眼瞼兎眼 病態とケアの要点
眼瞼兎眼 の定義と病態生理
眼瞼兎眼は、まぶたを完全に閉じることができず、角膜や結膜が常時または睡眠時に露出した状態を指し、英語では lagophthalmos と表現されます。
本来、瞬目運動と閉眼により涙液が角膜表面に均一に分布し、角膜上皮が保護されていますが、眼瞼兎眼ではまばたきの量的・質的低下により涙液層が不均一となり、蒸発が亢進します。
その結果、角膜上皮の微細なびらんから始まり、兎眼角膜炎や角膜潰瘍へ進行しうるため、見た目の問題にとどまらず視機能障害のリスクを伴う病態として理解する必要があります。
眼瞼兎眼は「兎眼」という総称で語られることが多いものの、実際には軽度の睡眠時のみの開瞼から、覚醒時も大きく角膜が露出する重症例まで連続的なスペクトラムを形成しています。
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軽症例では自覚症状が乏しく、「ドライアイ」程度として見過ごされることもありますが、瞬目数の減少や結膜充血、角膜上皮障害の所見から早期に閉眼障害を疑うことが重要です。
参考)兎眼の鍼灸【原因・定義・症状】 – 銀座そうぜん鍼灸院(深層…
また、眼瞼の形態異常や眼球突出が主病態である機械的兎眼と、顔面神経麻痺などによる麻痺性兎眼では、治療戦略も予後も異なるため、病態生理の層を分けて把握することが臨床判断の前提となります。
眼瞼兎眼 の主な原因とリスク因子
眼瞼兎眼の原因として最も頻度が高いのは顔面神経麻痺であり、Bell麻痺、耳下腺腫瘍手術後、側頭骨骨折、脳幹病変など多様な背景疾患が含まれます。
顔面神経麻痺では眼輪筋の収縮が障害されることで閉瞼不全が生じ、同時に下眼瞼の外反や弛緩を伴うと、角膜下方の露出がさらに強調されます。
特に麻痺性兎眼では、麻痺自体の回復見込み(数週間で改善する一過性なのか、永続的障害なのか)が治療の侵襲度を決める大きな判断材料となります。
機械的要因としては、甲状腺眼症や眼窩腫瘍などによる眼球突出、上眼瞼後退、瘢痕性眼瞼外反、眼瞼欠損などが挙げられます。
眼窩減圧術などで眼球突出そのものを軽減すると兎眼が改善することもあり、局所の眼瞼処置だけでなく全身・全眼科的な評価が必須です。
参考)顔面神経麻痺 – 【公式】目黒まぶたのクリニック|目黒駅徒歩…
また、加齢性の眼瞼弛緩や睡眠時無呼吸症候群の患者でみられる睡眠時兎眼、整容目的の美容手術後の眼瞼形態変化など、従来「リスク」と認識されていなかった背景に伴う軽度兎眼も増えている点は、意外な臨床的トレンドと言えます。
眼瞼兎眼 の症状と兎眼角膜炎
眼瞼兎眼の代表的な自覚症状は、目の乾燥感、異物感、灼熱感、流涙、光過敏などであり、多くは「ドライアイがつらい」「朝起きると目が痛い」といった訴えとして現れます。
視診上は、閉眼時に黒目の一部が露出している、結膜充血、角膜の点状上皮障害、下方角膜の菲薄化などがみられ、進行すると兎眼角膜炎を発症します。
兎眼角膜炎は角膜の乾燥・摩擦に起因する炎症で、適切な治療が行われない場合には角膜潰瘍や瘢痕混濁を来し、不可逆的な視力低下につながるため、早期介入がきわめて重要です。
兎眼角膜炎では、日中よりも睡眠後の痛みや異物感が強いことが多く、睡眠時に閉瞼が維持できていないことが示唆されます。
細隙灯顕微鏡では、角膜下方に限局した点状表層角膜症、フィラメント形成、上皮欠損などが特徴的で、ドライアイ一般とは分布や重症度のパターンが異なります。
また、感覚障害を伴う糖尿病性神経障害や帯状疱疹後の症例では、痛みが軽くても高度の角膜障害が存在することがあり、「症状の軽さ=安全」と判断しないことが眼科・看護双方に求められる視点です。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%85%8E%E7%9C%BC
兎眼角膜炎の病態や症状の詳細
眼瞼兎眼 の診断と評価の実際
眼瞼兎眼の診断は、問診と視診が基本ですが、臨床現場では「どの程度閉じられていないか」を定量的に評価することが大切です。
閉眼時に残る開瞼距離(ラゴフサルモス幅)をミリメートル単位で測定し、角膜露出の範囲や位置とあわせて記録することで、経時的な評価や手術適応の判断に役立ちます。
