癒着胎盤と子宮摘出の体験談とリスク

癒着胎盤と子宮摘出

この記事の要点
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癒着胎盤の診断と分類

超音波検査やMRIで分娩前に診断可能。単純癒着、侵入胎盤、穿通胎盤の3段階に分類されます

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子宮摘出が必要となるケース

侵入胎盤や穿通胎盤の場合、大量出血を防ぐため子宮全摘術が選択されることがあります

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術後の生活と注意点

卵巣を温存すれば更年期症状は出ず、回復後は通常の生活が可能です

癒着胎盤の原因とリスク因子

癒着胎盤は、胎盤が子宮筋層に強固に付着して剥がれない状態を指します。通常、胎盤と子宮筋層の間には脱落膜という膜が存在し、これによって分娩後に胎盤が自然に剥がれますが、この膜がうまく形成されない場合、胎盤組織が子宮筋層に食い込むように増殖してしまいます。

参考)癒着胎盤について


最も重要なリスク因子は帝王切開の既往です。帝王切開既往がない前置胎盤症例での癒着胎盤発症率は1.1%であるのに対し、1回の帝王切開既往がある場合は37.8%にまで上昇します。その他のリスク因子として、子宮内膜掻爬術、胎盤用手剝離術の既往、子宮形成術、子宮内膜炎、粘膜下筋腫、前置胎盤などが挙げられます。

参考)https://ameblo.jp/matsubooon/entry-12692199272.html


日本産科婦人科学会による癒着胎盤の診断と治療ガイドライン
高齢妊娠、高血圧合併、体外受精による妊娠なども原因となることが報告されています。興味深いことに、前回の妊娠で癒着胎盤を経験した場合、次回妊娠でも11.8%が再び癒着胎盤となり、約2割の方に何らかの合併症が起きることがわかっています。

参考)https://ameblo.jp/hnb-lc/entry-12835632533.html

癒着胎盤の診断方法と分類

癒着胎盤は重症度によって3つに分類されます。単純癒着胎盤(placenta creta)は絨毛が筋層表面のみに癒着したもので、侵入胎盤(placenta increta)は絨毛が子宮筋層深くに侵入した状態、穿通胎盤(placenta percreta)は絨毛が子宮壁を貫通して漿膜面にまで及んでいるものです。これらの正確な分類は、子宮摘出標本の病理検査でしか行えません。

参考)(2)前置胎盤・癒着胎盤 href=”https://www.jaog.or.jp/note/2%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%83%8E%E7%9B%A4%E3%83%BB%E7%99%92%E7%9D%80%E8%83%8E%E7%9B%A4/” target=”_blank”>https://www.jaog.or.jp/note/2%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%83%8E%E7%9B%A4%E3%83%BB%E7%99%92%E7%9D%80%E8%83%8E%E7%9B%A4/amp;#8211; 日本産婦人科医会


分娩前の診断には、リスク因子の確認と超音波検査、MRI検査が重要です。癒着胎盤に関連する既往歴や超音波所見の有無を慎重に確認することで、多くの症例で事前診断が可能となります。ただし、子宮手術既往のない症例での診断は困難な場合もあります。

参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_22053


国立成育医療研究センターの癒着胎盤についての詳細解説
癒着胎盤の発生頻度は年々増加しており、帝王切開症例の増加が最大の要因とされています。この50年で頻度は10倍になり、およそ2,500分娩に1例と報告されていますが、本邦において帝王切開後の子宮摘出術を必要とする前置癒着胎盤症例は約5,000分娩に1件とされています。

参考)難治分娩,とくに前置癒着胎盤への対応

子宮摘出が必要となる具体的なケース

経腟分娩後に胎盤が娩出されない場合や、帝王切開中に明らかに癒着胎盤が診断された場合は子宮摘出が考慮されます。特に侵入胎盤や穿通胎盤を無理に剝離すると、剝離した部分から急激で多量の出血が起こり、術野の確保が困難となるため、熟練した術者であっても難しい手術となります。​
癒着胎盤を診断した場合、胎盤を剝離せず子宮全摘をするのが異常出血を免れる根治術であると考えられています。母体の重篤な転帰や妊産婦死亡になるリスクがあるため、速やかな判断が求められます。​
ある体験談では、緊急帝王切開で出産後、癒着胎盤により手術が当初の予定時間を大幅に超え、2リットル近い出血があったものの、幸運にも子宮を温存できたケースが報告されています。医師からは「子宮が温存できたのは本当に幸運が重なった上の奇跡」と説明されたとのことです。

参考)”緊急帝王切開”と”癒着胎盤”を経験して思ったことは・・・。…


癒着胎盤で胎盤用手剥離術を受けた場合、次回妊娠時のリスクは増加するため、基本的には大きな総合病院での帝王切開が推奨されます。陥入胎盤や穿通胎盤の場合には、速やかに子宮摘出術に移行できる体制が重要です。​

