眼瞼けいれんとは何か症状と診断治療の基本

眼瞼けいれんとは

眼瞼けいれんの概要
👁️

疾患の定義

眼輪筋の不随意な収縮により、自分の意思とは無関係にまぶたが閉じる状態

📊

発症年齢と性差

40~70歳の中高齢者に多く、男女比は約1対2で女性に多い

⚠️

進行性の特徴

放置すると次第に進行し、機能的失明状態に至ることもある慢性疾患

眼瞼けいれんの病態生理

眼瞼けいれんは、目の周りにある眼輪筋という筋肉が、自分の意思に関係なく過度に収縮する病気です。本態性眼瞼けいれんの場合、大脳基底核の機能障害が原因として推定されていますが、はっきりとした原因は解明されていません。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=10


Meige症候群と呼ばれる病態では、眼瞼けいれんに加えて口輪筋や顔面筋、頸部筋にまで症状が広がることがあります。画像学的検索では、大脳基底核や視床に病変が認められる症例があり、ドパミン系・アセチルコリン系・GABA系のアンバランスが興奮性経路と抑制性経路の制御障害を引き起こすと考えられています。

参考)【日暮里眼科クリニック】日暮里駅東口バス乗り場すぐ 土日祝も…


中枢神経系の機能不全により、眼輪筋への異常な神経刺激が生じ、随意運動制御機構の障害が発症に関与していると推察されています。局所ジストニアの一種ではないかという説もあり、体のいくつかの筋肉が無意識に収縮してゆがみや捻じれが生じる病態との関連性が指摘されています。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/102_764.pdf

眼瞼けいれんの主な症状と経過

初期症状としては、まばたきが増える、まぶしさを感じる(羞明)、目の乾き、目の周辺の違和感や痛みなどがあります。症状が進行すると、まぶたが開けにくくなる開瞼困難、まぶたが閉じてしまう閉瞼、目が開けていられない状態にまで至ることがあります。

参考)眼瞼けいれん|久里浜眼科


眼瞼けいれんの症状進行はゆっくりしていますが、自然に治る病気ではありません。多くの場合、次第にけいれんの回数が増し、日常生活や仕事に大きな支障をきたすようになります。重症例では眼を開けておくことができず、頬や口などほかの筋肉にも意志に反した勝手な運動がみられ、日常生活に大きな支障を来します。

参考)眼瞼けいれんの治療|眼瞼下垂専門サイト|蘇春堂形成外科


患者さんは光、風、視覚刺激やストレスによって眼を長く開けることができず、いつも眼のことが気になり、抑うつ症状が出ることもあります。QOL(生活の質)を著しく低下させる疾患であり、緩和ケア病棟においても一定頻度で見られ、潜在的なQOL低下につながっている報告があります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/8/1/8_168/_pdf

眼瞼けいれんの発症年齢と性差の特徴

眼瞼けいれんは40~70歳の中高齢者で発症することが多く、男女の比率はほぼ1対2で女性に多くみられます。40歳以上の女性に特に多く、男性の2~2.5倍多い傾向があります。

参考)眼瞼けいれん・片側顔面けいれん


40歳以下で眼瞼けいれんが見られる場合は、薬剤性眼瞼けいれんの可能性を考える必要があります。抗うつ薬抗精神病薬抗不安薬の内服が原因となることがあり、日本では諸外国に比べて抗不安薬の処方が多いため、特に注意が必要です。​

眼瞼けいれんの分類と原因

眼瞼けいれんは、原因によって本態性眼瞼けいれん、症候性眼瞼けいれん、薬剤性眼瞼けいれんの3つに分類されます。

参考)眼瞼ミオキミア(まぶたのピクピク) – Online MEW…


本態性眼瞼けいれんは、他の異常が原因となっていないもので、大脳基底核の障害が病因ではないかと推定されていますが、はっきりしていません。両側性で中高年の女性に多く、疲労やストレスで増悪します。​
症候性眼瞼けいれんは、パーキンソン病や進行性核上性麻痺、脳梗塞などの疾患が原因となって起こります。パーキンソン病では線条体のドパミン低下とアセチルコリンの増加が原因と考えられています。​
薬剤性眼瞼けいれんは、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬の内服が原因で発症します。これらの薬剤を内服していて眼瞼けいれんが生じた場合には、薬剤性の可能性を疑い、まずは原因と考えられる薬剤の中止を検討する必要があります。​

眼瞼けいれんの診断方法と瞬目テスト

眼瞼けいれんの診断では、問診と視診が基本となり、眼球に異常がなく視力障害がないことを確認します。診断には瞬目テストが有用で、日本神経眼科学会のガイドラインでは3種類のテストが推奨されています。

