ブルガダ症候群と症状の全貌

ブルガダ症候群の症状

ブルガダ症候群の主要症状
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心室細動による突然死

夜間から早朝にかけて、心臓が突然停止する致死的な不整脈が発生するリスクがあります

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失神発作

一過性の心室細動により、意識を失う失神が突然起こることがあります

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夜間の異常な呼吸

睡眠中にあえぐような呼吸や呼吸停止が観察されることがあります


ブルガダ症候群は、1992年にBrugada兄弟によって報告された遺伝性不整脈疾患で、特徴的な心電図所見と突然死のリスクを伴う重大な疾患です。この疾患における最も重要な症状は、心室細動による心停止と失神発作であり、以前は「ぽっくり病」として知られていた疾患群の一部を構成しています。

参考)循環器系疾患分野


心臓の構造や機能自体は正常であるため、発作を起こすまでは全く普通に日常生活を送れることがブルガダ症候群の大きな特徴です。しかし、発作が起きると突然意識を失ったり、最悪の場合は死亡したりする可能性があります。

参考)ブルガダ(Brugada)症候群


国立循環器病研究センターの研究によると、症候性ブルガダ症候群では突然死が年約10%発生するのに対し、無症候性ブルガダ症候群では心停止発作をきたす頻度は年1%未満と報告されています。この統計は、症状の有無がリスク評価において極めて重要な指標となることを示しています。​

ブルガダ症候群の失神症状とメカニズム

失神はブルガダ症候群における代表的な症状の一つで、多形性心室頻拍または心室細動に起因して発生します。心室細動が一時的に出現すると、心臓が血液を全身に送ることができなくなり、脳への血流が途絶えることで一過性に意識を失います。

参考)ブルガダ症候群 – 04. 心血管疾患 – MSDマニュアル…


失神の特徴として、労作との関連がなく、特に夜間や早朝に多く発生することが知られています。東京逓信病院の研究データでは、発作の発生は夜間に多く、通常は労作と関連しないと報告されています。

参考)https://www.tokeidai-mc.jp/subject/jyunkanki01.html


しかし、医療従事者が注意すべき点として、失神の原因は心室細動に限らないため、詳細な問診と失神の状況把握が必要です。慶應義塾大学病院のKOMPASによると、病院では失神の状況を詳しく問診し、失神の原因を調べるための検査を行うことが推奨されています。​
岡山大学の症例報告では、ブルガダ型心電図を有していても、失神の原因が心室細動でない場合は直ちに除細動器適応とはならないと指摘されており、鑑別診断の重要性が強調されています。

参考)遺伝性不整脈

ブルガダ症候群の心室細動発作の臨床的特徴

心室細動は、心室が細かく震えて規則的な拍動を失い、血液を全身に送ることができなくなる致死的不整脈です。ブルガダ症候群における心室細動は、心臓に明らかな器質的基礎疾患がない特発性心室細動として分類されます。​
心室細動の発作頻度に関して、ICD治療を行っている患者の観察研究では、平均2,244日の観察期間内に9%で心室細動に対する適切作動が認められたと報告されています。具体的には、心室細動既往例では25%、失神既往例では5%、無症候例では7%で適切作動が認められました。

参考)http://j-ivfs.org/wp-content/uploads/2017/02/vol36-25


心室細動発作の誘因として、発熱や特定の薬物が報告されています。MSDマニュアルによると、ナトリウムチャネル遮断薬、β遮断薬、特定の抗うつ薬および抗精神病薬リチウム、アルコール、コカインなどによってもイベントが惹起されることがあるとされています。​
また、患者の約10%に心房性頻拍性不整脈、主に心房細動が生じることも報告されており、心室細動以外の不整脈にも注意が必要です。​

ブルガダ症候群の無症候性患者の臨床経過

無症候性ブルガダ症候群は、典型的なブルガダ型心電図を呈しながらも、心停止や失神などの症状を全く有しない患者群を指します。全人口の0.05~0.2%程度がタイプ1のブルガダ型心電図を示すと報告されていますが、多くは無症候性と考えられています。​
無症候性患者の予後に関する長期疫学調査では、比較的良好である可能性が示唆されています。心電図健診による長期にわたる疫学調査の結果、ブルガダ型心電図を呈する群では突然死の有意な増加が認められなかったと報告されています。

参考)心電図健診による長期にわたる疫学調査: Brugada(ブル…


しかし、無症候性であっても注意が必要なケースがあります。鹿児島大学保健管理センターの情報によると、ブルガダ型心電図があっても自覚症状はなく心機能も正常ですが、定期的な経過観察が推奨されています。

参考)ブルガダ症候群 href=”https://hsc.kuas.kagoshima-u.ac.jp/?p=385″ target=”_blank”>https://hsc.kuas.kagoshima-u.ac.jp/?p=385amp;#8211; 保健管理センター


