熱中症の症状と重症度分類
熱中症の初期症状と見逃しやすいサイン
熱中症の初期症状として最も多く報告されるのは、37.5℃以上の発熱、頭痛、全身倦怠感の3つなんです。これらは風邪や疲労と間違えやすく、見過ごされやすい症状です。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000162.000048083.html
意外なことに、下痢や全身の痛みも熱中症のサインとなることがあります。脱水によって腸の動きが変化したり、体内の水分バランスが崩れることで消化器症状が現れるケースも報告されているんですよ。
症状検索エンジン「ユビー」による熱中症関連症状の分析結果では、発熱・頭痛・だるさが主訴のトップ3として挙げられています。
熱中症の重症度分類(Ⅰ~Ⅳ度)の詳細
2024年に発表された最新の熱中症診療ガイドラインでは、従来のⅢ度をさらに細分化し、最重症のⅤ度が新たに定義されました。
参考)https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
重症度 | 体温 | 意識状態 | 主な症状 | 対応 |
---|---|---|---|---|
Ⅰ度(軽症) | 平熱〜38℃未満 | 清明 | めまい、立ちくらみ、筋肉痛、大量発汗 | 現場での休息、水分補給 |
Ⅱ度(中等症) | 40℃未満 | 軽度障害 | 頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感 | 医療機関受診が必要 |
Ⅲ度(重症) | 40℃以上 | 中等度障害 | 意識障害、肝腎障害、DIC(該当しない場合) | 入院治療 |
Ⅳ度(最重症) | 40℃以上 | GCS≦8 | 高度意識障害、多臓器不全 | 集中治療室での管理 |
Ⅳ度は深部体温40.0℃以上かつGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)≦8と定義され、Active Coolingを含めた集学的治療を早急に開始する必要があります。
日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2024には、詳細な診療アルゴリズムが掲載されています。
熱中症による臓器障害と合併症
重症熱中症では、中枢神経障害だけでなく、多臓器にわたる障害が発生します。肝障害ではAST・ALTの上昇、腎障害では血清クレアチニンやBUNの上昇が認められます。
特に注意すべきなのがDIC(播種性血管内凝固症候群)の合併です。熱中症患者の死亡率はDICの有無と有意に関連しており、DICスコアが高くなるにつれて死亡率も上昇することが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7818934/
高体温の遷延による神経細胞障害と、脱水による循環血液量減少が組み合わさることで、TNFα、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインが増加し、多臓器不全へと進行していきます。
看護roo!の熱中症ケア編では、医療従事者向けの詳細な対応方法が解説されています。
参考)熱中症【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【15】
熱中症のリスク因子と高リスク群
熱中症になりやすい人の特徴として、高齢者、小児、肥満体質の方が挙げられます。高齢者は体温調節機能の低下に加え、体水分量が成人の60%に対して50%と少なく、脱水に陥りやすいんです。
子どもは基礎代謝が高く体温が上がりやすい一方で、発汗量を調整する汗腺がまだ未発達なため、体内に熱がこもりやすい特徴があります。地面からの照り返しによって、ベビーカーに乗っている乳幼児は特に注意が必要です。
基礎疾患としては、糖尿病、高血圧、心血管疾患、呼吸器疾患が熱中症のリスク因子となります。さらに、ACE阻害薬・ARB、利尿薬、抗精神病薬、SSRI、抗うつ薬などの薬剤も熱中症による入院増加と関連があることが報告されています。
社会経済的要因も重要で、エアコンの未使用、独居、低収入なども熱中症発症のリスクを高める要因となっています。
熱中症の初期対応と冷却方法
熱中症の治療で最も重要なのは、迅速な体温管理です。Active Coolingとして、冷水浸水、蒸散冷却、局所冷却(アイスパック)などの方法があります。
効果的な冷却部位は、前頸部(首の前面の左右)、腋窩部(両脇の下)、鼠径部(脚の付け根の前面)の「三大局所冷却」です。これらの部位には太い血管が走っており、冷却された血液が大量に体内に戻ることで効率よく全身を冷やせます。
参考)熱中症の対策最新版:正しい冷やす場所と冷却方法を解説│健達ね…
2024年のガイドラインでは、重症例(Ⅲ~Ⅳ度)に対してActive Coolingを含めた集学的治療を行うことが推奨されています。目標体温は38.0℃とされ、深部体温を測定しながら冷却を進めることが重要です。
医療従事者向けの冷却方法の詳細解説では、具体的な冷却手順が紹介されています。
軽症例(Ⅰ~Ⅱ度)では、涼しい場所での安静(Passive Cooling)と水分・電解質の補給で症状が軽快することが多いですが、改善に乏しい場合は速やかにActive Coolingへ移行する必要があります。
医療従事者が知っておくべき熱中症の予防対策
医療現場では、患者だけでなく医療従事者自身も熱中症のリスクにさらされています。特にCOVID-19パンデミック以降、個人防護具(PPE)の着用により熱ストレスが増加していることが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12001009/
WBGT(湿球黒球温度)は熱中症予防の重要な指標です。WBGT28を超えると熱中症のリスクが急速に増加し、WBGT33以上で熱中症警戒アラート、WBGT35以上で熱中症特別警戒アラートが発出されます。
参考)WBGT指数による暑熱環境評価と,電子式WBGT測定器のJI…
環境省の暑さ指数(WBGT)情報サイトでは、リアルタイムのWBGT情報を確認できます。
職場における熱中症対策として、2024年から事業者には(1)早期発見のための体制整備(2)重篤化防止のための措置の実施手順作成(3)関係作業者への周知が義務付けられています。
参考)今夏は高齢者、子供だけでなく職場の熱中症対策も重要に/日医|…
暑熱順化(熱ストレスに繰り返し曝露されることで熱耐性を向上させる生理的適応)も重要な予防策です。7〜14日間の段階的な暑熱環境への適応により、発汗機能や循環機能が改善し、熱中症のリスクが低下することが示唆されています。
水分補給については、激しい運動や大量の発汗がない限り、通常の日本人の食事で十分な塩分が摂取できているため、過度な塩分補給は不要です。脱水が疑われる場合は経口補水液が有効ですが、腎臓病などの持病がある方は事前に医師と相談することが推奨されています。
参考)熱中症によるナトリウム不足を解消する方法はありますか? |熱…