病棟薬剤業務実施加算 算定要件
病棟薬剤業務実施加算 算定要件の前提(届出・対象患者・点数)
病棟薬剤業務実施加算は、「施設基準に適合して地方厚生局長等へ届け出た保険医療機関」であることが大前提です。加算は入院中患者に対して、薬剤師が病棟等で“病院勤務医等の負担軽減”および“薬物療法の有効性・安全性の向上”に資する薬剤関連業務を実施している場合に評価されます。根拠として、点数表上は「病棟薬剤業務実施加算1(週1回)120点」「病棟薬剤業務実施加算2(1日につき)100点」と整理されています。
また、療養病棟入院基本料・精神病棟入院基本料等を算定する患者については「入院した日から起算して8週間を限度」といった算定期間の制限が明記されているため、病棟種別の運用設計(算定対象患者の抽出ルール)が欠かせません。
加算1は週1回、加算2は1日につき算定という頻度の違いがあるため、「どの入院料・特定入院料の患者が対象か」を病棟の運用単位で固定しないと、現場では記録・請求の整合が崩れやすくなります(“人が頑張れば何とかなる”で回さない設計が重要です)。
算定の起点を間違えやすいポイントとして、加算は薬剤師個人の努力ではなく「施設としての届出・体制整備」が入口である点です。つまり、病棟業務を実施していても、届出が未完了なら算定できませんし、届出後でも施設基準を外すと算定の継続が危うくなります。
点数・算定対象の根拠(日本語で原典に近い形で確認できるページ)。
A244(点数、注、通知、病棟薬剤業務の定義、20時間要件、日誌5年保存など)https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r06_ika/r06i_ch1/r06i1_pa2/r06i12_sec2/r06i122_A244.html
病棟薬剤業務実施加算 算定要件の施設基準(専任薬剤師・医薬品情報管理室・体制)
施設基準は「病棟薬剤業務実施加算1」と「病棟薬剤業務実施加算2」で骨格が似ている一方、運用単位が異なります。加算1は“病棟ごと”に専任薬剤師を配置すること、加算2は“一般病棟の治療室”を単位として、治療室ごとに専任薬剤師を配置することが柱です。さらに、加算2は「加算1の届出を行っていること」が前提として組み込まれており、いきなり加算2だけ狙う設計はできません。
加算1の施設基準では、専任薬剤師配置に加え、医薬品情報の収集・伝達のための専用施設(医薬品情報管理室)を有すること、医薬品使用状況の把握と重要安全性情報を把握した際に速やかに措置できる体制、薬剤管理指導料の届出をしていること等がセットです。ここで重要なのは、施設基準が“置き物”ではなく、通知で「医薬品安全性情報等を収集・評価し、一元管理し、関係職種へ速やかに周知」まで踏み込んでいる点です。
現場で詰まりやすいのが「医薬品情報管理室に薬剤師が常時いなければいけないのか?」という論点ですが、通知上は“相談に対応できる体制を周知していれば足り、常時配置は不要”と読める整理になっています。つまり、監査で問われやすいのは“部屋があるか”よりも、相談窓口の周知・対応記録・情報の配信/回覧の実態です。
もう一つ、落とし穴になりやすいのが「全病棟に配置」の解釈です。通知では、算定対象外の病棟等も含め“病棟薬剤業務の実施に努めること”が書かれており、算定可否と業務実施の期待水準が完全に一致しない構造になっています。算定対象外だからゼロでよい、という姿勢は、内部統制(医療安全)として説明しづらい局面が出ます。
施設基準(告示+通知のまとまりが見やすいページ)。
施設基準・通知・疑義解釈の抜粋がまとまった参考(令和6年度改定)https://knowlety.jp/ika/r6-ks8-35_4/
病棟薬剤業務実施加算 算定要件の実施時間20時間と「含めない時間」
病棟薬剤業務実施加算で実務に直結する“核”が、1病棟(または治療室)あたり「1週間につき20時間相当以上」の病棟薬剤業務を確保する要件です。複数薬剤師で同一病棟を担当する場合は、実施に要した時間を合算して20時間相当以上で良いと整理されています。言い換えると、個々の薬剤師が20時間ではなく、病棟(治療室)という“単位”で20時間を満たす設計が可能です。
一方で、時間の“数え方”には明確な除外があり、ここが監査の地雷になりがちです。通知では、病棟薬剤業務の実施時間に「薬剤管理指導料(B008)」「退院時薬剤情報管理指導料(B014)」「退院時薬剤情報管理指導連携加算(小児入院医療管理料の注)」など、算定のための業務に要する時間は含めないとされています。現場的には「患者面談をしている時間=病棟業務」と短絡しやすいのですが、請求の世界では“別点数のための時間”はカウントできない、という切り分けが要ります。
意外と見落とされるのが、「病棟薬剤業務=病棟内で行う業務に限られない」という注意書きです。通知では、医薬品情報の収集や抗がん剤の無菌調製など、業務内容によっては病棟ではなく別の場所で実施され得るとされています。つまり、時間確保の設計では「病棟滞在時間」ではなく「病棟薬剤業務の定義に合致するタスク時間」を記録できるように、日誌の項目設計が重要になります。
