1型糖尿病の症状と治療方法の基礎知識

1型糖尿病の症状と治療方法

1型糖尿病の症状と治療方法
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典型的な症状

口渇、多飲、多尿、体重減少などの高血糖による症状

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インスリン療法

強化インスリン療法による血糖コントロール

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先端治療

膵島移植や免疫療法などの最新治療法

1型糖尿病の典型的な症状と診断

1型糖尿病の典型的な症状は、インスリン分泌の急激な低下により引き起こされる高血糖に起因します。最も特徴的な症状は以下の通りです。

  • 口渇(こうかつ):血糖値が高くなると、腎臓がブドウ糖を尿中に排出しようとして大量の水分を失い、激しい喉の渇きを感じます
  • 多飲:口渇により、通常の2-3倍の水分を摂取するようになります
  • 多尿:血糖値が160~180mg/dLを超えると尿中にブドウ糖が出現し、大量の尿が産生されます
  • 体重減少:インスリン不足により細胞がブドウ糖を利用できず、代わりに脂肪が分解されてエネルギー源として使われます

劇症1型糖尿病では、これらの症状に先立って発熱や腹痛、悪心、嘔吐などの感染症状が現れることがあります。特に小児の場合は、夜尿(おねしょ)で気づかれるケースも多く見られます。

診断には血糖値測定、HbA1c検査、抗GAD抗体や抗IA-2抗体などの自己抗体検査が重要です。これらの検査により、2型糖尿病との鑑別診断を行います。

1型糖尿病の強化インスリン療法

1型糖尿病の治療は、インスリン療法が中心となります。現在の標準的な治療法は強化インスリン療法で、以下の2つの方法があります。

頻回注射法(MDI:Multiple Daily Injection)

  • 長時間作用型インスリン:1日1〜2回の基礎インスリン注射
  • 速効型インスリン:各食事前の追加インスリン注射
  • 血糖値に応じたインスリン量の調整が可能

持続皮下インスリン注入法(CSII:Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)

  • インスリンポンプを使用した24時間連続注入
  • より生理的なインスリン分泌パターンに近い治療
  • 血糖値の変動が少なく、低血糖リスクの軽減が期待できる

1921年のインスリン発見以来、インスリン製剤は大きく進歩しました。現在では遺伝子組み換え技術により、より安全で効果的なインスリンアナログが開発されています。

カーボカウント法

食事療法では、炭水化物の摂取量に合わせてインスリン量を調整する「カーボカウント法」が重要です。これにより、患者の食事の自由度が向上し、血糖コントロールの改善が期待できます。

1型糖尿病の合併症予防と管理

1型糖尿病患者は、適切な血糖コントロールを行わないと深刻な合併症を発症するリスクがあります。主な合併症には以下があります。

急性合併症

  • 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA):インスリン絶対不足により血中ケトン体が増加し、生命に関わる状態
  • 重症低血糖:インスリン過量投与や食事摂取不足により発症

慢性合併症

  • 糖尿病性腎症:腎機能低下から透析が必要になる場合がある
  • 糖尿病性網膜症:視力低下や失明のリスク
  • 糖尿病性神経障害:感覚異常や自律神経障害
  • 動脈硬化性疾患:心疾患や脳血管疾患のリスク増加

合併症予防のための目標値

定期的な検査により早期発見・早期治療を行うことが重要です。特に、年1回の眼底検査や腎機能検査は欠かせません。

1型糖尿病の最新治療法と研究動向

1型糖尿病治療は急速に進歩しており、根治を目指した治療法の開発が進んでいます。

膵島移植

膵臓のインスリン分泌細胞(膵島)のみを分離し、患者の肝臓に移植する治療法です。日本では2014年までに18症例で実施されています。移植が成功すれば、インスリン注射からの離脱も可能ですが、免疫抑制療法が必要になります。

膵臓移植

ドナーからの膵臓移植により、インスリン分泌機能を回復させる治療法です。通常は腎不全を伴う患者に対して膵腎同時移植として実施されます。

再生医療

iPS細胞を用いてインスリン分泌細胞を作製する研究が進んでいます。この技術が確立されれば、ドナー不足の問題を解決し、拒絶反応のリスクも軽減できる可能性があります。

免疫療法

自己免疫反応を抑制する治療法の開発が行われています。最近では、テプリズマブ(teplizumab)などのモノクローナル抗体による治療により、1型糖尿病の発症を遅らせることが報告されています。

SGLT2阻害薬の適応拡大

従来は2型糖尿病のみに使用されていたSGLT2阻害薬のうち、イプラグリフロジンとダパグリフロジンが1型糖尿病にも適応が拡大されました。ただし、正常血糖ケトアシドーシスのリスクがあるため、慎重な使用が必要です。

1型糖尿病患者の心理社会的サポート

1型糖尿病は生涯にわたる治療が必要な疾患であり、患者の心理社会的な側面への配慮が不可欠です。

心理的影響

  • 診断時のショック:突然の診断により、患者や家族は大きな心理的ストレスを経験します
  • 治療負担:毎日のインスリン注射や血糖測定による身体的・精神的負担
  • 将来への不安:合併症への恐れや社会生活への影響に対する不安

社会生活への影響

  • 就労問題:職場でのインスリン注射や血糖測定への理解が必要
  • 学校生活:教師や同級生への病気の説明と理解の促進
  • 結婚・妊娠:パートナーや家族への疾患の説明と理解

効果的なサポート体制

  • 医療チームによる包括的ケア:医師、看護師、栄養士、薬剤師の連携
  • 患者教育プログラム:病気の理解と自己管理技術の習得
  • ピアサポート:同じ疾患を持つ患者同士の情報交換と精神的支援
  • 家族サポート:家族への疾患教育と心理的サポート

小児患者では、成長発達段階に応じた段階的な自己管理教育が重要です。また、思春期には血糖コントロールが不安定になりやすいため、特に注意深いフォローが必要です。

医療従事者は、患者の身体的な治療だけでなく、心理社会的な問題にも目を向け、患者が社会の一員として充実した生活を送れるよう支援することが求められます。定期的な心理的評価と適切な専門医への紹介も重要な役割です。

1型糖尿病の治療は、単なる血糖コントロールにとどまらず、患者の全人的なケアを目指すべきです。最新の医学的知見を取り入れながら、患者一人ひとりの生活の質の向上を図ることが、医療従事者に求められる使命といえるでしょう。