腹圧性尿失禁と骨盤底筋体操の効果と実践法

腹圧性尿失禁と骨盤底筋体操

この記事で分かること
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腹圧性尿失禁のメカニズム

骨盤底筋の衰えと尿道括約筋の機能低下が主な原因です

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骨盤底筋体操の実践法

正しいやり方と継続期間、回数について解説します

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トレーニングの注意点

間違った方法は逆効果になる可能性があります

腹圧性尿失禁のメカニズムと発症原因

腹圧性尿失禁は、咳やくしゃみ、重い物を持ち上げる動作など、腹部に圧力がかかったときに尿が漏れてしまう状態を指します。この症状の主な原因は、骨盤底筋群の衰えと尿道括約筋の機能低下です。

参考)もう我慢しない!腹圧性尿失禁の原因と治療法を徹底解説


骨盤底筋は骨盤の底にハンモック状に張っている筋肉群で、膀胱や子宮などの臓器を支え、尿道や肛門を締める重要な役割を担っています。出産時には骨盤底筋が大きく伸展するため、特に難産や陣痛が長引いた場合にはダメージを受けやすくなります。​
閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)の減少も、骨盤底筋の維持に影響を与える要因です。エストロゲンの分泌が減少すると、骨盤底筋の萎縮やコラーゲン減少が起こりやすくなり、尿失禁のリスクが高まります。その他、加齢、肥満、骨盤内手術、過度に腹圧がかかる運動なども原因となります。

参考)腹圧性尿失禁の原因は何がありますか? |腹圧性尿失禁

骨盤底筋体操の効果とエビデンス

骨盤底筋トレーニング(PFMT)は、腹圧性尿失禁に対する第一選択の治療法として広く推奨されています。多数の無作為比較試験(RCT)により、尿失禁の治療と予防に有効であることが実証されています。

参考)腹圧性尿失禁に骨盤底筋トレーニングは効果的ですか? |腹圧性…


システマティックレビューによると、骨盤底筋トレーニングを実施した患者の62%が尿失禁を大幅に軽減または治癒し、骨盤底筋の収縮機能も改善したことが報告されています。さらに、21.8%の患者では完全に失禁が消失しました。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8910078/


トレーニング効果が現れ始めるのは開始後4週間程度で、最大効果に達するまでには約3カ月かかります。正しい方法で3カ月間継続すると、3人中2人に改善効果が認められるというデータもあります。効果を持続させるためには、3カ月を過ぎても1日おきに継続することが推奨されます。

参考)骨盤底筋トレーニング – 女性泌尿器科 – 日本赤十字社愛知…


骨盤底筋トレーニングの有効性に関する詳細な研究結果では、バイオフィードバックや電気刺激と併用した場合の効果についても解説されています。

骨盤底筋体操の正しいやり方と実践法

骨盤底筋体操の基本は、全身をリラックスさせた状態で骨盤底筋だけを収縮させることです。体勢は立位、仰臥位、座位、四つん這いなど、どの姿勢でも実施可能です。

参考)骨盤底筋トレーニングをやっているけど効果がないのはやり方が違…


仰向けでの基本的な方法は、まず両足を肩幅程度に開き、両膝を軽く立てた状態で横になります。次に、お腹に力を入れず、肛門と腟を締めたり緩めたりする動作を2〜3回繰り返します。肛門を締める感覚は「オナラを我慢する感じ」、腟を締める感覚は「おしっこを途中で止める感じ」を意識しましょう。

参考)腹圧性尿失禁に対する骨盤底筋体操のポイント – 世田谷区の産…


具体的なトレーニング方法としては、最大の力で6〜8秒間収縮し、6秒間休憩するサイクルを8〜12回繰り返すのを1セットとし、1日3セット行うことが推奨されます。または、5秒間締めて息を吐きながらゆっくり緩める動作を1日100回行う方法もあります。

参考)腹圧性尿失禁5 骨盤底筋体操 – よこすか女性泌尿器科


初心者は1回5分程度から始め、徐々に10〜20分まで時間を延ばしていきます。生活の中で、通勤中やテレビを見ながら、起床時や寝る前など、すきま時間を活用して実践することが継続の鍵となります。

参考)骨盤底筋体操|便失禁は治療ができる病気です-おしりの健康.j…


骨盤底筋体操の詳しい実践ポイントでは、姿勢別のトレーニング方法が紹介されています。

骨盤底筋体操の注意点と間違いやすいポイント

骨盤底筋トレーニングを初めて開始した方のうち、3割以上が間違った筋肉を使っているという研究結果があります。最も多い間違いは、お腹や太ももなど他の筋肉を締めつけてしまうことです。

参考)骨盤臓器脱の改善と予防について|仁和会総合病院(八王子市)


間違った筋肉を収縮させると腹圧で骨盤底が下がり、かえって症状が進行する可能性があります。骨盤底筋トレーニングでは、腹筋の力を抜いて行うことが非常に重要です。​
もう一つの重大な間違いは、骨盤底筋を押し出してしまう動作です。排便のように息んでしまうとお腹の圧が高まり、骨盤底筋は押し出されてしまいます。研究では、骨盤底筋トレーニング時に25%の人が正しく動かせずに押し出す間違った動きをしていることが報告されています。​
正しく骨盤底筋を動かす時は、押し出さずに自分のお腹の方向に吸い上げるように動かすことがポイントです。また、過剰に力を入れすぎること、鍛えることしかせず緩めていないこと、骨盤の角度が間違っていることなども、よくあるエラーパターンとして挙げられます。

