飛沫感染の種類と予防対策

飛沫感染の種類と感染経路

飛沫感染の主な特徴
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ウイルス性感染症

インフルエンザ、風疹、新型コロナウイルス感染症など

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細菌性感染症

百日咳、マイコプラズマ感染症など

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飛沫の到達距離

1〜2メートル程度の範囲で感染が起こる

飛沫感染のウイルス性感染症の種類

飛沫感染を引き起こすウイルス性の感染症には、風邪やインフルエンザといった日常的な疾患から、風疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、新型コロナウイルス感染症まで幅広い種類が含まれます。これらの感染症は、感染者の咳やくしゃみ、会話によって飛び散るしぶき(飛沫)に含まれる病原体を、近くにいる人が吸い込むことで感染します。飛沫の大きさは通常5μm以上で、水分を含み重いため、届く範囲は1〜2メートル程度に限定されます。

参考)感染症はどうやってうつる? 感染経路の種類


インフルエンザウイルスは飛沫感染の代表的な病原体の一つであり、毎年冬季を中心に流行を繰り返します。感染者が1回の咳で約10万個、1回のくしゃみで約200万個ものウイルスを放出するため、感染力が非常に高いことが特徴です。風疹ウイルスも飛沫感染によって広がり、発熱・発疹・リンパ節の腫れなどの症状を引き起こします。特に妊娠中の女性が感染すると胎児に影響が及ぶ可能性があるため、注意が必要です。

参考)ワクチンで予防できる主な感染症


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は飛沫感染に加えて、後述するエアロゾル感染も起こすとされています。鼻や口のほか、気道の粘膜や目の粘膜などから病原体が侵入することがあり、接触感染との複合的な感染経路を持つことが知られています。これらのウイルス性感染症はワクチンで予防できるものも多く、予防接種を受けることが重要です。

参考)【医師監修】感染経路にはどんな種類がある?感染対策のポイント…

飛沫感染の細菌性感染症の種類

細菌性の飛沫感染症としては、百日咳マイコプラズマ感染症、髄膜炎菌性髄膜炎、溶血性連鎖球菌感染症、ジフテリアなどが挙げられます。これらの細菌感染症は、ウイルス性の感染症と同様に咳やくしゃみを介して広がりますが、症状や重症度、治療法が異なります。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001301258.pdf


百日咳は百日咳菌による感染症で、飛沫感染および接触感染によって発症します。初期はかぜのような症状から始まり、その後、顔をまっ赤にして連続的にせき込むようになります。せきのあとに急に息を吸い込むため、笛を吹くような音が出ることが特徴的です。乳幼児ではせきで呼吸ができず、チアノーゼやけいれんが起きる、あるいは突然呼吸が止まることもあり、肺炎脳症などの重い合併症を起こしやすく、新生児や乳児では命を落とすこともあります。近年では、長びくせきを特徴とする学童から思春期、成人の百日咳が見られ、乳幼児への感染源となっているため注意が必要です。

参考)小児予防接種(赤ちゃん・子ども)|富山市の小児科|富山婦人科…


マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマという特殊な細菌が原因で、主に飛沫感染によって広がります。咳が長引く特徴があり、若年者に多く見られる感染症です。ジフテリアは喉頭ジフテリアとして飛沫感染する重篤な細菌感染症で、高熱、のどの痛み、犬が吠えるようなせき、嘔吐などの症状が現れ、気道に偽膜と呼ばれる膜ができて窒息死することもあります。発症から2〜3週間後に、菌の出す毒素によって心筋障害や神経麻痺を起こすことがあるため、予防接種が極めて重要です。

参考)http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/4-1_03.pdf

飛沫感染と空気感染の違い

飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)は、どちらも呼吸器を介した感染経路ですが、病原体を含む粒子の大きさと空気中での挙動に明確な違いがあります。飛沫感染では、直径5μm以上の飛沫が水分の重さで浮遊せず落下するのに対し、空気感染では飛沫核と呼ばれる5μm未満の微細な粒子が空気中を長時間漂い、広範囲に広がります。

参考)飛沫感染と空気感染


空気感染する病原体として知られているのは、結核菌、麻しんウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスといった特定のウイルスや細菌に限られます。飛沫核は空気中に浮遊するため、感染者と同じ部屋にいるだけで、2メートル以上離れていても感染するリスクがあります。一方、飛沫感染する病原体に感染した人がいても、その人から2メートル以上の距離を保てば感染しないとされています。

参考)エアロゾル感染とは? 飛沫感染・空気感染との違い


飛沫感染予防には、医療従事者や面会者がサージカルマスクを着用し、患者には咳エチケットの遵守を促すことが推奨されます。一方、空気感染の予防には、通常のサージカルマスクでは不十分で、N95マスクなどの高性能な呼吸用保護具が必要となります。また、飛沫よりもさらに細かい粒子のエアロゾルが空気中を浮遊し、その粒子を吸い込んで感染するものをエアロゾル感染と呼びますが、飛沫感染との違いは明確には定義されておらず、空気感染とは原理が異なります。厚生労働省は、換気の悪い密室等の条件下において、空気中を漂う5μm未満の微細な飛沫粒子を「マイクロ飛沫」と呼び、新型コロナウイルス感染予防策として三密(密閉・密集・密接)を避けることを促しています。

