チオペンタール作用機序とGABA受容体

チオペンタール 作用機序

この記事で押さえる要点
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GABAA受容体での作用機序

バルビツール酸誘導体としてCl-チャネル開口を増強し、中枢抑制を起こす流れを整理します。

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超短時間作用の理由

「代謝が速いから」だけでは説明できない、分布(再分布)と血中濃度の見方を深掘りします。

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呼吸・循環への影響と注意

呼吸抑制、血圧低下、喉頭痙攣などを、作用機序と投与速度の観点で臨床的に整理します。

チオペンタール 作用機序:GABA受容体とCl-チャネル

チオペンタール(チオペンタールナトリウム)は、超短時間作用型のバルビツール酸系静脈麻酔薬として位置づけられ、鎮静・催眠(麻酔導入)に用いられます。

中核となる作用機序は、GABAa受容体(GABAA受容体)のサブユニットに存在する「バルビツール酸誘導体結合部位」に結合し、抑制性伝達物質GABAの受容体親和性を高め、Cl-チャネル開口作用を増強して神経機能抑制を促進する、という流れです。

医療現場の言い方に落とすと、GABAA受容体は「Cl-が流入して膜電位を過分極方向に動かし、発火しにくくする」受容体であり、チオペンタールはその抑制系を強めます。

参考)チオペンタール – Wikipedia

さらにバルビツレートは、ベンゾジアゼピン系と同じ“GABA系の増強”でも結合部位が異なる点が整理ポイントで、同じGABAA受容体複合体に作用しても薬理学的な差(増強の仕方・高用量での直接作用など)が臨床像に影響します。

参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2012/03/dl/kigyoukenkai-127.pdf

もう一段だけ踏み込むと、英文レビュー系の説明では「Cl-チャネルが開いている時間(open-time)を延長する」方向でGABA応答を増強する、とされます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1571590/

濃度依存性に、GABAの増強だけでなくGABAA電流の“直接活性化”が関与し得ることや、高濃度では興奮性(グルタミン酸性)伝達の抑制も示唆され、脳波のburst suppression〜isoelectricに至る現象の説明材料になります。

参考)Synaptic mechanisms of thiopen…

チオペンタール 作用機序:脳幹網様体賦活系と麻酔導入

添付文書系情報では、チオペンタールの麻酔作用は「脳幹の網様体賦活系を抑制することにより麻酔作用をあらわすと考えられている」と説明されます。

ここでいう網様体賦活系は、覚醒水準の維持に関わる中枢ネットワークで、ここが抑えられると意識が落ちやすくなります。

重要なのは「GABAA受容体での抑制増強」と「網様体賦活系抑制」が別々の話ではなく、前者の分子作用が最終的に後者のシステム抑制として表現される、と理解すると臨床と薬理がつながります。

またインタビューフォームには、大脳半球・視床下部・延髄など中枢神経軸に広範な抑制を示し、特に大脳皮質の介在ニューロンおよび脳幹網様体賦活系への作用が重視される、という記載もあり、部位の整理に役立ちます。

臨床で「就眠量」を見極めながら少量ずつ追加する運用は、薬力学(個体差)と安全性(呼吸・循環抑制)に直結します。

そのため、作用機序の理解は単なる試験対策ではなく、「なぜ急速投与で危ないか」「なぜ前投薬(抗コリンなど)の議論が出るか」を説明する道具になります。

チオペンタール 作用機序:血中濃度と超短時間作用

チオペンタールが「超短時間作用型」と言われると、代謝が速いからと誤解されがちですが、インタビューフォーム上でも血漿中濃度の減少が3相性を示すことが述べられ、初期相(数分)で効果が切れる説明として“分布(再分布)”の視点が欠かせません。

実際、健康成人で3.5mg/kg静注後に半減期が2.8分・48.7分・約5.7時間という三相を示したデータが紹介されており、「意識が戻る速さ」と「体から消える速さ」が一致しないことが読み取れます。

