デキサメタゾンエリキシルと小児のクループ治療・副作用と飲ませ方

デキサメタゾンエリキシルの小児への使用

デキサメタゾンエリキシルの小児への上手な使い方
⚕️

クループ症候群への適応

犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)が特徴のクループ症候群に対し、喉の炎症を強力に抑える目的で使用されます。

👶

副作用と注意点

短期使用では副作用のリスクは低いですが、不眠や興奮などが見られることがあります。長期連用は避けるべきです。

💊

上手な飲ませ方

独特の苦味があるため、アイスクリームや濃い味のジュースに混ぜるなど、服薬を補助する工夫が効果的です。

デキサメタゾンエリキシルの小児クループ症候群への適応と効果

デキサメタゾンエリキシルは、強力な抗炎症作用を持つステロイド薬であり、小児の急性上気道閉塞、特にクループ症候群の治療において重要な役割を果たします。 クループ症候群は、主にパラインフルエンザウイルスなどのウイルス感染によって引き起こされる喉頭および気管の炎症で、生後6ヶ月から3歳の乳幼児に好発します。 特徴的な症状として、「オットセイが鳴くような」または「犬が吠えるような」と表現される犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)、嗄声(声がれ)、そして吸気性喘鳴(息を吸うときのゼーゼー音)が挙げられます。
夜間に症状が悪化する傾向があり、重症化すると呼吸困難に陥る危険性もあるため、迅速な診断と治療介入が求められます。 こうした喉頭浮腫による気道狭窄に対し、デキサメタゾンは強力な消炎作用によって浮腫を軽減させ、気道の確保と呼吸状態の改善をもたらします。

参考)クループ症候群の治療、検査


日本の「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」では、中等症・重症の喉頭気管支炎(クループ)に対して、臨床症状の改善と入院率の低下を目的として、デキサメタゾン(0.15mg/kg)の単回経口投与が推奨されています。 臨床研究においても、デキサメタゾン投与はプラセボと比較してクループスコアを有意に改善し、アドレナリン吸入の必要性や入院期間を減少させることが示されています。

参考)小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022のCQ.


効果の発現は比較的速やかで、経口投与後30分から2時間で効果が現れ始め、その効果は約24時間から48時間持続するとされています。 このため、多くの場合は1回の投与で症状の大幅な改善が期待でき、夜間の急な症状悪化に対する備えとして処方されることも少なくありません。

参考)1歳の子供、デキサメタゾンエリキシルの服用について – 赤ち…


参考リンク:クループの概要と治療について、より専門的な情報が記載されています。
MSDマニュアル プロフェッショナル版 – クループ

デキサメタゾンエリキシルの小児への具体的な投与量と注意点

デキサメタゾンエリキシルを小児、特にクループ症候群の治療に用いる際の投与量は、症状の重症度や体重に基づいて慎重に決定されます。 日本の小児呼吸器感染症診療ガイドラインでは、中等症以上のクループに対し、デキサメタゾンとして0.15mg/kgの単回経口投与が推奨されています。 一方で、海外の文献やUpToDateなどでは、古くから0.6mg/kgという高用量での投与が標準的とされてきました。
近年の研究では、0.15mg/kgの低用量でも0.6mg/kgの高用量でも、軽症から中等症のクループにおいては治療効果に有意な差はなかったとする報告が複数あります。 大規模なランダム化比較試験(RCT)では、デキサメタゾン0.15mg/kg投与群は、0.6mg/kg投与群に対して非劣性であったと結論付けられています。 これにより、副作用のリスクを考慮し、より低用量の0.15mg/kgを選択するケースが増えています。

ただし、重症例や、より迅速で確実な効果が求められる状況では、医師の判断により0.6mg/kgが選択されることもあります。 いずれの用量を選択するにせよ、多くは単回投与であり、症状の改善が見られない場合に限り、追加投与が検討されます。

参考)クループ – 19. 小児科 – MSDマニュアル プロフェ…


✅投与時の注意点

  • 正確な計量: デキサメタゾンエリキシル0.01%製剤は、1mLあたり0.1mgのデキサメタゾンを含有します。 例えば体重10kgの小児に0.15mg/kgを投与する場合、デキサメタゾン1.5mgが必要となり、製剤としては15mLを服用することになります。 正確な量をスポイトや計量カップで測り、過不足なく投与することが重要です。
  • 単回投与の原則: クループ治療の場合、基本的には1回の投与で治療が完了します。 保護者の判断で追加投与することは絶対に避けてください。
  • 他の薬剤との相互作用: 他に服用している薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝える必要があります。

