おたふく風邪の症状
おたふく風邪は、正式には流行性耳下腺炎と呼ばれ、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症なんです。最も特徴的な症状は耳下腺をはじめとする唾液腺の腫脹で、まるでおたふくのように顔が腫れるため、この名称が付けられました。潜伏期間は2~3週間、平均18日前後を経て発症し、両側または片側の唾液腺が腫れ、嚥下痛や発熱を主症状として現れます。
参考)流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)|国立健康危機管理研…
唾液腺の腫脹は両側に現れることが多いものの、約4分の1のケースでは片側のみで治まることがあります。腫れは通常48時間以内にピークを迎え、その後1~2週間で軽快していくのが一般的な経過ですよ。発熱は38度前後になることが多く、頭痛、食欲低下、倦怠感など風邪と似た症状が併発することもあります。
参考)おたふく風邪(流行性耳下腺炎)(症状・原因・治療など)|ドク…
興味深いことに、ムンプスウイルスに感染しても症状が現れない不顕性感染が約30~35%程度存在します。しかし、不顕性感染の状態でも感染力はあり、周囲にウイルスを伝播させる可能性があるため、医療従事者としては注意が必要なんですね。耳下腺が腫れる1~2日前から腫脹後5日間程度は特に感染力が強いとされています。
参考)おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)について/大阪府(おおさかふ)…
おたふく風邪の初期症状と見分け方
おたふく風邪の初期症状としては、首の痛みや頭痛、軽度の発熱が現れることが多いんです。耳下腺の腫れは片側から始まることが多く、1~2日ほど経過した後に反対側の耳下腺も腫れて両側が腫れるパターンが典型的です。
参考)おたふく風邪は大人でもかかる?熱が出ないケースもある? – …
通常の風邪との大きな違いは、耳の下にある耳下腺の腫れです。ムンプスウイルスが唾液腺に感染すると、唾液腺ではウイルスを排除するために免疫機能が働き、結果的に炎症が起こって顔周りの腫れが生じるんですよ。この腫れは発症から1日以内に現れ、2日目に最も重症化し、その後ゆっくりと治まっていきます。
参考)おたふく風邪はうつる!潜伏期間や症状は?|明石駅前いなぐま小…
飲食時に喉や顎に痛みを感じることも特徴的な症状です。食事の際に口を大きく開けたり、食べ物を飲み込む際の痛みが強いため、のどごしが良く刺激が少ない食事が推奨されます。医療従事者は、発熱や頭痛などの風邪様症状に加えて、耳下腺の腫脹と嚥下時痛の組み合わせが見られた場合、おたふく風邪を疑う必要がありますね。
おたふく風邪の合併症(髄膜炎・難聴・精巣炎)
おたふく風邪は決して軽視できない疾患で、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。最も頻度の高い合併症は無菌性髄膜炎で、自然感染では約1~10%に合併するとされています。第4病日以降、発熱・頭痛・嘔吐・項部硬直などの症状がある場合は、髄膜炎の疑いがあるため必ず受診が必要です。
参考)https://www.e-seikyo-hp.jp/medical/pediatrics/2021/3.pdf
ムンプス難聴は非常に重篤な合併症で、約1,000人に1人から2,000人に1人の割合で発症します。日本では年間700~2,300人のムンプス難聴が発生していると推定されており、片側性の感音性難聴が多く、難治性の聴力障害を残すことが特徴なんです。特に問題なのは、片耳だけの難聴は小児では自覚症状がないことが多く、発見が遅れやすい点です。
参考)おたふくかぜ(流行性耳下腺炎) – 東松山市公式ホームページ
思春期以降に罹患すると、精巣炎や卵巣炎のリスクが高まります。思春期以後の男性では精巣炎が20~40%に発症し、女性では卵巣炎が5~7%に見られます。膵炎も約4%の患者に合併し、激しい上腹部痛や嘔吐を伴って急激に発症しますが、3~7日で徐々に改善することが多いですよ。脳炎は約0.2%と頻度は低いものの、てんかんや発達障害などの後遺症を残すことがあるため、医療従事者として常に念頭に置く必要があります。
参考)防げたはずの難聴 ~だからこそ、おたふく風邪ワクチンが必要な…
おたふく風邪の診断と検査方法
おたふく風邪の診断は、臨床症状の観察と検査結果の総合的な評価によって行われます。初診時には問診と身体診察が重要で、症状の発現時期と経過、周囲の感染状況、予防接種歴、既往歴などを確認します。身体診察では耳下腺の腫脹と圧痛、体温測定、口腔内の観察、リンパ節の触診を行うんです。
参考)流行性耳下腺炎(Mumps)
片側または両側の唾液腺の腫れが2日以上続くことと、他に唾液腺の腫れの原因がないことを確認することにより臨床診断がなされますが、確定診断にはウイルス学的検査が不可欠です。ウイルス学的検査としては、PCR検査によるウイルス遺伝子の検出、抗体検査によるムンプスウイルスに対する抗体の測定、唾液や尿からのウイルス分離などが実施されます。
