拍動性眼球突出症 症状診断治療
拍動性眼球突出症 内頚動脈海綿静脈洞瘻の病態
拍動性眼球突出症の代表的原因の一つが、内頚動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)であり、頭蓋内で本来分離されている内頚動脈と海綿静脈洞の間に異常な交通が形成される疾患です。
動脈圧が直接静脈系に伝わることで海綿静脈洞内圧が上昇し、上眼静脈を中心とした眼窩静脈系へ逆流するため、眼窩内静脈うっ血と眼球前方偏位が生じ、心拍と同期した拍動性眼球突出として観察されます。
この静脈うっ血は結膜・眼瞼の浮腫や充血(chemosis)、眼圧上昇、視神経圧迫を通じて視力低下を来しうるほか、海綿静脈洞を走行する外転神経・動眼神経などが牽引・圧迫されることで複視や眼球運動障害も高頻度に伴います。
拍動性眼球突出症を呈するCCFには、外傷後の直接型と、動脈硬化性変化や結合組織病などを背景にした間接型があり、前者では交通事故や頭部外傷後比較的急性に症状が顕在化する一方、後者では軽度の拍動感や充血から緩徐に進行することが少なくありません。
特に高齢者では、軽度の眼球突出・結膜充血・耳鳴りが「加齢によるもの」「高血圧性変化」と誤認されやすく、眼科と脳神経外科のどちらにもはっきり相談されないまま数カ月経過してしまうケースが報告されており、病態の理解そのものが見逃し防止に直結します。
参考)https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2025.1625899/full
拍動性眼球突出症 症状と身体診察のポイント
内頚動脈海綿静脈洞瘻に伴う拍動性眼球突出症では、眼症状と全身症状が組み合わさって出現するため、問診と身体診察で「組み合わせ」を意識して評価することが重要です。
典型的には、片側性の拍動性眼球突出、結膜充血・浮腫、眼球運動障害、視力低下、複視、拍動性の血管雑音や耳鳴、拍動性頭痛などがみられ、特に心拍と同調した眼球の前後運動は決定的所見として強調されます。
診察時には、以下のようなポイントを意識すると情報整理がしやすくなります。
参考)内頚動脈海綿静脈洞廔 – 新川崎眼科|川崎市幸区北加瀬
- 視力・視野:片側の急性〜亜急性の視力低下や視野障害の有無を確認する。
- 眼球突出の性状:立位・臥位やValsalva負荷で突出の変化がないか、触診で拍動を触れるか確認する。
- 前眼部所見:結膜浮腫、著明な充血、角膜びらんの有無を観察し、眼圧を測定する。
- 眼球運動:外転障害などの眼筋麻痺を評価し、関連する脳神経麻痺を推定する。
- 聴診:眼窩・側頭部・頸部で血管雑音の有無を聴取し、患者自覚の耳鳴と合わせて評価する。
一見すると単純な「充血した眼」「赤い眼」として受診しても、眼窩部の静脈怒張や結膜の蛇行静脈など細かな所見が鍵になることがあり、眼科外来でのスリットランプ観察時にも眼窩周囲の血管の走行や左右差に意識を向けると拾える情報量が大きく変わります。
また、眼圧の上昇が強い場合や視力低下が進行している場合には、視神経障害が進行しつつある可能性が高いため、緊急性の評価としても定量的な視力・眼圧測定は欠かせません。
拍動性眼球突出症 画像診断と甲状腺眼症などとの鑑別
拍動性眼球突出症を呈する患者では、造影CTやMRIに加え、必要に応じて脳血管撮影(DSA)を組み合わせて診断を進めます。
CT・MRIでは、拡張した上眼静脈、海綿静脈洞の拡大、眼窩静脈系のうっ血所見などが特徴的であり、造影早期相で静脈系が早期に造影される所見は動静脈短絡の存在を強く示唆します。
一方で、眼球突出を来す疾患としては、甲状腺眼症(バセドウ病悪性眼球突出症)や眼窩偽腫瘍、眼窩腫瘍など多彩な疾患があり、それぞれ画像上の特徴が異なります。
例えば甲状腺眼症では、眼窩MRIで外眼筋のびまん性腫大や眼窩脂肪の増加が主体であり、静脈拡張や早期静脈造影というよりも炎症性変化や脂肪量増加が画像上のポイントとなります。
逆に内頚動脈海綿静脈洞瘻では、上眼静脈の拡張および海綿静脈洞の拡大が目立ち、外眼筋の腫大は二次的なうっ血として軽度にとどまることが多く、ここが鑑別の重要な視点になります。
参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=30
- 甲状腺眼症:外眼筋腫大、眼窩脂肪増量、慢性経過、非拍動性眼球突出。
参考)https://www.j-endo.jp/uploads/files/edu/koujyousengansyo_3.pdf