参考)http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/4-1_03_2.pdf

飛沫感染のエアロゾル感染との関係

エアロゾル感染は飛沫感染の一種と考えられていますが、一般的に考えられている飛沫感染とは異なり、まだ明確な定義がありません。エアロゾルとは、空気中に浮遊する直径0.001μmから100μmの粒子のことであり、一般に直径5μm以上の大きさと定義される「飛沫」よりも細かいものを指します。エアロゾル感染は、病原体を含むエアロゾルが空気中を漂い、それを吸い込むことで生じる感染です。​
飛沫感染では、ツバの大きさが5μm以上であり、中の水分の重みで口から出て1〜2mの距離以内に落ちると推定されます。そのため、飛沫感染は人との距離を1〜2m空けることによって予防できます。一方、エアロゾルは飛沫よりも小さく軽いため、2メートル以上の離れた距離にまで浮遊して届くことが特徴です。ただし、空気感染はエアロゾルよりもさらに小さな微粒子が空気中を広範囲に長時間漂うことで感染する経路であり、エアロゾル感染とは異なる概念です。

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000657104.pdf


新型コロナウイルス感染症は、飛沫感染に加えてエアロゾル感染も起こすことが知られています。マイクロ飛沫(エアロゾル)感染を防ぐためには、換気が重要であり、特に密閉された空間では空気中にエアロゾルが滞留しやすくなります。室内の空調や換気システムを適切に運用し、定期的に窓を開けて換気を行うことで、エアロゾル感染のリスクを低減できます。また、マスクの着用は、飛沫個数が多く特に密度が高くなりがちな120-150μmの飛沫や、粒子あたりのウイルス濃度の高い2.5μm以上の粒子をシャットアウトすることが主な役割とされています。

参考)新型コロナウイルス感染症にかからないためには

飛沫感染における予防対策とマスクの効果

飛沫感染を予防するための基本的な対策は、マスクの着用、手指衛生、身体的距離の確保、換気の実施です。マスクが最も効果を発揮するのは、咳やくしゃみのある人がマスクをつけた場合であり、感染者が他者へウイルスを拡散させることを防ぐことができます。家庭用マスクでも、120-150μmの飛沫や2.5μm以上の粒子をある程度シャットアウトできるため、飛沫感染の予防には一定の効果があります。

参考)マスクの効果と正しい使用方法|感染制御室|診療科のご案内|自…


ただし、マスクだけでは小さい粒子についてはシャットアウトできず、感染対策としては不十分です。そのため、WHOやアメリカCDCでも「マスクだけでなく手指消毒や距離の確保・換気・空気清浄機の設置など、他の対策が必要である」としています。2022年の厚生労働省の発表でも「限界はあるものの飛沫やエアロゾルを吸い込むことを予防する効果もある」としており、マスクは感染予防の重要な手段の一つと位置付けられています。

参考)【新型コロナ】感染対策でのマスクの効果とデメリットについて解…


飛沫感染予防策が適用される感染症に対しては、医療従事者がサージカルマスクを着用し、患者には咳エチケットの遵守を促し、可能な限りサージカルマスクを着用してもらうことが推奨されます。また、患者周囲に飛散した飛沫に対しては接触感染対策も必要となります。手洗いや手指消毒は、接触感染を防ぐために極めて重要であり、特に外出後、食事前、トイレ後などには必ず実施すべきです。飛沫は2メートルほど飛ぶことが知られているため、発症者は咳エチケットとしてウイルスが飛散しないようにマスクを着用することが求められます。​

主な飛沫感染症一覧

感染症の種類 病原体 主な症状
インフルエンザ インフルエンザウイルス 高熱、全身倦怠感、咳、鼻水
風疹 風疹ウイルス 発熱、発疹、リンパ節の腫れ
流行性耳下腺炎 ムンプスウイルス 耳下腺の腫れ、発熱
百日咳 百日咳菌 連続性のせき込み、笛を吹くような音
新型コロナウイルス感染症 SARS-CoV-2 発熱、咳、呼吸困難
マイコプラズマ肺炎 マイコプラズマ 長引く咳、発熱

🔬 飛沫感染する病原体は多様ですが、予防の基本は共通しています。マスクの着用、手指衛生、身体的距離の確保を日常的に実践することで、多くの飛沫感染症から身を守ることができます。特に季節性インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など、流行性の高い感染症については、予防接種を受けることも重要な対策の一つです。​
📏 飛沫の飛散距離は通常1〜2メートル程度のため、人混みでは他者との距離を保つことが感染予防に効果的です。また、換気の悪い密閉空間では、エアロゾル化した微細な粒子が滞留しやすくなるため、定期的な換気を心がけることが大切です。感染症の種類によって感染経路や重症度が異なるため、それぞれの特性を理解し、適切な予防対策を講じることが求められます。

参考)【コラム】新型ウイルス感染症対策と空気の流れについて(7) …