錐体細胞3種類と色覚の仕組み

錐体細胞の3種類と色覚

錐体細胞の3つのタイプ
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L錐体(長波長)

560nm付近の長波長光に反応し、赤色の認識に関わる錐体細胞で最も数が多い

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M錐体(中波長)

540nm付近の中波長光に反応し、緑色の認識に関わる錐体細胞で2番目に多い

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S錐体(短波長)

440nm付近の短波長光に反応し、青色の認識に関わる錐体細胞で全錐体の約2%と極めて少ない

錐体細胞の3種類とその分光感度

網膜には光を感じる2種類の視細胞が存在し、明るい場所で働く錐体細胞と暗い場所で働く桿体細胞に分類されます。錐体細胞は色を感じるセンサーとして機能し、分光感度の違いによって3種類に分けられます。短波長(Short)に感度のピークを持つS錐体、中波長(Medium)に感度のピークを持つM錐体、長波長(Long)に感度のピークを持つL錐体という3つのタイプが存在します。

参考)色覚のしくみ href=”https://cudo.jp/?page_id=82″ target=”_blank”>https://cudo.jp/?page_id=82amp;#8211; NPO法人 カラーユニバーサル…


それぞれの錐体細胞は特定の波長範囲に最も強く反応する視物質(オプシンタンパク質)を含んでいます。S錐体の感度ピークは440nm付近、M錐体は540nm付近、L錐体は560nm付近にあるとされており、視物質の吸光波長のピークはS錐体が420nm、M錐体が530nm、L錐体が560nmに位置します。これらの視物質は杆体に存在するロドプシン、青オプシン、緑オプシン、赤オプシンの4種類のタンパク質として存在します。

参考)錐体細胞 – Wikipedia


L錐体とM錐体、S錐体が受け取った光の刺激は、視神経を通じて脳に伝えられることで色として認識されます。赤・緑・青の3色を見分けるためには、この3種類の錐体細胞がすべて正常に機能する必要があります。

参考)色覚異常とは|平成医療短期大学

錐体細胞の数と網膜上の分布

網膜に存在する視細胞のうち、桿体の総数は約1億個から1億5000万個とされ、錐体細胞の総数は約700万個とされています。つまり視細胞全体の約95%は桿体であり、色覚を担う錐体細胞は非常に少ない割合を占めているのです。

参考)https://www.ocular.net/jiten/jiten016.htm


3種類の錐体細胞の中でも、その分布比率には大きな偏りがあります。L錐体が最も多く、次にM錐体が多く、この2つの錐体細胞が錐体全体の大部分を占めています。一方、S錐体は極めて少なく、錐体全体のうちわずか約2%しか存在しません。

参考)https://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-6.html


興味深いことに、L錐体とM錐体の比率には正常色覚の人々の間でも大きな個人差があることが明らかになっています。ある男性被験者ではL錐体が75.8%でM錐体が20.0%だったのに対して、別の男性被験者ではL錐体が50.6%でM錐体が44.2%という報告もあります。人間の錐体細胞は中心窩付近に集中し、桿体細胞はその周縁に分布するため、暗所では中心視野での視力が低下するという特徴があります。​

錐体細胞と色覚異常のメカニズム

色覚異常は3種類の錐体細胞のいずれかが欠損したり、視物質の変異によって錐体の働きが不完全であったりすることで発生します。L錐体に異常があると1型色覚、M錐体に異常があると2型色覚、S錐体に異常があると3型色覚と分類されます。

参考)https://www.nakamura-ganka.com/nakamuraganka/6215


日本における色覚異常の頻度は男性の約5%(20人に1人)、女性の約0.2%(500人に1人)とされています。これは主に遺伝によるもので、X染色体上に存在する赤オプシンと緑オプシンの遺伝子異常が原因となるため、男性に多く発現します。色覚異常の人は、色の認識や違いの識別が正常色覚の人とは異なり、色の違いが分かりにくかったり、異なる色でも同じ色に見えたりすることがあります。

参考)第15回 「色」に対する「視覚」特性の要素(その2)|CCS…


錐体細胞の感度特性は個人によって微妙に異なっていますが、多数派の人たちについては現実生活で問題になるような大きな差異はありません。しかし、錐体の感度特性が多数派と大きく異なる人たちは、眼に入射する光からの刺激の受け方が異なるため、異なった色の見え方をすることになります。​

錐体細胞とLMS色空間の関係

LMS色空間は、3種類の人間の錐体細胞の反応に基づいて表現される色空間です。錐体細胞の応答における波長の長さL(Long:長波長)、M(Medium:中波長)、S(Short:短波長)の頭文字から命名されており、色科学や視覚研究において重要な概念となっています。

参考)LMS色空間 – Wikipedia


この色空間は、異なる光源下におけるサンプルの色を推定する色順応の研究において多用されています。また、1つ以上の錐体細胞の障害に伴う色覚異常の研究においても用いられ、色覚のメカニズムを理解する上で不可欠なツールとなっています。​
興味深い点として、分光スペクトルが異なっていてもLMS錐体に対しての刺激量が同じであれば、CIE(国際照明委員会)の色表系では同じ色と見なされます。例えば485nmの光が少なくても489nmの光で補うことで、M錐体の総刺激量を同じにできれば、私たちは同じ色として認識するのです。

参考)【カラマネ極意7】色を見る仕組みとは – JAGAT

錐体細胞の色認識とRGB表現の誤解

L錐体、M錐体、S錐体は、一般に赤錐体、緑錐体、青錐体と呼ばれることがありますが、実はこれには誤解があります。デジタルカメラの撮像素子がRGB(赤・緑・青)で構成されているため、網膜上の錐体細胞も同様だと考えられがちですが、実際にはL、M、Sの3種類の錐体は直接的に赤・緑・青という色に対応するわけではありません。

参考)集英社学芸部 – 学芸・ノンフィクション


L錐体が最も強く応答する光は、多数派の人にとって赤く見える光ではなく、実は黄緑色に見える光です。また、S錐体の場合も青というよりも藍色に見える光に応答のピークがあることが分かっています。このように、錐体細胞は特定の色に直接対応するのではなく、それぞれが異なる波長範囲に感度を持つことで、脳がそれらの信号間の強度比から色を認識しているのです。​
この仕組みにより、私たち人間は3色型色覚(三色覚)を持つことになります。網膜上に分布した3種の錐体が受ける刺激によって色を認識し、それらの刺激の強さが視神経を通じて脳に伝えられることで、豊かな色の世界を体験することができるのです。

参考)第14回 ヒトの色覚と動物の色覚|CCS:シーシーエス株式会…

参考リンク(色覚の仕組みとメカニズムについての詳細情報):

国立遺伝学研究所 – 色覚の多様性と視覚バリアフリーなプレゼンテーション

参考リンク(色覚異常の分類と診断についての専門的情報):

中村眼科 – 色覚の話(その1)色覚異常の分類

参考リンク(視細胞の光受容メカニズムに関する学術情報):

日本生物物理学会 – 視細胞の光受容メカニズム