参考リンク:デキサメタゾンエリキシルの公式な添付文書情報です。用法・用量の詳細が確認できます。
デキサメタゾンエリキシル0.01%「日新」 医薬品インタビューフォーム

デキサメタゾンエリキシルの副作用と長期投与のリスク

デキサメタゾンエリキシルは、クループなどの治療において高い有効性を示す一方で、ステロイド薬に共通する副作用のリスクも存在します。 ただし、クループ治療で用いられるような単回または短期間の投与では、重篤な副作用が発現する頻度は極めて低いと考えられています。
保護者が注意すべき比較的見られやすい副作用には、以下のようなものがあります。

参考)デキサメタゾンエリキシル0.01%「日新」(日新製薬株式会社…

  • 不眠・興奮: 薬剤の影響で一時的に寝つきが悪くなったり、機嫌が悪くなったりすることがあります。
  • 食欲亢進: ステロイドの作用により、食欲が増すことがあります。短期間であれば大きな問題にはなりませんが、長期化すると体重増加につながります。
  • 消化器症状: まれに胃腸の不快感や吐き気などが現れることがあります。

これらの症状は通常、薬剤の効果が切れれば自然に消失します。
一方で、デキサメタゾンを長期にわたり継続して使用する場合には、より慎重な管理が必要となります。小児の長期投与における主なリスクは以下の通りです。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068098.pdf


⚠️ 長期投与における潜在的リスク

  1. 発育抑制: 長期間のステロイド全身投与は、骨の成長を抑制し、低身長の原因となる可能性があります。 定期的な成長曲線のモニタリングが不可欠です。
  2. 免疫力の低下(易感染性): ステロイドは免疫機能を抑制するため、水痘(みずぼうそう)やおたふくかぜなどの感染症にかかりやすくなったり、重症化したりするリスクがあります。
  3. 頭蓋内圧亢進: 長期投与により、頭蓋内の圧力が上昇し、頭痛や嘔吐、視力障害などの症状が現れることがあります。
  4. 副腎不全: 長期間外部からステロイドを投与し続けると、体内でステロイドを産生する副腎の機能が低下します。この状態で急に薬を中断すると、倦怠感や吐き気、血圧低下などの離脱症状(副腎不全)を引き起こす危険性があります。
  5. その他: 満月様顔貌(ムーンフェイス)、中心性肥満、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、精神変調なども長期投与による副作用として知られています。

これらのリスクは、あくまで長期にわたる全身投与の場合に顕著となるものです。 クループ治療のように単回投与で完結する場合は、過度に心配する必要はありません。 しかし、アレルギー疾患や自己免疫疾患などで長期的なステロイド治療が必要な場合は、専門医による厳密な管理のもとで治療を進めることが極めて重要です。

デキサメタゾンエリキシルの味と上手な飲ませ方の工夫【保護者向け】

デキサメタゾンエリキシルは、小児のクループ治療において非常に有効な薬剤ですが、多くの保護者が直面する課題が「味」の問題です。 この薬剤は独特の苦味や風味があり、特に味覚が敏感な小児にとっては服用が困難な場合があります。 処方された量を確実に飲ませることは治療効果を得る上で不可欠であり、保護者の工夫が求められます。
実際に、海外の診療ガイドライン情報サイトであるUpToDateでも「デキサメタゾンの内服は味が悪い」と指摘されており、世界共通の課題であることがうかがえます。 嫌がって吐き出してしまうと、正確な投与量が不明確になり、十分な効果が得られない可能性があります。

参考)2019/8/31 文献紹介


そこで、以下にデキサメタゾンエリキシルを上手に飲ませるための具体的な工夫をいくつか紹介します。
🍨 味をマスキングする工夫

  • アイスクリームに混ぜる: チョコレートやバニラなど、味が濃く冷たいアイスクリームに混ぜ込むと、苦味を感じにくくなります。特にチョコレート味は苦味を隠しやすいとされています。
  • 濃い味のジュースやシロップと混ぜる: リンゴジュースやブドウジュース、チョコレートシロップ、メープルシロップなどと混ぜるのも有効です。ただし、柑橘系のジュースは薬の吸収に影響を与える可能性がゼロではないため、医師や薬剤師に確認するとより安心です。
  • 服薬補助ゼリーの活用: 市販されている服薬補助用のゼリーは、薬を包み込んで喉ごしを良くし、味や匂いを感じにくくさせるために設計されています。チョコレート味やブドウ味など、子どもの好みに合わせて選べます。
  • 少量の水で溶いて素早く飲ませる: スポイトなどを使って、舌の奥の方(味を感じにくい部分)に直接垂らし、すぐに水や好きな飲み物を飲ませて口の中に薬が残らないようにする方法です。

