中咽頭がんとは症状や原因と治療

中咽頭がんとは

中咽頭がんの基本情報
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中咽頭の位置と役割

中咽頭は口の奥から喉頭蓋までの領域で、嚥下や構音に重要な役割を担う部位です

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主な発症原因

喫煙・飲酒による発がんとHPV感染による発がんの2つのタイプに大別されます

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治療と予後

手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた治療で、早期発見できれば良好な予後が期待できます

中咽頭がんの発生部位と特徴

中咽頭がんは、中咽頭に発生する悪性腫瘍で頭頸部がんの一つです。中咽頭は咽頭の中央部に位置し、上咽頭と下咽頭の間に存在します。具体的には口蓋垂根部から喉頭蓋谷までの範囲を指し、口蓋扁桃、軟口蓋、舌根部、後壁などの部位が含まれます。日本頭頸部癌学会の全国登録データによると、頭頸部がんの原発部位別頻度において中咽頭がんは16.9%を占めています。

参考)中咽頭がん:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の…


中咽頭は嚥下(飲み込むこと)や構音(発音)に極めて重要な役割を果たしている部位です。嚥下時には軟口蓋が挙上して上咽頭を閉鎖し、咽頭収縮筋の収縮と舌根の後方移動によって食物が下咽頭から食道へ送られます。また、中咽頭はリンパ組織が豊富な部位であり、微小な病変であってもリンパ節転移を起こしやすい特徴があります。このため、原発不明がんと診断されることもあります。

参考)中咽頭がん href=”https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/mesopharynx/” target=”_blank”>https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/mesopharynx/amp;#8211; 愛知県がんセンター

中咽頭がんの原因とHPV感染の関連

中咽頭がんの発生原因は大きく2つのタイプに分けられます。従来から知られている喫煙や飲酒が原因のHPV陰性中咽頭がんと、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因のHPV関連中咽頭がんです。これらは異なる疾患概念として扱われ、国際対がん連合(UICC)の病期分類においても区別されています。​
近年、HPV関連の中咽頭がんが増加傾向にあり、世界的な問題となっています。HPV関連中咽頭がん患者の85~90%では「タイプ16(16型)」が検出されることが分かっており、日本では中咽頭がんの約半数、アメリカでは約7割がHPVと関係していると言われています。HPVは皮膚や粘膜の小さな傷口から感染し、ほとんどの場合は免疫の力で自然に排除されますが、時にウイルスが感染した状態が持続するとがんを発症することがあります。日本人の約5%が咽頭にHPVが感染していると言われており、決して他人事ではありません。

参考)頭頸部がんセンター|中咽頭がん|順天堂大学医学部附属順天堂医…


喫煙や飲酒も中咽頭がんの重要なリスク要因です。特に長年の喫煙や大量飲酒は発がんリスクを高めることが知られています。

参考)中咽頭がん (ちゅういんとうがん)とは

中咽頭がんの症状と早期発見の重要性

中咽頭がんは初期のうちは自覚症状が見られないことが多く、これが早期発見を困難にしています。初期症状としては飲み込むときの違和感、食べ物がしみる感じなどの軽微な症状が現れます。病状が進行すると、おさまらない咽頭痛、のどからの出血、口を大きく開けにくい、舌を動かしにくい、耳の痛み、口の奥・のど・首にできるしこり、声の変化などの症状が現れます。

参考)中咽頭がん


さらに進行すると構音障害(発音の障害)、嚥下障害(飲み込みの障害)、開口障害などの症状が出現します。中咽頭がんは初期から頸部リンパ節に転移を起こしやすく、転移したリンパ節が大きくなり目立つことで初めて中咽頭のがんが発見されることも少なくありません。​
早期発見の重要性は非常に高く、早期に発見し治療できれば内視鏡を使用した切除で対応可能で、入院も1週間程度、機能障害もほぼ残らずに治療が可能です。しかし進行した場合は、手術では喉頭を大きく切除しなければならず声が出なくなることや、放射線・抗がん剤治療の影響でのどの違和感や食事困難などの症状が出現し、生活の質が大きく低下する可能性があります。

参考)頭頸部がんの早期発見

中咽頭がんの検査と診断方法

中咽頭がんが疑われる場合、いくつかの段階的な検査が行われます。まず触診では、医師が首の周りを丁寧に触って、リンパ節への転移がないかなどを調べます。また口から入れた指で、がんが疑われる部分を直接触れて、がんの大きさや硬さ、広がりなどを調べます。

