交感神経の神経伝達物質とアセチルコリンとノルアドレナリン

交感神経の神経伝達物質と受容体

この記事の概要(医療従事者向け)
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結論の骨格

交感神経は「節前=アセチルコリン」「多くの節後=ノルアドレナリン」が基本で、汗腺などに例外があります。

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臨床で効くポイント

受容体(ニコチン受容体、ムスカリン受容体、α/β受容体)で薬理作用と症状の方向性を説明できます。

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独自視点(意外性)

「交感神経=ノルアドレナリン」の固定観念が、発汗・免疫・自律神経症状の読み違いにつながる場面を掘ります。

交感神経の神経伝達物質 アセチルコリンとノルアドレナリンの基本

 

交感神経の神経伝達物質を整理するとき、まず「どのシナプスの話か」を分けるのが安全です。神経線維内を興奮が伝わる“伝導”と、シナプス間で化学物質により情報が渡る“伝達”は別物で、ここで扱うのは後者(化学的伝達)です。自律神経系で中心になる神経伝達物質は、アセチルコリン(ACh)とノルアドレナリン(Nor)です。

基本原則として、交感神経・副交感神経の「神経節(節前線維→節後ニューロン)」で使われる神経伝達物質は、どちらもアセチルコリンです。

参考)自律神経系の化学伝達物質と受容体|神経系の機能

一方で、交感神経の「効果器(節後線維終末→標的臓器)」では、多くの臓器でノルアドレナリンが放出されます。

このため、国家試験レベルの暗記では「節前はACh、交感の節後はNor」とまとめられがちですが、臨床では“例外の存在”が患者説明や薬剤選択の盲点になります。

用語として、AChを放出する線維はコリン作動性神経、Norを放出する線維はアドレナリン作動性神経と呼びます。

また、Norは末梢神経終末だけでなく、副腎髄質からも(アドレナリンと一緒に)放出され、特に副腎由来のカテコールアミンはアドレナリンが多い、と整理されます。

この「神経終末のNor」と「副腎髄質のAdr/Nor」が混ざると、病態の説明が曖昧になりやすいので、文脈を固定して説明するのがコツです。

交感神経の神経伝達物質 ニコチン受容体とムスカリン受容体の位置づけ

交感神経の神経伝達物質を語るなら、受容体の種類まで押さえると説明が一気に臨床的になります。AChが結合する受容体(コリン作動性受容体)には、ムスカリン受容体(M)とニコチン受容体(N)があり、N受容体は自律神経節や副腎髄質などに存在します。

特に自律神経節に多いのはニコチン受容体で、ここが“節前ACh”の着地点になります。

ムスカリン受容体はGタンパク質共役型で、M1/M2/M3などのサブタイプに分かれ、心臓(M2)や腺・平滑筋(M3)などで反応が異なる点が臨床推論に直結します。

一方、ニコチン受容体はイオンチャネル内蔵型で、Na+透過などを介して比較的速い反応を担い、自律神経節(NN)と神経筋接合部(NM)でタイプが違うと整理されます。

この「N受容体=自律神経節」という視点を入れると、たとえば“節遮断薬”がどこで効くのか、逆に抗コリン薬の末梢症状の説明で何が起こるのかを、患者の症状に結びつけやすくなります。

交感神経の神経伝達物質 α受容体とβ受容体とノルアドレナリン

交感神経終末で放出されるノルアドレナリンは、アドレナリン作動性受容体(α/β受容体)に結合して作用します。

受容体は大別してα受容体とβ受容体に分かれ、さらにα1/α2、β1/β2/β3などのサブタイプがあり、臓器ごとの反応の差を作ります。

この分類が薬理(昇圧、気管支拡張、心拍数増加など)の言語になるため、医療者向け記事では“神経伝達物質の名前”だけで終わらせないのが重要です。

ポイントとして、ノルアドレナリンはβ2受容体には作用しにくい一方、アドレナリンはα1/α2/β1/β2/β3すべてに結合し得る、と整理されます。

この違いは、ストレス時の反応が「神経終末優位」なのか「副腎髄質(内分泌)優位」なのかを考えるヒントにもなります。

またα2受容体は交感神経終末にも存在し、Norの過剰遊離を抑える“自己受容体(ネガティブフィードバック)”として働く、という視点を入れると、中枢性α2作動薬の説明が通りやすくなります。