- 内頚動脈海綿静脈洞瘻:上眼静脈拡張、海綿静脈洞拡大、早期静脈造影、拍動性眼球突出・血管雑音。
特に眼科単独での診療では「バセドウ病による眼球突出ではないか」というバイアスが働きやすく、甲状腺機能の正常例や拍動性・血管雑音など「らしくない」所見を見た際に、早い段階で脳神経外科・放射線科と連携して血管病変を疑うことが、診断の最短ルートになります。
このPDFでは甲状腺眼症における画像診断と重症度評価の詳細が参考になります(非拍動性眼球突出との鑑別の理解に有用)。
バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針
拍動性眼球突出症 内頚動脈海綿静脈洞瘻の治療と予後
内頚動脈海綿静脈洞瘻に対する治療の第一選択は、近年では血管内治療(endovascular embolization)が確立しており、動静脈短絡部を塞栓しつつ内頚動脈の生理的血流を可能な限り温存することが目標です。
コイル塞栓術やバルーンアシストコイル、流量制御ステント(flow diverter)などを用いた経動脈的アプローチが主流で、症例に応じて上眼静脈や下錐体静脈洞からの経静脈的アプローチも選択されます。
大規模な症例集積では、血管内治療後に眼症状(眼球突出、結膜浮腫、拍動性耳鳴など)が比較的速やかに改善し、60〜95%の症例で臨床的改善が得られたと報告されています。
参考)Endovascular Treatment of Dire…
一方で、脳神経麻痺や視神経障害など、既に構造的損傷が進行していた場合には、症状が完全に回復するまでに数カ月を要することも多く、治療時期が早いほど視機能予後は良好となる傾向があります。
- 早期治療のメリット:視力・視野障害の進行を抑制し、眼筋麻痺や角膜障害の後遺症を最小限にできる可能性が高い。
- 治療リスク:再開通や残存シャント、血栓塞栓症、穿孔など血管内治療特有の合併症があり、術前の血管解剖評価と術中の慎重な操作が必須。
術後フォローでは、眼科と脳神経外科が協力して眼圧・視力・視野・眼球運動の経時的変化をモニタリングし、残存シャントの有無を画像で確認していきます。
また、甲状腺眼症など眼窩の基礎疾患を併存している場合には、眼球突出の改善が一部にとどまることもあり、内科的治療やステロイド、放射線治療、眼窩減圧術などの追加療法を総合的に検討する必要があります。
この総説ではCCFに対する血管内治療の長期成績と技術選択が詳しく解説されており、治療戦略立案の参考になります。
Endovascular management of carotid-cavernous fistulas
拍動性眼球突出症 緊急性判断と地域連携の実務的視点
検索上位の解説では病態・画像・治療が詳細に述べられる一方、「どのタイミングでどこに紹介するか」「どの程度を救急対応とするか」といった実務的な視点は十分に語られていないことが少なくありません。ここでは臨床現場での運用を意識したポイントを整理します。
まず、拍動性眼球突出症が疑われる場合で、以下のいずれかを満たすときは、原則として当日〜24時間以内の専門医(脳神経外科・脳神経内科・神経放射線科を有する施設)への紹介を検討すべきと考えられます。
- 急速な視力低下や視野狭窄が進行している。
- 眼圧が明らかに上昇し、角膜障害や眼痛が強い。
- 拍動性頭痛や拍動性耳鳴が増悪し、日常生活に支障が出ている。
- 外傷歴があり、発症から数日〜数週で症状が顕在化している。
一方で、視力が保たれ軽度の症状にとどまる場合でも、CCFの自然経過は予測が難しく、急に血行動態が変化するリスクがあるため、「様子観察」の名の下に長期フォローするのではなく、早期に血管画像を取得できる施設への紹介を前提に診療計画を立てることが安全です。
地域によっては眼科と脳神経外科・カテーテル治療チームの距離があるため、紹介先の救急受け入れ体制や脳血管内治療実施可否をあらかじめ把握しておくことが、診断のスピードだけでなく患者・家族への説明の質にも直結します。
加えて、甲状腺眼症など既存の眼疾患フォロー中に新たに拍動性眼球突出が出現するケースでは、「既知の病気の増悪」と短絡せず、症状・所見の質的な変化として捉える姿勢が重要です。
現場では、「以前は非拍動性であった眼球突出に新たな拍動性要素や血管雑音が加わっていないか」を問診・診察のチェックリストに組み込むことで、比較的まれな病態である拍動性眼球突出症を、日常診療の中で拾い上げることが期待できます。
このページでは、内頚動脈海綿静脈洞瘻に伴う眼症状と三徴の解説がコンパクトにまとまっており、一次医療での気付きの視点として参考になります。