低ナトリウム血症と症状の重症度や治療

低ナトリウム血症と症状

低ナトリウム血症の主な症状
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初期の軽度症状

頭痛、倦怠感、吐き気、集中力低下、めまいなどの非特異的症状が出現します

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中等度の症状

嘔吐、錯乱、精神症状、食欲不振などが見られ、日常生活に支障をきたします

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重度の症状

けいれん、昏睡、意識障害など生命に関わる危険な状態となり緊急対応が必要です

低ナトリウム血症の初期症状と倦怠感

低ナトリウム血症の初期症状は非特異的で軽微なものが多く、見逃されやすい特徴があります。最も一般的な初期症状として、倦怠感や軽度の疲労感が挙げられ、これらは風邪や単なる疲れと混同されがちです。頭痛、吐き気(嘔吐を伴わない)、めまい、集中力や注意力の低下といった症状も初期段階で出現します。

参考)「低ナトリウム血症」とあなたの症状との関連性をAIで無料チェ…


血清ナトリウム濃度が軽度低下している段階(130mEq/L以上135mEq/L未満)では、多くの患者が無症状であることも珍しくありません。しかし、急速に血清ナトリウム濃度が120〜130mEq/Lまで低下した場合は、嘔気や頭痛などがより顕著に出現します。一方、緩やかに低下して慢性的に120mEq/L台を維持している場合は、体が適応して無症状のケースも多く見られます。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E4%BD%8E%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E8%A1%80%E7%97%87


初期症状を放置すると、より重篤な神経症状へと進行する危険性があるため、特に高齢者や基礎疾患を持つ患者では注意が必要です。倦怠感が持続する場合や、複数の非特異的症状が同時に出現する場合は、血液検査によるナトリウム濃度の測定を検討すべきです。

参考)低ナトリウム血症には初期症状はありますか? |低ナトリウム血…

低ナトリウム血症の重症度分類と診断基準

低ナトリウム血症の重症度は、血清ナトリウム濃度と臨床症状の両方に基づいて分類されます。生化学検査の値による分類では、軽度(130以上135未満mEq/L)、中等度(125以上130未満mEq/L)、重度(125未満mEq/L)に区分されます。また、発症からの時間経過により、急性(48時間未満)と慢性(48時間以上または経過不明)に分けられます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/5/111_902/_pdf


症状による重症度分類では、中等度症候性(moderately severe symptoms)と重度症候性(severe symptoms)に区別されます。中等度症候性の場合、嘔吐を伴わない嘔気、錯乱、頭痛が特徴的な症状として現れます。重度症候性では、嘔吐、心肺窮迫、異常かつ深い傾眠、痙攣、昏睡(Glasgow Coma Scale 8以下)といった生命を脅かす症状が出現します。​
診断基準としては、血清ナトリウム濃度が135mEq/L未満であることが基本となりますが、原因の特定には血漿浸透圧、尿浸透圧、尿中ナトリウム濃度、循環状態の評価が必要です。SIADH(バゾプレシン分泌過剰症)の診断には、低ナトリウム血症と低浸透圧血症にもかかわらず尿浸透圧が100mOsm/kg H2Oを上回り、尿中ナトリウム濃度が20mEq/L以上という特徴的な所見が確認されます。

参考)低ナトリウム血症 – 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 – M…

低ナトリウム血症における高齢者の特有リスク

高齢者は低ナトリウム血症に特に脆弱であり、複数の要因がその発症リスクを高めています。加齢に伴う糸球体濾過量(GFR)の低下により、自由水の排泄能力が減少し、尿希釈能が低下することが主要な要因です。さらに、高齢者は低ナトリウム血症の原因となる薬剤への曝露や基礎疾患の罹患率が増加するため、発症リスクが著しく高まります。​
高齢者の低ナトリウム血症には季節性があり、特に夏場に頻度が増加することが知られています。これは腎機能障害の頻度増加に加え、塩分摂取量の減少と水分摂取量の増加が原因とされています。高齢者では体内の水分や電解質のバランスが崩れやすく、知らないうちに低ナトリウム血症を引き起こしてしまうことがあります。

参考)低ナトリウム血症 高齢者のための食事ガイド


低ナトリウム血症が高齢者に与える影響として、精神的な混乱や意識障害が見られることがあり、これが認知症と誤診されるケースも報告されています。筋力の低下やふらつきも顕著で、歩行安定性が低下し転倒のオッズ比が67倍と、転倒リスクが著明に増加することが報告されています。転倒後骨折のリスクも増加し、65歳以上の患者では低ナトリウム血症が骨折のリスクをオッズ比4.16で増加させることが示されています。

参考)慢性低ナトリウム血症の症状に注意を(椙村益久)

低ナトリウム血症の中枢神経症状と脳浮腫

脳は血液中のナトリウム濃度の変化に特に敏感な臓器であり、低ナトリウム血症による症状の多くは中枢神経系に関連しています。血清ナトリウム濃度が低下すると細胞外浸透圧が減少し、水分が細胞内に移動して脳浮腫が生じます。脳は頭蓋骨という閉鎖された空間に収められているため、持続的な腫脹に耐えられず、脳実質の圧迫により重篤な神経学的合併症を引き起こします。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11828805/