血中濃度の説明として、睡眠量静注で動脈血中濃度が急上昇し、脳に作用して意識消失・一時的呼吸抑制・血圧下降が起こり得る一方、短時間で濃度が下がると脳幹機能が回復し、一定濃度以下で覚醒反応や興奮が見られることが示されています。

この「上限(適性の上限)と下限(覚醒・興奮の下限)の間に濃度を保つ必要がある」という考え方は、ボーラス単回では短時間麻酔にしかならない理由を、薬物動態の言葉で説明してくれます。

また分布の項では、動物データとして脳への移行が速いこと、時間経過で脂肪が遅れてピークになることが述べられ、短時間作用と“後から残る”感覚(遷延鎮静や蓄積)を理解する手がかりになります。

つまり「超短時間作用」は“脳からの再分布が速い”ことで成立し、反復投与や長時間投与では脂肪など末梢コンパートメントへの分布も絡んで話が変わる、という整理が実務的です。

チオペンタール 作用機序:呼吸抑制と血圧低下

チオペンタールは呼吸中枢抑制作用を持ち、急速注入で一時的な呼吸停止を来し得るとされています。

インタビューフォームには「通常用いられる麻酔剤中最も強い中枢呼吸抑制作用を有する」との記載もあり、呼吸数より一回換気量・分時換気量の低下が主体で、注入速度が速すぎたり過度になると呼吸停止が起こり得ると説明されています。

循環面では、血管運動中枢抑制や末梢血管拡張、さらには直接心筋抑制も血圧低下に関与し、特に心筋障害がある場合は血圧降下が著しい可能性が示されています。

大量失血などで末梢血管が収縮している状況で末梢血管拡張が加わると循環破綻(collapse)を強め得る、という記載は、救急・周術期でのリスク評価に直結します。

さらに禁忌として、ショックや大出血による循環不全、重症心不全が挙げられており、薬理作用(抑制)と臨床判断(投与しない)が一本の線でつながっています。

注意点として「麻酔中は気道に注意して呼吸・循環の観察を怠らない」「人工呼吸器具を準備しておくことが望ましい」等も明記され、作用機序を知るほど“準備の意味”が具体化します。

チオペンタール 作用機序:独自視点として配合変化と沈殿

検索上位の一般解説では「GABAを増強する麻酔薬」で終わりがちですが、現場でトラブルになりやすい“意外な盲点”は配合変化です。チオペンタール製剤は強アルカリ性で、弱酸性の輸液等と配合するとチオペンタールが析出すると明記されています。

この析出は「薬が効かない」より先に「ライン閉塞」「微粒子のリスク」「投与量が実質的に不明確になる」など安全面に波及し得るため、薬理(pH)を手技に落とす視点として重要です。

具体例として、非脱分極性筋弛緩薬(ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物等)のような酸性薬剤と混合すると白色沈殿が生じるため、別ルート投与や回路洗浄など、直接混合しない運用が求められます。

レミフェンタニル塩酸塩とも混合で沈殿を生じるため、同様に投与経路を分けるか、同一経路なら洗浄を挟む必要があります。

「なぜ沈殿するのか」を作用機序と同じくらいの量で説明すると、チオペンタールが溶液で強アルカリ性(pH 10.2〜11.2)であること、酸性側に振れると遊離型が増えて溶解性が落ちる、という製剤学の話に帰着します。

この“製剤の性質”は、作用機序(GABAA受容体)とは別軸ですが、医療安全と薬剤管理の観点では同等に重要で、しかも一般記事では省略されがちな情報です。

必要に応じて、論文としてはGABAA受容体での作用(チャネル開口時間の延長、濃度依存性の直接活性化など)を扱う文献が参考になります。

Stereoselective interaction of thiopentone enantiomers with GABAA receptors(1999)
Synaptic mechanisms of thiopental-induced alterations in EEG activity(1996)

権威性のある日本語の参考(用量、禁忌、配合変化、作用機序の一次情報として有用)。

ラボナール(チオペンタールナトリウム)医薬品インタビューフォーム(最新版)