IgA血管炎の大人の症状と紫斑・腹痛・腎症の関連性

IgA血管炎の大人の症状

大人のIgA血管炎:見逃せない症状と合併症
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多彩な初期症状

下肢の紫斑、関節痛、腹痛が3主徴。ただし症状の出現順や程度には個人差があります。

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原因とトリガー

上気道感染や薬剤が引き金になることが。異常なIgA免疫複合体が血管に沈着します。

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注意すべき合併症

最も警戒すべきはIgA腎症の発症・合併。長期的な尿検査によるフォローが不可欠です。

iga血管炎の多彩な初期症状:皮膚の紫斑・関節痛・腹痛

 

IgA血管炎(旧称:ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)は、全身の小型血管に炎症が起こる疾患です 。特に成人で発症した場合、小児とは異なる臨床像を呈することがあり、注意が必要です 。主要な症状は「3主徴」として知られています 。

1. 皮膚症状(紫斑) 😥

ほぼ全例で認められる最も特徴的な症状です 。

参考)腎・高血圧内科|IgA血管炎|順天堂大学医学部附属順天堂医院

  • 特徴: 主に下腿や臀部、腕に対称性に出現する、触れて少し盛り上がりを感じる紫斑(触知可能な紫斑)です 。押しても色が消えないのが特徴です 。
  • 大人の特徴: 小児に比べて、潰瘍や血疱(血豆)を伴う壊死性紫斑となることが多く、より重症化しやすい傾向にあります 。

2. 関節症状 🦵

約60~80%の患者さんで見られます 。

参考)IgA血管炎(IgA vasculitis: IgAV)、ヘ…

  • 特徴: 主に膝や足首などの大きな関節に、移動性の痛みや腫れが生じます 。関節リウマチのように関節が破壊されることはありません。
  • 対応: 通常、安静や対症療法で軽快しますが、痛みが強い場合は鎮痛薬が使用されます 。

3. 消化器症状 🤢

約60~70%の患者さんで見られます 。

  • 特徴: 腹痛や嘔吐、下痢、血便などが主な症状です 。多くは紫斑の出現後に現れますが、先行することもあります 。
  • 重症例: 成人では腸重積や腸管穿孔、大量下血といった重篤な状態に至るリスクも報告されており、緊急の対応が必要となる場合があります 。

これらの3主徴に加え、発熱や全身倦怠感といった非特異的な症状を伴うこともあります 。症状の出現順序や組み合わせは個人差が大きいため、いずれかの症状が見られた場合はIgA血管炎を鑑別に挙げることが重要です 。

参考)IgA 血管炎|難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資す…

iga血管炎の引き金となる原因:感染症や薬剤との関連

IgA血管炎の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、何らかの外的因子が引き金となり、免疫系の異常応答が起こることが病態の中心と考えられています 。

主な誘因として以下のものが知られています。

1. 感染症 🦠

最も一般的な誘因であり、報告の約30〜50%で先行感染が確認されています 。

これらの感染症により、体内で異常な構造を持つIgA1(糖鎖異常IgA1)が産生され、これが免疫複合体を形成し血管壁に沈着することで血管炎が引き起こされるという機序が提唱されています 。

Pathogenesis of IgA Vasculitis: An Up-To-Date Review (PMC)

この論文では、IgA血管炎の病態生理、特に糖鎖異常IgA1がどのように免疫複合体を形成し、血管壁に沈着して炎症を引き起こすかの詳細なメカニズムが解説されています。

2. 薬剤 💊

特定の薬剤の使用後にIgA血管炎が発症するケースも報告されています。

3. その他

  • 食物アレルギー: 牛乳や卵などの特定の食物が抗原となり、発症の引き金になることがあります 。
  • 悪性腫瘍: まれですが、癌などの悪性腫瘍に伴って発症することもあります 。

これらの因子が、遺伝的な素因を持つ人に作用することで、IgAを主体とする自己免疫反応が惹起され、IgA血管炎の発症に至ると考えられています 。

iga血管炎の診断と重要な検査所見

IgA血管炎の診断は、特徴的な臨床症状と検査所見を組み合わせて総合的に行われます 。特に、他の紫斑をきたす疾患との鑑別が重要です。診断には、米国リウマチ学会(ACR)の分類基準などが用いられます 。

ACRによる分類基準(1990年)

以下の4項目のうち、2項目以上を満たすとIgA血管炎と分類されます(感度87.1%, 特異度87.7%)。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/29/6/29_2018_JJTH_29_6_651-653/_pdf/-char/ja

  1. 触知可能な紫斑: 血小板減少を伴わない、隆起した紫斑。
  2. 発症年齢が20歳以下: 症状が最初に出現した年齢。
  3. 急性の腹痛: びまん性で、ときに虚血性腸炎を伴う腹痛。
  4. 生検での顆粒球浸潤: 皮膚生検の病理組織像で、細動脈・細静脈壁に顆粒球の浸潤を認める。

主要な検査所見

診断や重症度の評価、他疾患との鑑別のために以下の検査が行われます。

検査項目 主な所見と意義
血液検査
  • 血小板数: 正常であることが重要。血小板減少性紫斑病との鑑別点 。
  • 炎症反応: CRP上昇や赤沈亢進がみられます 。
  • 血清IgA値: 約半数の症例で高値を示しますが、特異的ではありません 。
  • 血液凝固系: 凝固機能は通常正常ですが、重症例では第XIII因子が消費性に低下することがあります 。
尿検査

腎合併症(IgA腎症)の評価に不可欠です。血尿や蛋白尿の有無を確認します 。症状が改善した後も、腎炎は遅れて発症することがあるため、定期的な検尿が極めて重要です 。