参考)眼瞼けいれん・眼瞼ミオキミア – みんなの家庭の医学 WEB…


軽瞬テストでは、軽く歯切れのよい瞬目を促すと、眉毛部も動く強い開閉瞼や、痙攣様の瞬目過多が生じます。重度では、瞬目そのものが不可能となります。

参考)眼瞼けいれんの検査・治療|茨城県水戸市の小沢眼科内科病院


速瞬テストは、できるだけ速い瞬目を連続して行うよう促し、10秒間に30回以上の随意瞬目ができることが目安です。強い瞬目の混入や、他の顔面筋の不随意運動、顔面筋の強い攣縮発作を認める場合、陽性と判定します。リズミカルにまばたきができれば、眼瞼けいれんではなく眼瞼ミオキミアの可能性が高いです。

参考)眼瞼痙攣 – かつむらアイプラストクリニック


強瞬テストでは、眼瞼を強く閉瞼し、その後開瞼させる動作を反復させ、開瞼困難や顔面筋の強い攣縮発作を認める場合、陽性と判定します。​
問診では、まばたきが多い、まぶしい、目を開いていられない、目が乾く・痛い、人や物にぶつかる、外出を控えるようになった、手を使って目を開けなければならない、片目をつぶってしまうなどの項目を確認します。これらのうち1つでも当てはまる場合は、眼瞼けいれんの疑いがあります。

参考)ボトックス 眼瞼痙攣 診断のための瞬目テスト|医療関係者向け…

眼瞼けいれんの鑑別診断のポイント

眼瞼けいれんの診断では、複数の類似疾患との鑑別が重要です。

参考)ボトックス 眼瞼痙攣 診断・治療|医療関係者向け情報 GSK…


片側顔面けいれんとの鑑別では、片側顔面けいれんは通常片側性であり、他の同側顔面筋にも同期性攣縮がみられることが鑑別診断のポイントです。片側顔面けいれんは、顔面神経が脳の血管と接触して圧迫されることが原因と考えられています。

参考)|眼瞼けいれん 片側顔面けいれん|池田町の眼科|まつばら眼科


眼瞼ミオキミアは、筋線維束攣縮の群発により体表面からさざなみ状の不随意収縮がみられる現象です。自覚症状が軽微であり、開閉瞼が障害されない事から鑑別可能です。左右どちらかの眼の下まぶたに起こることが多く、一時的なものが多いです。眼瞼けいれんと眼瞼ミオキミアとの決定的な違いは、開瞼に影響を与えるかどうかがポイントと言えます。

参考)眼瞼ミオキミア


チックとの鑑別では、発症年齢が若いこと、一時的に症状を抑制できることが鑑別診断のポイントになります。開瞼失行では、臨床的には額を持ち上げて開瞼しようとすることが鑑別のポイントです。眼瞼下垂は、重力または上眼瞼挙筋の麻痺によって上眼瞼が眼球を覆った状態で、ボツリヌス治療によって増悪する可能性が高いため、治療時には除外する必要があります。​
Meige症候群、ドライアイ、眼精疲労などとの鑑別も必要です。眼輪筋などの筋電図検査を行うこともあります。​

眼瞼けいれんのボツリヌス療法

眼瞼けいれんに対するボツリヌス療法は、現在最も有効性の高い治療法とされています。ボツリヌス毒素は神経筋接合部で神経終末に作用し、アセチルコリンの放出を抑制することで、筋肉の過度な収縮を和らげます。

参考)https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=288amp;dispmid=909


攣縮している眼輪筋などの筋肉にボツリヌス毒素製剤を注射します。効果は注入して2~3日後に現れ始め、個人差はありますが平均すると約4か月前後持続します。効果のピークはおおむね2週間~2か月の間で、少しずつ効果が切れてきます。

参考)眼瞼痙攣(顔面けいれん)のボツリヌス治療|相模原市の眼科まゆ…


Cochrane Reviewによると、ボツリヌス毒素A型の投与により、投与4~6週間後にプラセボと比較して眼瞼けいれん特異的重症度スコア(JRS重症度サブスケール)が0.93点減少し、中等度から大きな改善が認められました。また、眼瞼けいれん特異的な障害や不随意運動についても改善が示されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8094161/


ボツリヌス療法は眼科ならどこでも行っているわけではないため、専門施設への紹介が必要な場合があります。治療は入院も不要で、次の日からは普段と変わりなく生活できることがほとんどです。