中枢神経症状は低ナトリウム血症の重症度と進行速度に応じて変化します。初期段階では反応の鈍化(嗜眠)や錯乱といった脳機能障害の症状が最初に現れます。症状が進行すると、筋肉のひきつり、けいれん発作が生じ、やがて強い刺激を与えなければ目を覚まさない昏迷状態となり、ついには完全に反応できない昏睡状態に陥ります。

参考)低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度が低いこと) – 1…


急性低ナトリウム血症では、血清ナトリウム濃度が急速に下がることで症状が突然現れ、重症化する傾向があります。特に急激に血液中のナトリウム濃度が低下した場合、脳浮腫のリスクが高く危険です。頭蓋内圧亢進症状として、クッシング現象の三徴(高血圧、徐脈、呼吸不整)や延髄圧迫による呼吸抑制も認められることがあります。

参考)低ナトリウム血症の病態と看護計画

低ナトリウム血症の原因疾患と治療法

低ナトリウム血症の原因は多岐にわたり、適切な治療には原因疾患の特定が不可欠です。主な原因として、SIADH(抗利尿ホルモン不適切分泌症候群)、水分過剰摂取、ナトリウム喪失、心不全肝硬変、腎疾患、甲状腺機能低下症、薬剤性などが挙げられます。利尿薬降圧剤などの薬剤は、ナトリウムを体外に排出する作用があり、特に高齢者では注意が必要です。

参考)【腎臓内科専門医が解説】低ナトリウム血症について


SIADHの治療では、厳格な水分制限(1日250〜500mL程度)が基本となります。水分制限により、脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善するのがSIADHの特徴です。ただし、体液量の減少を伴う低ナトリウム血症では、水分制限により病態が悪化するため、鑑別診断が重要です。

参考)https://square.umin.ac.jp/kasuitai/guidance/SIADH.pdf


血清ナトリウム濃度が120mEq/L以上の場合や中枢神経症状が明らかでない場合の治療法(SIADH情報サイト)
重度の低ナトリウム血症で神経症状がある患者では、血清ナトリウムの補正速度が重要な問題となります。一般的に、補正速度は1mEq/L/時を超えるべきでなく、最初の24時間の上昇幅は8mEq/L以下とすべきとされています。急速な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)を引き起こすリスクがあり、意識障害、四肢麻痺、呼吸障害などの一部不可逆的な症状をもたらす可能性があります。

参考)浸透圧性脱髄症候群(ODS)|SIADH.JP 〜「抗利尿ホ…

低ナトリウム血症と転倒・骨折リスクの関連

慢性低ナトリウム血症は、転倒や骨折のリスクを著しく増加させることが明らかになっています。血清ナトリウム濃度が平均126mEq/Lという比較的軽度な慢性低ナトリウム血症の症例においても、歩行安定性が低下し転倒のオッズ比が67倍と、転倒リスクが著明に増加することが報告されています。転倒後骨折のため救急外来を受診した65歳以上の患者の解析では、低ナトリウム血症が転倒後骨折のリスクをオッズ比4.16で増加させることが示されました。​
従来は低ナトリウム血症による歩行不安定性と転倒の増加が骨折を引き起こすと考えられていましたが、近年の研究では低ナトリウム血症自体が骨粗鬆症を引き起こすことが明らかになっています。SIADH動物モデルと細胞培養を用いた検討により、低ナトリウム血症が破骨細胞の活性化を引き起こすことが見出されました。この機序により、低ナトリウム血症患者では骨密度が低下し、骨折リスクが直接的に増加すると考えられています。

参考)慢性低ナトリウム血症とその急速補正がミクログリアの機能に影響…


慢性低ナトリウム血症による転倒と骨折リスクの詳細(医学書院)
慢性低ナトリウム血症では一見無症状に見えても、詳細な検討を行うと歩行障害認知機能障害が生じていることがSIADHモデルのラットを用いた研究で示されています。低ナトリウム血症患者の生存率低下の原因の一つとして、骨折リスクの増大が考えられており、超高齢社会を迎える日本において、低ナトリウム血症による骨粗鬆症の研究はますます重要性が高まっています。

参考)ナトリウムと骨 低ナトリウム血症と骨折 (腎と骨代謝 30巻…

重症度 血清Na濃度 主な症状 リスク
軽度 130-135 mEq/L 倦怠感、頭痛、吐き気 転倒リスク増加
中等度 125-130 mEq/L 嘔吐、錯乱、食欲不振 歩行障害、骨折リスク
重度 <125 mEq/L けいれん、昏睡、意識障害 生命の危険

治療においては原因疾患の治療と並行して、適切な水分制限や電解質補正が行われます。高齢者では特に薬剤性の低ナトリウム血症が多いため、服用薬の見直しも重要な対策となります。また、夏場は塩分摂取を意識的に行い、過度な水分摂取を避けることで予防につながります。

参考)ADH不適合分泌症候群(SIADH) – 10. 内分泌疾患…