大腸憩室炎の症状と診断・治療・予防法

大腸憩室炎の症状と診断・治療

 

大腸憩室炎の主要な症状と診断ポイント
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主な症状:腹痛・発熱

左下腹部痛や右下腹部痛が特徴的で、発熱や下痢、吐き気を伴うことが多いです

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診断:CT検査が有用

腹部CTで憩室周囲の炎症所見や腸管壁の肥厚、脂肪織濃度上昇を確認できます

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合併症:穿孔・膿瘍形成

重症例では腸管穿孔や膿瘍形成を起こし、腹膜炎や敗血症に至ることもあります

 

大腸憩室炎の主要症状とその特徴

大腸憩室炎の症状として最も多いのは、腹痛と発熱です。腹痛は憩室炎を起こしている部分に限局して現れることが多く、右側結腸の憩室炎では右下腹部痛、S状結腸や下行結腸の憩室炎では左下腹部痛として認識されます。特にアジア系の患者では右側結腸の病変による右下腹部痛で発症することが多く、虫垂炎(盲腸)と間違えやすいため鑑別が重要です。

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発症初期には周期的に起こる腹痛が特徴的ですが、炎症が強くなると持続的な痛みに変化します。発熱は炎症の程度を反映しており、軽度から中等度の発熱を認めることが一般的です。

参考)憩室炎の症状・原因と治療法|横浜市神奈川区横浜駅から徒歩3分…


消化器症状としては、吐き気や嘔吐、下痢、便秘などが憩室炎に伴って出現します。炎症が強くなると腸の動きが悪くなり、腸内細菌のバランスが乱れることで、おならが頻回に出るようになる症状も報告されています。憩室出血とは異なり、憩室炎では通常、消化管出血は起こりません。

参考)憩室炎 – 03. 消化器系の病気 – MSDマニュアル家庭…


圧痛や腹部膨満などの身体所見も重要な症状です。炎症が進行すると、腹膜刺激徴候(反跳痛や筋性防御)を認めることがあり、特に膿瘍や遊離穿孔を伴う場合に顕著になります。

参考)大腸憩室炎 – 01. 消化管疾患 – MSDマニュアル プ…

大腸憩室炎のCT検査による診断方法

大腸憩室炎の診断確定には腹部CT検査が最も有用です。CT検査は憩室炎を見つけるのを得意としており、憩室炎を疑われた患者のほとんどが受けることになる検査となっています。

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CT画像では、炎症を起こしている憩室の壁が肥厚したり、その周囲の脂肪織が混濁したりといった特徴的な炎症所見が観察されます。具体的には、腸管から外に突出する直径5mmから10mm程度の袋状の構造物(憩室)と、その周囲の脂肪織濃度の上昇が描出されます。

参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12911


重症例では、穿孔をきたしている場合に本来見られない遊離ガス像が認められます。膿瘍形成を伴っている場合は、球状の膿の塊がCTで確認できるため、治療方針の決定に重要な情報となります。

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血液検査も診断と重症度評価に必須で、白血球数(WBC)、C反応性蛋白(CRP)、好中球分画などの炎症マーカーを確認します。炎症が強い場合、白血球数とCRPが上昇し、白血球分画では好中球が増加するのが特徴です。

参考)大腸憩室炎・大腸憩室症|中島クリニック


大腸カメラ検査は、憩室炎の急性期には穿孔を誘発する危険性があるため避けるべきで、炎症が治まった後に大腸がん虚血性大腸炎などの他の病気でないことを確認するために実施します。​
東京胃腸クリニック – 大腸憩室の検査・治療では、憩室炎の急性期における検査の注意点が詳しく解説されています。

大腸憩室炎の治療法と合併症対応

大腸憩室炎の治療は、炎症の程度によって外来治療と入院治療に分かれます。軽症例では抗菌薬の内服と安静で数日から7日程度で改善することが多く、外来でのフォローが可能です。

参考)大腸憩室症(憩室炎・憩室出血) の原因は?治療や食事について…


炎症までは起こしていないが便秘や腹痛がみられる場合は、食事療法や内服薬で治療を行います。憩室炎と診断された場合は、抗菌薬の投与を行い、細菌の増殖を抑えることが基本となります。​
中等症から重症例では入院治療が必要となり、絶食にして腸を完全に休ませ、水分や栄養、抗生物質を点滴で投与します。入院期間中は腸管への負担を最小限にするため、経腸栄養や静脈栄養を用いることもあります。

参考)【医師監修】大腸憩室炎とは?原因・症状・治療について詳しく解…


合併症に対する治療も重要です。憩室炎患者の約5%に穿孔、膿瘍、瘻孔形成などの合併症が発症すると報告されています。膿瘍が小さい場合は抗生物質の点滴で治療しますが、大きい場合は経皮的ドレナージ(体外から細い管を入れて膿を排出する処置)が必要になります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoloproctology/61/10/61_10_1026/_pdf