🚫 避けるべき飲ませ方

  • 哺乳瓶のミルクに混ぜる: 飲み残した場合に正確な投与量が分からなくなるだけでなく、ミルク自体を嫌いになってしまう可能性があるため推奨されません。
  • 無理やり飲ませる: 押さえつけて無理に飲ませようとすると、子どもが嘔吐してしまったり、薬そのものへの恐怖心を植え付けてしまったりする可能性があります。

どの方法を試す場合でも、薬を混ぜる食品や飲料は、一度で飲み切れる少量にすることがポイントです。 どうしても服用が難しい場合は、自己判断で中断せず、処方した医師や薬剤師に相談してください。場合によっては、他の剤形(錠剤を粉砕するなど)や代替薬を検討することもあります。

デキサメタゾンエリキシルに含まれる添加物と小児への影響

デキサメタゾンエリキシルを小児に投与する際、主成分であるデキサメタゾンの薬理作用や副作用に注目が集まりがちですが、医薬品の「添加物」にも目を向けることは、特に感受性の高い乳幼児への安全な薬物療法を実践する上で非常に重要です。 エリキシル剤は、有効成分を溶解し、味や保存性を向上させるために様々な添加物を含んでいます。
その中でも、デキサメタゾンエリキシルにおいて特に注意すべき添加物がエタノール(アルコール)です。

日本のデキサメタゾンエリキシル0.01%「日新」の添付文書によると、添加物として安息香酸ナトリウム、クエン酸水和物、D-ソルビトール液、プロピレングリコール、香料などが記載されています。 そして、「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」では、デキサメタゾンエリキシル製剤中に5%のエタノールが含まれていることが指摘されています。

参考)https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/530113_2454002S1157_1_01G.pdf


このガイドラインによれば、体重10kgの小児にデキサメタゾン0.15mg/kg(製剤として15mL)を投与する場合、摂取するアルコール量は0.75mL(15mL × 5%)となります。 これは「15mLのビールを飲ませるのと同等のアルコール量」に相当すると解説されており、医療従事者および保護者はこの事実を認識しておく必要があります。

🔬 なぜ小児へのエタノール投与に注意が必要なのか?
小児、特に乳幼児は、成人と比較して肝臓でのアルコール代謝能力が未熟です。 そのため、少量のエタノールでも体内に長時間留まり、以下のような影響を及ぼす可能性があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6105181/

  • 中枢神経抑制: 眠気、めまい、意識レベルの低下などを引き起こす可能性があります。
  • 低血糖: 肝臓での糖新生を抑制し、低血糖のリスクを高めることがあります。
  • 代謝性アシドーシス: 体が酸性に傾く代謝性アシドーシスを引き起こす危険性が報告されています。

国際的にも、小児用医薬品におけるエタノールなどの潜在的に有害な添加物の使用については、多くの議論がなされています。 欧米の医薬品規制当局は、新生児や乳幼児へのエタノール曝露を最小限に抑えるべきであるとの見解を示しており、安全な代替製剤の開発が求められています。
もちろん、クループ治療におけるデキサメタゾンエリキシルの単回投与で、重篤なアルコール中毒が起こる可能性は極めて低いと考えられます。 しかし、特に低出生体重児や新生児、肝機能に懸念のある小児に投与する際には、このエタノール含有量を念頭に置き、リスクとベネフィットを慎重に評価することが不可欠です。 医療従事者は、保護者に対してアルコールが含まれている可能性について情報提供し、投与後の様子を注意深く観察するよう指導することも、より安全な医療を提供する上で重要な責務と言えるでしょう。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7134587/


以下の学術論文は、小児医薬品における添加物の問題点について広くレビューしており、専門的な知見を深める上で有用です。
Excipients in the Paediatric Population: A Review