交感神経の神経伝達物質 汗腺とアセチルコリンの例外

臨床で最も有名な例外が「汗腺」です。基本的に交感神経系の節後ニューロンはノルアドレナリン作動性ですが、汗腺は例外的にアセチルコリンを神経伝達物質とするコリン作動性神経で、ここが“交感神経なのにACh”という混乱ポイントになります。

さらに、エクリン汗腺の発汗はアセチルコリン作動性神経の支配を受け、AChがムスカリン受容体サブタイプ3(M3)受容体に結合することで発汗が起こる、という流れまで押さえると説明が明確になります。

この例外が重要なのは、薬剤の副作用説明に直結するからです。抗コリン作用を有する薬剤は発汗を抑制し得る一方で、副交感神経系も抑制して散瞳(眼圧上昇)、血圧上昇、心拍数上昇、口渇、尿閉、便秘などが生じる可能性がある、と整理されています。

「汗=交感神経=ノルアドレナリン」と短絡すると、なぜ抗コリン薬で発汗が減るのかが説明しにくくなります。

意外な周辺知識として、原発性多汗症では病理が未解明ながら交感神経系の活動亢進を伴う自律神経障害が示唆され、交感神経節でアセチルコリンやα7ニコチン性ACh受容体サブユニットが高発現している、という報告が紹介されています。

「交感神経=カテコールアミン」だけでは拾いにくい、コリン作動性・ニコチン受容体側の仮説が見える点は、医療者が患者背景を説明するときの引き出しになります。

多汗の診療では、汗腺自体の異常よりも“神経側の制御”に視点を置くほうが、治療選択(外用、内服、手技)を整理しやすい場面があります。

交感神経の神経伝達物質 免疫細胞とアセチルコリンの独自視点

検索上位の解説は、交感神経の神経伝達物質を「AChとNor」として神経節・効果器で整理するものが中心です。

しかし臨床の“意外な盲点”として、交感神経系が免疫細胞の動態に関与し、脾臓ではアセチルコリンの供給源が単純に「副交感神経終末」では説明しきれない、という話があります。

具体的には、CD4陽性T細胞の一部がノルアドレナリン刺激を受けてアセチルコリンを産生し、脾臓におけるアセチルコリン供給源になっていることが示された、と解説されています。

この視点が面白いのは、「交感神経の神経伝達物質=神経末端から出る物質」という狭い定義だけだと見落とす一方で、実際の生体内では“神経—免疫”の相互作用でコリン作動性シグナルが増幅され得る、という示唆が得られる点です。

参考)交感神経系による免疫細胞の動態の制御 : ライフサイエンス …

ストレス反応(交感神経優位)と炎症・免疫の変動を患者説明するとき、「カテコールアミンで免疫が動く」だけでなく、「免疫細胞側がAChを作る」という方向性も話題にできると、説明に奥行きが出ます。

薬剤の話に無理につなげる必要はありませんが、“自律神経=循環と発汗だけ”という固定観念を崩す教育素材として使いやすいトピックです。

多汗症(汗腺=ACh)と、免疫領域(T細胞由来ACh)を同じ「アセチルコリン」という軸で眺めると、交感神経の神経伝達物質の理解が暗記から病態理解へ移りやすくなります。

結果として、交感神経に関連する症状(動悸、血圧変動、発汗など)を見たときに「Nor系」「ACh系」「受容体のどこか」を言語化しやすくなり、チーム内での情報共有もスムーズになります。

原発性多汗症の診断・病因(交感神経節、ACh、受容体の話の参考)。

多汗症とは | マルホ 医療関係者向けサイト
多汗症の症状についてご紹介しています。

自律神経の神経伝達物質と受容体(ACh/Nor、N受容体、M受容体、α/βの整理の参考)。

自律神経系の化学伝達物質と受容体|神経系の機能

交感神経系と免疫細胞(T細胞がAChを産生する話の参考)。

交感神経系による免疫細胞の動態の制御 : ライフサイエンス …

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