貧血フローチャートとMCVと網赤血球の鑑別

貧血フローチャートとMCVと網赤血球

貧血フローチャート:最初の30分で迷わない
🧭

最初に見るのはHbと緊急度

ショック・急性出血・急性溶血など循環動態に影響する状況を先に除外し、落ち着いて鑑別の採血をそろえます。

🧪

次にMCVで3分類

小球性・正球性・大球性に分けると、追加検査の優先順位が一気に明確になります(鉄、B12/葉酸、溶血・骨髄など)。

🩸

網赤血球で「作れているか」を判断

網赤血球(絶対数/%)は骨髄の反応を反映し、出血/溶血 vs 産生低下の分岐点になります。

貧血フローチャートの基本検査とCBCと網赤血球

貧血の入り口は「Hb低下の確認」ですが、医療者向けの実務ではCBCだけで完結させず、網赤血球末梢血塗抹を“同じタイミング”で揃えるのが重要です。貧血は緩徐進行だと無症状のことが多く健診で拾われやすいため、症状の強さだけで重症度を推定しにくい点も落とし穴になります。貧血を疑った外来では、問診(出血、消化器症状、偏食、月経量、薬剤など)と診察(黄疸、出血傾向、リンパ節腫脹、脾腫、舌・爪)を押さえつつ、まずは「CBC+網赤血球+塗抹+生化学(LDH・ビリルビン等)+鉄代謝(Fe・フェリチンまたはTIBC)」までを一気に提出すると、フローチャートが途中で止まりにくくなります。

特にガイドライン系のフローチャートでは、貧血の鑑別は系統立てて進めるべきで、MCVで小球性・正球性・大球性に分けて鑑別する流れが推奨されています。加えて、ショックなど緊急性がない場合は、原因検索の採血が済む前に輸血・鉄剤ビタミン剤などの治療を始めない(検査解釈が歪む)という実務上の注意点が強調されています。

現場でよくあるミスは「Hbだけ見て鉄を開始」→数週間後にフェリチンや網赤血球が解釈不能、というパターンです。まず採血を揃え、貧血の成因(産生低下/喪失/溶血)を見立ててから治療に入ると、紹介のタイミングも明確になります。

貧血フローチャートのMCVで小球性とフェリチンとTIBC

MCVが低い小球性貧血では、次の一手は鉄代謝マーカー(血清鉄、フェリチン、TIBC/UIBC)です。一般に、フェリチン低値は貯蔵鉄欠乏を強く示唆し、鉄欠乏性貧血の確定に近づきます。一方、炎症や慢性疾患が背景にあるとフェリチンが“貯蔵鉄量と無関係に”上昇し得るため、「フェリチンが正常〜高い小球性=鉄欠乏ではない」と短絡しない注意も必要です。

鑑別の大枠は、フェリチン低下なら鉄欠乏性貧血、フェリチンが正常〜増加で血清鉄低下なら慢性疾患に伴う貧血(鉄利用障害)を疑う、という流れになります。さらに稀な鑑別としてサラセミアや鉄芽球性貧血などがあり、ヘモグロビン分析や骨髄鉄染色(環状鉄芽球)へ進む分岐も、フローチャートには明確に示されています。

ここで“意外に見落とされる”のが、鉄欠乏性貧血の診断は「鉄剤を入れたらHbが上がった」ではなく、原因(出血源や需要増大、吸収障害)まで掘り切ることが本体だという点です。特に中高年の鉄欠乏では、痔があっても消化管悪性腫瘍の検索を同時に進める、という教訓がガイドライン本文でも繰り返し述べられています。

参考:鉄欠乏の早期診断におけるフェリチンの位置づけ(血清鉄の変動や炎症での解釈注意)

日本臨床検査医学系資料:貧血の検査フローチャートとMCV分類

貧血フローチャートの網赤血球と溶血とLDHとハプトグロビン

正球性貧血(MCVが概ね正常域)や、原因が一見はっきりしない貧血で強力な分岐点になるのが網赤血球です。網赤血球が増加していれば、骨髄は「作ろうとしている」ので、出血か溶血の方向へ鑑別を進めやすくなります。逆に網赤血球が増えない(反応が鈍い)場合は、造血器腫瘍再生不良性貧血、腎性貧血(EPO低下)など“産生低下側”を疑って検査計画を組み替えます。