皮膚生検(病理組織検査)

診断確定に最も有用な検査です 。紫斑部の皮膚を採取し、顕微鏡で観察します。

  • 所見: 真皮浅層の小型血管(毛細血管後細静脈など)の壁に、好中球の浸潤と核破壊(白血球破砕性血管炎)を認めます 。
  • 免疫染色: 血管壁にIgAを主体とする免疫グロブリンの沈着が証明されれば、確定診断となります 。

アレルギー性紫斑病(IgA 血管炎) (J-STAGE)

この資料では、IgA血管炎の診断基準や検査所見について、図表を用いて分かりやすく解説されています。

iga血管炎の治療法と予後:ステロイド治療の効果と副作用

IgA血管炎の治療は、症状の重症度に応じて方針が決定されます。基本的には予後良好な疾患ですが、特に成人では重症化や合併症のリスクを考慮した治療選択が重要です 。

治療の基本方針

  1. 対症療法(軽症例)

    皮膚症状、関節症状が中心で、内臓病変が軽微な場合は対症療法が基本となります 。

    参考)IgA血管炎|大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学

    • 安静: 特に下肢の紫斑に対しては、安静と下肢の挙上が推奨されます 。
    • 薬物療法: 関節痛に対してはアセトアミノフェンなどの鎮痛薬が使用されます 。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腎機能を悪化させる可能性があるため、使用には注意が必要です。
  2. ステロイド療法(中等症〜重症例)

    高度な皮膚症状(壊死性潰瘍など)、強い消化器症状、または腎症を認める場合には、ステロイドの全身投与が第一選択となります 。

    • 効果: 腹痛や関節痛には比較的速やかな効果が期待できます 。腎症の進行抑制にも有効とされています 。
    • 投与法: 通常、プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日程度の経口投与から開始し、症状の改善に合わせて漸減していきます 。
    • 副作用: 副作用にも十分な注意が必要です。易感染性、体重増加、高血圧糖尿病骨粗鬆症、ムーンフェイスなど、長期使用に伴うリスク管理が不可欠です 。
  3. 免疫抑制薬・その他の治療(重症・難治例)

    ステロイド抵抗性や重篤な腎障害を伴う場合は、より強力な免疫抑制療法が検討されます 。

予後

小児では一般的に予後良好ですが、成人発症例では腎機能予後が悪化する傾向にあり、注意が必要です 。

参考)KAKEN — 研究課題をさがす

  • 腎機能: 最も予後を左右する因子は腎障害(IgA腎症)の重症度です 。成人発症例の一部は、末期腎不全に至る可能性があります。
  • 再発: 約40%の症例で再燃が見られると報告されており、長期的な経過観察が重要です 。

IgA血管炎 – 大垣中央病院

早期発見と速やかな治療開始が予後改善に重要であること、またステロイド治療の副作用について詳しく解説されています。

iga血管炎の最も注意すべき合併症:IgA腎症への移行リスクと長期管理

IgA血管炎において最も警戒すべき合併症は、腎臓の障害、すなわち IgA腎症 の発症・合併です 。これは、特に成人発症例において、長期的な予後を大きく左右する最も重要な因子です 。

IgA血管炎とIgA腎症の密接な関係

両疾患は、病態生理学的に非常に類似した疾患、あるいは一連の疾患スペクトラムであると考えられています 。

参考)https://chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse3274.pdf

  • 共通の病態: どちらも糖鎖異常IgA1が関与し、IgAを主体とする免疫複合体が形成されることが病態の根幹にあります 。
  • 沈着部位の違い: 免疫複合体が全身の小型血管に沈着すればIgA血管炎、主に腎臓の糸球体メサンギウム領域に沈着すればIgA腎症と診断されます 。IgA血管炎の患者さんでは、皮膚症状などがなくても腎生検を行うとIgA腎症と同様の所見が認められることが多くあります。

腎障害のリスクと長期管理の重要性

  • 発症率: IgA血管炎の患者のうち、20~60%に腎障害が認められると報告されています 。
  • 発症時期: 腎症は、IgA血管炎の初期症状と同時に出現することもあれば、数週間から数ヶ月、時には数年経ってから顕在化することもあります 。このため、初期症状が軽快した後も油断は禁物です。
  • 成人発症のリスク: 成人で発症したIgA血管炎は、小児に比べて重篤な腎炎を合併しやすく、末期腎不全に至るリスクが高いことが指摘されています 。
  • 長期的なモニタリング: 症状が完全に消失した後も、少なくとも半年〜1年、場合によっては数年間にわたる定期的な尿検査(血尿・蛋白尿のチェック)と血圧測定が不可欠です 。これにより、腎症の早期発見・早期治療介入が可能となります。

腎症が疑われた場合の対応

定期的な検査で持続的な血尿や蛋白尿が認められた場合は、腎生検による組織学的評価が必要となります。これにより、腎症の活動性や重症度を正確に把握し、ステロイドや免疫抑制薬を用いた適切な治療方針を決定します。早期の治療介入が、腎機能の保持と長期予後の改善に直結します 。

参考)IgA血管炎

IgA血管炎の診療においては、皮膚や関節、消化器症状といった急性期の症状管理だけでなく、将来的な腎不全のリスクを常に念頭に置いた、息の長いフォローアップ体制を構築することが極めて重要と言えるでしょう。

IgA血管炎の腎炎発症予測因子の確立 (KAKEN)

本研究では、IgA血管炎とIgA腎症の共通のメカニズムに着目し、血清中のバイオマーカーを測定することで腎炎発症を予測する試みがなされています。成人発症例の腎予後が悪いことが強調されています。


皮膚科の臨床 2025年1月号 血管炎