顎の下を押すと痛い症状の治し方
顎の下が痛む主な原因、リンパ節炎と唾石症の症状と違い
顎の下を押して痛みを感じる場合、その原因は多岐にわたりますが、特に頻度が高いのが「リンパ節炎」と「唾石症」です 。
リンパ節炎は、ウイルスや細菌の感染によって、首や顎の下にあるリンパ節が炎症を起こして腫れる病気です 。顎の周辺には多くのリンパ節が存在し、風邪や扁桃炎、虫歯、歯周病などが原因で反応性に腫れることがあります 。
リンパ節炎の主な症状
一方、唾石症（だせきしょう）は、唾液を分泌する「顎下腺（がっかせん）」や「耳下腺（じかせん）」の中に、カルシウムなどを成分とする石（唾石）ができる病気です 。唾液の流れが妨げられることで、食事のたびに痛みや腫れが生じやすくなります 。
唾石症の主な症状
- 食事中や食後に顎の下が腫れて痛む（特に酸っぱいものを食べた時に顕著）
- 痛みのピークは食後で、その後徐々に軽減する
- しこりを触れることがある
- 感染を伴うと、強い痛みや発熱（急性顎下腺炎）を引き起こす
この二つの疾患の鑑別は、症状が現れるタイミングが重要です。リンパ節炎の痛みは持続的なことが多いのに対し、唾石症の痛みは食事と明確に関連して強くなる傾向があります。正確な診断のためには、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科での画像検査（超音波、CTなど）が不可欠です 。
唾石症について、より詳しい情報が掲載されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/112/12/112_12_1143/_pdf
顎の下の痛みは顎関節症や虫歯の可能性も？見分け方と対処法
顎の下の痛みは、リンパや唾液腺の問題だけでなく、顎の関節や歯が原因である可能性も考慮する必要があります 。「顎関節症」や「虫歯」が進行した場合にも、関連痛として顎の下に痛みが生じることがあるためです 。
顎関節症は、顎の関節やその周りの筋肉（咀嚼筋）に異常が生じる病気です 。主な原因として、歯ぎしりや食いしばり、ストレス、噛み合わせの異常、片側だけで噛む癖などが挙げられます 。
顎関節症の主な症状
- 口を開けるとカクカク音がする、またはじゃりじゃり音がする
- 口が開きにくい（開口障害）
- 顎の関節やこめかみ、頬の筋肉を押すと痛い
- 頭痛や肩こりを伴うことがある
虫歯が進行し、歯の根の先端に膿が溜まる「根尖性歯周炎」や、さらに炎症が顎の骨にまで広がる「顎骨炎」になると、顎の下のリンパ節が腫れたり、強い痛みを引き起こしたりします 。特に下の奥歯の虫歯は、顎の下の痛みとして感じられやすいです。
歯が原因の場合の症状の特徴
- 特定の歯に痛みや違和感がある
- 歯茎が腫れている、または膿が出ている
- 温かいものや冷たいものがしみる
- 噛むと痛い
- 何もしなくてもズキズキ痛む
これらの症状がある場合は、歯科または歯科口腔外科を受診する必要があります 。顎関節症は歯科や口腔外科、一部の整形外科で治療が可能です 。虫歯が原因の場合は、根本的な歯の治療を行わない限り、痛みや腫れを繰り返すことになります。
日本顎関節学会による、顎関節症のセルフチェックや対処法についての情報がまとめられています。
顎の下の痛みを和らげるセルフケアと注意点、ストレス管理の重要性
顎の下の痛みの原因がはっきりするまでの間、あるいは軽度の症状を緩和するために、いくつかのセルフケアを試すことができます。ただし、痛みが強い場合や日に日に悪化する場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診してください 。
👩⚕️ すぐにできるセルフケア
- 安静にする: 硬い食べ物を避け、会話を控えめにするなど、顎への負担を減らしましょう。
- 冷却または温める: 炎症による急な痛みや腫れには、冷却シートなどで冷やすのが有効です 。一方、筋肉の緊張による慢性的な痛みには、蒸しタオルなどで温めて血行を促進すると楽になることがあります 。
- マッサージ: 痛みのある顎の下や、関連する頬・こめかみの筋肉を、指の腹で優しく円を描くようにほぐします 。ただし、強い痛みを感じる場合は中止してください。
- 開口ストレッチ: 口をゆっくり大きく開けたり、顎を左右に動かしたりするストレッチも、筋肉の緊張緩和に効果的です 。痛みを感じない範囲で行いましょう。
