血管炎症候群の診断から治療までの最新ガイドライン

血管炎症候群のガイドライン

血管炎症候群の基本情報
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血管炎の分類

血管のサイズ(大型・中型・小型)に基づく分類で診断・治療方針を決定

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診断基準

各疾患特異的な症状・検査所見・組織所見から総合的に判断

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治療方針

寛解導入療法と寛解維持療法の二段階治療で長期管理

血管炎症候群の分類と診断基準

血管炎症候群は、罹患血管のサイズに基づいて体系的に分類され、2012年のChapel Hill Consensus Conference(CHCC)により国際的な分類基準が確立されています 。

参考)http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu06-1.html

大型血管炎には、若年女性に多い高安動脈炎と50歳以上で発症する巨細胞性動脈炎があります。高安動脈炎は大動脈とその主要分枝に炎症を来し、厚生労働省の診断基準では「Definite」と「Probable」の2段階で評価されます 。診断には血管造影所見による閉塞性・拡張性病変の確認、炎症反応の存在、そして鑑別疾患の除外が必要です。

参考)https://www.shouman.jp/disease/instructions/06_02_007/

中型血管炎の代表である結節性多発動脈炎は、中型・小型動脈壁の壊死性炎症を特徴とし、多発する小動脈瘤の形成が特徴的です 。ANCA陰性であることが重要な鑑別点となります。

参考)https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/kougenbyo/vs.html

小型血管炎では、ANCA関連血管炎が最も重要で、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の3疾患が含まれます 。MPAの診断には、主要症候として急速進行性糸球体腎炎と肺胞出血、主要組織所見として小血管の壊死性血管炎、MPO-ANCA陽性などの検査所見が用いられます。

参考)https://ryumachi.umin.jp/clinical_case/ANCA.html

血管炎症候群の最新治療ガイドライン

2023年に改訂された「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」は、厚生労働省難治性血管炎研究班が中心となって作成した最新の治療指針です 。

参考)https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00814/

寛解導入療法では、グルココルチコイド(ステロイド)単独よりも、グルココルチコイド+静注シクロホスファミドパルスまたは経口シクロホスファミドの併用が推奨されています 。特に静注シクロホスファミドパルスは経口投与よりも優先され、副作用軽減の観点から有用とされています。また、十分な知識・経験を持つ医師の下では、グルココルチコイド+リツキシマブの併用も代替治療として選択可能です。

参考)https://www.anca-aav.com/overview/treatment.html

寛解維持療法では、グルココルチコイドに加えてアザチオプリンの併用が提案されています 。リツキシマブを使用した場合は6か月ごとに3〜4年間の繰り返し投与が行われ、ステロイドは可能な限り少量まで減量、場合によっては中止を目指します。

参考)https://utano.hosp.go.jp/outpatient/other_know_rheum_04.html

血管炎症候群の鑑別診断における重要ポイント

血管炎症候群の鑑別診断では、感染症の除外が極めて重要です 。特に感染性心内膜炎に伴うPR3-ANCA陽性糸球体腎炎や、薬剤誘発性血管炎(抗甲状腺薬によるMPO-ANCA関連肺腎症候群など)との鑑別は必須です。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d0bdfc8ac7d704381b4b0502555f831fdbd4a66e

ANCA関連血管炎の診断基準として、1990年のACR分類基準が広く使用されています 。GPAでは①鼻・口腔内炎症、②胸部X線異常影(結節・空洞・固定性浸潤)、③尿沈渣異常、④生検での肉芽腫性炎症の4項目中2項目以上で分類されます。EGPAでは①気管支喘息、②好酸球増多(>10%)、③単発または多発性単神経炎、④移動性または一過性肺浸潤、⑤副鼻腔異常、⑥血管壁外好酸球浸潤の6項目中4項目で分類されます。
高安動脈炎の鑑別では、大動脈炎症候群、膠原病による血管炎、感染性大動脈炎、動脈硬化性疾患などの除外が必要です 。造影CTやMRAでの血管壁炎症所見、FDG-PETでの血管壁へのFDG集積が診断に有用です。

血管炎症候群の治療における分子標的薬の活用

近年、血管炎症候群治療において分子標的薬の導入が進んでいます。2022年からはANCA関連血管炎に対してアバコパン(タブネオス®)が使用可能となりました 。これは補体C5a受容体阻害薬で、好中球の活性化を阻害することで血管炎の症状改善をもたらします。

参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol384.p599

高安動脈炎では、ステロイド抵抗性や再発例に対してトシリズマブ(アクテムラ®)が使用されます 。このIL-6受容体阻害薬により、ステロイドの早期減量や長期寛解維持が可能になっています。

参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/290

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)には、抗IL-5抗体であるメポリズマブ(ヌーカラ®)が有効です 。好酸球を標的とした治療により、病状安定化とステロイド減量が達成されます。神経障害に対してはガンマグロブリン大量静注療法も併用され、筋力改善や感覚障害の改善が期待できます。
これらの新規治療薬により、従来のステロイド大量療法に伴う副作用を軽減しながら、より効果的な治療が可能となっています 。

血管炎症候群の予後と長期管理における課題

血管炎症候群の予後は疾患により大きく異なります。ANCA関連血管炎では、寛解導入後の維持期における再発率が重要な課題となっています 。高安動脈炎では約7割の症例でステロイド漸減時に再燃が報告されており、長期的な免疫抑制療法が必要です 。

参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/245

血管炎症候群の治療では、炎症抑制だけでなく、血管狭窄や拡張に対する血流改善治療も重要です 。血流改善剤、血管拡張薬、抗血栓薬の併用により、臓器虚血の予防と機能保持を図ります。不可逆的な臓器障害に対しては、各臓器保護薬の使用や外科的治療も検討されます。
長期管理において、治療関連副作用の監視も重要な課題です。感染症リスクの増大、骨粗鬆症糖尿病、高血圧などの合併症に対する予防的対策が必要となります 。
現在、血管炎症候群の医療水準向上と患者QOL改善を目指した研究が継続されており 、より個別化された治療戦略の確立が期待されています。特に、バイオマーカーを用いた治療効果予測や再発予測システムの開発が注目されています。