PHN(保健師)の医療現場での役割と地域連携・将来性

PHN(保健師)と医療の関わり

PHN(保健師)の医療における多岐にわたる役割
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予防医療の専門家

健康診断や保健指導を通じ、病気の予防と健康増進を支援します。

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地域医療のコーディネーター

住民、医療機関、行政をつなぎ、包括的なヘルスケア体制を構築します。

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未来のヘルスケアを創造

デジタルヘルスを活用し、個別化された新しい予防医療の形を提案します。

PHN(保健師)の医療現場における具体的な役割と業務内容

 

PHN(保健師)は、病気の予防と健康増進の専門家として、医療現場において重要な役割を担っています 。主な活動の場は、病院、クリニック、企業、行政機関、学校など多岐にわたりますが、どの現場でもその中心的な業務は「予防医療」の実践です 。

具体的な業務内容は以下の通りです。

  • 健康診断と事後措置: 住民や従業員の健康診断の企画・実施、そして結果に基づく保健指導を行います 。特に、生活習慣病のリスクが高い人に対しては、食生活や運動習慣の改善を促し、病気の発症を未然に防ぐための個別カウンセリングを実施します。
  • 健康相談: 身体的な健康問題だけでなく、メンタルヘルスに関する相談にも応じます 。ストレスチェックの結果を活用したり、個別面談を行ったりすることで、心の不調を早期に発見し、専門機関への紹介も含めた適切なサポートを提供します。
  • 感染症対策: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や結核、エイズなどの感染症に関する正しい知識の普及、予防接種の推進、感染発生時の疫学調査や拡大防止策の指導など、地域全体の感染症コントロールに貢献します 。特に災害時には、避難所での衛生管理や感染症予防が重要な任務となります 。
  • 地域保健活動の企画・運営: 地域の健康課題を分析し、それに基づいた健康教室やキャンペーンを企画・実施します 。例えば、高齢者向けの介護予防教室、子育て世代向けの育児相談会、働き世代向けの健康セミナーなどが挙げられます 。

このように、PHNは個人への直接的なケアだけでなく、集団や地域全体を対象とした健康づくりを推進する役割を担っており、医療機関だけではカバーしきれない広範な領域で活躍しています。

PHN(保健師)と看護師の医療行為における権限と責任範囲の違い

PHN(保健師)と看護師は、どちらも看護職の国家資格ですが、その法的根拠となる「保健師助産師看護師法」(保助看法)において、業務内容と権限に明確な違いが定められています 。この違いを理解することは、医療現場での連携を円滑にする上で非常に重要です。

最大の違いは、その主な役割にあります。

  • 看護師: 主な役割は「療養上の世話」と「診療の補助」です 。医師の指示のもと、病気や怪我を負った患者に対して、点滴、注射、採血などの医療行為や、身の回りのケアを行います 。主な目的は、患者の治療と回復を支援することです。
  • PHN(保健師): 主な役割は「保健指導」を通じた「疾病の予防」です 。看護師の資格を基盤に、さらに公衆衛生に関する専門知識を学び、人々が病気になるのを防ぎ、健康を維持・増進するための支援を行います。

医療行為に関する権限については、保助看法第37条に重要な規定があります 。これによると、看護師や保健師は、原則として医師の指示がなければ「診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為」をしてはならないとされています 。

参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_3787

つまり、PHN(保健師)も看護師と同様に、医師の具体的な指示がなければ単独で診断や治療といった医療行為を行うことはできません。しかし、PHNの業務の特性上、看護師とは異なる責任範囲が存在します。

PHN(保健師) 看護師
主な対象 乳幼児から高齢者まで、地域や職場のすべての人々(健康な人も含む) 病気や怪我を負った患者
主な目的 疾病の予防、健康の維持・増進 疾病の治療、回復の促進
法的根拠 保健師助産師看護師法 第2条 保健師助産師看護師法 第5条
医療行為の権限 医師の指示のもとでの診療の補助。ただし、主な業務は保健指導 。 医師の指示のもとでの診療の補助が中心業務の一つ 。

