膜タンパク質と輸送タンパク質の違い
膜タンパク質とは何か
膜タンパク質は、細胞膜に埋め込まれたり結合したりしているタンパク質の総称です。生体内の全タンパク質の約3分の1を占めており、ほとんどの病気と関係する重要な分子です。膜タンパク質は、内在性膜タンパク質と外在性膜タンパク質に大別され、特に内在性膜タンパク質は膜を貫通する構造を持っています。膜貫通型タンパク質の膜貫通部位は、βバレルまたはαヘリックス構造をしており、一回膜貫通型や複数回膜貫通型など、構造的多様性を示します。
輸送タンパク質の膜タンパク質における位置づけ
輸送タンパク質は、生体膜を貫通して物質の輸送を行う膜タンパク質の一種です。膜輸送体、トランスポーター、輸送担体とも呼ばれ、細胞膜を介した物質輸送を担っています。つまり、膜タンパク質は広い概念であり、その中に輸送機能を持つ輸送タンパク質が含まれる包含関係にあります。膜タンパク質には輸送以外にも、受容体機能、酵素活性、細胞接着など多様な役割がありますが、輸送タンパク質は物質の膜透過に特化した機能を持っています。
参考)膜輸送タンパク質の分子機構の構造基盤 : ライフサイエンス …
膜タンパク質の輸送機能:チャネルとキャリアの構造的違い
輸送タンパク質は、構造と機能の違いから主にチャネルタンパク質とキャリアタンパク質に分類されます。チャネルタンパク質は孔を持つタンパク質で、イオンなどの小さな分子が通過できるトンネルのような構造を形成しています。代表的な例として、水分子を通すアクアポリンや、ナトリウムイオンを通すナトリウムチャネル、カリウムチャネルなどがあります。一方、キャリアタンパク質は孔を持たず、特定の物質が結合すると立体構造が変化し、膜の反対側に物質を運ぶメカニズムを持っています。グルコース輸送体がキャリアタンパク質の典型例です。
参考)チャネルタンパク質とキャリアタンパク質の違いとは?分かりやす…
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チャネルタンパク質は内部環境と外部環境の両方に同時に開くことができ、分子が途切れることなく拡散できます。これに対して、キャリアタンパク質は内側のゲートと外側のゲートを同時には開かず、順番に開閉します。チャネルタンパク質の輸送速度は非常に速いのに対し、キャリアタンパク質は構造変化を伴うため輸送速度が遅くなります。
膜タンパク質による能動輸送と受動輸送
輸送タンパク質による物質輸送は、エネルギーの使用有無によって能動輸送と受動輸送に分けられます。受動輸送は、濃度勾配に従って物質が移動する輸送で、エネルギーを必要としません。促進拡散とも呼ばれ、親水性の低い物質の移動を輸送タンパク質が促進します。チャネルタンパク質は主に受動輸送に関わり、イオンなどを濃度の高い方から低い方へ輸送します。
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能動輸送は、濃度勾配に逆らって低濃度側から高濃度側へ物質を移動させる輸送で、ATPなどのエネルギー源が必要です。キャリアタンパク質は能動輸送を行うことができ、エネルギーを使って物質を濃度勾配に逆らって輸送します。膜輸送タンパク質は、膜を介したイオンの電気化学的勾配やATPをエネルギー源として利用しています。
膜タンパク質の生理的役割と医療への応用
膜タンパク質は細胞の生存に不可欠で、栄養物の取り込み、老廃物の排出、外界の刺激に対する応答、細胞の運動など、多様な生理機能を担っています。輸送タンパク質は、それぞれ決まった物質を輸送する働きを持ち、細胞内外の物質バランスを維持しています。例えば、Na+とH+の交換輸送体は、細胞内のpH調節や浸透圧調節に重要な役割を果たします。
参考)https://krebs.iab.keio.ac.jp/Work/Texts/biobasic3-1-14.pdf
医療分野では、膜タンパク質が多くの病気と関連しているため、創薬の重要なターゲットとなっています。実際、市販されている薬の約6割は膜タンパク質に結合して機能を変える仕組みで作られています。近年の構造生物学の進歩により、膜タンパク質の結晶構造解析が次々と成功し、原子レベルでの構造情報をもとに機能メカニズムを議論できる時代になってきました。この構造情報は、新薬のデザインに直接活用されています。
参考)病気に関連する膜タンパク質のカタチを明らかにし、新薬の開発を…
意外な事実として、膜タンパク質のトポロジー(細胞膜への挿入様式)は固定されていると長年考えられてきましたが、同一の膜タンパク質が細胞膜への挿入前後でトポロジーを切り替える現象が発見されています。これにより、膜タンパク質は発現量や構造の変化だけでなく、トポロジー変化によっても機能を変えている可能性が示唆されており、細胞生物学的に重要な研究課題として注目されています。
参考)3、 膜タンパク質トポロジー状態の制御メカニズムとは?