遺伝子研究センターのデータでは、突然死の平均年齢は40歳であり、乳幼児突然死症候群の病型も含まれると報告されており、幅広い年齢層での発症に注意が必要です。

参考)ブルガダ症候群 – MGenReviews

ブルガダ症候群の突然死リスク評価と予後

突然死は、ブルガダ症候群における最も深刻な転帰であり、適切なリスク評価が患者管理の核心となります。症候性ブルガダ症候群では、突然死が年約10%みられるのに対し、無症候性ブルガダ症候群では心停止発作をきたす頻度は年1%未満という大きな差があります。​
リスク因子として、失神の既往、突然死の家族歴、早期再分極の存在、自然発生のcoved型ブルガダ型心電図などが不整脈発生の予知指標になることが報告されています。2018年に改定された日本循環器学会のガイドラインでは、他の臨床所見とともにSCN5A遺伝子変異が初めてリスクの一つとしてカウントされるようになりました。

参考)Brugada(ブルガダ)症候群|不整脈科|心臓血管内科部門…


予後に関する多施設研究では、心室細動既往例では約10%/年の頻度で心事故を生じたと報告されており、既往歴の有無が予後を大きく左右することが示されています。一方で、発端者を対象とした調査で突然死の家族歴を有するものは12-14%にとどまったという報告もあり、家族歴がない症例も多く存在します。​
興味深い知見として、前胸部誘導の非特異的J点上昇が突然死の危険因子である可能性が新たに明らかになっており、従来の診断基準に合致しない心電図所見にも注意が必要です。​

ブルガダ症候群の遺伝子変異と症状の関連性

ブルガダ症候群の約20%の症例では、心臓ナトリウムチャネルをコードするSCN5A遺伝子の変異が見出されています。SCN5A以外にも、カルシウムチャネルなど7種類以上の遺伝子の関与が報告されており、遺伝的チャンネル病が背景にあると考えられています。​
遺伝形式に関しては、X連鎖性のKCNE5関連ブルガダ症候群を除き、常染色体優性遺伝形式をとります。国立循環器病研究センターの研究によると、ブルガダ症候群患者の子が病原性変異を受け継ぐ確率は50%であると報告されています。

参考)GRJ ブルガダ症候群


しかし、日本では家族や血縁者にブルガダ症候群の患者がいなくても発症する孤発例が多い傾向があり、新生突然変異による発症は1%と推定されています。このため、家族歴がないからといってブルガダ症候群を除外することはできません。​
遺伝子検査の役割について、日本循環器学会のガイドラインでは通常推奨されていますが、検出率は約20~30%にとどまっているのが現状です。国立循環器病研究センターのオミックス情報センターの報告では、20個以上の関連遺伝子が報告されているものの、遺伝子判明率は20%以下と低く、今後の研究が期待されています。

参考)ブルガダ症候群における突然死の遺伝的リスクに関する国際共同研…


<参考リンク>

慶應義塾大学病院のブルガダ症候群に関する詳細情報と診断・治療の最新知見について

ブルガダ(Brugada)症候群 | KOMPAS – 慶應義塾大学病院

難病情報センターによるブルガダ症候群の疫学データと治療ガイドライン

循環器系疾患分野|Brugada症候群(ブルガダ症候群)

国立循環器病研究センターの不整脈科による専門的な診断・治療情報

Brugada(ブルガダ)症候群|不整脈科|心臓血管内科部門

症状分類 年間発症リスク 主な特徴
症候性ブルガダ症候群(心停止・心室細動既往) 約10% 再発リスクが極めて高く、ICD植込みが必須
失神既往のあるブルガダ症候群 約5% 詳細な失神の原因究明が必要
無症候性ブルガダ症候群 1%未満 多くは無症状のまま経過するが定期観察が必要

ブルガダ症候群の症状は、無症状から突然死まで幅広いスペクトラムを持つことが大きな特徴です。医療従事者として、心電図所見だけでなく、失神の既往、家族歴、遺伝子変異などを総合的に評価し、個々の患者に応じた適切なリスク層別化と管理が求められます。​
特に注意すべき点として、30~50歳代の男性に多く(男女比9:1)、アジア人に比較的多く認められることから、健康診断での心電図異常の指摘時には積極的に精査を進めることが重要です。また、発作が夜間から早朝に多く、発熱や特定の薬物によって誘発される可能性があることも、患者指導において重要な情報となります。​
無症候性患者の管理については、全く無症状のまま経過する症例が多いと考えられている一方で、一定のリスクは存在するため、定期的な経過観察と適切な生活指導が必要となります。ICD植込みの適応については、日本循環器学会のガイドラインに基づいた慎重な判断が求められ、心停止や心室細動既往例はクラスⅠ適応、失神または突然死の家族歴があり電気生理検査で心室細動が誘発された例はクラスⅡa適応とされています。​