第一鉄と第二鉄とヘム鉄の違いと特性

第一鉄と第二鉄とヘム鉄の特性

鉄分の3つの形態
🔬

第一鉄(Fe²⁺)

2価鉄イオン、吸収率高く胃腸障害が起こりやすい

⚗️

第二鉄(Fe³⁺)

3価鉄イオン、副作用少ないが吸収率低い

💊

ヘム鉄

ポルフィリン環に囲まれた鉄、最も吸収率が高い

第一鉄の分子構造と吸収メカニズム

第一鉄(Fe²⁺)は2価の鉄イオンで、十二指腸から空腸上部において主に吸収される 。第一鉄は2価金属輸送担体1(DMT1)によって腸管上皮細胞に直接取り込まれるため、第二鉄よりも高い吸収率を示す 。しかし、第一鉄は胃粘膜・胃壁を刺激する性質があり、消化器系の副作用が発生しやすいという特徴がある 。

参考)https://www.ohori-pc.jp/posts/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E9%89%84%E3%81%AF%E5%90%90%E3%81%8D%E6%B0%97%E5%B0%91%E3%81%AA%E3%81%8F%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AB%E6%9C%89%E5%8A%B9

代表的な第一鉄製剤には、クエン酸第一鉄ナトリウム(フェロミア錠)や硫酸第一鉄(フェロ・グラデュメット錠)がある 。クエン酸第一鉄ナトリウムは、クエン酸と鉄の間で錯体構造を形成しており、pHの影響を受けにくい有機鉄として分類される 。

参考)https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20210811

吸収機序において、第一鉄は腸粘膜細胞のアポフェリチンが鉄で飽和されると、それ以上吸収されなくなる粘膜遮断という調節機構が働く 。この機構により、過剰摂取による鉄中毒のリスクが軽減されている。

参考)嘔吐発現機序からみた経口鉄製剤の特性についての考察

第二鉄の化学的特性と臨床応用

第二鉄(Fe³⁺)は3価の鉄イオンで、黄色から橙色を呈する化合物である 。第二鉄は水酸化物イオンと反応して水酸化鉄の沈殿を生じ、チオシアン酸カリウムとでは血赤色の溶液になる特徴的な反応を示す 。

参考)第二鉄 – Wikipedia

腸管での吸収において、第二鉄は直接吸収されにくく、胃酸によって可溶化された後、アスコルビン酸などの還元物質や腸管上皮細胞刷子縁膜の鉄還元酵素(DcytB)によって第一鉄に還元される必要がある 。このため、第二鉄の吸収率は第一鉄より低くなる。

参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042638.pdf

しかし、第二鉄製剤は第一鉄製剤と比較して胃腸障害が少ないという利点がある 。新しい第二鉄製剤であるリオナ錠(クエン酸第二鉄水和物)では、悪心の発生率が13.0%、嘔吐が3.2%であり、従来のフェログラデュメット群(悪心32.7%、嘔吐15.2%)と比較して明らかに副作用が少ない 。

ヘム鉄の独特な構造と優れた生体利用性

ヘム鉄は、2価鉄イオン(Fe²⁺)とポルフィリン環がキレート結合した錯体構造を持つ特殊な鉄化合物である 。ヘモグロビンやミオグロビンなどの動物性タンパク質に含まれ、肉類、レバー、魚の血合いなどに豊富に存在する 。

参考)ヘム鉄と非ヘム鉄との違い – 栄養科ブログ

ヘム鉄の最大の特徴は、その高い吸収率にある。ヘム鉄の吸収率は15~25%であり、非ヘム鉄の2~5%と比較して5~10倍も高い吸収性を示す 。ヘム鉄は特異的な担体であるHCP1(Heme Carrier Protein 1)によって腸管上皮細胞に取り込まれ、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより2価鉄イオンとポルフィリンに分解される 。

参考)No.012 鉄不足の対策

ヘム鉄がポルフィリン環に囲まれている構造的特徴は、胃壁や腸管への刺激を最小限に抑える 。さらに、食物繊維やタンニンなどの吸収阻害物質からの影響を受けにくく、食事との相互作用が少ない 。

参考)ヘム鉄と非ヘム鉄の違い – noi ヘム鉄のはなし 

第一鉄製剤の副作用プロファイルと対策

第一鉄製剤は高い治療効果を持つ一方で、消化器系の副作用が問題となることが多い。主要な副作用として、悪心・嘔吐、胃痛、便秘、下痢、食欲不振などが報告されている 。これらの副作用は、むき出しの2価鉄イオンが胃粘膜を直接刺激することで発生する 。

参考)301 Moved Permanently

副作用の発生頻度について、一般的に経口鉄剤では約20%の患者に嘔気・嘔吐がみられる 。フェロミア錠(クエン酸第一鉄ナトリウム)では、悪心が32.7%、嘔吐が15.2%という報告がある 。
副作用軽減のための対策として、食事と一緒に服用することが推奨される 。また、錠剤のサイズも服用の継続性に影響を与えるため、フェロ・グラデュメット錠のような小型製剤(直径9.9mm、厚さ3.8mm)の選択も有効である 。

参考)厚生労働省eJIM

高用量の鉄分サプリメント(45mg/日以上)では、より重篤な胃腸障害のリスクがあり、25mg以上の鉄分は亜鉛の吸収を阻害する可能性もある 。

第一鉄の臨床における最適な投与法と注意点

第一鉄製剤の臨床応用において、投与量の調整は極めて重要である。フェロミア錠の場合、通常成人には1日100mg(2錠)を1~2回に分けて服用し、年齢や症状により適宜増減する 。一方、フェロ・グラデュメット錠は1日1錠(鉄として105mg)の服用となる 。

参考)『フェロミア』と『フェロ・グラデュメット』、同じ鉄剤の違いは…

第一鉄の吸収を最適化するためには、胃酸の存在が重要である。特に無機鉄である硫酸鉄は、pH上昇に伴い高分子鉄重合体を形成しやすく、食後服用では吸収が悪化する 。このため、空腹時の服用が理想的とされるが、副作用の観点から食後服用が選択されることも多い。
ビタミンCとの併用は第一鉄の吸収を促進する効果があり、アスコルビン酸が第二鉄を第一鉄に還元することで吸収率の向上が期待できる 。一方、タンニンを含む茶類、コーヒー、フィチン酸を含む穀類との同時摂取は避けるべきである。
急性中毒のリスクとして、体重1kgあたり20mgを超える鉄分の摂取は腸の腐食性壊死を引き起こす可能性があり、60mg/kgでは多臓器不全、昏睡、痙攣のリスクがある 。