コクサッキーウイルスの症状と感染経路
コクサッキーウイルス感染症の潜伏期間と初期症状
コクサッキーウイルスは、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属する、エンベロープを持たない一本鎖プラス鎖RNAウイルスです。このウイルスは1948年にニューヨーク州コクサッキーのポリオ類似患者から初めて分離されたことから、この名前が付けられました。A群とB群の2種類に分類され、A群は24型、B群は6型に細分化されます。
感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、一般的に3~5日程度とされています。ウイルスは口や鼻、目の粘膜から体内に侵入し、まず咽頭や小腸で初期増殖を行います。その後、増殖したウイルスが血中に入り全身に広がり、手足の皮膚や口腔粘膜などの標的組織で増殖することで症状が出現します。
初期症状としては、口の中、手のひら、足底や足背に2~3mmの水疱性発疹が複数出現します。発熱は患者の約3分の1にみられますが、38℃以下のことが多く、高熱が続くことは通常ありません。ほとんどの発病者は3~7日のうちに自然治癒する経過をたどります。
参考)手足口病って?
コクサッキーウイルス感染症の子供と大人の症状の違い
コクサッキーウイルス感染症は子供と大人で症状の重症度や特徴に違いがあります。主に4歳以下の幼児、特に2歳以下の乳幼児が感染の中心で、年間を通じて夏季(特に7月)に流行のピークを迎えます。子供の場合、手のひら、足の裏、口の中に周辺が赤い数ミリ大の水疱が複数出現し、痛みやかゆみはあっても軽度です。
参考)手足口病|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
一方、大人が感染すると症状が重く出やすいことが特徴です。発疹の痛みは大人のほうが強く、足裏などにひどく出ると歩けないほどになる場合があります。また、インフルエンザにかかる前のような全身倦怠感、悪寒、関節痛、筋肉痛などの症状が出ることがあるのも大人の特徴です。特にコクサッキーA6型による感染では、発疹が大きく水疱化し、破裂後に痕が残ることもあります。
回復期には特徴的な症状として、手足の皮膚がむける落屑や、爪が一時的に剥がれる爪甲脱落症が見られることがあります。近年、コクサッキーウイルスA6感染による手足口病では、症状消失後1か月以内に一時的に手足の爪が脱落する症例が報告されていますが、自然に治るとされています。治癒後も30~40%の人で爪がはがれる爪甲脱落症が見られますが、爪は再び生えてきます。
コクサッキーウイルスによる手足口病とヘルパンギーナの違い
コクサッキーウイルスは手足口病とヘルパンギーナという2つの代表的な疾患を引き起こしますが、症状や発疹の出現部位に明確な違いがあります。どちらも同じコクサッキーウイルスによる感染症ですが、ウイルスの型によって引き起こしやすい疾患が異なります。
参考)ヘルパンギーナ
手足口病は、主にコクサッキーA群ウイルス(A16型、A10型、A6型など)やエンテロウイルス71型が原因となり、手のひら、足の裏、口の中に水疱性発疹が出現するのが特徴です。発熱は半分くらいの患者で見られ、比較的軽度です。時に肘、膝、臀部などにも発疹が出現することがあります。
参考)手足口病(詳細版)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供…
一方、ヘルパンギーナは主にコクサッキーウイルスA群(A16型など)が原因で、発熱と喉の発疹と痛みを主症状とするウイルス感染症です。ドイツ語でヘルペス(水疱)とアンギーナ(喉の炎症)を合わせた名称で、喉が赤く腫れて奥に水疱のような発疹ができます。手足口病との大きな違いは、口の中以外に手や足には発疹ができない点です。また、ヘルパンギーナは手足口病と比べて39~40度の高熱が突然出たり、喉の痛みが強い傾向があります。
参考)小児によく見られる感染症|習志野市谷津の小児科 – 谷津こど…
両疾患とも、喉の痛みのため食事や水分がまったくとれない時は、点滴や入院が必要となる場合もあります。症状が出始めの頃は、どちらの疾患かわからないこともあり、経過を見ながら診断されます。
コクサッキーウイルス感染症の感染経路と潜伏期間
コクサッキーウイルスの感染経路は主に3つあります。第一に飛沫感染で、患者のくしゃみや咳などに含まれるウイルスを直接吸い込むことで発症します。第二に接触感染で、ウイルスが付着した物に触れた後、口や鼻、目を触ることで感染します。第三に糞口感染(経口感染)で、便の中にあるウイルスが手を介して眼などの粘膜に入ることで起きます。
参考)【医師監修】コクサッキーウイルスの感染経路や予防法って?どん…
感染のメカニズムは、ウイルスが主に口や鼻、目の粘膜から体内に侵入し、侵入したウイルスが咽頭や小腸で初期増殖を行います。増殖したウイルスが血中に入り全身に広がり、ウイルスが手足の皮膚や口腔粘膜などの標的組織で増殖し症状が出現するというプロセスをたどります。このプロセスは通常、感染から3~6日程度で進行し、この期間を潜伏期間と呼びます。
参考)手足口病(Hand, Foot and Mouth Dise…