溶血が疑われるときは、LDH上昇、間接ビリルビン優位の上昇、ハプトグロビン低下をセットで見て、クームス試験で免疫性かどうかを振り分けます。これは「溶血性貧血は網赤血球増加+間接ビリルビン高値+LDH高値+ハプトグロビン低値などから診断する」という整理で、内科系の総説でも繰り返し説明されています。

ここに“現場の小技”として加えるなら、塗抹で破砕赤血球が目立ち、血小板減少や臓器障害が合併する場合は、TMA(微小血管障害性溶血性貧血)も鑑別に入れ、時間軸を急ぐべきです。フローチャートは分岐の地図ですが、同時に「緊急疾患を拾うためのセンサー」でもあります。

参考:溶血性貧血の診断に使う検査(網赤血球、LDH、間接ビリルビン、ハプトグロビン)

溶血性貧血:診断と治療(J-STAGE PDF)

貧血フローチャートの大球性とビタミンB12と葉酸とMDS

大球性貧血は「B12/葉酸欠乏=サプリで補えばOK」と単純化されがちですが、医療従事者向けには“見逃すと痛い分岐”が複数あります。フローチャート上は、まず血清ビタミンB12と葉酸を測定し、必要に応じて骨髄検査でMDSなどを鑑別する流れが整理されています。さらに、MCVが120 fL未満の大球性では、肝障害、甲状腺機能低下、溶血(網赤血球増加に伴う相対的大球性)なども並行して鑑別する、という注意が本文に記載されています。

意外と実務的なのは、B12欠乏では神経障害(深部知覚障害など)が前景に出ることがあり、貧血所見の強さと症状が一致しないケースがある点です。問診・神経所見を雑にすると、検査の順番が狂い、結果的にフローチャートが遠回りになります。

また、大球性で「薬剤性(代謝阻害薬など)」の枝も忘れやすいポイントです。造血を抑える薬剤は多岐にわたり、患者が“薬”と思っていないサプリ・市販薬・飲酒習慣まで含めて棚卸しすることが、鑑別の速度を上げます。

参考:MCV分類と鉄・B12/葉酸・MDSへの分岐の考え方(解説)

MCV値や網赤血球数の増減に注目(解説)

貧血フローチャートの独自視点:治療前採血と鉄剤と検査解釈

検索上位のフローチャート記事は「次に何を測るか」を丁寧に説明しますが、現場の失敗はむしろ「測る前に何をしてしまったか」で起きます。緊急性がないのに鉄剤やビタミン剤、輸血を先に入れてしまうと、網赤血球の反応性、鉄代謝(Fe/TIBC)、場合によっては塗抹の所見が“治療の影響込み”になり、原因推定が遅れます。ガイドライン本文でも、必要な採血が済むまで投与を控える注意点が明記されており、フローチャート運用の前提条件になっています。

さらに、鉄欠乏性貧血の治療反応を見る際は、Hb上昇だけでなく、開始後1週間前後の網赤血球増加(反応性の確認)→その後の貯蔵鉄回復(フェリチン回復まで数か月)という“時間軸”を意識すると、外来フォローがブレにくくなります。ここを押さえると、患者説明も「薬を飲めばすぐ治る」から「原因検索と貯蔵鉄の回復まで含めた治療」へ自然にアップデートできます。

そして、少し意外ですが「フェリチンが低い=すぐ鉄剤」だけで終わらせないことが、医療者のアウトカムに直結します。出血源が残っていれば再発しますし、慢性炎症が背景なら鉄の使い方(利用障害)そのものが病態で、同じ“貧血”でもフローチャートの出口(治療戦略)が変わるからです。

参考:投与前に採血を完了する重要性、MCV分類、鉄欠乏の原因検索とフォロー検査(網赤血球・フェリチン)の記載

貧血:検査診断フローチャートと実務上の注意(PDF)