副腎皮質アルドステロンの役割と健康への影響

副腎皮質とアルドステロンの関係

アルドステロンの基礎知識
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副腎皮質の構造

球状層・束状層・網状層の3層構造でアルドステロンは球状層から分泌

主な作用

腎臓でのナトリウム再吸収促進とカリウム排泄の調節

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分泌調節機構

レニン-アンジオテンシン系による精密なコントロール

副腎皮質の構造とアルドステロン産生部位

副腎皮質は外側から球状層・束状層・網状層という3層構造を形成しており、各層で異なる種類のステロイドホルモンが合成されます。アルドステロンは最外層に位置する球状層で産生される電解質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)であり、副腎皮質ホルモンの中でも特に電解質バランスの調節に重要な役割を果たしています。

参考)副腎皮質ホルモン|内分泌


球状層は副腎皮質全体の中では比較的薄い層ですが、ここで産生されるアルドステロンは体内で最も強力な鉱質コルチコイドとして機能します。束状層ではコルチゾールなどの糖質コルチコイドが、網状層では性ホルモンの一種であるアンドロゲンがそれぞれ産生されるため、副腎皮質は多様なホルモンを分泌する内分泌器官といえます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_1932/_pdf


副腎皮質は洞様毛細血管と呼ばれる特殊な血管網に囲まれており、産生されたアルドステロンは速やかに血流中に分泌されます。この構造により、体液バランスや血圧の変化に応じて迅速にホルモン分泌を調節することが可能となっています。

参考)バーチャルスライド 組織学 改訂版 – 羊土社

副腎皮質アルドステロンの生理作用と標的臓器

アルドステロンの主要な標的臓器は腎臓であり、特に遠位尿細管と集合管において強力な作用を発揮します。アルドステロンは腎臓の上皮細胞に存在するミネラルコルチコイド受容体(MR)に結合することで、ナトリウムの再吸収を促進し、同時にカリウムの排泄を増加させます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11472823/


この作用により、体内のナトリウム量が増加すると水分も保持されるため、循環血液量が増加し血圧が上昇します。一方で、カリウムは尿中に積極的に排出されるため、血液中のカリウム濃度は低下する傾向にあります。このような電解質バランスの調節は、生命維持に不可欠な機能といえます。

参考)アルドステロン症 – 12. ホルモンと代謝の病気 – MS…


近年の研究では、アルドステロンの作用は腎臓だけでなく、心臓や血管にも及ぶことが明らかになっています。過剰なアルドステロンは心臓における線維化や左室肥大、血管内皮細胞の障害を引き起こし、心血管疾患のリスクを高める可能性が指摘されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10296074/


腎臓におけるアルドステロンの詳細な作用機序と電解質調節について解説した研究論文

副腎皮質アルドステロンの分泌調節とレニン-アンジオテンシン系

アルドステロンの分泌は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系と呼ばれる精密な調節機構によってコントロールされています。血圧が低下したり血液量が減少したりすると、腎臓の傍糸球体細胞からレニンという酵素が分泌されます。

参考)原発性アルドステロン症 – 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 …


レニンは肝臓で産生されるアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換し、さらにアンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用によってアンジオテンシンIIが生成されます。このアンジオテンシンIIが副腎皮質球状層を刺激することで、アルドステロンの分泌が促進される仕組みです。

参考)Image:血圧の制御:レニン-アンジオテンシン-アルドステ…


興味深いことに、アルドステロンの分泌調節は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)による影響は比較的小さく、主にレニン-アンジオテンシン系によって調節されています。これは、糖質コルチコイドであるコルチゾールがACTHの強い影響を受けるのとは対照的な特徴です。

参考)https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/genetech/genkenbunshi/pdf/H23.12.14.pdf


分泌されたアルドステロンがナトリウムと水分の保持を促進すると、循環血液量が増加し血圧が上昇するため、負のフィードバック機構によってレニンの分泌が抑制されます。このような自己調節システムにより、体内の電解質バランスと血圧が適切に維持されています。

参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) レニン-アンジオテンシン…


レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の血圧調節メカニズムに関する詳細な解説

副腎皮質アルドステロン過剰による原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症は、副腎皮質からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患で、二次性高血圧の代表的な原因となっています。この病気は高血圧患者の3〜10%程度に存在すると推定されており、決して稀な疾患ではありません。

