シックデイの休薬一覧:糖尿病治療薬や降圧薬の中止基準と注意点

シックデイにおける休薬薬の一覧

この記事のポイント
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糖尿病治療薬の休薬

SGLT2阻害薬やメトホルミンなど、シックデイ時に休薬すべき主要な糖尿病治療薬の種類と、その理由を詳しく解説します。

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降圧薬・NSAIDsの注意点

糖尿病治療薬以外で注意が必要な降圧薬、利尿薬、NSAIDsの休薬判断の基準と、腎機能への影響について説明します。

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特別な配慮が必要な患者

高齢者や認知症患者など、特に配慮が必要な場合のシックデイ対応のポイントと、家族や介護者への指導方法を提案します。

シックデイにおける糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬・メトホルミン等)の休薬基準

 

糖尿病患者さんが感染症や胃腸炎などで体調を崩す「シックデイ」は、血糖コントロールが著しく乱れやすい危険な状態です 。特に、普段服用している糖尿病治療薬の管理が重要となります。薬剤によっては、シックデイ時に継続すると重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、適切な休薬判断が求められます。ここでは、主要な経口血糖降下薬について、休薬の基準と理由を詳しく解説します。

特に注意が必要な薬剤の代表格がSGLT2阻害薬メトホルミン(ビグアナイド薬)です。

  • SGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンスなど):尿中に糖を排泄させることで血糖を下げますが、脱水を助長する作用があります 。シックデイでは食事や水分が十分に摂取できず脱水傾向になりやすいため、SGLT2阻害薬を継続すると、正常血糖ケトアシドーシスという危険な状態を誘発するリスクが高まります 。そのため、食事がとれないシックデイでは必ず休薬しなければなりません 。

  • メトホルミン(メトグルコなど)脱水状態では、重篤な副作用である乳酸アシドーシスのリスクが著しく増加します 。乳酸アシドーシスは死亡率も高い危険な状態であり、シックデイによる脱水がその引き金となり得ます 。したがって、発、下痢、嘔吐など脱水のリスクがある場合は速やかに休薬する必要があります 。

その他の薬剤についても、食事摂取量に応じて調整が必要です。

【シックデイ時の経口血糖降下薬の対応一覧表】

薬剤分類 主な薬剤名 シックデイ時の対応 理由・注意点
SGLT2阻害薬 フォシーガ、ジャディアンス、カナグルなど 原則中止 脱水を助長し、正常血糖ケトアシドーシスのリスクが増加するため 。
ビグアナイド薬 メトホルミン(メトグルコなど) 原則中止 脱水により乳酸アシドーシスのリスクが増加するため 。
スルホニル尿素(SU)薬 アマリール、グリメピリドなど 食事量に応じて減量・中止 食事量が少ないと重篤な低血糖を起こす危険性があるため 。
速効型インスリン分泌促進薬グリニド薬 スターシス、グルファストなど 原則中止 食事がとれない場合は低血糖リスクが高いため中止します。食後に服用する薬剤ではないため、食事量を確認してからの服用が推奨されません 。
DPP-4阻害薬 ジャヌビア、テネリア、トラゼンタなど 食事量に応じて継続または中止 低血糖のリスクは低いが、食事が全くとれない場合は中止を検討してもよい 。
α-グルコシダーゼ阻害薬 ベイスン、グルコバイなど 原則中止 消化器症状(腹部膨満、下痢など)を増悪させる可能性があるため 。
チアゾリジン薬 アクトスなど 中止してもよい 効果の持続時間が長く、中止しても血糖値への急激な影響は少ないため 。
GLP-1受容体作動薬(経口) リベルサス 消化器症状があれば中止 嘔気・嘔吐などの消化器症状を副作用として持つため、症状がある場合は中止する 。

なお、1型糖尿病やインスリンを使用している2型糖尿病の患者さんでは、食事がとれなくても基礎インスリンの注射を自己判断で完全に中止してはいけません 。インスリンを中断すると、高血糖や糖尿病ケトアシドーシスに陥る危険があるため、必ず主治医の指示を仰ぐ必要があります。