さらに、瞬目回数の観察、フルオレセイン染色による角膜上皮障害の分布評価、BUT(涙液破壊時間)、シルマー試験などを組み合わせることで、乾燥の程度と眼表面障害の重症度を可視化できます。
意外に重要なのが、睡眠時兎眼の評価です。患者自身は寝ている間の閉眼状態を自覚しにくいため、同居家族への聴取や、スマートフォンでの動画撮影を勧めることで、夜間の閉瞼不全が明らかになることがあります。
顔面神経麻痺症例では、眉の挙上、口角の下垂、鼻唇溝の左右差、頬の動きなども必ず観察し、麻痺の範囲と回復過程をトータルに評価します。
また、美容目的の上眼瞼切開後や若年のコンタクトレンズユーザーにおける軽度兎眼など、「典型的ハイリスク群」に属さない患者にも閉眼障害が潜んでいることを念頭に置くことは、日常診療における意外な盲点と言えます。
眼瞼兎眼 の治療:保存療法と手術療法
眼瞼兎眼の治療は、原因疾患へのアプローチと眼表面保護の二本立てで考える必要があります。
軽症から中等症では、防腐剤を含まない人工涙液やヒアルロン酸点眼による角膜の保湿、就寝前の眼軟膏塗布、保湿ゴーグルや眼帯などの物理的保護が基本となります。
日中に頻回点眼を行い、夜間は粘稠度の高い軟膏で角膜を覆うことで、乾燥と摩擦を最小限に抑えることが可能です。
中等度以上では、医療用ソフトコンタクトレンズ(治療用コンタクト)による角膜保護が有効で、特に潰瘍形成のリスクが高い症例では早期から検討されます。
さらに、テーピングによる閉瞼補助、ボツリヌス毒素を用いた一時的な上眼瞼下垂の誘導など、侵襲の低い一時的手段を組み合わせることもあります。
保存療法でのコントロールが困難な場合や、麻痺が永続的と判断される場合には、瞼縫合術や外眥・内眥形成術、下眼瞼短縮術、軟骨移植、眼窩減圧術など多彩な眼形成外科手術が選択肢となります。
顔面神経麻痺に伴う兎眼では、麻痺の自然回復を見込んで半年から1年程度は保存療法を主体とし、その間に角膜障害を繰り返さないよう保護することが治療の核心となります。
一方、甲状腺眼症や重度の眼球突出が原因の場合、眼窩減圧術などで突出そのものを是正しない限り兎眼が改善しにくく、局所の瞼縫合だけでは不十分なことも少なくありません。
近年は、審美性と機能性を両立させる眼瞼形成術が発展しており、「傷あとが目立たない」「視野を極力狭めない」術式の工夫が、患者のQOL向上とコンプライアンスに大きく寄与しています。
兎眼の基本的な定義と治療の概略
眼瞼兎眼 と看護ケア・生活指導のポイント
医療従事者、とくに看護職にとって重要なのは、眼瞼兎眼を「単なる眼科疾患」ではなく、全身状態や神経学的所見を反映するサインとして捉える視点です。
顔面神経麻痺患者の口腔ケアや摂食嚥下評価の場面で、同時に閉瞼状態を観察し、軽度でも兎眼が疑われれば早期に眼科へコンサルトすることが、角膜障害の予防につながります。
また、ICUや手術後の鎮静患者では、自発的な閉眼が不十分なことがあり、人工涙液の定期点眼や眼瞼テーピングなどのケアプロトコルをセットで導入する施設も増えています。
日常の看護ケアでは、以下のようなポイントが実践的です。
・点眼・軟膏塗布のタイミング管理(就寝前、覚醒時、ドライ環境下など)
・テーピングや眼帯の貼付方法指導と、皮膚トラブルの観察
・睡眠時の体位・枕の工夫による眼瞼閉鎖の補助
・エアコンや送風機の直風を避ける環境調整
・VDT作業時の休憩・瞬目を促すセルフケア指導
意外に見落とされやすいのが、患者の心理社会的側面です。兎眼は「うさぎ目」のような見た目の変化を伴うことがあり、特に若年者や対人接触の多い職業の患者では、自己イメージの低下や社会不安につながることがあります。
そのため、治療の説明では「視力を守る」という医学的目的だけでなく、「見た目や表情もできるだけ自然に保つ工夫をしている」ことを明確に伝えることで、治療への納得感と治療継続への意欲が高まります。
さらに、家族や介護者に対して、夜間の閉瞼状態の観察方法や、症状悪化時の受診目安(痛みの急激な悪化、視力低下、強い充血など)を具体的に共有しておくことが、在宅での安全な療養に直結します。
新人看護師向けに兎眼とケアを整理した解説