダー時に「金属異物の可能性あり」と明記し、画像診断科とのコミュニケーションを徹底しておくことが安全管理上も重要です。

参考)https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/application/pdf/r6kakuka_2-1.pdf

眼窩内異物残留と眼窩底骨折・副鼻腔病変の合併戦略

眼窩内異物残留は眼窩底骨折や副鼻腔への貫通を伴うことがあり、その場合は眼科単独ではなく耳鼻咽喉科・形成外科との協働が前提となります。眼窩から上顎洞や篩骨洞に達した木片異物の症例では、経皮的アプローチだけでなく経鼻的・経副鼻腔的アプローチを組み合わせることで、より安全に摘出し得たとの報告があります。

眼窩底骨折に眼窩内異物が合併した症例では、局所麻酔下で眼窩内異物除去と眼窩底骨折整復術、上顎洞バルーン挿入を同時に行い、眼窩内容物の再嵌入を防ぎつつ整復を完了させた報告があります。このような複合手術では、異物の刺入経路と骨折線、副鼻腔内の開放部位を3Dイメージとしてチーム全体で共有し、どのアプローチからどの順で操作するかを術前カンファレンスで明確にしておくことが重複侵襲を避ける鍵になります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/56/3/56_120/_pdf/-char/en

副鼻腔に達した植物性異物は、副鼻腔炎や膿瘍形成、さらには頭蓋内合併症のリスクを高めるため、保存的加療のみでの経過観察はきわめて慎重であるべきです。抗菌薬投与だけではバイオフィルム化した異物関連感染を制御しきれない場合があるため、画像上で少しでも異物残留が疑われる場合には、段階的摘出も含めた外科的対応を早期から検討することが推奨されます。

参考)眼窩内異物 (臨床眼科 68巻11号)

眼窩内異物残留の手術適応と「敢えて残す」判断

眼窩内異物残留に対する手術適応としては、感染徴候(発赤、腫脹、膿瘍形成)、視力低下やRAPDを伴う視神経障害、眼球運動障害による複視、強い疼痛、そして植物性異物など高リスク材質が挙げられます。一方、外傷性眼窩内鉄片異物では、長期にわたり無症状・無感染で経過する例も報告されており、周囲重要構造への侵襲リスクが高い場合には「摘出しない」という選択肢が現実的な判断となることもあります。

特に視神経管近傍の金属片や、外眼筋鞘に密接した小異物などは、摘出操作自体が視機能障害や恒久的な眼球運動障害を引き起こす可能性があります。このようなケースでは、(1)症状の有無、(2)材質と感染リスク、(3)位置と予想される摘出リスク、(4)患者の年齢や職業・希望を総合的に評価し、十分なインフォームドコンセントのもとで経過観察を選択することが合理的です。

経過観察を選ぶ場合でも、定期的な視力・視野検査と眼球運動評価、必要に応じたフォローアップCTでの位置変化・周囲炎症の有無確認を行い、「いつでも方針変更できる」体制を明確にしておくことが重要です。また、将来的なMRI検査の制限や、頭頸部手術・放射線治療への影響など、異物残留がもたらす長期的制約についても、患者と共有しておくことが望まれます。

眼窩内異物残留の慢性期フォローと意外な全身影響

眼窩内異物残留は、急性期を無症状で乗り切った症例でも、数ヶ月から数年を経て慢性炎症性肉芽腫や遅発感染として顕在化することがあります。特に植物性異物は細菌や真菌の温床となりやすく、創部が一度閉じた後に、原因不明の眼窩部腫脹や瘻孔形成として再燃することが報告されています。

長期残留した金属片や骨片が眼窩内で移動し、遅発性の外眼筋障害や涙道系障害をきたす場合もあり、「古い外傷歴」を聴取した上で再評価CTを行うことで初めて異物が同定されるケースも存在します。慢性期では眼窩痛や頭痛、顔面の違和感といった非特異的症状のみが前景に立つこともあり、耳鼻科・脳外科など他科で原因不明のまま長期経過している患者の中に眼窩内異物残留が潜んでいる可能性も否定できません。

意外な視点として、眼窩内異物残留は破傷風や嫌気性菌感染のリスクとも関係し、とくに園芸作業中の外傷や土壌由来の木片刺入症例では、ワクチン歴の確認と破傷風トキソイド投与をセットで考える必要があります。また、慢性炎症を背景に全身性炎症反応が遷延し、糖尿病や免疫不全の患者では創傷治癒遅延や周囲組織壊死を助長しうるため、全身管理と連携したフォローアップが求められます。

眼窩内異物残留症例の慢性期管理では、視機能だけでなく生活の質(QOL)評価も重視し、複視による運転制限や職務制限、審美的問題への対応を含めた包括的な支援体制が理想的です。患者が他院を受診した際にも異物残留情報が共有されるよう、紹介状や診療情報提供書に位置・材質・これまでの判断経緯を明記しておくことが、将来の医療安全にもつながります。

眼窩内異物の診断と治療・フォローアップの総論的な整理に有用。

【11】眼内・眼窩内異物,外傷(臨床眼科)