子宮摘出術後の生活への影響

子宮摘出後の生活について、卵巣を温存した場合は更年期症状は出ないとされています。ただし手術が40代後半以降の場合、卵巣機能が低下する時期と重なるため、更年期症状を子宮全摘のせいだと思いがちですが、実際には年齢による自然な変化です。

参考)子宮筋腫の手術で子宮を全摘出した場合、更年期症状が出るの?/…


手術後の状態が安定すれば、特に制限することはありません。腹腔鏡手術や腟式手術は開腹手術に比べて回復が早いことが特徴で、仕事への復帰や運動、車の運転、入浴などについては主治医に相談の上、段階的に再開できます。

参考)子宮摘出術:どんな治療?入院期間はどれくらい?術後の合併症は…


性生活については、子宮摘出に関する様々な論文によると、実際は子宮摘出によって性機能が向上した人のほうが多いというデータがあります。子宮を摘出しても卵巣は残るため、ホルモン値にも直接的な影響は出ないはずです。一方、卵巣を摘出する場合は術後に女性ホルモンが低下するため、濡れづらくなったり更年期障害のような症状が出る場合があります。

参考)性交痛がつらい。子宮摘出後にセックスはどう変化する?…に産婦…

項目 卵巣温存の場合 卵巣摘出の場合
更年期症状 出ない 出る可能性が高い
ホルモン値 直接的な影響なし 女性ホルモン低下
性機能 向上する場合も多い 低下する可能性あり
月経 完全に止まる

子宮摘出後は月経が完全に止まるため、月経痛や出血に悩まされることがなくなります。これは特に過多月経子宮筋腫で悩んでいた方にとっては大きなメリットとなります。

参考)【大反響記事】性欲がなくなった原因は更年期? 子宮摘出? 夫…

帝王切開と癒着胎盤のブログ体験談から学ぶこと

実際の体験談から、癒着胎盤の危険性と適切な医療対応の重要性が理解できます。ある方の体験では、緊急帝王切開で赤ちゃんが生まれた後、胎盤が剥がれないことが判明し、当初30分ほどで終わる予定だった手術が1時間以上かかりました。その間も出血は続き、結局2リットル近く出血したとのことです。​
医師からは「癒着胎盤を無理やり引きはがすと、はがれた部分から大量出血が起こり危険な事態に陥る」「程度にもよるが子宮を摘出せざるを得なくなることも多い」と説明されました。この方の場合、幸運にも子宮を温存できましたが、「本当に幸運が重なった上の奇跡」と言われるほど危険な状態だったそうです。​
別の体験談では、自然分娩後に癒着胎盤が判明し、胎盤用手剥離術を受けた方が「多量出血であわや輸血のできる病院に緊急搬送されるところだった」「胎盤用手剥離術の激痛を経験し、二度とあのような思いはしたくない」と語っています。このような経験から、次回妊娠時には必ず大きな総合病院での帝王切開を選択する重要性が理解できます。​

これらの体験談が教えてくれるのは、以下の点です。

📌 事前診断の重要性:リスク因子がある場合は妊娠中の慎重な超音波検査が必須​
📌 適切な施設選択:癒着胎盤が疑われる場合は、輸血体制や緊急手術が可能な総合病院での出産を選択​
📌 医療チームとの信頼関係:緊急時の判断と対応が母体の命を左右するため、経験豊富な医療チームのいる施設を選ぶことが重要​

癒着胎盤後の妊娠計画と予防策

一度癒着胎盤を経験すると、次回妊娠でのリスクが高まります。前回癒着胎盤で保存治療を選んだ場合、約1割の方に癒着胎盤が起こり、約2割の方に何らかの合併症が起きることが報告されています。妊娠そのものを避けないといけないほどのリスクではありませんが、相応のリスクの高さであり、出産場所としてリスクに十分対応できる施設を選ぶ必要があります。​
残念ながら、なぜ癒着胎盤ができてしまうかも明らかにされておらず、癒着胎盤を防ぐ方法もわかっていません。そのため、リスク因子を持つ妊婦さんは、特に注意深い経過観察と専門医との密な連携が必要となります。​
胎盤用手剥離術で胎盤が剥がれる場合は、厳密には「ホンモノの癒着胎盤」ではなく、胎盤の一部が剥離しない状態か、楔入胎盤程度ですが、説明の都合上、癒着胎盤と呼ぶことが多いです。しかし、このような処置を受けた場合も2回目妊娠以降のリスクは増加します。​

次回妊娠を希望する場合は、以下の対策が推奨されます。

🏥 大規模総合病院での管理:輸血体制、ICU、緊急手術に対応できる施設を選択​
📋 計画的な帝王切開:予定帝王切開であれば、癒着胎盤であっても危険なく対応できる可能性が高まる​
👨‍⚕️ 専門医との相談:癒着胎盤の経験がある産婦人科医のいる施設での管理が望ましい​
💉 術前準備の徹底:患者・家族への十分な説明と同意を得て、輸血準備などの対策を整える

参考)http://www.congre.co.jp/jsog2020/dl/ho_06.pdf