例えば、健康相談の場で相談者から特定の症状について聞かれた際、PHNは病名を診断するのではなく、症状から考えられるリスクを説明し、適切な医療機関への受診を勧奨する役割を担います。これは、病気を予防し、重症化を防ぐというPHNの重要な責任の一環です。

PHN(保健師)が担う地域医療連携と多職種協働の重要性

現代の医療は、単一の医療機関だけで完結するものではなく、地域全体で支える「地域包括ケアシステム」の構築が急務となっています。このシステムの中核を担う存在として、PHN(保健師)の役割に大きな期待が寄せられています 。

PHNは、地域住民の健康状態や生活背景を最も深く理解している専門職の一つであり、その知見を活かして、医療、介護、福祉、行政などの様々な機関をつなぐハブとしての機能を果たします 。

参考)エラー

地域医療連携におけるPHNの具体的な役割

  • 地域診断と課題の明確化: 地域の健康データを分析し、健康課題を明らかにします 。例えば、特定の地域で生活習慣病の罹患率が高い場合、その原因を調査し、対策を立案します。この情報は、地域の医療計画や健康増進計画の策定において、非常に重要な基礎資料となります 。
  • 関係機関とのネットワーク構築: 地域の医療機関、介護施設、訪問看護ステーション、さらには民生委員や自治会といった住民組織とも連携し、顔の見える関係を構築します 。これにより、支援が必要な住民を迅速に適切なサービスにつなげることができます。
  • 情報共有とコーディネート: 例えば、退院後の在宅療養が必要な患者がいる場合、PHNは病院のソーシャルワーカー、ケアマネジャー、訪問看護師などと連携し、在宅での療養環境がスムーズに整うよう調整役を担います。これにより、患者や家族は安心して在宅での生活に移行できます。
  • 住民と専門職の橋渡し: 専門的な医療情報や制度について、住民に分かりやすく説明し、必要な支援を受けられるように手助けします。逆に、住民の声を拾い上げ、それを地域の医療・福祉サービスに反映させるための提言も行います 。

多職種協働は、複雑化・多様化する住民のニーズに応えるために不可欠です 。PHNは、その専門性と地域に根差した活動を通じて、各専門職が持つ能力を最大限に引き出し、地域全体のヘルスケアの質を向上させるためのキーパーソンと言えるでしょう。

下記の参考リンクは、自治体保健師と地域の看護職との連携・協働の具体的な取り組みについてまとめた報告書です。地域包括ケアシステムにおける連携の好事例が紹介されています。

自治体保健師と地域の看護職の連携・協働による地区活動機能強化に向けた共同事業報告書

PHN(保健師)のキャリアパスと医療分野における将来性

PHN(保健師)は、その専門性を活かして多様なキャリアを築くことが可能です。医療分野においても、予防医療や公衆衛生の重要性が高まる中で、その活躍の場はますます広がっています 。

主なキャリアパス

  • 行政保健師: 市町村や都道府県、保健所などに勤務し、地域全体の健康政策の企画・立案から、住民一人ひとりへの保健指導まで、幅広い業務を担います。公衆衛生の最前線で、地域全体の健康を守るという大きなやりがいがあります 。
  • 産業保健師: 企業に所属し、従業員の健康管理を担当します。健康診断後のフォロー、メンタルヘルス対策、過重労働対策、職場環境の改善などを通じて、従業員が健康で安全に働ける環境を整えます 。企業の健康経営を支える重要な存在です。
  • 病院保健師: 病院やクリニックに勤務し、患者やその家族に対する退院支援、在宅療養支援、疾病予防の教育などを行います。治療だけでなく、患者が地域で安心して生活を続けられるようにサポートする役割が期待されています。
  • 学校保健師: 小学校、中学校、高等学校、大学などの教育機関で、児童・生徒・学生の心身の健康管理を担います。健康相談、保健教育、学校内の安全管理などが主な業務です 。

将来性と需要の高まり

少子高齢化、生活習慣病の増加、メンタルヘルス問題の深刻化など、日本社会が抱える健康課題は複雑化・多様化しています 。このような状況において、病気の治療だけでなく、発症そのものを予防する「予防医療」の視点が不可欠であり、その専門家であるPHNへの需要は今後さらに高まることが確実視されています 。

