液性免疫と細胞性免疫の違い
液性免疫の基本メカニズムと抗体産生
液性免疫は、B細胞が中心となって抗体を産生することで病原体と戦う免疫システムです 。このシステムでは、まずマクロファージや樹状細胞が抗原を捕捉し、その情報をヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞に伝達します 。
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Th2細胞が活性化されると、IL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインを産生し、これによってB細胞が刺激されます 。刺激を受けたB細胞は形質細胞へと分化し、大量の抗体を産生します 。産生された抗体は体液中を循環して全身に広がり、病原体の中和作用、オプソニン化による食細胞の貪食促進、補体系の活性化などの働きを示します 。
抗体には主にIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類があり、それぞれ異なる役割を持ちます 。IgMは感染初期に最初に産生される抗体で、発症後2週間程度で検出可能となり、その後消失します 。一方、IgGは感染後期に産生され、長期間持続することで再感染を防ぐ重要な役割を果たします 。
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細胞性免疫のT細胞活性化と細胞傷害機構
細胞性免疫は、T細胞が主体となって感染細胞やがん細胞を直接攻撃する免疫システムです 。このシステムでは、Th1細胞がIL-2やインターフェロンγ(IFN-γ)などのサイトカインを産生し、細胞傷害性T細胞(CTL)やマクロファージを活性化します 。
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活性化されたCTLは、標的細胞表面のMHCクラスⅠ分子に提示された抗原ペプチドを認識し、パーフォリンとグランザイムを用いて標的細胞にアポトーシスを誘導します 。また、Fas-Fasリガンド系を介した細胞死も誘導可能です 。このメカニズムにより、ウイルス感染細胞や悪性腫瘍細胞が効率的に排除されます。
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さらに、活性化されたマクロファージは食作用を強化し、CTLによって攻撃された細胞残骸やウイルス粒子を貪食・処理します 。このように、細胞性免疫は複数の細胞が協調して働く精密なシステムとして機能しています。
Th1とTh2のサイトカインネットワークと免疫バランス
液性免疫と細胞性免疫の使い分けは、Th1細胞とTh2細胞が産生するサイトカインのバランスによって決定されます 。Th1細胞はIFN-γ、IL-2、TNF-αなどを産生し、細胞性免疫を促進します 。一方、Th2細胞はIL-4、IL-5、IL-13などを産生し、液性免疫を活性化します 。
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興味深いことに、これらのサイトカインは相互に抑制的に働きます 。Th1細胞が産生するIFN-γはTh2細胞の分化を抑制し、逆にTh2細胞が産生するIL-4はTh1細胞の活性化を阻害します 。このフィードバック機構により、適切な免疫応答が選択され、過剰な免疫反応が防がれています。
このバランスの破綻は様々な疾患と関連しています。Th1優位の状態では自己免疫疾患のリスクが高まり、Th2優位の状態ではアレルギー疾患が発症しやすくなります 。また、がん患者ではTh1機能の低下により腫瘍免疫監視機構が破綻することが知られています。
病原体別の免疫応答選択と臨床的意義
液性免疫と細胞性免疫は、病原体の種類や感染部位に応じて使い分けられます 。細胞外に存在するブドウ球菌や連鎖球菌などの細菌に対しては、主に液性免疫が働き、抗体による中和作用や補体系の活性化によって病原体が排除されます 。
一方、細胞内寄生菌やウイルスに対しては細胞性免疫が主要な役割を果たします 。サルモネラ、マイコプラズマ、クラミジアなどの細胞内寄生菌や、インフルエンザ、ヘルペスなどのすべてのウイルス、さらにカンジダやアスペルギルスなどの真菌、トキソプラズマなどの寄生虫に対しては、感染細胞を直接攻撃できる細胞性免疫が不可欠です 。
この使い分けの理解は、ワクチン開発においても重要です。細胞外病原体に対するワクチンでは抗体産生を促進するTh2応答を、細胞内病原体に対するワクチンではCTL活性化を促進するTh1応答を誘導する必要があります。
液性免疫における免疫記憶と二次応答の分子機構
液性免疫において最も重要な特徴の一つが免疫記憶システムです 。初回感染時(一次応答)にB細胞の一部はメモリーB細胞へと分化し、抗原情報を長期間記憶します 。これらのメモリーB細胞は、再感染時(二次応答)に迅速に形質細胞へと分化し、より多くの抗体を産生します 。
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二次応答では、一次応答と比較して抗体産生量が劇的に増加し、抗体の親和性も向上します 。さらに、二次応答ではIgGの産生が早期に開始されるため、より効率的な免疫反応が可能となります 。この現象は抗体のクラススイッチ(アイソタイプスイッチング)と親和性成熟によるものです。
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興味深いことに、メモリーB細胞は胚中心反応と呼ばれる特殊な微小環境で形成されます。この過程では、B細胞が高頻度で体細胞超変異を起こし、より高い親和性を持つ抗体を産生する細胞が選択的に生存します。このメカニズムにより、ワクチン接種や自然感染による長期免疫が成立します。