心室頻拍の心電図特徴と診断
心室頻拍の心電図波形の基本的な特徴
心室頻拍は心電図上で幅広いQRS波が連続して出現する特徴的な不整脈です。正常なQRS波の幅は0.06~0.10秒ですが、心室頻拍では0.12秒以上の幅広いQRS波を示します 。この幅広いQRS波は、心室で発生した異所性興奮が心室全体に伝導する際に、正常な伝導系を経由しないため生じる現象です 。
心拍数は通常100回/分以上、多くの場合120~250回/分の範囲となり、心室期外収縮が3拍以上連続して発生する状態を心室頻拍と定義します 。心電図記録では、先行するP波がほとんど確認できないか、P波が存在してもQRS波との関連性がない状態が観察されます 。
参考)川崎 心室頻拍/心室細動|浅田内科・循環器内科|失神・動悸
✅ 診断の重要なポイント
- QRS幅:0.12秒以上の拡大
- 心拍数:100~250回/分
- 連続性:3拍以上の連発
- P波の消失:先行するP波がない
心室頻拍の分類と心電図での見分け方
心室頻拍は心電図波形の特徴により単形性と多形性の2つに分類されます。単形性心室頻拍では、頻拍時のQRS波形が一定で規則的なパターンを示します 。一方、多形性心室頻拍は不規則なQRS波形を呈し、1拍ごとに波形が変化する特徴があります 。
持続時間による分類では、30秒以上継続する持続性心室頻拍と、30秒未満で自然停止する非持続性心室頻拍に分けられます 。多形性心室頻拍の特殊な型として、QT延長を伴うtorsades de pointes(TdP)があり、QRS波形がねじれるような特徴的な形状を示します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/32/1/32_1_008/_pdf/-char/ja
📊 心室頻拍の分類表
分類基準 | 特徴 | 心電図所見 |
---|---|---|
単形性VT | 規則的で一定のQRS波形 | 同じ形のQRS波が連続 |
多形性VT | 不規則で変化するQRS波形 | 拍ごとに波形が変化 |
持続性VT | 30秒以上継続 | 長時間の頻拍記録 |
非持続性VT | 30秒未満で停止 | 短時間で自然停止 |
心室頻拍における房室解離の診断価値
房室解離は心室頻拍の確定診断における最も重要な心電図所見の一つです 。房室解離とは、P波(心房の興奮)とQRS波(心室の興奮)が独立して進行している状態を指し、心室頻拍では心房よりも心室の興奮頻度が高くなります 。
参考)心室頻拍(VT) – 04. 心血管疾患 – MSDマニュア…
心電図上でP波を確認するには、T波の形状変化に注目することが重要です。T波の形が一定でなく時々変化している場合、T波にP波が融合している可能性があります 。この房室解離が認められる場合は心室頻拍と診断され、診断の特異性(specificity)は高いとされています 。
🔍 房室解離の確認方法
- T波の形状変化を観察
- P波の独立した出現を検出
- QRS波とP波の頻度の違いを確認
- 融合収縮の存在を探す
ただし、心拍数が非常に速い場合や逆行性伝導(室房伝導)がある場合は、この所見が認められないこともあり、診断の感度(sensitivity)は限定的です 。
心室頻拍と上室性頻拍の鑑別診断における心電図基準
幅広いQRS波を示す頻拍の鑑別において、心室頻拍と上室性頻拍の変行伝導の区別は臨床上最も重要な課題です 。鑑別診断には、QRS波の幅、軸偏位、および胸部誘導でのQRS波形パターンが重要な指標となります 。
QRS幅が0.16秒以上の場合、心室頻拍の可能性が高くなります。ただし、特発性左室起源心室頻拍では0.16秒未満の場合も多いため注意が必要です 。左軸偏位を示す場合も心室頻拍を強く示唆する所見です 。
胸部誘導V1での波形パターンも重要な鑑別点となります。
🔬 V1誘導における鑑別ポイント
- 右脚ブロック型の場合
- 心室頻拍:RSr、qR、単相性R波
- 上室性頻拍:rSR’(典型的右脚ブロック)
- 左脚ブロック型の場合
- 心室頻拍:R波幅>0.04秒、S波が鈍またはノッチあり
- 上室性頻拍:R波幅<0.04秒、S波が鋭い
胸部誘導のすべてでQRS波が同一方向(concordant pattern)を示す場合も、心室頻拍または副伝導路を介した心房性不整脈を示唆する重要な所見です 。
心室頻拍の診断における新しい臨床知見と注意点
近年の研究により、心室頻拍の診断において従来の方法だけでは限界があることが明らかになっています。薬剤による反応を用いた鑑別診断では、リドカインが発作性上室性頻拍の30%を停止させることが報告されており、従来の鑑別診断価値は低下しています 。
自動体外式除細動器(AED)の不整脈検出能に関する研究では、機種によって心室頻拍の鑑別能力に大きな違いがあることが判明しました 。単形性心室頻拍において、一部の機種では心拍数に関係なく除細動不要と判定され、別の機種では180bpm以上で除細動必要と判定されるなど、機種間のばらつきが確認されています 。参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12850
⚠️ 診断における注意事項
- 血行動態が安定していても上室起源と判断すべきではない
- 特発性心室頻拍では若年発症もあり得る
- ベラパミル反応性の心室頻拍も存在する
- 機器による自動診断には限界がある
心室頻拍の確定診断には、基礎心疾患の評価、詳細な心電図解析、必要に応じて電気生理学的検査を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です 。特に医療従事者は、心電図の微細な変化を見逃さず、患者の臨床状態と合わせて適切な診断を行うことが重要です。
日本循環器学会のガイドライン:心室頻拍の診断と治療に関する詳細な指針
一般社団法人 日本循環器学会国民の健康にとって、心血管疾患はいまや悪性腫瘍と双璧をなす重要な克服課題です。2万名を超える会員を擁する日本循環器学会(JCS)は、循環器疾患の研究と診療の両面から、積極的に社会に貢献してまいります。BLS、ACLS講習会をはじめとする心肺...厚生労働省:不整脈の疫学と診断に関する統計情報
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