参考)中咽頭がん 全ページ:[国立がん研究センター がん情報サービ…


次に喉頭鏡検査や間接喉頭鏡検査が行われます。小さな鏡がついている器具を口から入れて、鼻やのどの奥を確認する検査です。内視鏡検査では、咽頭や喉頭に局所麻酔をかけた後、内視鏡を鼻や口から入れて咽頭を確認します。中咽頭がんは同時に食道がんなどができることがあるため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で重複がんがないか調べることが勧められています。

参考)中咽頭がん 検査:[国立がん研究センター がん情報サービス …


がんが疑われる場合は生検が行われます。咽頭や喉頭に局所麻酔をかけ、内視鏡で確認しながら病変の一部を採取して、顕微鏡で詳しく確認しがんかどうかを診断します。中咽頭がんではHPV感染に関連するp16というタンパク質の状態により病期分類が異なるため、採取したがん組織を免疫染色という方法で調べ、p16が多く作られている場合にp16陽性、そうでない場合にp16陰性と診断されます。​
さらにがんの大きさ、リンパ節や他臓器への転移などを確認するために、CT検査やMRI検査、超音波(エコー)検査、PET検査などが行われます。​

中咽頭がんの治療法とステージ別の生存率

中咽頭がんの治療には手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法、緩和ケアがあります。治療では、がんの根治性を求めながら同時に治療による機能障害が最小になるように治療方法を選択することが重要です。​
早期がんでは、経口切除や放射線治療などが行われます。近年では手術支援ロボット(ダヴィンチ)を用いた経口的ロボット支援手術を導入している施設もあり、従来の経口的切除術に比べより安全で低侵襲な手術が提供されています。進行がんでは、放射線治療と抗がん剤を併用した化学放射線治療、もしくは遊離皮弁(前腕や大腿など体の別の部分の組織を採取し頸部の血管とつなぎ合わせる移植)を用いた再建手術を要する手術が行われます。​
中咽頭がんの5年生存率はステージによって異なります。がん研有明病院のデータによると、中咽頭がんの5年全生存率はⅠ期83%、Ⅱ期79%、Ⅲ期73%、Ⅳ期69%です。別の報告では、ステージ1が78.9%、ステージ2が87.3%、ステージ3が69.7%、ステージ4が47.7〜66.6%とされています。HPV関連中咽頭がんは遺伝子変異が少なく、喫煙・飲酒が原因のものに比べて予後は良好です。

参考)HPV関連中咽頭がん-意外と知らない|耳鼻咽喉科・頭頸部外科


治療によってがんが消失したと判断された後は、定期的に通院して検査を受ける必要があります。​

中咽頭がんの予防とHPVワクチンの可能性

中咽頭がんの予防には、まず禁煙し飲酒をひかえることが重要です。日本人を対象とした研究では、がん全般の予防には禁煙すること、飲酒をひかえること、バランスのよい食事をとること、活発に身体を動かすこと、適正な体形を維持すること、感染を予防することが有効であることが分かっています。

参考)中咽頭がん 予防・検診:[国立がん研究センター がん情報サー…


近年注目されているのがHPVワクチンによる中咽頭がん予防の可能性です。HPV関連中咽頭がんのうち88%は16型が原因であり、これは2価・4価・9価全てのHPVワクチンで予防が可能です。実際の研究では、男性でHPV関連のがんを発症した割合は、HPVワクチン接種を受けた男性で10万人あたり3.4例だったが、未接種男性では7.5例でした。特に中咽頭がんを含む頭頸部がんの発症では、接種済み男性が10万人あたり2.8例だったのに対し、未接種者では6.3例と、HPVワクチン接種が頭頸部がん発症リスクを大きく下げることが示唆されています。

参考)HPV(ヒトパピローマウイルス)で引き起こされる「中咽頭がん…


中咽頭がんは圧倒的に男性に多く、HPV感染により比較的若い年齢で発症する中咽頭がんは早期発見が難しく、世界中で増加傾向にあります。ワクチン接種によって中咽頭がんの原因となるHPVの感染率を減少させることができ、将来的に中咽頭がんを減少させることが期待されています。

参考)子宮頸がん予防だけじゃない HPVワクチンで男性の中咽頭がん…


定期的な耳鼻咽喉科での検診も重要です。舌根部は自分で見ることが難しく、耳鼻咽喉科での観察が必要になります。早期での症状は乏しく、首のリンパ節に転移することが多いため、首のしこりを自覚した際は耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。​