胆道感染症ガイドラインによる診断と治療方針

胆道感染症ガイドラインによる診断と治療方針

胆道感染症の診断と治療の最新指針
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診断基準と重症度分類

Tokyo Guidelines 2018に基づく系統的な評価方法

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抗菌薬の選択と投与計画

起因菌を考慮した適切な薬剤選択と治療期間の設定

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ドレナージ手技とタイミング

ERCP・PTCD適応の的確な判断と実施時期

胆道感染症における診断基準の最新動向

胆道感染症の診断には、Tokyo Guidelines 2018(TG18)が国際的な標準として確立されています 。急性胆管炎の診断基準は、A:全身の炎症所見、B:胆汁うっ滞所見、C:胆管病変の画像所見の3つの要素から構成されており、Aのいずれか+BまたはCのいずれかを認めれば疑診、A・B・C各々のいずれかを認めれば確診となります 。

参考)急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン|一般社団法人 日本肝胆…

診断基準の具体的な内容として、A-1では発熱(38℃以上)または悪寒戦慄を、A-2では血液検査での炎症反応上昇(WBC <4,000 or >10,000/μL、CRP>1 mg/dL)を評価します 。B項目では黄疸(T-Bil≧2mg/dL)や肝機能検査異常(ALP、γ-GTP、AST、ALT>1.5×正常上限)を確認し、C項目では画像検査による胆管拡張や狭窄・結石・ステントなどの病因の証拠を検索します 。

参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-180726.pdf

急性胆嚢炎の診断基準では、A:局所の臨床徴候(Murphy’s sign、右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛)、B:全身の炎症所見(発熱、CRP値上昇、白血球数上昇)、C:急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見により判定されます 。Murphy’s signは、炎症のある胆嚢を検者の手で触知すると痛みを訴えて呼吸を完全に行えない状態を指し、診断における重要な所見です 。

参考)急性胆嚢炎の診断基準を教えてください。 |急性胆嚢炎

胆道感染症の重症度分類と治療戦略

TG18では、胆道感染症の重症度をGrade I(軽症)、Grade II(中等症)、Grade III(重症)の3段階に分類し、各重症度に応じた治療戦略が明確に定められています 。重症急性胆管炎(Grade III)では、心血管機能障害(収縮期血圧<90mmHg、カテコラミン投与要、意識障害、血小板数<100,000/μL、プロトロンビン時間-国際標準化比>1.5のいずれか)の存在が診断基準となります 。

参考)急性胆管炎

中等症急性胆管炎(Grade II)は、白血球数>12,000/μL、体温>39℃、高齢(≧75歳)、高ビリルビン血症(≧5mg/dL)、低アルブミン血症(<0.7×正常下限)の5項目中2項目該当する場合、または初期治療に反応しなかった症例が該当します 。軽症(Grade I)は中等症・重症の基準を満たさないものとして定義されています 。 重症度に応じた治療方針として、軽症では抗菌薬治療と支持療法のみで経過観察し、中等症では早期(24-48時間以内)のドレナージを考慮、重症では緊急(24時間以内)ドレナージが推奨されています 。この系統的なアプローチにより、患者の予後改善と合併症予防が期待されます 。

参考)https://www.jshbps.jp/uploads/files/en/tg18/wm3.pdf

胆道感染症における抗菌薬選択の原則

胆道感染症の抗菌薬選択では、予想される起因菌、重症度、患者背景を総合的に考慮することが重要です 。主要な起因菌として、大腸菌(31-44%)、クレブシエラ(9-11%)、緑膿菌(0.5-19%)などのグラム陰性桿菌、腸球菌(3-34%)、レンサ球菌(2-10%)などのグラム陽性球菌、嫌気性菌(4-20%)が挙げられます 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tando/35/5/35_713/_pdf/-char/ja

軽症例では、市中感染を対象としてアンピシリン/スルバクタム(ユナシン-S)が推奨され、中等症以上および医療関連感染にはピペラシリン/タゾバクタム(ゾシン)が選択されます 。ペニシリンアレルギー症例では、シプロフロキサシン(シプロキサン)が代替薬として使用されます 。胆管空腸吻合術後など嫌気性菌の関与が疑われる場合には、メトロニダゾール(アネメトロ)の併用を検討します 。

参考)https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00188_chapter7.pdf

抗菌薬投与期間については、感染源が制御されれば4-7日間の投与が推奨され、残存胆石や胆管閉塞がある場合は解剖学的問題が解決されるまで継続します 。グラム陰性菌血症を合併した場合でも、10日程度の投与で良好な治療成績が報告されており、過度に長期間の投与は避けるべきです 。

胆道ドレナージ手技の適応と選択基準

胆道感染症における適切なドレナージ手技の選択は、患者の重症度、解剖学的条件、技術的成功率を総合的に判断して決定されます 。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)による内視鏡的胆道ドレナージは、技術的成功率が85.9%と報告され、鎮静下に施行可能で手術リスクの高い症例や高齢者に特に有用です 。

参考)Analysis of the efficacy of Pe…

経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)は、ERCPが困難な症例において第一選択となり、技術的成功率は97.1%と高い成功率を示します 。PTCDでは総ビリルビン値の低下率がERCPより優れ(53.0 vs 36.8 mg/dL)、黄疸改善までの期間も短縮されることが報告されています 。ただし、ドレナージチューブ逸脱のリスク(11.8%)があり、日常生活への制限も考慮する必要があります 。

参考)経皮的胆道(胆嚢)ドレナージ(PTCD、PTGBD):どんな…

合併症の観点から、ERCPでは胆道感染(22.8%)や膵炎(4.1%)のリスクがある一方、PTCDではチューブ関連の機械的合併症が主要な問題となります 。超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージ(EUS-BD)は、ERCPやPTCDが困難な症例に限定して適応され、肝内胆管ドレナージと肝外胆管ドレナージに分類されます 。

参考)https://minds.jcqhc.or.jp/common/summary/pdf/c00188_chapter8.pdf

胆道感染症の予後と合併症管理

胆道感染症の予後は早期診断と適切な治療により大幅に改善されており、Tokyo Guidelinesの普及により標準化された治療が実現しています 。急性胆嚢炎では85%の患者で自然消失が期待される一方、10%では限局性穿孔やその他の重篤な合併症が発生するため、継続的な病態評価が必要です 。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a90e37e3604c2e96c74842c10525a684fac412d4

主要な合併症として、急性胆管炎では敗血症や多臓器不全への進展リスクがあり、特に重症例では緊急ドレナージが生命予後に直結します 。急性胆嚢炎では壊疽性変化、膿瘍形成、穿孔といった局所合併症に加え、Mirizzi症候群や胆石性膵炎などの関連疾患への発展も認められます 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tando/33/1/33_147/_pdf/-char/ja

長期的な合併症予防には、原因となる胆石や胆道狭窄に対する根治的治療が重要であり、急性期治療後の適切なフォローアップと再発予防策の実施が推奨されます 。抗菌薬耐性菌の増加に対しては、各施設のアンチバイオグラムを参考とした薬剤選択と、不必要な抗菌薬使用の回避が重要な課題となっています 。

参考)急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018  TG18新基準…