特に注意が必要なのは、治癒後もしばらく便中にウイルスが排出されるため、排便後やおむつ交換後は手洗いをしっかりと行い、タオルの共用を避けることが大切です。症状が回復してからもウイルスは長期にわたって排泄されることがあるため、特にトイレ後の手洗いはしっかりするようにしましょう。コクサッキーウイルスは同じアデノウイルスとCoxsackievirus and adenovirus receptor (CAR)を介して細胞感染を起こします。
参考)2024神奈川県 手足口病情報(11)37週|神奈川県衛生研…
コクサッキーウイルス感染症の治療と対処法
コクサッキーウイルス感染症に対する特効薬は存在せず、主につらい症状を軽減する対症療法が治療の中心となります。発熱や発疹などの痛みに対しては解熱鎮痛剤を使用しますが、発熱している時点でウイルスが増殖しにくい体内環境になっているため、熱があっても安静に過ごせる場合は無理に解熱する必要がないこともあります。
参考)手足口病(症状、大人もうつる?)|港区の高輪マリンこどもクリ…
痛みやかゆみを伴う発疹に対しては抗ヒスタミン薬の塗り薬を使用します。また食事や水分を十分に摂れず脱水になっている場合に、点滴投与を行うことがあります。脱水とならないように少しずつ水分を摂るようにすることが重要です。通常は対症療法のみで、発熱や頭痛、口の中の水疱の疼痛などに対して解熱・鎮痛剤を用いることがあります。
参考)ヘルパンギーナ
口腔内に水疱や潰瘍があることで食事や水分が摂りづらくなりますが、脱水状態や体力消耗を防ぐためにも、こまめな食事と水分を摂りましょう。例えば、うどん、おかゆ、ぬるめのスープ、牛乳やヨーグルト、麦茶、ゼリーやプリンなど、口腔内へ負担をかけずに摂取できる食べ物が推奨されます。のど越しのよい食事をお勧めします。1週間ほどで熱も水疱もひくケースがほとんどですが、発症して2~3日目以降に発熱がひどくなり、吐き気や頭痛を伴う場合は、脳や髄膜にウイルスが侵入している可能性がありますので注意が必要です。
コクサッキーウイルス感染症の合併症と注意すべき症状
コクサッキーウイルス感染症は基本的には予後良好の疾患ですが、稀に重篤な合併症を引き起こすことがあります。まれに髄膜炎、小脳失調症、脳炎といった中枢神経系の合併症のほか、心筋炎、神経原性肺水腫、急性弛緩性麻痺など、重篤な合併症を伴うことがあります。特にエンテロウイルス71型に感染した場合には、他のウイルスによる手足口病と比べて、中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが知られています。
中枢神経系合併症としては、幼児を中心とした髄膜炎、小脳失調症、急性弛緩性麻痺(AFP)、脳炎などが報告されています。エンテロウイルスやコクサッキーウイルスは急性上気道炎や下痢、手足口病、ヘルパンギーナの原因ウイルスとして知られていますが、髄膜炎や脳炎を引き起こす場合もあります。近年のアジア地域における重症例の多くは、エンテロウイルス71型急性脳炎に伴う中枢神経合併症によるものと考えられています。
参考)病原となる微生物|(疾患・用語編) 髄膜炎、脳炎|神経内科の…
発熱(高熱又は2日以上の発熱など)、嘔吐、頭痛などがある場合は注意が必要です。また、手足口病の典型的な症状はみられずに重症化することもありますので、注意が必要です。大人の手足口病でも、まれに髄膜炎・脳炎・心筋炎といった神経・循環器系の合併症が報告されています。意識の変化や首の硬直、嘔吐などの症状が現れた場合は早期の受診が必要です。手足口病にかかった場合は、経過を注意深く観察し、合併症に注意をする必要があります。
参考)コクサッキーウイルスについて | ざいつ内科クリニック|山口…
コクサッキーウイルス感染症の予防法と再感染のリスク
コクサッキーウイルス感染症に対する予防接種は存在しないため、日常生活での感染予防対策が重要となります。予防には咳エチケットや手洗いが有効です。感染している人との密接な接触を避けることや、手洗いが大切です。特別な予防法はなく、基本的な感染対策を徹底することが求められます。
再感染のリスクについては、1度かかって免疫ができても何度もかかる場合があります。それは、ひとくちに手足口病といっても、ウイルスがいくつもあるからです。主な原因ウイルスは「コクサッキーウイルスA6・A16」「エンテロウイルス71」で、まれに「コクサッキーウイルスA10」によるものもあります。あるウイルスにかかれば、そのウイルスに対する免疫はできますが、他のウイルスに感染すると、また発症してしまいます。
ヘルパンギーナも主に「コクサッキーウイルス」が原因で、ウイルスの型がいくつかあるので、何度もかかってしまうことも珍しくありません。インフルエンザウイルスにA型、B型など複数のタイプがあるのと同じで、かかったことのないウイルスと接触すると、何度も発症することになります。
参考)ヘルパンギーナ
登園・登校については、小児科で診断された場合は、熱がさがるまで幼稚園や保育園、学校は休みましょう。家で安静にすることが治療の基本です。全身状態が安定して、発熱がなく、口腔内の水疱・潰瘍の影響がなく普段の食事がとれる場合は登校(園)可能です。
参考リンク。
厚生労働省 手足口病に関する情報 – 手足口病の主な症状、感染経路、予防法について詳しく解説されています。
国立感染症研究所 手足口病(詳細版) – コクサッキーウイルスの型別症状や臨床所見、合併症について専門的な情報が掲載されています。