特に、以下の分野での活躍が期待されています。

  • メンタルヘルスケア: ストレス社会を背景に、心の健康を保つことの重要性が広く認識されるようになりました。PHNは、個人へのカウンセリングから職場全体のストレス対策まで、身体と心の両面からアプローチできる専門職として、その役割がますます重要になっています 。
  • 高齢者支援: 地域包括ケアシステムの推進に伴い、高齢者が住み慣れた地域で健やかに暮らし続けるためのサポートが求められています。PHNは、介護予防や認知症対策、在宅医療との連携など、多岐にわたる場面で中心的な役割を担います。
  • データヘルス: 健康診断データやレセプトデータなどを分析し、科学的根拠に基づいた保健事業を立案・評価する「データヘルス改革」が進められています。PHNには、これらのデータを活用して、より効果的な健康支援策を打ち出していく能力が求められます。

医学的知識を基盤に、人々の生活に寄り添い、個人から地域社会全体までを対象に健康を支えるPHNは、これからの日本の医療と健康を考える上で、なくてはならない存在であり続けるでしょう。

PHN(保健師)とデジタルヘルスが拓く予防医療の新たな可能性

テクノロジーの進化は、医療のあり方を大きく変えようとしています。特に、ICT(情報通信技術)を活用した「デジタルヘルス」は、PHN(保健師)の活動と非常に親和性が高く、予防医療の分野に新たな可能性をもたらすと期待されています 。これは、従来の画一的な健康指導から、一人ひとりの状態に合わせた「個別化医療」へとシフトする大きな原動力となります 。

PHNの活動は、これまで対面での面談や家庭訪問が中心でしたが、デジタルヘルスの導入によって、以下のような変革が起こりつつあります。

デジタルヘルスがもたらす変化

  • オンライン健康相談の普及: スマートフォンやPCを活用したビデオ通話による健康相談が広まっています 。これにより、地理的な制約や時間的な制約を受けずに、より多くの人が気軽に専門的なアドバイスを受けられるようになります。育児中の母親や、日中忙しい働き世代にとって、利便性の高いサービスです。
  • ウェアラブルデバイスやヘルスケアアプリの活用: スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスから得られる歩数、睡眠時間、心拍数といった日々の活動データや、ヘルスケアアプリに入力された食事記録などをPHNがモニタリングします 。これにより、個人の生活習慣を客観的に把握し、より具体的でパーソナライズされた保健指導が可能になります。例えば、「最近、睡眠時間が短い傾向にあるので、就寝前のスマートフォンの利用を控えてみませんか?」といった、データに基づいた的確なアドバイスが実現します。
  • 健康情報のプッシュ型提供: SNSや専用アプリを通じて、個人の年齢、性別、健康診断結果などに応じた健康情報をタイムリーに提供することができます 。例えば、特定健診の対象者には受診勧奨のメッセージを送ったり、花粉症の季節にはアレルギー対策の情報を配信したりと、必要な情報を必要な人に届けることが可能です。
  • 保健活動の効率化と質の向上: 問診票のオンライン入力や、各種行政サービスの電子申請などが進むことで、PHNは事務作業から解放され、より専門的な対人支援業務に集中できるようになります 。また、収集されたデジタルデータを分析することで、地域の健康課題をより正確に把握し、PDCAサイクルを回しながら保健活動の質を継続的に改善していくことができます 。

下記の参考資料は、デジタルヘルスがプライマリ・ケアの未来をどう変えるかについてまとめたものです。PHNの活動にも通じる、ICTを活用した次世代の保健医療システムのビジョンが示されています。

デジタルヘルスが可能にする プライマリ・ケアの未来

PHNがデジタルヘルスを積極的に活用することは、単なる業務の効率化に留まりません。これまで見過ごされがちだった健康課題の早期発見や、一人ひとりのライフスタイルに寄り添ったきめ細やかな支援を可能にし、まさに「患者・国民にとっての価値主導」のヘルスケアを実現する鍵となるのです 。PHNは、デジタルツールを使いこなすことで、公衆衛生の専門家として新たな価値を創造していくことが期待されています。

参考)https://www.nacphn.jp/02/daigiin/pdf/2023_file03.pdf



50年の研究活動のあゆみから保健師の未来を語る (PHNブックレット20)