血液検査では血液や尿中のアミラーゼという酵素の値が上昇することがあり、補助診断になります。PCR検査は発症直後から7日程度の間に唾液や口腔拭い液を検体として行い、感度が高く発症早期の診断に有用なんですよ。IgM抗体検査は発症後3~7日、IgG抗体検査は発症後2週間以降に血液を用いて実施され、感染の時期や既往の判断に役立ちます。
参考)【医師監修】おたふく風邪の初期症状は?潜伏期間や予防法を解説…
画像検査も診断において重要な役割を果たし、超音波検査、CT、MRIなどで特徴的な所見を観察することができます。流行時期でない場合や予防接種を受けていない場合は、他の病気である可能性も考慮して、確定診断のための検査を慎重に選択する必要がありますね。
参考)おたふくの原因や治療方法について解説|渋谷・大手町・みなとみ…
流行性耳下腺炎の画像診断について詳しく解説された医療機関のページ
おたふく風邪の治療と対処法
おたふく風邪に効果的な特効薬や根本的な治療法は存在せず、ほとんどの場合1~2週間で自然に完治します。そのため、医療従事者は発熱や痛みに対して解熱鎮痛剤などを用いて症状を和らげ、痛みが激しく食事や水分補給が困難な場合は点滴などで補うといった対症療法を行うことになるんです。
自宅療養での指導として、食事の際に口を大きく開けたり、食べ物を飲み込む際に喉や顎が痛む可能性があるため、のどごしが良く刺激が少ないもの、嚥下の負担が少ないゼリー飲料、冷めたスープ類、ヨーグルトなどを推奨します。発熱がある場合は補水が困難で脱水症状に陥る可能性があるので、経口補水液や牛乳などの飲みやすい飲料でこまめに水分補給を指導することが重要ですよ。
発熱時や腫れた部分の痛みが気になる場合は、保冷剤や冷却シートなどで冷やすことも効果的です。硬いものは避け、喉通りの良いものを食べるように指導し、あまりに食べられない場合は点滴などで補う必要があります。医療従事者は、合併症の早期発見のため、激しい頭痛や嘔吐、腹痛などの症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診するよう患者教育を行うことが大切なんです。
おたふく風邪の予防接種と不顕性感染
現在、おたふく風邪に最も有効な予防方法はワクチンによる予防接種です。ムンプスワクチンは1歳から接種可能で、一度ワクチンを受けるとおよそ90%の確率で抗体を作ることができるとされています。世界保健機関(WHO)によると、2016年時点で121カ国が、おたふく風邪により起こる重い合併症をなくすため、1歳時にワクチン1回目を、国によっては4歳から6歳時に2回目を接種しているんです。
日本では先進国の中では珍しく任意接種となっているため、予防接種を受ける場合は有料で医療機関にて接種を受ける必要があります。おすすめの接種時期は、1歳前後に1回目の予防接種を行い、5~6年後の小学校入学前に再度行うことで、定期接種のMRワクチンとの同時接種により接種漏れを防ぐことができますよ。
参考)おたふく風邪は予防できる病気?予防接種で合併症のリスクを避け…
ワクチン接種による予防効果は100%ではありませんが、ワクチン導入以前を100%とする場合、1回定期接種をしている国で88%、2回接種している国ではさらに高い予防効果が報告されています。また、他の水痘や麻疹などの予防接種を同時に受けることで、1歳前後に発症することが多いとされる無菌性髄膜炎になる可能性を減らせることが判明しているんです。医療従事者自身も、予防接種歴や罹患歴、抗体検査結果を把握し、適切な感染対策を講じることが重要ですね。
参考)http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/vaccine-guideline_03(2).pdf
おたふく風邪の症状と予防接種に関する詳細情報を提供する医療サイト
症状の特徴 | 発現時期 | 持続期間 | 対処法 |
---|---|---|---|
耳下腺の腫脹 | 発症から1日以内 | 1~2週間 | 冷却、安静 |
発熱 | 初期症状 | 数日~1週間 | 解熱鎮痛剤 |
嚥下時痛 | 腫脹と同時 | 腫れが引くまで | 柔らかい食事 |
無菌性髄膜炎 | 第4病日以降 | 3~7日 | 速やかに受診 |
ムンプス難聴 | 罹患後 | 永続的 | 予防接種 |
検査方法 | 検体 | 実施時期 | 結果判明時間 |
---|---|---|---|
PCR検査 | 唾液、口腔拭い液 | 発症直後~7日 | 1~2日 |
IgM抗体 | 血液 | 発症後3~7日 | 2~3日 |
IgG抗体 | 血液 | 発症後2週間以降 | 2~3日 |
ウイルス分離 | 唾液、尿 | 発症直後~7日 | 1~2週間 |
おたふく風邪は一見軽症に見える感染症ですが、髄膜炎や難聴、精巣炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、医療従事者として適切な診断と患者教育が求められます。特に、不顕性感染が約3割存在し、無症状でも感染力を持つという特性を理解し、感染対策を徹底することが重要なんです。予防接種による予防が最も効果的であり、医療従事者自身も免疫状態を把握し、適切な対応を取ることが患者ケアの質向上につながりますよ。