エルネオパ1号と2号の使い分け
エルネオパ1号の基本特性と適応
エルネオパNF1号輸液は、中心静脈栄養療法の開始時において耐糖能が不明または低下している場合に使用される開始液として位置づけられています 。このキット製剤は、1000mLあたり糖質120g、アミノ酸20gを含有し、総カロリーは560kcalと比較的低カロリー設計となっています 。
参考)302 Found
耐糖能が低下している患者や侵襲時等でブドウ糖を制限する必要がある場合の維持液としても使用可能で、糖質濃度を抑えることで高血糖のリスクを軽減できます 。手術や感染症などの侵襲下では患者の耐糖能が低下するため(ストレスホルモンによる外科的糖尿病)、1号輸液の低糖質組成が安全性を確保します 。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2016/P20160701002/180079000_22800AMX00422_A100_1.pdf
4室構造のバッグ製剤として微量元素(鉄20μmol、マンガン1μmol、亜鉛60μmol、銅5μmol、ヨウ素1μmol)が2000ml中に1日量配合されており、1000ml製剤では各成分が1/2量となる点に注意が必要です 。
エルネオパ2号の特性と維持液としての役割
エルネオパNF2号輸液は、通常の必要カロリー量の患者に対する維持液として開発された高カロリー製剤です 。1000mLあたり糖質175g、アミノ酸30gを含有し、総カロリーは820kcalと1号よりも高エネルギー密度を有しています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066385.pdf
2号輸液のNPC/N比(非タンパク質カロリー/窒素比)は149であり、1号の153と比較してわずかに低く設定されています 。これはタンパク質利用効率の観点から適切なバランスを保つための調整です。電解質組成においても、2号はカリウム含有量が1号より多く(2000ml中54mEq vs 44mEq)、維持液としての生理的要求に対応しています 。
維持液として使用する場合は、患者の尿量が1日500mL又は1時間あたり20mL以上あることが望ましいとされており、腎機能の確認が重要な選択基準となります 。
エルネオパNFシリーズのビタミン処方改良点
2017年4月より従来のエルネオパからエルネオパNFシリーズへの変更が行われ、ビタミン処方がAMA1975準拠からFDA2000準拠へ改良されました 。最も注目すべき変更点は、ビタミンB1が3mgから6mgへ2倍増量されたことです 。
参考)https://chuo.kcho.jp/app/wp-content/uploads/2022/03/NStimes96.pdf
この改良により、TPN施行中に発生する可能性のあるビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスのリスクが大幅に軽減されました 。ブドウ糖大量負荷時にはビタミンB1が補酵素として必要となるため、相対的欠乏状態を防ぐことが重要です 。同様にビタミンC(100mgから200mgへ)、ビタミンB6(4mgから6mgへ)、葉酸(400μgから600μgへ)も増量されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/92/5/92_5_806/_pdf
一方でビタミンKは2000μgから150μgへ大幅に減量されており、これによりワルファリンなどの抗凝固薬との相互作用リスクが軽減されています 。この変更はFDAガイドライン2000の推奨量に準拠した科学的根拠に基づくものです 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/33/3/33_863/_pdf/-char/ja
微量元素配合における安全性向上策
エルネオパNFでは微量元素処方もESPENガイドラインに準拠して改良され、特に鉄含有量が1.95mgから1.1mgへ減量されました 。この変更により、長期TPN施行時の鉄蓄積による肝障害リスクが軽減されています 。
参考)https://peg.or.jp/lecture/parenteral_nutrition/02-12.pdf
マンガンを含む5種類の微量元素(鉄、マンガン、亜鉛、銅、ヨウ素)が配合されているのは、国内のキット製剤ではエルネオパNFとワンパルのみです 。マンガンは微量ながら必須の微量元素ですが、肝機能障害時には血中濃度上昇により神経毒性を示すことがあるため、黄疸患者では慎重な監視が必要です 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=66385
亜鉛60μmol、銅5μmol、ヨウ素1μmolの配合量は、創傷治癒促進や免疫機能維持に必要な生理的要求量を満たすよう設計されています 。これらの微量元素は2000ml製剤で1日必要量となるため、投与量に応じた適切な補給が重要です 。
臨床現場でのエルネオパ選択と栄養管理戦略
実際の臨床現場では、まず糖濃度の低い1号から開始し、血糖管理が安定した後に2号へ移行する段階的アプローチが推奨されています 。TPN開始から2週間以内に高血糖を呈する症例が83.7%と報告されており、初期の慎重な血糖管理が重要です 。
参考)中心静脈栄養(TPN)
糖質投与速度は5mg/kg/分以下に制限することが推奨されており、1号輸液の低糖質組成はこの基準を満たしやすい利点があります 。インスリン併用時は糖10gに対してインスリン1単位を目安とし、血糖値100-200mg/dL範囲での管理が求められます 。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/glhyd_2013/02_05.pdf
離脱期においても同様に段階的なアプローチが重要で、急激なTPN中止による低血糖を防ぐため、中止前30分-1時間は半量投与または5-10%ブドウ糖液への変更が必要です 。エルネオパ製剤の選択は単なる栄養補給にとどまらず、患者の代謝状態と病期に応じた総合的な治療戦略の一環として位置づけられています。
静脈栄養学会によるTPN基本液とキット製剤の種類と特徴について詳細な解説
エルネオパNF製剤の添付文書における適応と用法用量の詳細情報