シックデイで注意すべき降圧薬・利尿薬・NSAIDsの休薬判断

シックデイの際に注意が必要なのは、糖尿病治療薬だけではありません。高血圧や心不全、腎臓病の治療に用いられる薬剤や、解熱鎮痛目的で使用される薬剤の中にも、シックデイ時に腎機能障害などのリスクを高めるものがあります。

特にRAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB)、利尿薬、NSAIDsの3種類は、急性腎障害(AKI)のリスクを増大させる可能性があるため注意が必要です 。「腎毒性のある薬」と患者が誤認し、自己判断で恒久的に服薬を中止してしまうといった問題も報告されており、医療従事者からの丁寧な説明が求められます 。

【シックデイ時に休薬を検討すべき主な薬剤】

  • RAS阻害薬(ACE阻害薬ARB:レニン・アンジオテンシン系に作用するこれらの降圧薬は、腎臓の輸出細動脈を拡張させることで腎保護的に働きます。しかし、脱水状態では腎臓への血流自体が低下しており、この状態でRAS阻害薬を続けると腎臓の灌流圧をさらに下げてしまい、急性腎障害(AKI)を引き起こすリスクがあります 。シックデイ時はこまめな血圧測定を行い、血圧が下がりすぎている場合は減量や中止を検討する必要があります 。

  • 利尿薬:体内の水分を排泄させることで血圧を下げ、心不全のむくみを改善する薬剤ですが、シックデイ時の脱水をさらに悪化させる可能性があります 。食事がとれず、脱水が懸念される状況では、一時的な休薬が推奨されます。

  • 非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsロキソプロフェンイブプロフェンなどのNSAIDsは、発熱や痛みに対して広く使われる薬剤です。しかし、腎臓の輸入細動脈を収縮させる作用があり、腎血流量を低下させます 。特に脱水状態ではこの影響が強く現れ、急性腎障害のリスクを著しく高めるため、シックデイ時の安易な使用は避けるべきです 。特に、RAS阻害薬や利尿薬を併用している患者さんではリスクがさらに高まるため、原則として使用は中止します。

これらの薬剤の休薬は、あくまで一時的なものです。体調が回復し、食事が十分に摂れるようになったら再開する必要があります。しかし、患者さん自身の判断で再開を忘れてしまうケースもあるため、「体調が良くなったら、必ず医師や薬剤師に相談して薬を再開しましょう」と具体的に指導することが重要です 。

参考:CKD患者におけるシックデイルールに関する論文
CKD 患者におけるシックデイ・ルールの臨床応用に 向けた課題と展望

シックデイ時の具体的な患者指導と緊急受診のタイミング

シックデイによる重篤な状態を防ぐためには、医療従事者による事前の患者教育(Patient Education)が極めて重要です 。いざという時に患者さん自身や家族が適切に行動できるよう、平時から具体的な指導を行っておく必要があります。指導の際は、口頭だけでなく、「シックデイカード」のような携帯できる資材を用いると、患者の理解度や実践度が高まることが報告されています 。

【患者指導のポイント】

  1. シックデイルールの説明
    「かぜ、発熱、下痢、嘔吐などで食事ができない日をシックデイと呼び、特別な対応が必要です」と定義から説明します 。その上で、なぜ特別な対応が必要なのか(血糖値が乱れやすい、薬の副作用が出やすいなど)を分かりやすく伝えます。

  2. 休薬・減薬する薬の明確化
    「どの薬を」「どのような時に」中止・減量するのかを具体的に指導します。特にSGLT2阻害薬やメトホルミンは原則中止であることを強調します 。「お薬手帳のこのページに印をつけておきましょう」など、視覚的に分かりやすく示す工夫も有効です。

  3. 水分と炭水化物の補給
    💧 脱水を防ぐため、水分補給が最も重要であることを伝えます。水やお茶だけでなく、経口補水液やスポーツドリンク、野菜スープなど、塩分やミネラルも補給できるものを推奨します。食欲がない場合でも、おかゆ、うどん、果物、ゼリーなど、消化が良く、糖質を含むものを少量でも摂るように指導します。

  4. 血糖自己測定(SMBG)の実施
    血糖値をこまめに(例:1日4回以上)測定し、記録するように指導します。インスリン使用者でなくても、シックデイ時は一時的に血糖測定を行うことで、高血糖や低血糖の早期発見につながります。