さらに、過去の研究報告でも、病棟薬剤業務実施加算の算定条件として“病棟ごとに週20時間相当以上が必要”という構造自体が言及されており、制度が現場の業務設計(タスク配分や記録様式)に強く影響することが示唆されています。現場の納得形成では、制度文書だけでなく、こうした学術的な整理も“説明材料”になります。
関連論文(制度要件に触れている記載があるPDF):https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/41/3/41_147/_pdf
実施時間の運用で役立つ、現場チェック項目(監査前の自己点検の観点)。
- 週20時間の根拠は「誰が・いつ・何をした」の積み上げで説明できるか。
- 「B008/B014のための時間」を日誌上で区別できる設計になっているか。
- 20時間未達の“直近1か月”が病棟内に存在しないことを、月次で確認しているか。
- 複数薬剤師で合算している場合、情報共有の方法(カンファレンス、記録、引継ぎ)が形になっているか。
病棟薬剤業務実施加算 算定要件の届出様式40の4と病棟薬剤業務日誌(5年保存)
届出の実務では、施設基準に係る届出が「別添7の様式40の4」を用いることが明記されています。様式そのものは地方厚生局のサイト等で公開されており、区分(加算1/加算2)にチェックを付け、体制や薬剤師の従事状況などを添付書類として整理していく流れになります。監査での指摘を避けるには、届出書類の提出だけでなく、“届出に書いた体制が現場で本当に回っていること”を裏付ける運用文書(日誌、手順書、周知記録)がセットで必要です。
病棟薬剤業務の記録として、通知では「別紙様式30又はこれに準じた当該病棟に係る病棟薬剤業務日誌を作成・管理し、記入の日から5年間保存」とされています。ここで実務上重要なのは、日誌が“監査のためだけの紙”になると破綻する点です。日誌は、(1)週20時間の裏付け、(2)実施内容の妥当性(病棟薬剤業務の定義に合っているか)、(3)複数薬剤師の情報共有、(4)医薬品安全性情報の周知実績、の4つを同時に支える必要があります。
病棟薬剤業務日誌を強くする書き方のコツ(制度の要求に沿った粒度で)。
- 「目的」を短く書く(例:相互作用確認、投与量計算、持参薬確認、ハイリスク薬説明など)。
- 「アウトプット」を残す(例:医師へ文書提供、提案書を診療録添付、注意喚起を周知など)。
- 「時間」の根拠をタスク単位で積む(“病棟滞在”ではなく“病棟薬剤業務に該当する行為”)。
- 「患者に直結する業務」は可能な限り診療録にも記録(通知上“努めること”だが、説明力が上がる)。
届出様式の根拠(様式40の4の公開例)。
届出書添付書類(様式40の4)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/shikoku/r6-k40-4.pdf
病棟薬剤業務実施加算 算定要件を満たすための独自視点:医薬品情報管理室を「アラート運用」にすると20時間が安定する
検索上位の記事は、どうしても「要件の箇条書き」になりがちですが、実務で差が付くのは“要件を満たし続ける設計”です。特に、週20時間相当は、繁忙期・人員欠員・病棟移動で一気に崩れます。ここで独自視点として提案したいのが、医薬品情報管理室の役割を「受け身のDI」から「アラート運用の司令塔」に変える発想です。通知では医薬品安全性情報等を収集・評価・一元管理し、速やかに周知すること、さらに迅速対応が必要な場合に処方医・投与患者を速やかに特定して措置できる体制まで求めています。つまり、DIは“集める”だけでなく、“院内の行動を起こす”ところまでが制度上の期待値です。
この設計を取ると、病棟薬剤師の病棟薬剤業務が、次のように自然に“定義に合うタスク”へ寄っていきます。
- 重要安全性情報を受けた時に、該当患者抽出→主治医へ文書提供→患者説明(必要時)という一連の動きが生まれる。
- ヒヤリハットやインシデント情報がDIに集約され、病棟カンファレンスでの共有が定例化する。
- 「この病棟は20時間を切りそう」という運用リスクが、日誌集計と一緒に早期に見える化できる。
意外な効果として、DIのアラート運用は“医師の負担軽減”の説明にも使えます。医薬品情報の整理・対象患者の特定・代替案の提案が仕組み化されると、医師側は「調べる」「拾う」「配る」作業が減り、薬物療法の意思決定に集中しやすくなります。制度文言の「病院勤務医等の負担軽減」という目的と、現場の実感がつながりやすくなるのが利点です。
実務導入の小さな一歩(大掛かりなシステム導入をしない場合)。
- 院内周知は「電子でも紙でも可」とされているため、まずは週1回のDI速報(紙1枚)+重要時の臨時配信から始める。
- 重要安全性情報が出た際の“手順”を、医薬品業務手順書に落とし込む(誰が、いつまでに、どの媒体で、誰へ)。
- 日誌には「DI速報作成」「重要情報の周知」「対象患者特定」「医師への文書提供」など、制度上の定義に合う作業名を明確に残す。
制度上の“速やかな周知”が電子/紙どちらでもよいという疑義解釈を含む、通知・Q&Aがまとまった参考。
通知・疑義解釈を含む施設基準の整理(令和6年度改定)https://knowlety.jp/ika/r6-ks8-35_4/

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