穿孔により腹膜炎が全身に広がっている場合は、命に関わるため緊急手術が必要です。瘻孔(膀胱や膣などの隣接臓器に異常な通路ができる状態)が形成された場合も、多くのケースで外科的手術が必要となります。​
手術適応は、炎症を繰り返すもの、狭窄、瘻孔形成など複雑な病態を呈する場合で、CT下ドレナージ後に待機手術を行うのが原則です。腹腔鏡手術は良性疾患である大腸憩室炎において低侵襲で有用な治療選択肢となっています。​

大腸憩室炎の食事療法と予防対策

大腸憩室炎の急性期における食事は、消化の良い食品を中心に腸への負担を軽減することが基本です。具体的には白米、うどん、白パン、ヨーグルト、チーズ、豆腐、白身魚、牛乳など「白い食べ物」を選ぶと覚えやすいでしょう。

参考)大腸憩室症(憩室炎・憩室出血) とおならが溜まる関係は?原因…


コーヒーやチョコレートなどは腸を刺激するため避けるべきです。急性期には腸管壁がもろくなっているため、刺激の強い食品や消化に時間がかかる食品は炎症を悪化させる可能性があります。

参考)大腸憩室炎の食事メニューでダメなものは?コーヒー、チョコレー…


腹痛が治まり炎症が落ち着いたら、食物繊維を多く含む食品を積極的に摂取することで、再発予防につながります。大根やゴボウなどの根菜類、エノキ・マイタケ・シイタケなどのキノコ類、ワカメやヒジキなどの海藻類、大豆製品などが推奨されます。

参考)大腸憩室が気になる方へ:日常生活での注意点|札幌大通胃と大腸…


食物繊維には便のかさを増し、大腸の蠕動運動を活発にして便通を促し、腸内圧を下げる働きがあります。この効果により憩室の形成を防ぎ、既に形成されている憩室の症状を緩和する助けとなります。​
予防の観点からは、食物繊維を豊富に含む全粒粉製品、玄米、オートミールなどの穀物、豆類、ナッツ類、緑黄色野菜を積極的に摂取することが重要です。プロバイオティクスを含む発酵食品も腸内フローラのバランスを良好に保ち、憩室症予防に役立つ可能性があります。​
一方、避けるべき食事としては、精白された粉製品、ファーストフード、高脂肪の肉製品などが挙げられます。これらは食物繊維が少なく大腸内圧を上昇させる可能性があるため、日常的な摂取は控えることが推奨されます。​
札幌大通胃と大腸の内視鏡クリニック – 大腸憩室が気になる方へでは、日常生活での具体的な注意点が詳しく紹介されています。

大腸憩室炎の発症率と高齢者における再発リスク

大腸憩室の保有率は年齢とともに顕著に上昇します。40歳以下では10%以下ですが、50歳代では30%、70歳代では50%、80歳以上になると50-66%と、加齢に伴って増加していくことが明らかになっています。

参考)大腸憩室炎とは?~大腸憩室症について
日本の統計では、60歳代で20%程度、70歳代以降では30%を超える高率で憩室が認められ、高齢者の2人に1人以上が憩室を持つとされています。食生活の欧米化に伴う食物繊維摂取量の減少や高齢化社会の進展、大腸内視鏡検査を受ける機会の増加などにより、日本でも憩室保有者が増加する傾向にあります。

参考)大腸憩室症とは?数字で知る「高齢化で増える大腸の病気(大腸憩…


大腸憩室炎は大腸憩室保有者の10-30%に認められます。憩室出血の累積発症率は1年で0.2%、5年で2%、10年で10%と報告されていますが、憩室炎の発症頻度はさらに高く、憩室出血の約3倍程度とされています。​
再発率に関しては、画像診断で診断した場合は13%、症状から診断した場合は47%と報告されており、診断方法によって大きく異なります。時間経過とともに再発率は増加し、発症後1年で8%、5年で17%、10年で22%となります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/3/107_571/_pdf


膿瘍・穿孔を伴う大腸憩室炎の再発率は非合併例に比して高く、メタ解析では保存的治療後の非再発率は28%であり、72%で憩室炎を再発したり外科手術が行われたりしています。ただし、穿孔や膿瘍形成は再発例よりも初回例に多いことから、大腸憩室炎の再発が必ずしも予後不良因子にはならないことも報告されています。

参考)憩室炎の再発予防方法について|札幌大通胃と大腸の内視鏡クリニ…


60歳未満では右側結腸憩室炎が多く、高齢では左側結腸炎が多いという年齢による発症部位の違いも指摘されており、左側結腸憩室炎では大腸穿孔などの合併症のリスクが高いとされています。​

年齢層 憩室保有率 特徴
40歳以下 10%以下 発症頻度が低い
50歳代 約30% 保有率が上昇し始める
60歳代 約20-30% 右側結腸憩室炎が多い
70歳代 約50% 左側憩室も増加傾向
80歳以上 50-66% 高齢者の半数以上が保有

再発予防には早期診断と適切な治療が不可欠で、症状が現れた場合には直ちに医療機関を受診することが重要です。定期的な検診を受け、医師の指示に従うとともに、適切な食事と運動による継続的な健康管理が求められます。​