- 市販薬の利用: 痛みが辛い場合は、ロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬（NSAIDs）が有効な場合があります 。ただし、胃腸への負担を考慮し、空腹時を避けて服用しましょう。連用は避け、あくまで一時的な対策と捉えてください。
また、見過ごされがちですが、ストレスは顎周りの筋肉を無意識に緊張させ、歯ぎしりや食いしばりを誘発する大きな要因となります 。これが顎関節症や関連痛を引き起こすことがあります。リラックスできる時間を作り、深呼吸や趣味などで上手にストレスを解消することも、長期的な改善には不可欠です 。
顎の下の痛みで病院へ、何科を受診すべきか？緊急性の高い症状
「顎の下が痛い」という症状で病院に行くべきか迷った場合、また何科にかかればよいかわからないことは少なくありません。基本的には、以下の診療科が主な相談先となります 。
🏥 受診する診療科の目安
- 耳鼻咽喉科: 喉の痛み、飲み込むときの痛み、声のかすれ、しこりや腫れが主な症状の場合。リンパ節炎、唾液腺の病気（唾石症、顎下腺炎）、悪性腫瘍などを専門とします 。
- 歯科・歯科口腔外科: 歯の痛み、歯茎の腫れ、噛み合わせの違和感、口が開きにくいといった症状がある場合。虫歯、歯周病、顎関節症、顎の骨の炎症などを専門とします 。
どちらか判断に迷う場合は、まず「耳鼻咽喉科」を受診するのが一般的です。耳鼻咽喉科で歯や顎関節が原因と判断されれば、適切な歯科を紹介してもらえます。
特に、以下のような緊急性の高い症状が見られる場合は、放置せずにできるだけ早く医療機関を受診してください。
🚨 すぐに受診すべき危険なサイン
- 痛みが非常に強く、我慢できない
- 腫れが急激に大きくなっている
- 口がほとんど開かなくなった
- 呼吸がしにくい、息苦しさを感じる
- 高い熱が出ている
- しこりが2～3週間以上消えず、徐々に大きくなっている
- しこりが硬く、動かない
これらの症状は、重度の感染症（蜂窩織炎など）や、悪性腫瘍（がん）の可能性も示唆します。特に、しこりが長期間続く、大きくなる、硬いといった特徴は注意が必要です 。早期発見・早期治療が重要ですので、ためらわずに専門医に相談しましょう。
顎の下の痛みが示す意外な病気、悪性腫瘍や全身疾患のサインを見逃さないために
顎の下の痛みは、一般的な炎症や顎関節症だけでなく、稀ではありますが、生命に関わる重大な病気の初期症状である可能性も否定できません。医療従事者としては、常に最悪のケースを想定し、鑑別診断を進める必要があります。
1. 悪性腫瘍（がん）
顎の下には唾液腺（顎下腺）やリンパ節が多数存在するため、これらの組織から発生する悪性腫瘍の可能性があります。
- 顎下腺がん: 顎の下にある唾液腺に発生するがんです 。初期は痛みのないしこりとして触れることが多いですが、進行すると神経に浸潤し、痛みや顔面神経麻痺（顔の動きが悪くなる）を引き起こすことがあります。
- 悪性リンパ腫: 血液のがんの一種で、リンパ節が腫れるのが特徴です 。通常、痛みはないことが多いですが、急に大きくなる場合や、炎症を伴うと痛みが出ることがあります。発熱、体重減少、寝汗などを伴う場合は特に注意が必要です。
- 口腔がんや咽頭がんの転移: 口の中や喉にできたがんが、首のリンパ節に転移してしこりや痛みを引き起こすことがあります 。
これらの悪性腫瘍を疑うサインは、「硬くて動かないしこり」「数週間にわたって大きくなる」「原因不明の痛みや痺れ」などです。穿刺吸引細胞診や組織生検によって確定診断を行います 。
2. 全身性疾患の関連痛
顎や顔面の痛みは、心臓の病気が原因で生じる「関連痛」であるケースも稀に報告されています。
- 狭心症・心筋梗塞: 心臓への血流が不足することで胸に痛みが生じる病気ですが、その痛みが左肩や腕、そして顎に放散することがあります。特に高齢者や糖尿病患者では、胸の痛みより顎の痛みとして自覚されることがあるため注意が必要です。運動時に顎が重く痛む、といった症状の場合は心臓の検査が推奨されます。
3. その他の稀な原因
- 側頭動脈炎（巨細胞性動脈炎）: 高齢者に多い自己免疫疾患で、こめかみ付近の動脈に炎症が起こります。頭痛や視力障害が主な症状ですが、ものを噛むと顎がだるくなる「顎跛行（がくはこう）」という特徴的な症状が見られます。
顎の下の痛みという一つの症状から、様々な可能性を考慮し、丁寧な問診と診察を通じて鑑別診断を行うことが極めて重要です。患者が「ただの炎症」と思い込んでいる場合でも、これらの重篤な疾患の可能性を念頭に置いた対応が求められます。