参考)骨盤底筋トレーニングのよくある間違い:2019年12月8日|…

腹圧性尿失禁の評価法とバイオフィードバック

腹圧性尿失禁の重症度を評価する方法として、パッドテストが広く用いられています。1時間パッドテストでは、尿もれ用のパッドを装着し、500ccの水を飲んだ後、30分間の歩行(階段の上り下り1階分を含む)や、座る・立ち上がる動作、咳き込み、走り回るなどの動作を行います。

参考)腹圧性尿失禁の重症度の評価


テスト前後のパッドの重量差から尿もれの量を測定し、失禁の程度を判定します。この客観的な評価により、トレーニング効果をモニタリングすることができます。

参考)1時間パッドテスト- チャームナップ – ユニ・チャーム


骨盤底筋の正しい収縮が困難な場合には、バイオフィードバック機器が有効です。電極が付いた経腟プローブを腟内に挿入し、骨盤底筋群を収縮させたときに発生する活動電位がモニター画面上に波形として表示されます。患者は自身の筋電図波形を見ながら、収縮と弛緩のタイミングを学習していくことができます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/resja/35/4/35_127/_pdf/-char/ja


筋力低下が強い産後女性では、経腟電気刺激療法とトレーニングの併用が骨盤底筋群の筋力強化に効果的です。研究では、週2回、合計5回の経腟電気刺激と骨盤底筋体操の組み合わせにより、32%の患者で筋力増強が認められました。

参考)筋力低下のある産後女性に対する電気刺激療法のプロトコルの効果…


排尿障害のリハビリテーション機器に関する詳細資料では、バイオフィードバック機器や電気刺激機器について詳しく解説されています。

骨盤底筋体操と体幹トレーニングの併用効果

近年の研究では、骨盤底筋体操に体幹(コア)の安定化エクササイズを組み合わせることで、より高い効果が得られることが報告されています。無作為化比較試験では、骨盤底筋体操のみの群と、骨盤底筋体操とコア安定化エクササイズを併用した群を比較しました。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9467742/


併用群では、尿もれの量と頻度がより大きく改善されたことが示されています。これは、腹横筋などの腹筋群の収縮が骨盤底筋にも影響を与え、骨盤底機能を向上させるためと考えられます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/28/6/28_823/_pdf


腹横筋トレーニングと骨盤底筋トレーニングはいずれも骨盤底筋機能を向上させる効果があり、両トレーニング法に効果の違いはみられないという研究結果もあります。これは、骨盤底筋群と体幹筋群が機能的に連携していることを示しています。​
腰痛を伴う腹圧性尿失禁患者では、骨盤底筋トレーニングと体幹トレーニングの併用により、腰痛の改善と尿失禁の軽減の両方が期待できます。4週間の介入で、体幹筋持久力、腰部安定化筋の活動、腰痛の重症度すべてに改善が認められました。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11921527/

医療従事者が知っておくべき腹圧性尿失禁の生活指導

腹圧性尿失禁の患者には、骨盤底筋体操だけでなく、生活習慣の改善も重要です。減量は骨盤底筋トレーニングと並んで、腹圧性尿失禁に対してまず行われる治療法です。肥満により腹圧が高まることで尿が漏れやすくなるため、適正体重の維持が推奨されます。

参考)腹圧性尿失禁


くしゃみ、咳、重たいものを持ち上げる、ジャンプするなどの腹圧がかかるときに骨盤底筋を締めつけるようにすれば、尿失禁予防と骨盤底保護ができます。この「骨盤底筋の先行収縮」は、日常生活での尿もれを防ぐための実践的なテクニックです。​
骨盤底筋体操は切迫性尿失禁にも有効であり、漏れそうになったときに骨盤底筋を締めることで、トイレに行くまで我慢するのに役立ちます。様々なタイプの尿失禁に対応できるため、患者指導の際には幅広い応用が可能です。

参考)「腹圧性尿失禁」(尿の漏れ)の対処方法


治療効果を持続させるためには、症状が改善した後も体操を継続する必要があります。骨盤底筋トレーニングは産後すぐからでも推奨されており、予防的な観点からも早期からの実施が重要です。

参考)骨盤底筋のトレーニング|リハビリテーション通信|江藤病院


医療従事者としては、患者が正しい方法でトレーニングを実施できているか定期的に確認し、必要に応じてバイオフィードバックや専門家による指導を勧めることが大切です。インストラクターの指導を含めた骨盤底筋訓練では60%の患者が「尿失禁がないあるいはほとんど改善した」と報告したのに対し、ホームエクササイズのみでは17.3%だったという研究結果もあります。

参考)http://aichi-npopt.jp/dl/info_paper_back/25_01_04_.pdf

評価項目 内容 判定基準
1時間パッドテスト 500cc飲水後、30分歩行と特定動作を実施 パッド重量差で尿もれ量を測定
トレーニング効果出現 開始後4週間程度 3カ月で最大効果に達する
改善率 3カ月継続実施 3人中2人に効果
トレーニング頻度 6〜8秒収縮、6秒休憩 8〜12回×1日3セット

患者教育では、骨盤底筋体操は簡単なようで意識しづらい筋肉であることから、地道にこつこつ続けることが重要であると伝えることが大切です。症状が出現する前から予防的にトレーニングを行うことで、将来的な腹圧性尿失禁のリスクを低減できます。​