  5. 緊急受診のタイミングの周知
    📞 どのような状態になったら医療機関に連絡・受診すべきかを、明確な基準で示します。

  6. 【緊急受’}]

    項目 受診を強く推奨する基準
    食事・水分 嘔吐や下痢が続き、半日以上水分が全く摂れない
    高血糖 血糖値が350mg/dL以上の高血糖が続く(特に尿ケトン体陽性の場合)
    意識状態 意識がもうろうとする、ぐったりして動けない
    発熱 38℃以上の高熱が2日以上続く
    腹痛・呼吸 強い腹痛がある、息苦しい、呼吸が速い

    これらの指導は、患者さん本人だけでなく、同居する家族やキーパーソンにも共有しておくことが、万が一の事態を防ぐ上で非常に重要です。

    参考:日本糖尿病学会によるシックデイ対策の情報
    糖尿病患者の皆様へ:今一度シックデイ対策を

    高齢者や認知症患者におけるシックデイ対応の特別な注意点

    高齢の糖尿病患者さん、特に認知機能障害を合併している場合、シックデイの対応はさらに複雑かつ困難になります。これらの患者群は、典型的な症状を自覚しにくかったり、体調不良を適切に表現できなかったりするため、対応が遅れがちです。医療従事者は、この「脆弱性」を念頭に置いた、よりきめ細やかな指導と支援体制の構築が求められます。

    【高齢者・認知症患者に特有のリスクと課題】

    • 脱水・低血糖への高い感受性:高齢者はもともと体内の水分量が少なく、口渇感も感じにくいため、容易に脱水に陥ります 。また、食事量が少し減っただけで重症低血糖を起こすリスクも高く、これがさらなる認知機能の低下を招く悪循環につながる可能性があります 。

    • 症状の非典型性と訴えの欠如認知症患者さんは、発熱や倦怠感といったシックデイのサインを自覚し、他者に伝えることが難しい場合があります 。普段と比べて「なんとなく元気がない」「食事を残すようになった」「口数が減った」といった周囲の気づきが、シックデイ発見の唯一の手がかりとなることも少なくありません。

    • 服薬管理の困難さ:シックデイルールに従って「この薬は休んで、この薬は続ける」といった自己管理を行うことは、認知症患者さんにとっては極めて困難です 。薬を飲み忘れるだけでなく、休薬すべき薬を飲んでしまったり、逆に中止してはいけない薬(インスリンなど)をやめてしまったりするリスクがあります。

    【医療従事者に求められる独自のアプローチ】

    これらの課題に対応するためには、患者さん本人への指導だけでは不十分であり、介護者を巻き込んだサポート体制が不可欠です 。

    👵 介護者への具体的な指導ポイント

    1. 早期発見のための観察点:「普段との違い」に気づくことの重要性を強調します。「食欲はどうか」「水分は摂れているか」「トイレの回数」「会話の様子」など、具体的な観察項目をリストにして渡すと良いでしょう。

    2. 治療の極限までの単純化:可能であれば、シックデイ時に迷わないよう、治療レジメンをできるだけシンプルにしておくことを検討します。例えば、低血糖リスクの低い薬剤を選択する、多剤併用を避けるといった処方段階での工夫が求められます 。

    3. 緊急連絡網の確立:体調変化に気づいた時に、「誰に」「どのように」連絡すればよいかを明確にします。かかりつけ医訪問看護師、ケアマネージャーなど、複数の連絡先とそれぞれの役割を明記した一覧表を作成し、目につく場所に貼っておくよう指導します。

    4. 「とりあえず休薬」リストの作成:複雑な判断を避け、「食事がいつもの半分も食べられなかったら、まずこれらの薬(SGLT2阻害薬、メトホルミンなど)はお休みしてください」というように、アクションを単純化して指示することも有効な手段です。

    重症低血糖は認知症の独立した危険因子であり、シックデイ時の不適切な対応が高齢者の予後を大きく左右します 。患者さんの背景にある生活環境や認知機能、介護力までをアセスメントし、個別性の高いシックデイルールを構築・提供することが、専門職としての重要な役割と言えるでしょう。

    参考:高齢者糖尿病の療養指導に関する情報
    「認知機能障害を考慮した高齢者糖尿病の療養指導」


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