参考)眼瞼けいれんの治療|眼瞼けいれん・片側顔面けいれん|主な診療…


日本神経眼科学会による「眼瞼けいれん診療ガイドライン」では、ボツリヌスA型毒素を含むさまざまな治療法の正しい知識を持つことが重要とされています。​

眼瞼けいれんの薬物療法とその他の治療

ボツリヌス療法以外の治療法として、抗けいれん薬抗コリン薬、抗不安薬などの内服治療があります。本態性眼瞼けいれんの治療には、これらの薬剤が用いられることがあります。​
症候性眼瞼けいれんの場合は、原因となっている病気の治療が必要です。薬剤性眼瞼けいれんでは、まずは原因と考えられる薬剤の中止が最優先となるため、処方している主治医に相談することが重要です。​
片側顔面けいれんに対しては、根本的な治療として顔面神経と脳の血管の接触を解消する脳神経外科手術もあります。薬物治療としては、神経の興奮を抑える目的で精神安定剤や抗てんかん薬を内服する方法もあります。​
休息すれば改善するというものではなく、特効薬はないため、ストレスを避け、対症療法を上手に利用しながら病気と上手に付き合い、少しずつQOLの改善を図ることが大切です。病気を理解して、危険因子を遠ざけ、早期から適切な対症療法を行うことが勧められます。​

眼瞼けいれんと日常生活への影響

眼瞼けいれんは、患者のquality of vision(視覚の質)とquality of life(生活の質)を大きく損なう疾患です。放置すれば次第に進行し、最終的には機能的失明状態になることもあります。​
患者さんは、まぶしい光やストレスによって症状が悪化するため、日常生活で大きな制約を受けます。光過敏症が重症になると、わずかな光でもまぶしく、暗い所から一歩も出ることができない状態になることがあります。昼間に行動できないため、暗くなってからゴーグルを着けて外に出る、わずかな光も通さないために目張りをした真っ暗な部屋で過ごすといった生活を強いられる方もいます。

参考)QOL損なう「光過敏症」 ~日本人は光に無防備~;時事メディ…


眼瞼けいれんによる光過敏症は、生活の質を著しく低下させるにもかかわらず、日本人は日常生活であふれている光に対し無防備過ぎるという指摘もあります。軽症例でも、光、風、視覚刺激やストレスによって眼を長く開けることができず、いつも眼のことが気になり、円滑な日常生活ができません。​
人ごみで人やものにぶつかる、電柱や立木、停車中の車などにぶつかる、太陽や風、階段の昇降が苦手で外出を控える、危険を感じるので車や自転車の運転をしなくなった、手を使って目を開けなければならない時があるなど、具体的な生活障害が生じます。​
家族にも病気とその苦しさを理解してもらい、協力してもらうことが重要です。緩和ケア病棟における報告では、眼瞼けいれんは一定頻度で見られる病態であり、見逃さずに評価を行い、薬剤調整を検討することが望ましいとされています。​

眼瞼けいれん診療における医療従事者の役割

医療従事者にとって、眼瞼けいれんの病態や治療法に関する十分な理解が求められています。さまざまな診療科の医師がその診療に当たっていることもあり、正しい診断と適切な治療法の知識を持つことが重要です。​
眼瞼けいれん患者の掘り起こしおよび治療を促進することが課題となっており、日本神経眼科学会による「眼瞼けいれん診療ガイドライン」が策定されています。このガイドラインは、関係各位の眼瞼けいれんという疾患の理解の一助となることを目的としています。​
診断の際には、問診で症状を詳しく聞き取り、瞬目テストなどの検査を適切に実施することが求められます。鑑別診断を行い、片側顔面けいれん、眼瞼ミオキミア、チック、開瞼失行、眼瞼下垂などとの区別を正確に行う必要があります。​
治療にあたっては、ボツリヌス療法の有効性と安全性を理解し、患者さんに適切な情報提供を行うことが重要です。また、薬剤性眼瞼けいれんの可能性も考慮し、他科との連携を図ることも大切です。​
眼瞼けいれん患者の治療を有効かつ安全に行うためには、正しく診断し、ボツリヌスA型毒素を含むさまざまな治療法の正しい知識をもつことが重要とされています。​

項目 内容
発症年齢 40~70歳の中高齢者に多い
性差 男女比1対2で女性に多い
主な症状 まばたき増加、羞明、開瞼困難、閉瞼
病態 大脳基底核の機能障害が推定される
診断方法 問診、視診、瞬目テスト
第一選択治療 ボツリヌス療法
効果持続期間 平均約4か月前後
鑑別疾患 片側顔面けいれん、眼瞼ミオキミア、チック、開瞼失行、眼瞼下垂

医療従事者向けの参考情報として、日本神経眼科学会が作成した診療ガイドラインには、診断基準や治療法の詳細が記載されています。

眼瞼けいれん診療ガイドライン|日本神経眼科学会

診断や治療に関する専門的な情報や、ボツリヌス療法の実施方法などが掲載されています。

眼瞼けいれん|日本眼科学会による病気の解説

一般向けの解説ですが、病態や症状について分かりやすくまとめられており、患者説明にも活用できます。

眼瞼痙攣(がんけんけいれん)とは|済生会

症状、原因、治療法について包括的な情報が提供されています。