参考)原発性アルドステロン症|一般の皆様へ|日本内分泌学会


主な原因としては、副腎に発生する良性腫瘍(アルドステロン産生腺腫)や、両側副腎の過形成(特発性アルドステロン症)が挙げられます。特に治療抵抗性高血圧、つまり3種類以上の降圧薬を使用しても血圧がコントロールできない患者では、この疾患の可能性を積極的に検討する必要があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3085751/


臨床症状としては高血圧が主体ですが、低カリウム血症を伴うことも多く、筋力低下や倦怠感などの症状が現れることがあります。診断には血液検査でアルドステロン値とレニン活性を測定し、アルドステロン・レニン比(ARR)が高値を示すことが重要な指標となります。

参考)原発性アルドステロン症 (げんぱつせいあるどすてろんしょう)…


原発性アルドステロン症は本態性高血圧と比較して心血管イベントのリスクが高いことが知られており、早期診断と適切な治療が重要です。片側性の腺腫であれば外科的切除により根治が期待でき、両側性の場合はアルドステロン拮抗薬による薬物療法が選択されます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10049192/


日本内分泌学会による原発性アルドステロン症診療ガイドラインの詳細情報

副腎皮質アルドステロン不足と副腎機能低下症

アルドステロンが不足する状態は、副腎皮質機能低下症(副腎不全)の重要な病態の一つです。この状態では、腎臓でのナトリウム再吸収が低下し、大量のナトリウムが尿中に失われる一方で、カリウムが体内に蓄積します。

参考)副腎皮質機能低下症 – 12. ホルモンと代謝の病気 – M…


ナトリウムの喪失により脱水状態が進行し、循環血液量が減少することで血圧が低下します。重症の場合には、重度の脱水、低血圧、ショック状態に至る副腎クリーゼという生命を脅かす状態に陥る可能性があります。

参考)副腎機能不全 (ふくじんきのうふぜん)とは


副腎機能低下症は、自己免疫疾患や感染症、腫瘍などによって副腎が破壊される原発性のものと、下垂体の障害によりACTHの分泌が低下する続発性のものに分類されます。興味深いことに、続発性副腎機能低下症では下垂体からのACTHが低下してもレニン-アンジオテンシン系は保たれているため、アルドステロンの分泌は比較的維持されることがあります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/4/97_702/_pdf


治療としては、不足しているホルモンを補充する必要があり、アルドステロンの代替としてフルドロコルチゾンという合成ミネラルコルチコイドが使用されます。適切な治療により、電解質バランスと血圧を正常に維持することが可能です。​

💡 副腎機能低下症の早期発見のポイント

これらの症状がある場合は、医療機関での精密検査をお勧めします。​
副腎皮質機能低下症の症状と治療に関する包括的な医学情報

副腎皮質アルドステロン測定の臨床的意義と検査方法

血液中のアルドステロン濃度を測定することは、副腎疾患や高血圧の原因診断において極めて重要です。特に原発性アルドステロン症のスクリーニングでは、早朝空腹時の血液検査でアルドステロン値とレニン活性を同時に測定し、その比率(ARR)を算出します。

参考)原発性アルドステロン症


検査の際には、降圧薬の種類によってアルドステロン値やレニン活性に影響を及ぼすことがあるため、可能な限り影響の少ない薬剤への変更や、一時的な休薬が推奨される場合があります。ただし、高血圧のコントロールが不十分な状態での薬剤中止は危険を伴うため、必ず医師の指示に従うことが重要です。

参考)高血圧症の原因として見逃せない!原発性アルドステロン症につい…


スクリーニング検査で異常が疑われた場合には、確定診断のための機能確認検査が必要となります。具体的には、カプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、フロセミド立位試験、経口食塩負荷試験などがあり、これらの検査でアルドステロンの自律性分泌を証明します。​
さらに、原発性アルドステロン症と診断された後は、病変が片側性か両側性かを判定するために、副腎静脈サンプリングという専門的なカテーテル検査が実施されることが一般的です。この検査により、手術適応の判断や最適な治療方針の決定が可能となります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8002562/

📊 アルドステロン検査の基準値と解釈

検査項目 基準範囲 臨床的意義
血中アルドステロン 30-160 pg/mL

参考)アルドステロン(ALD) 血清|臨床検査項目の検索結果|臨床…

電解質代謝と血圧調節の評価
レニン活性 0.2-2.8 ng/mL/h​ RAA系の活性評価
ARR(アルドステロン・レニン比) <200​ 原発性アルドステロン症のスクリーニング

これらの値は測定方法や施設により異なる場合があるため、検査結果は必ず担当医と相談して解釈してください。​
アルドステロン検査の詳細な測定方法と臨床的意義に関する専門情報