白苔と溶連菌の鑑別診断
白苔を呈する溶連菌感染症の特徴的症状
A群β溶血性連鎖球菌(GAS)による咽頭炎では、扁桃に付着する白苔が重要な診断マーカーとなります 。白苔は扁桃表面に白色または黄白色の膿栓として現れ、しばしば点状出血を伴います 。
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患者は38℃以上の突然の発熱、激しい咽頭痛、前頸部リンパ節の圧痛を訴えることが多く、これらは溶連菌感染症の4大兆候として知られています 。特徴的なのは、ウイルス性咽頭炎とは異なり、咳や鼻汁などの上気道症状を欠くことです 。
発症初期には舌表面に白い苔様の変化(白色舌)が見られ、2-5日後には白い苔が剥がれて鮮紅色のイチゴ舌に変化します 。これらの所見は溶連菌感染症の特異的な臨床像として重要な診断根拠となります。
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白苔鑑別診断における他の病原体との識別
白苔を伴う咽頭炎の鑑別診断では、アデノウイルス感染症とEBウイルスによる伝染性単核球症が主要な除外診断となります 。
参考)溶連菌性咽頭炎
アデノウイルス感染症は乳幼児に好発し、夏季に多く見られます。約30%の症例で結膜炎を合併し(咽頭結膜熱)、平均有熱期間は5日間程度です 。一方、EBウイルス初感染による伝染性単核球症は20歳前後の若年者に好発し、上眼瞼浮腫や脾腫を伴うことがあり、平均有熱期間は約3週間と長期間持続します 。
溶連菌感染症では迅速抗原検査により数分で診断確定が可能ですが、発症早期の菌量が少ない場合には感度が低下することがあります 。このような場合には、より高感度なA群β溶血連鎖球菌核酸検出検査が有用です 。
溶連菌感染症における抗菌薬治療の標準プロトコル
溶連菌感染症の治療において、ペニシリン系抗菌薬が第一選択薬となります 。アモキシシリンなどのペニシリン系薬剤を10日間継続投与することで、症状の改善と合併症の予防が図られます 。
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ペニシリンアレルギーを有する患者に対しては、セフェム系抗菌薬(セファレキシンなど)やマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシンなど)が代替選択肢となります 。セフェム系抗菌薬では5日間投与、アジスロマイシンでは3日間投与が標準的な治療期間です 。
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抗菌薬治療開始後24-48時間で症状は著明に改善し、他者への感染性も消失します 。ただし、症状改善後も処方された抗菌薬を完全に服用することが重要で、中途半端な治療は耐性菌の出現や再発リスクを高めます 。
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溶連菌感染症の重篤な合併症とその予防戦略
溶連菌感染症では、適切な治療を怠ると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。最も注意すべき遅発性合併症として、リウマチ熱と溶連菌感染後急性糸球体腎炎があります 。
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リウマチ熱は感染後2-3週間で発症し、関節炎、心炎、舞踏病などの多彩な症状を呈します 。心臓弁膜症を残す可能性があるため、早期の適切な抗菌薬治療による予防が重要です 。
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急性糸球体腎炎は感染後1-4週間で発症し、血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧などの症状を示します 。小児から若年者に多く見られ、多くの場合は自然寛解しますが、急性期の管理が必要です 。
参考)溶連菌感染症|キュアステーションイオン葛西クリニック|西葛西…
これらの合併症を予防するためには、初回治療時の完全な除菌が不可欠であり、ペニシリン系抗菌薬による10日間の完全治療が推奨されます 。
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劇症型溶連菌感染症の早期診断と集学的治療
稀ではありますが、溶連菌感染症は劇症型溶連菌感染症(STSS)へと急速に進展する可能性があります 。STSSは「人食いバクテリア」とも呼ばれ、発症から多臓器不全に至るまでの経過が極めて急激です 。
STSSの診断には、ショック状態と多臓器不全に加えて、血液培養からの溶血性レンサ球菌の同定が必要です 。血液培養は50%以上で陽性となり、菌量が多い場合は数時間で陽性結果が得られることもあります 。
治療では、適切な抗菌薬投与と外科的デブリードマンが最優先されます 。血液培養や局所感染部位の培養検体採取は治療と同時並行で実施し、検体採取のために治療を遅らせることは避けるべきです 。
STSSは80代に最多発症するとされており、蜂窩織炎や化膿性関節炎などの化膿性疾患から敗血症へと進展することが多く、後遺症を残すことも少なくありません 。早期認識と迅速な治療介入が予後を左右する重要な因子となります。