馬油アトピーと保湿剤
馬油アトピーの効果と保湿
アトピー性皮膚炎の基本は、皮膚のバリア機能低下と炎症・かゆみの悪循環を断つことです。日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」でも、治療の流れとして炎症を抗炎症外用薬で抑え、抗炎症外用薬を使わない日も保湿外用剤によるスキンケアを継続することが明記されています。したがって馬油を検討する場合も、位置づけは「保湿の選択肢の一つ(補助)」であり、標準治療の代替にはなりません。
一方、患者側では「馬油は人の皮脂に似ていて肌なじみが良い」「乾燥を防ぐ」といった期待が強く、実際にそのような説明をする上位記事が多いのも事実です。たとえば、馬油は皮脂に近い・保湿に役立つ可能性がある、という趣旨の情報が一般向けに紹介されています。こうした背景があるため、外来・薬局では頭ごなしに否定するより、「保湿の一類型としてのメリット」と「医療的に注意すべきデメリット」を同時に説明し、患者のアドヒアランスを落とさない会話設計が現実的です。
参考)https://atopi-store.com/apps/note/?p=213
医療従事者向けに言い換えると、馬油の主な役割は「皮膚表面の閉塞(オクルージョン)・摩擦低減による掻破刺激の緩和」という枠に入ります。逆に、炎症そのもの(湿疹病変の赤み・丘疹・びらん)を確実に抑えるのは、ガイドラインで推奨される抗炎症外用薬(ステロイド外用薬、タクロリムス、JAK阻害外用、PDE4阻害外用など)です。まず炎症を鎮静化し、その上で「保湿を何で続けるか」を議論する、という順番が安全です。
馬油アトピーの使い方と注意点
馬油を実際に使う場合、もっとも事故が少ないのは「炎症が強い部位にいきなり広範囲塗布しない」運用です。ガイドラインでも、アトピー性皮膚炎は湿疹の炎症を速やかに抑え、寛解導入できたら寛解を維持することが重要だとされています。つまり、滲出・びらん・強い紅斑がある部位は、まず抗炎症外用薬で沈静化させ、保湿は“刺激になりにくい方法”で継続するのが基本です。
患者指導で実用的なのは、次のように「運用ルール」を先に決めることです(曖昧にすると悪化しても塗り続けるケースが出ます)。
✅使い方のルール(例)
・塗る範囲:最初は二の腕内側など狭い範囲(いわゆるパッチテスト的)
・頻度:1日1回から開始(夜の入浴後など)
・量:テカテカにしない(少量で摩擦が減る程度)
・評価期間:2~3日で「かゆみ増悪・赤み増・ブツブツ増」があれば中止
・併用:抗炎症外用薬をやめない(自己判断で置換しない)
また、意外に見落とされるのが「塗る順番」です。保湿剤(クリーム等)と油分(馬油)の併用では、患者は“後から油で蓋”をしたくなりますが、皮疹が熱感・かゆみ優位の時は閉塞でかえってかゆみが増す人もいます。日本アトピー協会のスキンケア解説でも、ワセリンなどの閉塞で熱がこもり痒くなる場合がある旨に触れており、閉塞系は万人に快適とは限らない点を押さえるべきです。
馬油アトピーとパッチテスト
馬油で問題になりやすいのは「合わない」ケースを、患者が“好転反応”として解釈して塗り続けてしまう点です。臨床的には、(1)刺激性皮膚炎、(2)接触皮膚炎、(3)毛包炎様の悪化、(4)たまたま増悪期と重なった、などを切り分ける必要があります。ガイドラインでも、難治な局面や左右非対称・限局性の湿疹では接触皮膚炎などの鑑別が重要だと示されています。つまり「馬油で悪化したかもしれない」を軽視せず、鑑別の発想を持つことが医療側の価値です。
患者に勧めやすい現実的な方法としては、「医療機関の正式なパッチテスト」ではなく、まず家庭での試用(狭い範囲・短期間)を“パッチテスト的”に行い、疑わしければ医療機関で相談する流れが安全です。なお、医療機関で行うパッチテストは一般に貼付後48時間で剥離し判定を行い、その後も複数回判定するスケジュールが紹介されています(汗・入浴制限など注意点あり)。この具体的な手順を説明できると、患者は「自己流で続ける」から「検査・相談」へ行動を切り替えやすくなります。
参考)パッチテストについて
ここでの実務上のコツは、患者に「中止基準」を言語化して渡すことです。例えば次のようなチェック表は、患者が迷いにくく、結果的に炎症の長期化を防ぎます。
📝中止・受診の目安
・塗った部位だけ赤い、境界がはっきり、ヒリヒリする
・かゆみが塗布後すぐ増える/夜間の掻破が増える
・ブツブツ(毛穴一致の丘疹)や膿疱が増える
・びらん・滲出が増える/黄色い痂皮が出る(感染疑い)
馬油アトピーの独自視点
検索上位は「馬油の使い方」「おすすめ」「効果」といった話題に寄りがちですが、医療従事者向け記事として差別化しやすいのは「馬油を使うかどうか」よりも、「患者の治療行動を崩さずに“組み込む設計”」です。アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024では、治療目標(ゴール)を患者と共有し、患者教育を行い、適正治療のための説明をする重要性が書かれています。馬油の話題は、まさに患者教育の入口として使えます。
たとえば、患者が馬油を希望する場面は、①ステロイド不安、②保湿剤の使用感が嫌、③SNSの影響、④“自然派=安全”の思い込み、が混在しやすいです。ここで医療側がやるべきは、馬油の是非を断定することより「炎症を抑える薬」と「バリアを支える保湿」を分けて理解してもらい、後者の選択肢として“合うなら”馬油もあり得る、という整理です。ガイドラインの治療の骨格(寛解導入→寛解維持、保湿継続)に沿って説明すると、民間療法の暴走を抑えながら患者の納得を取りやすくなります。
さらに意外なポイントとして、「かゆみの増悪因子」を馬油の問題と誤認しやすい点があります。ガイドラインでは温熱・発汗・ウール繊維・精神的ストレスなどが痒みの誘発・悪化因子として重要とされています。つまり「馬油を塗ったらかゆい」は、塗布による閉塞で体表の熱・発汗が増えた、タイミングが入浴後で温熱刺激が強かった、など複合要因でも起こります。患者の生活背景(入浴温度、寝具、室温湿度、仕事ストレス)を同時に問診して“犯人探しを単純化しない”のが、医療記事として価値の高い視点です。
(スキンケアの基本と「保湿の位置づけ」:)
日本アトピー協会:スキンケア(保湿・刺激回避・清潔の考え方)
(標準治療の全体像と「保湿継続」「鑑別」の根拠:)
日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(PDF)
(接触皮膚炎評価の実務に役立つ:)
ともひ皮膚科:パッチテストの手順と注意点(貼付48時間、判定スケジュール等)

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