髄膜炎の初期症状
髄膜炎は脳や脊髄を覆う髄膜に炎症が起こる疾患で、初期症状の把握が生命予後を左右する重要な疾患です 。ほとんどの小児と成人では、急性細菌性髄膜炎は3~5日かけてゆっくり悪化する症状で始まり、全身の倦怠感、発熱、易怒性、嘔吐などの症状がみられます 。細菌性髄膜炎の初期症状は、発熱や嘔吐などカゼの症状とよく似ていて、特徴的な症状はみられません 。のどの痛み、せき、鼻水などがみられることもあるため、ウイルス感染症に似た漠然とした症状を呈します 。
髄膜炎を示唆する早期の症状には以下のものがあります 。発熱は最も頻繁にみられる症状で、ほぼ全例で認められます 。頭痛も髄膜刺激による代表的な症状で、通常激しい痛みを伴います 。項部硬直は多くの場合認められる特徴的な症状で、あごを胸につけようとすると痛みが走り、つけられないことがあります 。錯乱または意識レベルの低下も重要な症状で、進行とともに顕著となります 。光に対する過敏性(羞明)も典型的な症状の一つです 。
参考)https://mymc.jp/clinicblog/169852/
髄膜炎の典型的な三大症状
髄膜炎の三大症状は発熱・頭痛・嘔吐です 。発熱は通常高熱を呈し、解熱剤に反応しにくい傾向があります 。頭痛は髄膜刺激によるもので、通常の頭痛とは異なる激しい痛みを特徴とします 。嘔吐は頭蓋内圧亢進によるもので、食事摂取に関係なく突然起こることが多く、しばしば噴射性嘔吐を呈します 。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/meningitis/
これらの三大症状に加えて、首が硬く曲げにくくなる項部硬直が認められます 。項部硬直は単に首が痛いだけではなく、あごを胸につけようとすると痛みが走り、つけられないことを指します 。それ以外の方向に頭を動かすのは、それほど大変ではありません 。さらに、意識が低下したり、けいれんを起こしたりすることもあります 。
髄膜炎の検査による早期発見
髄膜炎の診断には髄液検査が不可欠です 。腰椎穿刺によって採取した髄液を検査することで、ウイルス性髄膜炎か細菌性髄膜炎かを鑑別します 。ウイルス性髄膜炎では、髄液の見た目は透明で、細胞数はリンパ球が増加しており、糖やタンパク質は正常値を示す場合が多くみられます 。
一方、細菌性髄膜炎では、髄液の見た目は濁っています 。細胞数は顆粒球が増加し、糖は低下、採取した髄液の底に細菌がたまっているなどの特徴がありますが、最終的には髄液の細菌培養検査で確定します 。血液検査では、白血球は数の増加とともに核が左方に移動している現象がみられ、CRPの値は高度に上昇します 。頭部MRIや頭部CT検査も必要な検査です 。
新生児髄膜炎の特徴的症状
新生児髄膜炎では成人とは異なる症状を呈します 。新生児において項部硬直がみられるのはまれで、はっきりとした不快感があったとしても本人がそれを伝えることができません 。新生児敗血症をきっかけとして発症することも多く、無呼吸もしくは多呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、陥没呼吸、頻脈や徐脈、末梢の冷感、血圧低下、発熱もしくは低体温、腹部膨満、黄疸などの症状を認めます 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%96%B0%E7%94%9F%E5%85%90%E9%AB%84%E8%86%9C%E7%82%8E
より特異的な症状として、嘔吐、傾眠傾向、けいれんなどがあります 。健康な状態の赤ちゃんは両親に抱っこされると落ち着くことが多いですが、新生児髄膜炎では刺激性が高まっているため、逆に落ち着きがなくなることもあります 。これは「paradoxical irritability」と呼ばれ、親が抱いたりあやしたりすることで、児が落ち着くのではなく、むしろ苛立つ現象です 。炎症に伴い頭蓋内の圧力が高くなっていることを反映して、大泉門が膨隆します 。
項部硬直とケルニッヒ徴候の評価
項部硬直は髄膜刺激症状の代表的な所見で、髄膜炎の診断において重要な身体所見です 。患者を仰臥位にして頭部を前屈させると抵抗があり、この際に疼痛を伴うことが特徴です 。髄膜に炎症が起こることで、髄膜が伸展されると痛みが生じるため、患者は自然に首を反らした姿勢を取ろうとします 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%92%E5%BE%B4%E5%80%99
ケルニッヒ徴候は項部硬直と同様に髄膜刺激症状の一つです 。患者を仰臥位にさせ、一側股関節および同側の膝関節を直角に曲げた状態で膝を押さえながら下肢を他動的に伸展すると伸展制限が出る場合、あるいは下肢を伸展させたまま挙上すると膝関節が屈曲してしまう場合にケルニッヒ徴候陽性と判定します 。これは大腿屈筋が攣縮するために起こる現象であり、通常は両側性です 。
ケルニッヒ徴候とラセーグ徴候は鑑別が必要です 。ラセーグ徴候は仰向けに寝た患者の下肢を伸展しながら持ち上げる際、大腿後面に坐骨神経由来の疼痛が生じ、足の挙上が困難になる現象で、椎間板ヘルニアなど坐骨神経障害の鑑別に用いられます 。一方、ケルニッヒ徴候は髄膜炎など中枢神経系の炎症を示唆する所見として重要です 。
参考)https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/career_skillup/20250518-2178531/
細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎の症状の違い
細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎では症状の重篤度と進行に違いがあります 。細菌性髄膜炎は倦怠感、発熱、頭痛、羞明、意識障害などの精神状態の変化、項部硬直、嘔吐、背部痛などの症状があげられ、急速に進行することが特徴です 。最大12%の患者が昏睡状態で来院することがあり、急性細菌性髄膜炎の初期には痙攣発作が起こることがあります 。
ウイルス性髄膜炎は、発熱、全身のだるさ、せき、筋肉痛、嘔吐、食欲不振、頭痛といったウイルス感染症の症状で始まるのが普通です 。症状は細菌性髄膜炎のものに似ていますが、普通はより軽度で、発症や進行もよりゆるやかです 。ウイルス性髄膜炎は通常、脳実質を侵さないため、せん妄、錯乱、痙攣発作、局所性または全般性の神経脱落症状は認められません 。
両者の鑑別診断には髄液検査が重要で、細菌性髄膜炎では髄液の見た目が濁り、顆粒球が増加し、糖の低下を認めるのに対し、ウイルス性髄膜炎では髄液は透明で、リンパ球優位の細胞増多を示し、糖やタンパク質は正常値を示すことが多いです 。
参考)https://ph-lab.m3.com/categories/clinical/series/overview/articles/418